とある生徒の目標
私がそれを知ったのはメルファストさんからEクラスの生徒たちの資料を貰った時でした。
資料には今年4月に計測したステータスが記載されており、現状を把握するためにも一通り目を通しました。
中でも一番気になったのがアースリィ君。
カティさんたちも鍛え方次第では大きく変われますが、彼には他の生徒には持っていない特別な力を持っていたのです。
それがユニークスキル『限定解放』。
ユニークスキルは私やタルトたち従魔でも持っていないかなり珍しいスキル。エルトリアさんはユニークスキルを所持していましたね。
世界でもユニークスキルを所持している者が少なく、スキル自体に強力な力を秘めていると前に聞きました。
であればアースリィ君も相当な力を持っているはず。
しかし、そうだとしたら何故ユニークスキルを所持しているアースリィ君がEクラスにいるのか不思議ですね。
まあその理由はメルファストさんから事前に軽く聞いているので知っています。どうやらかなり訳ありみたいです。
でも一応自分の目で確かめてみないと。
そういうわけでアースリィ君に魔術を披露してもらおうとしましたが──
「頑張れ、アース!!」
「リリィ先生なら何を見せてもきっと大丈夫ですよ」
「そうそう、気にせずに見せてやれ!」
アースリィ君は魔術を使うのを躊躇っているようでしたが、カティさんたちの声援で魔術を見せてくれるようです。
右手の平を突き出し、詠唱を済ませるとアースリィ君は【火炎球】を発動させます。
その炎の球体は驚くほど小さく弱弱しいものでした。息を吹けば簡単に消えてしまいそうなほどです。
ステータスを見る限りではアースリィ君は他の生徒たちと比べても一番下ではありましたが差はそんなになかったので気にすることでもないでしょう。
普通なら他の生徒たちと同等の威力を出せると思うので、やはり訳ありの部分が深く関わっているということですね。
「一応聞いておきたいのですが、アースリィ君はこれ以上威力を上げることはできませんか?」
「……今ので精一杯です……」
アースリィ君は今のが限界ということですか。
確かめたかったのは魔術の威力です。
資料では魔術の威力が低すぎると書いてありました。でも書いてあることだけではわからないので自分で見て確かめたかったわけです。まさかここまでとは思いませんでしたけどね。
原因はわからないようでアースリィ君も威力を上げられるように頑張っているようですが、一向に上がらないようで悩んでいると聞いています。
だけどユニークスキルも所持していますし、原因がわかればきっと強くなれるはず。そのためにも早急に原因を解明しなければいけません。
しかしどうしたものか……。
解明と言ってもどうすればいいのかわかりません。まあわかっていればこんな風に悩んでいないですよねぇ。
学院の図書館に似たような事例の解決策が書いてある本がないか探してみるのも一つの手ですかね。あの中から探し出すのには苦労しますけど。
とりあえず何とかなるだろうということでアースリィ君には大丈夫だと伝えようとした時、アースリィ君が俯きながら口を開きました。
「……みんなはああ言ったけど、どうせ先生も口にしないだけで本当はこの程度なのかって馬鹿にしてるんだろ? 先生みたいな凄い魔道士に俺みたいな出来損ないの気持ちなんてわからないよ」
「そんなことありませ──」
「何も知らないくせに知ったような口利かないでよ!!」
大声でそう叫ぶとアースリィ君は第二演習場から走って逃げてしまいました。
Eクラスで学院生活を送ってきて教師たちからも何処か遠ざけられてきたせいもあって教師に不信感を抱いているのでしょうか。私が教室に来た時も最初は歓迎されていない感じでしたからね。
って、こんなこと考えている場合ではありません。
すぐにアースリィ君を追いかけなければ。かといって教師生活初日で自分の生徒を放っておくわけにもいきませんし……。
人手が足りないならここは助っ人を呼びましょう。
私は念話で『聖魔女の楽園』にいる従魔たちに連絡を取ります。
『バエル、グラ。聞こえますか?』
『リリィ様、どうかなさいましたか?』
『急用で少し持ち場から離れないといけなくなりました。でも生徒たちをそのままには出来ないので私が戻ってくるまで相手をしてもらいたいです』
『かしこまりました。リリィ様が戻ってこられるまで少しばかり生徒たちに授業をしても構いませんか?』
『手伝ってもらおうと考えていたので大丈夫ですよ。ただ、やり過ぎないようにしてくださいね』
カティさんたちは私と違います。
