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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第四章 シャルルフォーグ学院・新任教師編

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生徒だけのダンジョン攻略

 リリィが自分たちの前から姿を消した。

 たったそれだけのことなのに生徒たちに不安感が芽生えた。


 いや、不安はダンジョンに侵入した時からあった。しかし、側にリリィがいるという心強い存在がいることでその不安も薄れていたのだろう。


 急激に増大した不安感は生徒たちに混乱を与える。

 今まで倒してきた魔物でさえ勝てないと感じてしまう。動揺を隠せず最優先でリリィを探しに行きたいと思ってしまう。


 だが、この場にいる全員が取り乱しているわけではない。


「みんな、一回落ち着こう」


 冷静さを取り戻そうと声をかけたのはアースリィだった。

 正直なところ、最初にリリィがいなくなったことに気付いたアースリィも動揺していた。


 しかし、全員が取り乱すわけにはいかない。それに突然起こった出来事の意味も何となくだが理解していた。そのことに気付いたアースリィの心には焦りがない。


 ただ、焦りはないとはいえ恐怖はある。一度深呼吸をして、アースリィは口を開いた。


「リリィ先生がいなくなったことには俺も驚いている。でも、それで冷静さを欠いちゃ駄目だ。ダンジョンに入る前に先生も言ってただろ? 『何が起きても慌てないこと』って」

「「「あっ……」」」

「慌てたって更に状況が悪くなるだけ。だからまずは落ち着こう」

「で、でも……リリィ先生が……」


 リリィは何処へ行ってしまったのか。

 どうにかアースリィ以外も落ち着きはしたが今度は行方不明になったリリィのことが心配になっていた。

 ただ、それに関してもアースリィは問題ないだろうと考えている。

 

「もし仮にリリィ先生が俺たちと離れ離れになっていたとしても、リリィ先生なら一人でも何とか出来る。先生が俺たちでも倒せる魔物にやられるなんて想像出来ない」

「それはまあ、そうだな……」

「リリィ先生なら大丈夫だよね」


 全員が納得するなか、それとは別でアースリィは自分の考えを話した。


「でも、実際は何処かへ行ったわけではなくて、さっきの話し合いをする直前まではいたから()()()()()()()()()と思う。多分リリィ先生なら姿や気配を隠すことも出来るはずだ。それに──」


 この考えに至ったのにはもう一つ理由があった。

 それはリリィが言った最後の言葉。


 勝てないと判断したらすぐに逃げること。でもその時はリリィが対処するため生徒たちが死ぬことは絶対にあり得ない。


 確信ではないがリリィは約束を破るような人物ではないとアースリィは考えていた。自分たちのために協力を惜しまない人物がこんなところで見捨てるはずないだろう。


 そのことを話すと他の生徒たちも納得した。

 そして再びアースリィが口を開く。


「リリィ先生は俺たちのために敢えていなくなった」

「私たちのため……」

「どちらにせよ、魔物は俺たちで倒さなきゃいけないんだ。先生が居ても居なくても関係ない。それに、これから先もずっとリリィ先生がいるわけじゃない。今は近くにいると思うけど、だからってリリィ先生を頼ってばかりじゃ駄目だと思う」

「そうか……そうだよね……。リリィ先生は私たちが卒業するまでいるわけじゃない。一緒に居られる時間も他の先生より少ないんだし、こんなところで狼狽えてる暇があるなら少しでも成長するべきだよね」

「ああ。ここからはリリィ先生が居ないと考えて動こう。全部俺たちで考えて行動するんだ」

「ならリーダーはアースに任せる」

「お、俺が?」

「リリィ先生がいなくなったにもかかわらず、一人だけ冷静に物事を判断していたからね。僕はそれでいいと思うよ」

 

