強化合宿の終わり
合宿を始めてから1か月半が経過しようとしています。
そして合同授業も残り2週間。
生徒たちは順調に成長しています。おそらくCクラスくらいなら問題なく勝てるかと。彼らの成長を見るにBクラスにも勝てちゃうかもしれませんね。
このままAクラスも……と思いたいところですが、Eクラスが合同授業に向けて修行しているのにAクラスが何もしていないとは考えにくい。いやでも、所詮はEクラスだからと慢心して案外何もしていないのかも。
どちらにせよ、Aクラスに勝つのが最終的な目標ではありません。もちろん生徒たちはそれを目標にしているでしょうが、私からしたらただの通過点です。
Aクラスに勝って満足はしてもらいたくありませんけど、ここ最近の様子を見る限りではAクラス勝利を目標にしつつ、その先も見ている感じなので私が心配する必要はないですね。
さて、今日は学院も休日ということで生徒たちは自由にしています。
部屋でくつろぐも良し。誰か相手を見つけて修行するも良し。街の中を見て回るも良し。今頃は休日を満喫しているのでしょう。
私も最近は生徒たちの修行やらメルファストさんへの報告書作成などで忙しかったので休みたいところですが、それはもう少し先になりそうです。
というのも、私の仕事は学院の教師だけではありません。
今私は執務室で報告書を確認しています。バエルに任せようとも思いましたが、この街のトップとして『聖魔女の楽園』内で起きたことは把握しておかないといけませんからね。
まあ、こうして確認していますが特に問題はありません。
犯罪が起こることもなく。災害により農作物が取れなくなったとかもなく。その他諸々の報告書を確認していますが驚くくらい問題はないです。
犯罪に関してはやっても逃げ場がないですからね。それ以前に名付け親の私を悲しませるということで住民全員にその気は一切ないようです。
ただ、今後もし──今のところその予定はありませんし、出来るのかもわかりませんが──外部の者が自由に行き来出来るようになった場合、問題が起こる可能性も当然あるので今のうちに対策など考えないといけないのかもしれませんね。
災害の方は『聖魔女の楽園』では気候も管理できるので問題はありません。
農作物の関係上、雨が必要な時もありますがその時は魔術を使えばいいので基本的に毎日が晴れです。
引き続き報告書を確認しているとバエルが新たな報告書を持って執務室にやってきました。
また増える……。
と思いましたが、量はそんなにないようです。
バエルから報告書を受け取り、それもさくっと確認し終えちゃいます。新しい報告書も特に私が口出しするようなことはなかったです。
少し疲れたので休憩しようとバエルに紅茶と何か甘いものを頼みました。
するとバエルは執務室を出て5分もしないうちに戻ってきます。
紅茶の茶葉は執務室にも常備されているので淹れようと思えばすぐに出来ますが、甘いものは食堂の方に行かないとありません。
そして、甘いものがあるのかどうかもわかりませんが、バエルはトレイにケーキを乗せて戻ってきたので甘いものはあったのでしょう。
ただ、食堂までは距離があります。短時間で行って戻れる距離では……。
別に深く考える必要もありませんか。それよりもケーキです。
種類も豊富になってきて更に腕まで上げてきている。でもまだまだ上を目指せると思うので今後とも頑張ってほしいところですね。
「そういえば、報告書でも確認しましたけどアルゴギガースの件も順調に進んでいるみたいですね」
テルフレアを襲撃しようと現れた巨人──アルゴギガース。
バエルが是非とも欲しいと言うので引き取りましたが、普段の仕事とは別でバエルは他に悪魔を引き連れて内部を調査しているみたいです。
「はい。アルゴギガース内にいたゴーレムは活動を停止していましたが、内部構造に少々手を加えた結果、稼働できるようになりました。今は不要かと思いますが街の警備にあたらせることも出来ますし、戦力としても十分だと思います。ゴーレムたちの能力からデオンザールの軍に配属させようかと思っています」
そうなんです。いつの間にか軍団まで出来ているんですよ。
名称はまだ決めていませんが、今のところタルト、バエル、デオンザールを指揮官とする3つの軍団。
何故この3名なのかはもう一人の私──相変わらずこの表現には違和感がありますね──に仕えていた従魔だから。そしてもう一人の私に仕えていた従魔はまだ3名います。つまり軍団は更に3つ増えるかもしれないということ。
好きにやっていいと許可したので別に構いませんが、軍団なんて作って戦争でもするんですかね。
実際『聖魔女の楽園』にいる魔物たちを総動員したら国の一つや二つ落とせそうな戦力なのが怖いところです。
まあ、そうならないことを祈りましょう。第一、『聖魔女の楽園』は隔離されているので他国から攻められる心配もありません。各軍団を動かすとしたら国や街への魔物侵攻を防ぐための加勢くらいでしょうか。魔物の加勢を受け入れてくれるかは措いておいて。
「アルゴギガース本体の方はどうですか?」
「あれはまだ動きませんね。ただ、膨大な魔力を長期間休まずに与え続ければ稼働するかもしれません。しかし、稼働したところで自我がないと思うため暴れて被害が出ると思います」
「それは、駄目ですね……」
「ですが、他に方法がないわけではありません」
「というと?」
「あの巨体の中も隅々まで調べたことですし、いつまでもあの巨体があると後々邪魔になると思うので、それならば改造して人族ほどの大きさにしようかと。色々と改善点はあるので時間はかかりますが、そこに自我を与え、ある程度教育すればリリィ様のために力を振るう兵になると思います。いえ、是が非でもそうなるようにしてみせましょう」
教育以前にあのアルゴギガースを人間サイズに?
