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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第四章 シャルルフォーグ学院・新任教師編

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その者にしか使えぬ魔術

 私がどれほどの魔術が使えるのかお披露目し終えたところで場所は再び学院長室へと戻ります。

 最後まで私のことを恨むように見ていたワーナー先生。恨むより羨んでいる方が近いでしょうか。


 メルファスト学院長の横にいるべきなのはお前ではなくこの私だ、みたいな?

 何と言うか……いい大人だというのに器が小さいですね。本人に直接言ったら面倒なことが起こるのは確実なので言いませんけど。


 あの感じから察するにメルファストさんに自分が一番であることを認められ、尚且つ気に入られたいのでしょう。

 優秀な教師みたいなので普通にしていれば高い評価を得られると思うんですけど、ワーナー先生の言動や行動が全て無駄にしている。自分の首を自分で絞めているというべきですか。


 まあ、いくら言ってもアレは治らないでしょうし、今後も絡んでくると思いますけどあまり気にしないのが一番ですね。


「リリィさん──いや、もうシャルルフォーグ学院の教師だからリリィ先生と言うべきか」


 先生。正直まだ実感がないですね。

 だって教師らしい仕事はまだしていませんし。

 そのうち周りから先生と呼ばれるのにも慣れるでしょうけど、しばらくは違和感を感じそうですね。


「リリィ先生の魔術は素晴らしかったよ。ウォルフが規格外というだけある。リリィ先生はメアリ先生のクラスの副担任という風になりそうだがどうだろう? 魔術学科全体の実技講師も引き受けてもらえないだろうか?」

「それは魔術学科全学年の全ての授業、ということですか?」

「いや。そんなことしたら過労でリリィ先生の体が壊れてしまうからちゃんとスケジュールは調整するよ。基本的には高等部1学年。もし余裕があるのであれば2学年と3学年も少しでいいから授業してあげてもらえないかなって私の中では思っている。もちろんその分の給料は出すよ」 

「そういうことでしたら……。でも本当に余裕がある時だけですよ」

「わかっているよ。こちらから教師の件をお願いしているのだから無理強いはさせない。約束するよ」


 更に話を進めていき、追加のお給料は他クラスで授業を行った回数分、通常のお給料と合わせて払うという風に決まりました。


 お金に困っていれば積極的に授業をするべきなのでしょうが、貯金はまだまだあるのでそこまで困っているわけでもなく……。


 だから本当に余裕がある時に授業を引き受けることになります。まあお金はいくらあっても困らないので別にやってもいいんですけどね。


「ところで、先程の教員採用試験のことなんですが、ワーナー先生がああ言ってましたけど……まさかそれだけで不合格というわけではないですよね」

「それはもちろん。ワーナー先生の評価も参考にはするけど、あくまで参考だ。提出された報告書を見ながら私や一部の教師が会議をして最終的に決める。ちなみにワーナー先生はそこにはいないよ。その会議に参加できるように日々頑張っているようだけど」


 これは内緒の話ですが、メルファストさんはその会議のメンバーにワーナー先生を入れるつもりはないようです。


 理由は単純。絶対に会議が長引くから。

 普段の言動や行動からそうなるのは明白です。


 決して差別したいわけではないようですが、受けに来た人たちの大半を不合格にしたら教師が集まらない。だから会議には参加させない。

 教師の腕は確かなんだけどねぇ、とメルファストさんも苦労しているそうです。あの感じだと苦労しない方が難しいですよ。


「そうだ。私からも一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「なんでしょう」

「さっきリリィ先生がワーナー先生に言われて使った複合魔術があるよね。あれは【火炎槍(フレイムランス)】や【氷結槍(アイシクルランス)】などの術式を独自に組み合わせて発動させた、そういう認識で間違いないかな?」

「そうですね。オリジナルの魔術になると思いますけど、基本的な術式はメルファスト学院長が仰った魔術の術式などを組み替えて合わせただけなので術式を理解して複数の属性が使える人なら誰でも出来ると思いますよ」


 あれだけの属性を詰め込んだ槍は魔力の消費が激しいので使い道は無さそうですけど……。よくて3属性くらいがいいと思います。


 他にもオリジナルの魔術が使えないかメルファストさんが聞いてきたので、実際に使いませんでしたがどのような魔術なのか口頭で伝えました。


 それでも、その魔術たちも術式がわかれば誰でも使える魔術です。何なら教えても別に困ったりしません。

 教えても構わないというとメルファストさんに是非とも教えてほしいと言われたので今後披露する約束をしました。

 