 他の生徒たちからも反対する意見は出なかった。

 ただ、アースリィはクラスの中でもまとめ役であるカティが作戦を適任だと言ったが結局断られてしまった。


 まとめ役だからといってダンジョン攻略のリーダーを任せられるとは限らない。不意な出来事に慌てたりして指示を出せなかったら意味がない。そういった点では冷静だったアースリィの方が適任だろう。


 それに、ああは言ったが彼らはアースリィに全てを任せようとはしていない。

 Eクラスがここまでやってこれたのはクラスメイトがそれぞれを支え合ってきたから。それは今も昔も変わることはない。


 最初こそリーダーに選ばれて不安はあったが彼らが側にいれば問題ではなかった。今ではその不安も消えている。

 そして、アースリィをリーダーとした生徒たちだけのダンジョン攻略が始まるのである。







 アースリィたちが次に何処へ行くべきか入念に作戦会議をしているなか、リリィは少し離れたところでスキルを使用して姿を隠していた。


 本音を言えばダンジョンの中で突然姿を隠すと生徒たちに大きな不安を与えてしまうと考えていたためどうするか悩んでいた。

 しかし、ここで甘やかしては生徒たちのためにならない。

 リリィという圧倒的な存在が後ろに居れば不安なく戦えるだろう。


 だが、先生がいるから大丈夫、そう考えてほしくはない。

 状況次第では自分しか頼ることが出来ないなんてことがある。それは孤独で3年間生活していたリリィ自身が数えきれないほど経験している。


 だからこそ自分たちだけで考えて行動し強くなってもらいたい。


 ただ、先程のアースリィの言葉を聞けばその心配は不要だろう。リリィが居ないと想定して行動するなら、より警戒を強めて行動の仕方も改めるはず。強敵との戦いも偶然遭遇しない限りはしないだろうとリリィは考えていた。


 しかし、作戦会議を終え、不安ではなくやる気に満ち溢れてダンジョン攻略をしようとする生徒たちをリリィは心配そうに見つめていた。


 順調にレベルも上がっているだろうし、今のところ強敵とも遭遇していない。これはしっかりと相手との力の差を見極めているからでもある。戦いにも慣れてはきただろうが一切油断せずに攻略を進めている。


 不安要素はない。それでも心配なものは心配なのだ。

 ドキドキしながら生徒たちのダンジョン攻略を見守っているリリィの隣には万が一に備えて『聖魔女の楽園』から連れてきたバラムとフォルネウスがいる。


 悪魔たちは面倒くさそうにしているが、リリィに頼まれたのだから仕方なく付き合っている。

 ちなみにバエルは『聖魔女の楽園』での作業。グラシャラボラスは午後からサフィーの修行。アモンは今後に役立つであろう()()()()の制作。


 タルトはリリィを『紫霧の古城』に送り届けた後に『聖魔女の楽園』に戻って昼寝中。基本的にリリィはタルトに甘いためタルトとのやりたいことを優先させてしまう。


 デオンザールでも良かったが、姿を隠しても念話を忘れてうっかり声を出して喋りそうだと考えて連れてこなかった。

 ということで従魔の中でも特にやることがなく暇そうにしていたバラムとフォルネウスを連れて来たわけである。


『そんなに気になるなら最初からこんなことしなければ良かったんじゃない? というか私も暇じゃないんだけど』

『それはそうですけど、彼らを成長させたい気持ちも心配とは別であるんです。あと、フォルネは暇ではないと言っていましたが、バエルからはぐうたら生活を送っていると聞きましたよ』

『チッ、バエルめ……』

『そんな生活を送っている子にスイーツはありません。まあ、手伝ってくれたら報告と生徒たちへのご褒美も兼ねて学院の方に戻ってフォルネもまだ食べたことないスイーツでも買ってこようかなと思っていましたが──』