流石にそれは……バエルなら出来そうな気がしますね。いや、一度口にして私に約束しましたし、絶対に出来てしまうのでしょう。
確かに、アルゴギガースをあのままにしておくのも邪魔になるかもしれないので、人間サイズに出来るのであればそちらの方がいいのかもしれません。
でも本当にそれでいいのでしょうか。
アルゴギガースには色々と思うところはありますが一度それ
は措いておくとして、相手はあのアルゴギガースです。暴走したら最悪ですし、こればかりは簡単に許可できませんね。
しかし、本当に言うことを聞くようになれば、必要になる場面があるかはわかりませんが心強い戦力になります。
「わかりました。アルゴギガースの件はこれまで通りバエルに全て任せます。完成するのを期待して待っていますが、だからといって焦らずゆっくりやってくださいね。あと怪我しないように気を付けてください」
「心配していただきありがとうございます。必ずやご期待に沿えるものを作ってみせますので完成を心待ちにしていてください」
アルゴギガースについても終わったことですし、あと残っているのは──。
そんなことを考えていると執務室の窓から来客です。
窓を開けずにそのまま通り抜けてきた来客。
そう。マナフィールさんです。というかこんな芸当は『聖魔女の楽園』でもマナフィールさんにしかできませんね。
「リリィ様、こんにちはです」
「マナフィール。ここはリリィ様の執務室ですよ。入るなら扉から入りなさいと毎回言っていますよね。何回言っても聞かないようですし、ここは一つ教育も視野に入れた方が──」
「ご、ごめんなさいぃぃ。次からちゃんと扉から入りますからぁぁ」
「そう言って扉から入ったためしがないですよね」
「まあまあ。私は気にしていませんから。マナフィールさんも怖がらなくていいですよ」
慰める意味も込めてマナフィールさんの頭を軽く撫でます。
まあ、マナフィールさんは霊体なので触れませんから、実際は空気を撫でているような感じですけどね。
どうしてマナフィールさんが『聖魔女の楽園』にいるのか。
実はマナフィールさんは少し前から『聖魔女の楽園』の住人になりました。是非とも私の側に居たいというので断る理由もありませんし、マナフィールさんみたいな魔物はいなくて、こういう一面も可愛いなと思ったので許可しました。
ちなみに『紫霧の古城』も街から離れていますが『聖魔女の楽園』に存在します。まあ『紫霧の古城』であって『紫霧の古城』ではありませんけど。
というのも流石にダンジョンをこちらに引っ越しさせるのは不味いかと思ったわけです。
生息する魔物の件もありますが、冒険者がレベル上げや宝探しのために訪れる場所ですから独り占めするのは良くない。あとこれが原因で冒険者ギルドから罰せられるかもしれないと考えました。公共のものと言えばそうですからね。
ただ、マナフィールさん曰く「冒険者なんて霧のせいでほとんど辿り着けない。奇跡的に辿り着いてもダンジョンに挑戦するか奇跡を信じて引き返すだけ。どちらにせよ、二度と来ない」らしいです。故に勝手に移動させても問題ない。
少し話は脱線しますが、ダンジョンの名前は奇跡的に戻れて冒険者ギルドに外観を報告してつけられたのでしょう。
バエルも「ダンジョンの中には攻略すると崩壊するものがあるので何か攻略した証明になるものを冒険者ギルドに提示して説明すれば納得するしかないと思います」と言っていました。
そんなことせずとも誰もダンジョンを引っ越しさせたなんて考えないだろうし、突然ダンジョンが消えてしまったという話題で全て終わる気もします。
それでも先程述べたように生息している魔物が襲撃しに来る可能性──これに関しては言ってしまえば、まったく問題はありませんけど──もありますし、何より公共のものを勝手に自分のものにするのは後ろめたさがありました。
でも、マナフィールさんが『紫霧の古城』を気に入っていて落ち着ける場所だから出来れば、と言っていたので授業の手伝いもしてくれてお礼なしでは申し訳ないなと考えた結果──
