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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第四章 シャルルフォーグ学院・新任教師編

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死霊の女王 マナフィール

 生徒たちの前に現れたのは"リビングアーマー"という魔物。

 禍々しい鎧で身を守っているように見えるが実際は中に何も入っていない。ゴースト系の魔物がダンジョン内にある遺体となった冒険者の防具に憑依して生まれる魔物である。


 しかし、マナフィールが召喚した魔物は少し違った。

 憑依しているのはゴースト系の魔物ではなくマナフィール自身。厳密に言えばその一部である。


 実体を持つ者であれば分裂はまず不可能だが、霊体であるマナフィールは自身の一部を分裂させて別のものに憑依することが可能だった。


 つまりマナフィールはやろうと思えばいくらでも分裂することが可能であった。

 だが、これには弱点が存在する。


 数だけで考えれば増やし続ければ優位に立てるだろう。ステータスも本体と同じ数値であれば勝ち目はない。

 しかし、現実はそう上手くはいかないものだ。


 本体を分裂させてしまうとステータスも本体の時よりも減少してしまう。故に増やせば増やすほど弱体するため無暗に分裂は出来ない。


 アースリィたちが相手であれば問題はないのかもしれないが、マナフィールは数で攻める選択をしなかった。

 

「さあ、まずは手始めにこれと戦ってもらいましょうか」

「……お前は来ないのか?」

「私が? 私があなたたちと戦ったところで勝敗はわかりきっているじゃない。それじゃあ可哀そうだから少しでも希望を持てるようにお情けをかけているだけよ。もっとも、あなたたちが勝てるかは知らないけど」


 リビングアーマーはアースリィたちに向かって駆け出した。

 格上の相手だと瞬時に判断していたため、いつも以上に油断せず気を引き締めていた。


 にもかかわらず、口ではああ言っていたが体はすぐには動かなかった。初めての魔物の格上が迫るのを見て恐怖の方が勝ったのである。


 まだまだ戦闘経験が少ない──しかも命の危機に瀕したことのない生徒たちなのだから仕方ないのかもしれない。

 だがそんなこと知る由もないリビングアーマー足を止めることなく無常に接近している。


「…………!!」 


 幽霊騎士の剣が生徒たちを襲う。

 そこでようやく体が動いた。


 真っ先に動いたのはベルだった。

 両腕に魔力を集中させて疑似的な手甲を作り出して交差しリビングアーマーの剣を受け止める。


 かつてベルは魔力の制御が苦手で高威力の魔術を発動させようとすると失敗していた。だが今回はかなりの魔力を制御して剣を受け止めている。


 正直なところ、賭けではあった。

 自分は動けたが他のクラスメイトが動けるとは限らない。ここで回避しても誰かが斬られるかもしれない。


 咄嗟に前に出て全員を庇った。ここで魔力の制御が失敗していれば確実に両腕を斬られていただろう。少なすぎても駄目。多すぎても制御できなければ駄目。自分が出来る最大限の量が必要だった。


 こうして防げたのもリリィの教えと日々の練習の成果だろう。あとは、命の危機を感じたからこそ生きようとする決意が成功に導いた。


 現在のベルの心情は安堵半分、不安半分だ。

 防げはした。でも改めてわかるが倒せる相手かわからない。弱気になりたくないが現実を見るとどうしても不安になる。


(って、不安になってる暇ないだろ……! 倒せるかわからないじゃねぇ、()()()()()()()()()()()。先生に教えてもらって完全には習得出来てないけど──)


 力いっぱい両腕を振り上げるとリビングアーマーに大きな隙が生まれた。

 間髪入れずベルは腹部に向かって拳を振るい、同時に拳に魔力を制御可能なギリギリの量をぶつける。

 

 次の瞬間、爆発と共にリビングアーマーは壁際まで吹き飛んだ。

 それは限りなく『魔闘法』に近いものだった。


 実を言うとリリィは生徒たちに『魔闘法』習得も授業内容に組み込んでいた。

 勝手に教えるのは不味いと思ってエルトリアに許可を貰おうとしたが、既に『魔闘法』はリリィのスキルであるから許可は不要と連絡が帰ってきたため遠慮なく生徒たちに教えたのである。