『手伝う!! 手伝うから絶対買ってきて!!』


 既にリリィはフォルネウスの扱い方を熟知している。もしかすると従魔の中で一番扱いやすいのかもしれない。


『俺も暇ではないのだがな』

『バラムはバエルと勝負するための調整ですよね。最後まで手伝ってくれたら私の方からバエルに勝負をするよう頼んでおきますよ。バラムが頼むより私が頼んだ方が了承してくれるとは思いませんか?』

『ふんっ。そういうことなら付き合ってやってもいい』


 普段からバラムはバエルに勝負を挑もうとしている。

 しかし、バエルは勝負に付き合っている暇などなく『聖魔女の楽園』を発展させるために日々働いている。


 元々リリィの役に立つということを条件で成果を出せば相手をすることになっている。故に成果を出す機会がなければ当然勝負をする機会も少なくなる。


 だが、ここでリリィの言うことを聞いていればバエルと勝負することが出来る。バエルはリリィに強い信仰心を抱いているから言えば了承してくれるだろう。


 ただ生徒たちを見守るだけでその権利が手に入るのだ。バラムにとって良い話でしかない。

 それと同時に、バエルには悪いと思っているがこう言えば手を貸してくれるなんて、ある意味フォルネウスと同じくらい扱いやすいなと思うリリィであった。







 生徒たちのダンジョン攻略は続く。

 薄暗い城の中を慎重に進み、出現した魔物を倒していく。


 予想以上に魔物の数が多く疲労は溜まる一方だが不思議と余裕がある。もちろんこの余裕が油断に繋がることはない。そうならないように気を引き締めて探索を行っている。


 そして、ダンジョンに侵入してから2時間が経過した。

 生徒たちは『紫霧の古城』最上階へと辿り着いた。


 更に探索を進めると今までとは違う扉を見つけた。

 大きな扉だ。城の雰囲気からでもわかるが、見た目からしてかなり年季が入っている。おそらく綺麗な扉なのだろう。しかし今は酷く汚れている。


 城内の探索はある程度終わった。細かいところを除けば残るは扉の先だけ。

 引き返してもいいのだろうが、ここまで来て引き返すのはどうか。せっかく来たのだから中に入ってみるべきではないのか。


 生徒たちはお互いの顔を見て覚悟を決めたかのように頷き合った。


「……行こう」


 アースリィが重い扉をゆっくりと開ける。

 恐る恐る中を見てみたが、部屋の奥に扉と同じくらい薄汚れた玉座があるだけで他には何もない。


 それでも、部屋に入った瞬間に強力な魔物が出現する罠である可能性もある。アースリィは床にあった片手で持てるほどの大きさの瓦礫を投げ入れてみる。


 反応はない。単純に人間ではないからかもしれないが。

 もし何かあっても逃げ出せるようにカティ、ミーシャ、サリーの女子生徒たちに扉を開けたままにしてもらってアースリィたち男子生徒がまずは部屋の中に足を踏み入れた。


「特に……何かが起こるとかではなさそうだな……」

「まだわからない。安心するには早いと思うよ」

「オーグの言う通りだ。とりあえず何かあるかもしれないし気を付けて色々調べてみよう」


 アースリィたちは探索を始めた。

 実は道中でお宝のようなものを見つけている。今いる部屋を探索をするのもお宝があるかもしれないからだ。


 お宝をどうするべきか全員で考えた結果、持ち帰ることに決まった。

 生徒ではあるがダンジョンを攻略しているのだから見つけたお宝の所有権は彼らにある。売却して金になれば日頃の感謝と称してリリィにプレゼントを送ろうと計画していた。


 ちなみに生徒たちが探索を終えて次の階層に行った時、リリィはバラムかフォルネウスのどちらかに隈なく探索するように指示を出していた。

 見落としがないかのチェックである。もし生徒たちが見つけられなかったお宝があれば回収し、2か月後の合同授業が終わった時でも全員で美味しいものを食べに行こうと計画していた。


