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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第四章 シャルルフォーグ学院・新任教師編

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凶報

 それは突然のことでした。


「……皆も彼のことは覚えているだろうが、今朝方、街の地下牢に収容されていたワーナー先生が遺体として発見された」


 職員室にて朝の打ち合わせを始める前にメルファストさんが全教師に向けてそう言いました。


 何故ワーナー先生が……。


 誰もがそう思ったはずです。

 ワーナー先生の絡みに迷惑していた教師も当然のことながらいますが、さすがにこの凶報を聞いて喜ぶ人はいません。


 私だって突然のこと過ぎて理解が追い付いていませんよ。近いうちに一度会って話をしたかったのに、それももう叶うことはありません……。


「遺体の状態から推測するにワーナー先生が亡くなったのは深夜から夜明けの間だそうだ。私も報告を聞いて現場にかけつけたが、辛うじてワーナー先生だとわかるくらい全身に酷いやけどを負っていた」

「自殺、ではなく他殺ということですか……」

「そうだ。何者かの手によってワーナー先生は殺害された。そして、当時見張りをしていた者も7名殺害されている。彼らもワーナー先生同様、全身に酷いやけどを負っていた。現時点の調査では複数人での犯行ではないということで犯人は単独犯、しかも相当手練れな魔道士なのだろう」


 被害者はワーナー先生だけではない。

 でも、きっと一番の目的はワーナー先生との接触。そして殺害。見張りをしていた方たちは邪魔だから排除した、といったところですか。


 ワーナー先生を殺害する意味とは?

 犯人は何か恨みがあったとか。あんな性格でしたし、自分では無意識でも相手に恨まれるようなことをしていた可能性は大いにあります。


 と、考えつつも何か違う気がするんですよね。犯行に及ぶにしてもそこまでして危険を冒す必要はないと思いますし。


 ……一応、今回の事件の犯人には心当たりがあります。

 ワーナー先生本人は忘れていても、時間が経てば思い出すかもしれないと考えたため、その前に殺害して情報が出ないようにした。


 黒いローブの人間がワーナー先生に禁忌の魔術が記された書物を渡した。その人が犯人と考えるのが妥当かと。

 ただ、問題はそれが男性なのか女性なのか、どんな顔をしているのか、その他諸々犯人に繋がる手掛かりが全くないということです。

 

「犯人は未だこの街に潜伏している可能性も考えられるため、現在は警備を強化して衛兵たちが巡回している。しかし、早急に見つかればいいのだが、犯人の特徴がわからないので難しい。そして、こういう話は広まりやすいからこの件のことを既に知っている生徒もいるだろう。全生徒に知れ渡るのも時間の問題だから隠す必要もないが、もし外出する際は十分気を付けるよう生徒たちに伝えるように。私からは以上だ。あと、打ち合わせが終わったらリリィ先生とメアリ先生は教室へ向かう前に私のところへ来てほしい」


 メルファストさんの話が終わり、朝の打ち合わせもとりあえずスムーズに進んでいます。

 でも、教師の皆さんは終始浮かない顔でした。知っている人物が亡くなった。しかもそれが殺人でとなるとすぐに気持ちを切り替えるのは無理がありますよね。


 そして、打ち合わせも終わるとクラスを受け持っている教師はそれぞれ教室へ向かいます。生徒たちを不安にさせてはいけないと無理矢理にでも気持ちを切り替えたようにも見えました。


 教師たちが教室や持ち場に移動する中、私とメアリ先生はメルファストさんに呼び出されているのでそちらに。


「二人とも時間がないところ悪いね」

「いえ。それで私たちを呼び出したのは、元Aクラスの子たちのことですよね」

「彼らはワーナー先生のことを尊敬していた。今回のことを聞けば当然ショックを受けるだろう。だから二人には彼らを支えてやってほしい。たとえ気休めにしかならなくても何もしないよりはいいはずだ」