最近はバエルに近接戦闘の練習相手を頼んでいますが、それと同じレベルでやると確実にカティさんたちが怪我をします。当然加減はすると思いますけど念のため注意しておきました。
『あの……リリィ様に一つお願いがあるんですが……』
『お願いとは?』
『実は私の隣にサフィーも居て、ちょうど今日の修行が終わったところなんですが、どうやらサフィーもそちらに行きたいようでして……』
『わかりました。では勝手に何処かへ行かないことを約束できるなら連れてきてもいいですよ』
『ありがとうございます。サフィーも喜んでいます』
そしてバエル、グラ、サフィーが『聖魔女の楽園』からやってきます。
もし誰かが来ても部外者ではなく私のお手伝いだと言うようにバエルたちとカティさんたち伝えて私はアースリィ君を探しに行きます。
アースリィ君を見つけるのに時間はかかりませんでした。
第二演習場から離れた場所で後悔しているように俯きながらベンチに座っていましたからね。ずっと逃げられていたら探すのに苦労しそうでしたが良かったです。
ただ、何もせずに近付いて気付かれたりでもしたらまた走って逃げられるかもしれないのである程度近付くまでは気配を消します。
そして、アースリィ君の前に立つと俯いていた顔がこちらを向き、私の顔を見つめます。
「あっ……」
「こんなところで授業をサボっている生徒がいるのは教師として見過ごせませんね。早く授業に戻らないと担当の先生に怒られますよ」
「……そういう先生はみんなを放置して俺を探しに来ているじゃん」
「カティさんたちは私よりも優秀な従魔たちに任せていますから大丈夫ですよ。今頃色々教わっているはずです」
「そう、なんだ……」
「はい。それより隣、座ってもいいですか?」
私が聞くとアースリィ君は横にずれてくれました。私は空いたスペースに腰を下ろします。
しばらく沈黙が続きましたが、私がそれに耐えきれなかったので話題を振ります。
「今日はいい天気ですね。雲一つなく風も気持ちいいです」
「…………」
「こういう時はピクニックでもしたいですね。今度みんなで課外授業という体でピクニックにでも行きましょうか」
「…………」
「……無理せず話せる範囲で構わないので私にアースリィ君のこと聞かせてくれませんか?」
「……学院長とかから聞いてないの?」
「軽くは聞いていますが詳しいことまでは聞いていません。メルファスト学院長は知っていると思うので聞いても良かったですが、本人の知らないところで聞くのも如何なものかと思いまして。聞くなら本人の口から聞きたいところですけど、先程も言った通り無理はしなくていいですよ。どんな事情があろうとアースリィ君は私の生徒に変わりないので」
「…………わかった。話すよ」
それからアースリィ君は自分のことを話してくれました。
アースリィ君は貴族でケルンベーダ家の長男だそうです。
そしてアースリィ君には双子の弟がいます。それが同じ高等部1学年にいる"セルマーク・ケルンベーダ"君。違うのは彼がAクラスということ。
そういえば以前第一演習場を覗いた時にAクラスの男子生徒と女子生徒が模擬戦を行っていましたが、男子生徒の方はアースリィ君と顔が似ていた気がします。
ケルンベーダ家は優れた魔道士を輩出している名家で二人とも平等に愛されました。
それからしばらくして12歳になり二人とも『黒魔道士』の職業を与えられましたが、それと同時にアースリィ君にユニークスキルが発現し、平等な愛が崩れてしまった。発現当初はセルマーク君よりもアースリィ君に与える愛情の方が大きかったみたいです。
しかし、ユニークスキルが発現したもののアースリィ君は一向にそれを使えず、更には魔術も上達しなかったため周囲の視線が期待から失望に変わってしまった。
いつしか弟のセルマーク君にも追い抜かされていつまでも成長しないアースリィ君をケルンベーダ家から勘当する話も出て来たそうです。
ただ、勘当される一歩手前でセルマーク君がそれを止めた。
最初は兄弟だから止めたのかとアースリィ君は思ったそうですが、実はそこには別の理由があったそうで。
二人は初等部からシャルルフォーグ学院に通い続けていて、そのまま二人とも高等部まで通わせてほしいとセルマーク君が申し出た。
その理由は自分の兄を見下し、優越感に浸りながら学院生活を送りたいから。本人が言っていたのを陰で聞いたので間違いないと。
父親としてはアースリィ君を学院に通い続けさせるのはよく思っていなかったようです。不出来な息子を世間に見せたくないとかそういう理由でしょう。勘当するのも存在自体を無かったことにしたかったから。
しかし結果的に勘当せずに高等部まで通わせることになった。それでも高等部を卒業したら勘当されるだろうし時間の問題だとアースリィ君は言っていました。