 実際に生徒たちが見つけられなかったお宝はあった。まあ、リリィのことだからたとえ見つからなくても自腹で奢ろうとするだろう。

 とにかく、リリィと生徒たちは似たようなことを考えていたのであった。


 アースリィたちは部屋を探索するがこれといってお宝は見つからなかった。

 もしかすると見つけられないだけで本当はあるのかもしれない。探す人数が増えれば見つかる可能性もある。


 しかし、カティたちを呼ぶのは正しい選択なのか。

 入った瞬間に扉が閉まり、強力な魔物が現れることも考えられる。


 考えすぎとも思えるだろう。だがダンジョンを攻略するのであれば必要以上の想定もしておくべきだ。

 もう探索は諦めて戻ろうかと思ったアースリィ。しかし扉の方を見るとカティはそうでもなかったが、部屋の中に入りたそうにしているミーシャとサリーの姿があった。


 それを見たアースリィは彼女たちに話しかけた。


「ミーシャとサリーは俺と交代しよう。見張りも退屈でしょ?」

「さっすがリーダー!」

「わかってるぅ!」

「カティは俺と一緒にまた見張り係になっちゃうけど……」

「アース一人だけに見張りを任せるのは負担が大きくなるだろうから私は全然いいよ。部屋の外から魔物が襲い掛かってきても二人なら大丈夫だと思うし」

「助かる。じゃあミーシャとサリーはオーグたちと一緒に──」

『つまんないわねぇ。いい加減全員まとめて入っちゃいなよっ!!』


 突然聞き覚えのない声がアースリィたちの耳に入った。

 そして、一瞬にしてアースリィたちは玉座の方へと引き寄せられた。


 何が起こったのか理解できないアースリィたち。

 だがすぐにこれは不味いと全員が感じた。


 アースリィは一言「走れ!!」と叫び、それを聞いた生徒たちは立ち上がり扉に向かって走り出す。

 しかし、アースリィたちが走り出そうとした時には扉が勢いよく閉まり完全に閉じ込められてしまう。


 それでも扉の方へ向かおうとしていたが、突如扉の前に旋風が巻き起こりアースリィたちは足を止めた。


 そこに現れたのは一人の女。

 容姿は妖艶だが半透明で浮遊している。


 アースリィたちは彼女が人間ではなく魔物だろうと判断した。話しかけてきたのもこの魔物に違いない。

 魔物であれば自分たちの命を狙ってくる。


 ただ、明らかに今までの魔物と違うことくらいアースリィたちにもわかる。おそらく全員で戦っても勝てるかどうかわからない相手だ。


 全員はリリィの言葉を思い出すも逃げるには魔物の奥にある扉を通らなければいけない。

 壁を破壊して外へ脱出も考えはしたが、破壊するのは可能だとしてもそこから先はどうしようもない。何故なら彼らはまだ『浮遊魔術』を習得していないから。


「ッ……リリィ先生……」

「あら、他にもお仲間がいるの? でも残念。扉は固く閉ざされているから()()()侵入することは絶対に不可能よ」

「そ、そんな……」

「いやでも、リリィ先生なら……」

「ふふっ。希望を持つのは自由よ。でも助けが来るのを待ってもいいけど、見たところあなたたち弱いじゃない? 助けが来るまで生きていられるかしら」

「リリィ先生は俺たちを見捨てない。必ず助けに来るって信じてる。だからそれまではたとえ勝てなくても生きていればいいんだ。お前なんかにはやられない。そうだろ、みんな?」

「そうよ。私たちはこんなところで終われない」

「お前なんてリリィ先生が来る前に私たちでやっつけてやる!!」

「あらあら、威勢だけはいいわね。それじゃあ早速始めましょうか。この"死霊の女王マナフィール"が遊んであげる。簡単にやられないでね」


 マナフィールと名乗る魔物は()()()()()()()()()()()()()、何かを確認したかのように思えたがすぐに視線を戻すと鎧を纏う一匹の魔物を召喚した。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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