 中でもベルが一番早く習得できるとリリィは考えていた。

 というのも『魔闘法』習得には魔力制御が大きく関係している。故に一番魔力制御の練習をしていたベルが最初に習得できると考えていたのだ。


 思わぬ事態にマナフィールは開いた口が塞がらなかった。


「ちょ、ちょっと! あなた、魔道士じゃないの!?」

「魔道士だよ。でも先生が「手札は多い方がいいから魔術だけじゃなく近接も出来た方がいい」って言ってたんだ。最初は魔術を学びに来たのになんでって思ったけど、リリィ先生は間違ってなかった……」

「……ッ!」

「みんな。悪いが俺は今ので力を全部使い切った。俺もまだまだだな……。だからあとは任せる」

「ベル……」

「俺一人でもやれたんだ。ビビる必要はねぇ。威勢だけじゃないってところを、俺の分まで見せてやってくれ……」

「ああ。ベルはゆっくり休んでくれ」


 既にアースリィたちに不安はない。

 ベルの一撃で自信がついたのもあるが、何よりクラスメイトから託されたのだから負けるわけにはいかない。


 アースリィたちの表情が気に食わないのかマナフィールは再度魔物2体召喚する。

 今度もまた同じリビングアーマーではあるが、先程よりも数段強くなっている。逆にマナフィール自身は疲弊しているようにも見えた。


「次は2体同時。今度はさっきみたいに馬鹿げたパワーでもやられないようにしてるから簡単には行かないわよ」

「私とサリーで1体相手する。今までずっと一緒に訓練してきたし、二人の方がいい感じに動けると思うから」

「なら俺とカティ、オーグで残りを──」

「その必要はない。残りは僕とカティで倒す。アースはあいつを頼む。多分あいつを倒せるのはアースだけだ」

「そうね。アースのユニークスキルなら倒せるかも」

「でも、俺のユニークスキルは今まで一度も使えたことないし、まだどんな能力なのかわからないんだぞ」

「どのみち生きて帰るにはそれに賭けるしかないと思う。でもアースなら使えるって信じている。まあ心配しなくても終わったらすぐに加勢しに行くから」


 オーグがそう言うとリビングアーマーの方へ駆けて行った。

 それに続くようにアースリィを信じて他のクラスメイトたちも自分たちのやるべきことを全うするために動いた。


 ここまで期待されたのはいつぶりだろうか。

 ユニークスキルが発現した時だ。両親が優秀な魔道士でその上ユニークスキルまで所持していた。期待されないわけない。


 しかしその期待も失望に変わった。その時の辛さは今でも思い出せる。あの時のような経験はもうしたくない。


 だが、クラスメイトは出来ると信じてくれた。ここまで支え合ってきた仲間がそう言うのであれば応えるべきなのではないか。


 当初はリリィが来るまで時間を稼げればいいと思っていたアースリィだったが、今はそんなこと忘れている。クラスメイトのためにやれることをやるだけやってみる。


 深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、アースリィは詠唱をし、マナフィールに【火炎球(ファイアボール)】を放った。


 以前は小さく弱々しいものだったが、ようやくまともな【火炎球(ファイアボール)】を撃つことが出来た。しかしアースリィは満足していない。


 魔物との戦闘でレベルも上がり、成長も自分の目で確かめられるほど大きくしているがこれでは大したダメージにならない。現にアースリィが放った魔術はマナフィールが巻き起こした風で簡単に消されてしまう。


「あらあら、この程度? こんな魔術で倒せるって思われているのかしら。それにしてもあなたのお仲間はなかなか酷いことするわねぇ。一人で私の相手をしろって言ったのよ? 酷いと思わないの?」

「別に酷いとは思わない。終わったら加勢しに行くって言ってたしな」

「あの子たちが勝って更に余力があればの話でしょ。良くて相打ち。加勢する余力まではない。期待するだけ無駄だと思うけど」

「その時はみんなのために俺一人でも戦うさ」

 