こうして話を聞き終えましたが、自分の息子が期待外れだからと言って縁を切ろうとするのはあまりに酷過ぎると思います。
家庭の事情ですので部外者の私が首を深く突っ込むのはどうかとも思いますが、アースリィ君は私の生徒です。そういうことなら私にも考えがあります。
簡単ですよ。家族を見返してやればいいのです。
誰もが認めるほど強くなって、それを知った父親が「今まで悪かった。勘当の話は無しにするからケルンベーダ家のために力を貸してほしい」と頼んでも「うるさい。誰が貸すか、このヤロウ」と言ってやりましょう。
まあ実際にやるかどうかはアースリィ君次第なんですけどね。私はアースリィ君がそう言えるようになるまで強くさせるだけです。
「先生は……俺がAクラスに──セルマークに勝てると思う?」
「教師なら生徒に自信を持たせるためにも勝てると言った方がいいかもしれませんが、前も言ったように勝てるかはアースリィ君の頑張りとあと気持ち次第です。アースリィ君はどうなんですか?」
「俺は……」
アースリィ君は再び俯き、そして決心した顔で私を見ます。
「……勝ちたい。セルマークだけじゃない。Aクラス全員に勝ちたい! みんなと一緒に強くなってEクラスの俺でも勝てるってことを証明したい! そして、今まで馬鹿にしてきた奴らにどうだって言ってやりたい」
「ならそれを実現できるように頑張りましょう。でも、強くなったからって調子に乗り過ぎるのは駄目ですよ。調子に乗り過ぎるといつか必ず痛い目に遭いますからね」
「わ、わかりました……」
「はい。それじゃあ第二演習場に戻りましょうか。アースリィ君が戻ってくるのを皆さん待っていますよ」
私は立ち上がり、第二演習場へ戻ろうとしましたがアースリィ君はまだベンチに座ったままです。
何処か調子が悪いのかなと思いましたが、どうやら違うようでアースリィ君は私に何か言いたそうな感じでした。
「あの……先生。その、さっきはごめんなさい。先生に「知ったような口利くな」って大声で怒鳴って……」
「ああ、そのことですか。気にしていませんよ。それに、先程は言えませんでしたがアースリィ君の気持ちは理解できます。こう見えて昔はパーティーでも役に立たない『白魔道士』でしたからね。その時居たパーティーからもよく思われていませんでした」
「えっ? でも、先生は『黒魔道士』の魔術も──」
「詳しく話すと長くなりますけど……簡潔にまとめると私は3年ほど前にとあるダンジョンの最下層に落ちて、その場所でずっと暮らしていて、そこで『黒魔道士』が使える魔術を私も使えるようになって、そしてつい最近地上に戻ってきたわけです。まあ、この一件は私にも悪いところがありますね。いや、私の自業自得ですか。最後だからってついていかなければあんな目に遭わずに済んだわけですし……」
「先生にもそんな過去が……」
「とにかく、アースリィ君は私のことを凄い魔道士と言っていましたけど、あの生活が無ければ私はただの役に立たない平凡、もしかしたらそれ以下の『白魔道士』のままでしたよ」
「えっと、簡潔にし過ぎてよくわからないけど……」
言ってみて自分でもそう思いました。いきなりこんなこと言われても理解が追い付きませんよね。
「先生が魔術以外にも凄い人なのがわかった気がする。先生はそこで頑張って生き抜いたから今みたいに強くなったの?」
「そうです。あの時は生きるのに必死で頑張ってきました。そのおかげで今の私があります。アースリィ君も頑張れば私みたいになれるかもしれませんよ」
並大抵の努力では難しいかもですけど。
オルフェノク地下大迷宮のような強い魔物が当然のように徘徊している環境で、一瞬も油断できず一撃で死ぬ可能性がある戦闘が当たり前。そんな魔物と戦えば強くなるに決まっています。
まあでも、お勧めはしません。急がずゆっくり。地道に積み重ねていくのが意外と強くなるための近道になるんですよ。
そして私たちは第二演習場へ戻ります。
戻ってみるとガッツリしごかれたのか倒れているカティさんたちがいました。あれほどやり過ぎないようにと注意しておいたのに……。
バエルたちに聞いてみると、私が居なくなってから授業と称して実際に手合わせをしたそうですが、バエルが直接手を出すことはなく、生徒たちの魔術をひたすら受けるだけだったようです。
その結果、生徒たちは魔力が切れて回復するまで休んでいると。
ちなみにバエルは傷一つ負っていません。まあ私でも難しいので当然と言えば当然です。
流石に魔力が回復してすぐに再開というのは可愛そうなので一緒に戻ってきたアースリィ君には悪いですけど今日の授業はここで終了ですね。