じゃあ、新しく建てちゃいますか。
この一言がきっかけで『紫霧の古城』が新しく建てられました。
どうやら私の要望が住人たちの最優先にすべきことみたいで『紫霧の古城』の建設は1週間も経たずに完成しました。
もちろん言いたいことは山ほどあります。建築素材はどこから調達したのか、お城の建設って1週間で出来るものなのか、とか。しかしここは素直に住民たちの連携と手際に良さを褒めましょう。あとは気にしたら負けです。
マナフィールさんも新しい『紫霧の古城』に満足してくれているみたいなので良かったですよ。
「うぅぅ、リリィさまぁぁ」
「はいはい。大丈夫ですよ。ところでマナフィールさんは何か用事があって来たんですか?」
「そうでした。ここへ来る途中で生徒さんたちと会いました。リリィ様に会いたがっていましたが、仕事中なので邪魔してはいけないと言っていましたよ。あと私のことは普通にマナフィールと呼んでください。新参者の私がリリィ様からさん付けで呼ばれていると周囲からの視線が……」
「そうですか。ではこれからはマナフィールと呼びますね」
「そうしてもらえるとありがたいです」
それはそうとマナフィールは生徒たちとも仲良くなったようです。
あの日、目が覚めた生徒たちに改めて謝罪していましたからね。それから仲良くなったみたいで良かったですよ。
さて、仕事も一通り終わったことです。生徒たちも会いたがっているらしいので会いに行きましょうか。
と、その前にバエルにもう一つだけ聞いておかなければいけない重要なことがありました。
「バエル。私が頼んだ件はどうなっていますか?」
「杖ですね。折れてしまった『宵闇の魔道神杖』の修復は辛うじて可能ではありますが、残念ながら性能が大幅に減少してしまいます。それでもよろしいのであれば修復するように工房の方に伝えておきます」
「『宵闇の魔道神杖』は3年間私と共に戦ってきた相棒とも呼べる杖です。折れたままにしておくのも可愛そうなのでせめて元通りにしてあげてください。お願いします」
「かしこまりました。ではそのように伝えておきます。それで、リリィ様より頼まれたもう一件の方ですが、新しい杖は完成するのにまだ時間がかかります。軍団に支給するのであれば十分なのですが、今回はリリィ様の武器ということもあって総力をあげて制作しております。しかし、今まで専門としていなかったのでまだまだ技量が足りず、リリィ様にふさわしい至高の杖は1本も作れていません」
『聖魔女の楽園』の住人でもそう簡単にはいきませんか。私の要求が思った以上にハードだったのも理由にあると思いますけど。
「無理しなくても大丈夫ですよ。難しいのであれば私の要望など無視して別の杖の制作に取り掛かっても構いませんから」
「いえ、リリィ様の要望を無視して妥協することなどできません。ただ、技量が足りないのも事実。そこで一つ噂を小耳に挟みました。我々で用意できないのは残念ですが──」
シャルルフォーグには優秀な杖職人がいる。
その人物が作る杖は性能が他のものより頭一つ抜けていて、魔道士ならば誰もが欲しがる代物だったそうです。
しかし、その人物が作る杖は性能が高すぎて所有者でも扱いきれないものがほとんどだとか。それ故に杖を作ることを止めてしまった。
バエルはその人物に頼めば私が望む新しい杖を作ってくれるのではないかと言いました。
専門の人であれば技量はあります。おそらく作ることは可能でしょう。
問題は作ってくれるかどうかですね。作るのを止めてしまった人物にどうやって作ってもらうか。
考えても仕方ないのでとりあえず会ってましょう。それから話してみて作ってくれるか検討してもらいますか。
合宿も合同授業の2週間前にはシャルルフォーグ学院へ戻ると予定していたのでちょうどいいですね。生徒たちにも事前に伝えていましたが、この後改めて伝えておきましょう。
そして、Eクラスの強化合宿も終わりを迎え、私たちはシャルルフォーグ学院へと戻ります。