 カティやミーシャたちがリビングアーマーと戦っているなか、アースリィとマナフィールの戦いも始まる。


 力の差は歴然。真っ向から勝負しても勝てないことはアースリィも十分理解している。

 だからこそ勝てる方法が何かないか考えるのだ。


 霊体のマナフィールにダメージを与えるのは今のアースリィだと厳しいが、それを差し引いてもアースリィが不利であることに変わりない。


 魔術を発動させても通用しない。回避もしくはそれ以上の魔術で相殺か威力を上回られて魔術が向かってくる。


 幸いにも動きながら戦うのにはリリィの授業で慣れていた。


 魔道士は基本的に後方で攻撃する職業のため、他の者に守られたり、詠唱に集中したり、その集中のために余計な情報を入れたくないと動きながら戦うことは少ない。まあ前衛後衛の役割があるパーティーで行動するならその必要もないだろう。


 だが今は魔道士だけで構成されており、アースリィは単独行動。守ってくれる者もいない。そうなればこの技術は必要となってくる。


 リリィもオルフェノク地下大迷宮で生活する前は余計な情報を入れずに魔術の発動に集中しようと立ち止まって使用していた。


 しかし、その場所で生活し始めるとそんな暇もない。凶悪な魔物を相手に立ち止まっていればそれは死を意味する。そのためあらゆる情報を脳内に入れつつ並行して魔術を発動できるようにならなければいけなかった。


 アースリィだけでなく他の者も最初は動きながらだと集中力を欠いてしまうため発動が遅れたりと苦手意識があったが、今では問題なく戦況を見ながら判断が出来るようになっていた。


 マナフィールの魔術を回避しながらアースリィは勝つための作戦を考える。

 やはりユニークスキルが必要なのか。

 どうすればユニークスキルを使うことが出来る?


 ユニークスキル自体は所持しているのだから使えないことはないはずだ。

 何かきっかけが必要なのか。でもそれがわからない。


 そうしている間にも時間は刻一刻と過ぎていく。

 動き続けているのもあってか次第に疲弊し、マナフィールの魔術も躱しきれなくなる場面も多くなっていった。


「そろそろ限界かしら。まああなたもそのお仲間も頑張った方じゃない?」


 周囲を見てみると他の戦闘は終わっていた。

 床に座り込んだり、立ち上がろうとしても力が入らなかったり。各々疲労困憊でとてもじゃないが加勢する力は残っていない。


 それでも勝てて良かったとアースリィは安堵した。

 クラスメイトが勝ったのだから自分もそれに続く。

 そう思っていたがマナフィールはカティたちを見て不敵な笑みを浮かべていた。


「ねえ、私が何を考えているかわかる?」

「…………まさか」

「そのまさかよ。あなたより動けない方を先にやっちゃう!!」

「やめろ!!」


 アースリィはマナフィールを止めようとしたが追い付ける距離ではなかった。追い付くよりも先にクラスメイトの誰かが殺されてしまう。


 せっかく出来た友人を失いたくない。

 まだ、みんなとやりたいことがたくさんある。

 だから──絶対に止める!!


 その想いがアースリィを覚醒に至らせる。

 マナフィールを止めるためにアースリィは再び【火炎球(ファイアボール)】を放った。


 何度放とうが効果のないただの炎の球体。

 そのはずだったが放たれたのは全くの別物だった。


 まるでリリィが使用した【爆衝獄炎弾(クリムゾン・ノヴァ)】のような、アースリィがそこに辿り着くには何年もかかるであろう計り知れない熱量を持った紅蓮に燃える球体。


 カティたちクラスメイトも、マナフィールも何が起こったのかわからなかった。

 アースリィも何故いきなりこんな魔術が使えたのかわからない。だが今はそんなことどうでもいい。

 彼の頭の中には仲間を守ることだけしかなかった。


「えっ、ちょっ、えっ? こんなのがあるって聞いてないわ!! ヤバい、流石にこれはヤバい。た、た、助けてくださいぃぃ~~」


 情けない声を上げても炎の球体は止まらない。

 マナフィールに直撃したことにより爆発と爆風が巻き起こった。


 同時に生まれた煙でマナフィールの姿が隠れているが、もしかしたら倒しきれていない可能性もある。アースリィは追い打ちを仕掛けようとしたが今の一撃でほとんどの力を使い果たしてしまった。