「私は……ちょっとだけ彼らには苦手意識がありますけど、こんな状況でそんなこと言ってられませんよね。彼らの支えになれるように頑張りますッ!」

「頼もしいよ、メアリ先生。それじゃあ後は……ああそうだ。リリィ先生とはもう少し話をしたいことが」

「わかりました。では私は先に行ってますね」


 そう言ってメアリ先生は先に教室の方へ向かいました。

 見送った後でメルファストさんは私に聞いてきます。


「さて、時間もないことだし、手短に済ませようか。リリィ先生はこの件の犯人に関して見当はついているかい?」

「まあ、普通に考えて以前ワーナー先生が話していた黒ローブの人物かと。直接会っているのはワーナー先生だけでしょうし、そこを消せば犯人の情報が出回ることはない。ワーナー先生は犯人の特徴は黒いローブ以外思い出せないと言っていましたが、万が一に備えて殺害したのでしょう」

「やはりリリィ先生もそう考えていたか。しかし、だとすると何故すぐに実行しなかったのか」


 確かに、合同授業が強制終了してからワーナー先生が殺害されるまで1週間以上の期間がありました。


「実行するなら早い方がいいですもんね。単純に見張りが多くて実行に移せなかったとかじゃないでしょうか。あとは……他に何かやることがあって時間が取れなかったり?」

「うーん……。まあここで長考してもどうにかなるわけじゃない、か。とりあえず今はリリィ先生の考えを聞きたかっただけだ。時間も迫っているし、この件はまたあとで。引き留めて悪かったね」


 メルファストさんとの話も終わったので私も急いで教室へ向かいます。

 時間はまだ少しだけ余裕があるのでこのペースで行けば遅れることはないと思います、多分……。

 それにしても、結果は失敗に終わったとはいえ、犯人を黒ローブと断定として禁忌の魔術を使わせてまで何をしようとしていたのか……。


 考えたいことは山ほどありますが、生徒たちがいる教室へ到着したので一回後回しにします。


 扉を開けると言うまでもなく重たい空気で教室が満たされていました。元Aクラスの生徒たちの中には涙を流す子も。

 私が到着する前にメアリ先生が今回の件を生徒たちに話してくれたのでしょう。それか、噂を聞いても信じたくはなかったが、事実かどうか確認したいがためにメアリ先生が来た瞬間に聞いたか。


 どちらにせよ、悲しい現実を知ったことに変わりありません。こういう時こそ、私たち教師がしっかりしなければ。


「皆さん、その様子だと既に知っていると思います。とても悲しい事ではありますが、ワーナー先生が何者かによって殺害されました。犯人は今も見つかっておらず、街に潜伏している可能性もあります」

「それなら、僕たちも犯人捜しに協力してワーナー先生の(かたき)を──」 

「セルマーク君の気持ちもわかりますし、ワーナー先生の教え子だった他の皆さんも同じ気持ちでしょう。でも、それは駄目です。犯人はワーナー先生だけでなく、他にも7名殺害しています」


 私の言葉を聞いて生徒たちの顔は青褪めます。


「そんな人物を相手に仇討ちしようなど死にに行くようなものです」

「で、でも……。僕はワーナー先生を殺した奴を許せない……」

「私もです。しかし、許せないからと言って命を粗末にしてはいけません。厳しい事を言いますが、皆さんは1学年では優秀ですけどまだまだ成長途中。ワーナー先生を含め8人殺害した殺人犯には勝てません。ここは我慢してください。お願いします」


 納得できなくても、私は絶対に止めます。

 私の気持ちが彼らにも伝わったのか生徒たちは大人しく引き下がりました。


「……わかり、ました」

「ありがとうございます。それで今日の授業ですが、気持ちの整理も出来ていないと思うので、厳しいのであれば欠席しても構いません。必要とあらば私が側にいますので遠慮せずに言ってください」


 生徒たちに問うと元Aクラスの女子生徒二人──名前はアンリさんとフィリアさんと言います──が手を上げました。


「先生、私たち……」

「少しだけでいいので、一緒に……」

「わかりました。アンリさんとフィリアさんはこの後私と一緒に別室へ行きましょう。他にはいませんか?」


 そう聞きますが、誰も手を上げることはありませんでした。

 アースリィ君たちならまだしも、セルマーク君たち元Aクラスは辛いでしょう。


 ユニークスキル『勤勉』を持つ『勇者』のノエルさんはワーナー先生のことはあまりよく思っていませんでしたが、それとこれとは話が別。誰だって知り合いが亡くなったと聞けば悲しくなります。

 やっぱり欠席したい時は私かメアリ先生に言いに来てくださいと付け足してひとまず朝のホームルームを終わらせます。


 その後、私はアンリさんとフィリアさんを連れて別室へ向かいました。

 静かな部屋に入って、改めてワーナー先生の死を実感したのか二人は再び涙を流します。先ほども涙を流していましたからね。


 今の私に出来ることはそんな二人を少しでも安心させ、落ち着かせるために優しく抱きしめることだけでした。






 あれから時間も流れ、放課後。

 生徒たちには、街中に行く際は気を付けるように、と注意喚起して今日は解散となりました。


 念のため怪しい人物を見つけても不用意に近づかないようにとも。あの時は引き下がってくれましたが、実際にそれらしき人物を見つけたらどうなるかわかりませんからね。


 まあ、その心配もないとは思いますが。

 午後の授業は普段よりも全員気合が入っていました。


 特にセルマーク君たち元Aクラスの生徒は積極的に私にいろいろ聞いてきましたよ。何でも「まだまだ力不足で無力だと痛感したから少しでも強くなりたい」と頭まで下げてきました。


 そんなことしなくても私は贔屓せずに強くさせるつもりだったんですけどね。

 でも、少し前のセルマーク君たちだったらこんなことあり得なかったと思います。


 本人たちには言いませんけど、誰かに頭を下げてお願いするような子たちではなかったじゃないですか。そう思っていたからこそ、前と比べたら大きく成長していることに嬉しくなりましたよ。


 ちなみに、今回は実戦形式の授業を行いましたが、セルマーク君はノエルさんと勝負させました。

 結果はノエルさんの圧勝。手を抜く必要はないと始まる前に伝えたら始まって10秒もしないうちにノエルさんが勝ってしまったんですよね。


 今まで実力を隠していたんですから元Aクラスの生徒たちは驚いていましたよ。もちろん直接戦っていたセルマーク君もです。

 昔のセルマーク君なら負けを認めなかったでしょう。ノエルさんも以前戦って勝ってしまった時は訳の分からない難癖をつけてきたみたいですし。


 呆気ない敗北でもしっかりと認めてどうすれば次は勝てるかなどノエルさんや私に意見を求めて来たりしました。

 セルマーク君に意見を求められたときはノエルさんは困惑していましたよ。いきなり変わり過ぎて調子が狂う、みたいな感じでした。

 でも──


『前はあまり好きじゃなかったけど、今の彼らなら好きになれそうです。セルマークたちを変えてくれたリリィ先生には感謝しています』


 と、少し笑って言っていました。

 最終的に変わろうと決意したのはセルマーク君たちですし、私は教師として勝つ術などを教えただけで頑張ったのはアースリィ君たちです。でも、ノエルさんの感謝の言葉は素直に受け取っておきました。




 午後の授業についてはここまでにして。

 今私は学院を出発して、ある場所を訪れています。

 ある場所というのはシルファさんがいる鍛冶場です。


 頼んでいた杖はまだ一本も完成していません。どうやらかなり苦戦しているようで……。

 にもかかわらず、三本も頼んでしまって申し訳ないなと思いつつ、まずは武器などが売っている建物へ入ります。


 相変わらず人は結構入っています。

 店内を物色していると偶然シルファさんのお父さんに会いました。


「ん、君か。今日もシルファの手伝いか?」

「はい。私のせいで面倒をかけさせていますし、やれることは少ないですが出来る限りお手伝いはしたいので」

「確かに苦戦しているみたいだな。だが、あいつは弱音一つ吐かずに、むしろ楽しんで造っているぞ。口ではああ言っていたが、やっぱり自分の好きなものを造るのは楽しいんだろう。あいつのところに行くんだろ? 案内するからついてこい」