 煙の奥から出てこないでほしいと願うアースリィだったが、その願いを裏切るように人影が見えた。

 倒し切れなかったと絶望する一方で冷静な自分もいた。


 視界に移る人影は何となくだが見覚えがあった。

 ローブ姿に一本の杖。女性のようなシルエット。

 もしかしてと口に出すまでに現れたのはリリィだった。


 リリィは障壁を張ってマナフィールをアースリィの魔術から守ったのだ。


「おそらく今の超火力がアースリィ君のユニークスキルなのかも。ただ、その様子を見るに使うのはここぞという時だけにした方がいいかもしれませんね」

「先、生……」

「それはそうと、皆さん本当によく頑張りました。今日の授業はここまでです」

「「「…………えっ?」」」

「先生! それよりも後ろに魔物が!!」


 アースリィの件もあるが、突然のリリィ登場で更に状況がわからなくなる生徒たち。それでもアースリィだけは後ろに魔物がいることをリリィに伝えた。

 

「大丈夫ですよ、ほら」

「うぅぅぅ……」


 リリィは少し移動してマナフィールの様子をアースリィに見せたが、先程相手していた魔物とは思えないほど腰が抜けて大粒の涙を流す情けない姿があった。


「ど、どういうこと?」

「実はマナフィールさんとは最初ここに来た時に会ってまして──」


 リリィは生徒たちに全て話した。

 生徒たちのレベル上げに最適な場所を探していたリリィ。


 そこで偶然『紫霧の古城』を見つけて中の様子を調査。

 その時にマナフィールが突然現れて、戦闘になるかと思いきや、いきなりリリィに土下座をしてきた。


 実を言うとこのマナフィール、自分よりも弱い相手には態度がでかくなるが、自分よりも強い相手には誰であろうとその逆になってしまうのだ。ここに住み着いた理由も自分より強い者がいないからである。


 流石のリリィも相手がいきなり土下座して謝罪するものだからどうすればいいかわからなかった。

 悪い魔物であれば生徒たちのためにも退治することを考えたが、震えながら訳もわからず謝罪してきたため退治する気持ちもなかった。


 とりあえず事情を説明して敵意がないことを示すとマナフィールは『紫霧の古城』の案内をしてくれて、最終的には今回の授業に協力してくれることになったのである。


 リリィが昼休憩の際に『聖魔女の楽園』に戻らずに『紫霧の古城』へ挨拶しに中へ入ったのもマナフィールと最後の打ち合わせをするためだった。

 

「──という感じです。ただ、これは少しやり過ぎましたね。皆さんには怖い思いをさせてしまいましたし、今後はこのようなことをしないようにします」

「こういう時だからこそ成長できる部分もあると思いますから私は気にしていません」

「まあ正直、リリィ先生も助けに来ないし、流石に死んだぁって思ったけど、よくよく考えたらそのマナフィールって魔物、私たちをすぐに殺そうとはしなかったよね。直接襲い掛かってこないで鎧の魔物を呼び出してしばらく様子を見たりさ」

「そういえば……」

「マナフィールさんには可能な限り悪役に徹してほしいとお願いして私は万が一のことが起こらないか一部始終を見守っていました」

「ど、どこで?」

「皆さんは私が姿や気配を隠せることに気付いていると思いますけど、向こうの壁際の方でずっと見ていました。姿を隠しているとはいえ、マナフィールさんにはいる場所を事前に伝えていましたから戦闘が始める前に一瞬こちらを見たのはバレないか不安でしたよ。ちなみに助けに入らなかったのも不意の出来事ではなくて仕組まれた出来事だったからです」


 一通り説明すると生徒たちは完全に力が抜けたのか立つ気力すら残っていなかった。その中には疲れて眠ってしまった生徒もいたため『聖魔女の楽園』で休ませることにした。

 こうして長いようで短かった生徒たちのダンジョン攻略が終わったのである。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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