 シルファさんのお父さんについていき、鍛冶場改め、灼熱地獄へやってきました。灼熱地獄は私が勝手にそう呼んでいるだけです。


「そういえば今日は赤髪の坊主はいないのか? あの坊主が出すアイディアは結構面白いからな」

「アモンのことですか? 多分暇だと思うので呼びますよ」


『念話』で『聖魔女の楽園』にいるアモンに連絡すると「暇だったので行くっす」と返ってきました。

 せっかくだから皆さんに差し入れできるものがないか聞いてみると、バエルが冷たい飲み物と簡単につまめる甘いものを用意してくれるそうです。


 そして、そう時間もかからずにバエルとアモンが差し入れを持ってこちらにやってきます。

 差し入れは皆さん喜んでくれました。


 毎日居るといっても暑いことに変わりありません。キンキンに冷えている飲み物なんて最高でしょう。

 差し入れもあって皆さん軽く休憩していましたが、シルファさんはまだ作業をしていましたので飲み物を持ってシルファさんのところまで行きます。 


「シルファさん、お疲れ様です。これどうぞ」

「おっ、リリィか。悪いな」


 私から飲み物を受け取ると一気にシルファさんは飲み干します。何と言うか、女性なのに相変わらず男性っぽいところがあると言いますか……。

 

「ふぅ……生き返った」

「それで、進み具合はどうですか?」

「全然、ってほどではないが駄目だな。まあ、それでも出来た杖は十分化け物クラスだが、使っている素材の力を最大限生かしきれてない。鍛冶師として、頼まれた以上は最高のものをしたいからもう少しだけ時間がかかる」

「わかりました。何かお手伝いすることはありますか?」

「そうだなぁ……いや、朝からずっと作業しているし、ちょっと休憩するか」


 シルファさんは体を伸ばします。「最近仕事のし過ぎか肩が凝るんだよなぁ」とか言っていましたが、その原因は仕事じゃなくてもっと別にあると思いますよ。


 なんて視線を下に移して考えているとシルファさんは思い出したかのように私に聞いてきました。


「そうだ、リリィは学院の教師やってんだろ? だったら当然あの話は聞いているよな。教師含め8人が殺害された事件」

「……はい。殺害された教師は私の知り合いでして……」

「そっか……。犯人、早く見つかるといいな」

「そうですね。でも、今も捜索中なんですが犯人の特徴は黒いローブを着ていること以外ないんですよ。ローブを脱いで住民に紛れ込んでいたら探すのも困難でしょうし」


 すると、シルファさんの口から思いもよらない言葉が出てきました。


「黒いローブ……。そういえば、夜中にそんな奴見たな」

「えっ! ど、何処でですか!?」

「じ、自分の部屋からだよ。目が覚めて何となく部屋の窓から外を見てた時に偶然見かけたんだ。街灯もついてなかったから色まではよく見えなかったけど確かにローブを着てた。顔は見ていないが、身長はだいたいリリィくらいだったと思うぞ」


 となると、小柄の男性、もしくは女性が犯人に当てはまる?

 

「その人がどの方向へ向かったか覚えていますか?」

「確か……学院の方だ。犯行現場は反対側だから帰ってる途中だったのかも。ただ、普通なら姿を隠したりすると思うけど……」


 確かにそうですが、一度それはおいておきましょう。

 捜索範囲をその辺に絞るという判断は早いと思いますし、犯人だという確証はありませんが、それでも十分有益な情報です。

 ひとまずこのことをメルファストさんに伝えたいところですが──


「今リリィがやるべきことはオレの手伝いじゃねぇ。いいからさっさと行ってこい」

「──ッ! すみません。失礼します」


 アモンはもう少し残るみたいですが、バエルは私についてくるということで急いで学院へ戻ります。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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