「話が脱線してしまったね。リリィ先生の凄さは改めて理解した。それで本題なんだが、リリィ先生は()()()()()()()使()()()()()()()()()の存在を知っているかな?」

「術者本人にしか使えない特別な魔術……聞いたことないですね。それは術式を理解しても自分以外の者には使えないということですか?」 

「そう。その魔術を我々は"固有魔術"と呼んでいる。簡単に言えば魔道士が使う必殺技だね」


 必殺技を聞いて思い出すのはアモンのロケットパンチですね。

 未だにカッコよさがわかりませんけど学院の生徒たち──特に男子生徒に見せたら共感するのか少し気になるところです。


 とりあえずそれは措いておくとして。


 そうですか……必殺技。

 私も必殺技の一つや二つ使えた方がいいのでしょうか。個人的には私が使うどの魔術も必殺技レベルな気がしますが。『魔闘法』のよる体術も。


 しかし、自分だけの魔術というのは興味深いですね。可能なら使えるようになりたいですが、その固有魔術というのは簡単に使えるわけでもなく──

 

「ただ、固有魔術を使える者は世界中探してもほんの一握りしかいない。ほとんどの魔道士は固有魔術を使うことができない。かくいう私も『魔法剣士』という職業で魔術は使えるが、固有魔術は使えないんだ」

「メルファスト学院長でも無理なんですか」

「まだ諦めたわけではないんだけどね。何度も試してはいるが、私が自信をもって造った魔術は全て私以外の誰かが使えるものだった。固有魔術は術者本人にしか使えない特別な魔術。誰かが使えてしまうとそれはもう固有魔術ではなく普通の魔術だ」


 魔術を使える者としては固有魔術は何としてでも使えるようになりたい。メルファストさんの目標の一つでもあるそうです。


 使える者がいるなら参考のためにも見てみたいようですが、残念ながら学院内には固有魔術を使える者はいない。

 しかし、もしかしたら固有魔術を使える可能性があるかもしれない人物が今目の前にいる。どうやら私はメルファストさんに期待されています。

 

「リリィ先生は色々な魔術を独自で造っている。その発想力と膨大な魔力があればリリィ先生だけの固有魔術を造れるかもしれない」


 メルファストさんには事前に私のステータスを教えています。最初は驚かれていましたが先程の魔術を見て納得したそうです。


「まあこれから教師の仕事で忙しくなるだろうから、まずは仕事を優先してもらって。固有魔術の方は気が向いて時間がある時に挑戦してもらえたら嬉しいかなってぐらいだから」


 もちろん仕事は一生懸命頑張りますよ。今回シャルルフォーグ学院へ来たのは教師を頼まれたわけですから固有魔術に夢中になって教師の仕事を放棄するわけにはいきません。


 ですが、固有魔術に興味も持ったのも事実。

 メルファストさんのためでもありますが、私が固有魔術を使えるようになりたいと思っているのでここは是非とも完成させたいところです。


 そうなると固有魔術をどんな魔術にするか悩みます。

 私の職業『聖魔女』の特徴を生かした固有魔術がいいですよね。


 それを生かすとなると魔術による"攻撃"と"治癒"。

 どちらか一つに特化した固有魔術もいいですが、理想を言えば両方の良いところを合わせた固有魔術の方がいい。


 そして私にだけしか使えない術式。これが一番厄介です。これをどうにかしないと固有魔術は出来ません。これまで挑戦してきた方たちはこれに苦戦しているのでどうにかしないといけないのは当然なのですが……。


 しかし、悩んだり考えたりするほど面白く感じます。多分固有魔術は私が思っているよりも数倍奥が深いものでしょう。

 

「リリィ先生、そろそろ戻ってきてくれると助かるね」

「あっ! ごめんなさい。つい……」

「その様子だと色々アイデアは出ている感じかな」

「はい。あとはどうやって固有魔術にするかですね」

「もうそこまで……いや、流石と言うべきか。これは期待して待ってても良さそうだ。でも夢中になって仕事を疎かにしては駄目だからね」

「そこは問題ないので安心してください」


 メルファストさんはまだ話すことはあるみたいでしたが、どちらかと言えば私情なので続きはまた後日ということになりました。


 学院長の仕事も残っているみたいですし、仕事を疎かにしては駄目と私に忠告したばかりなので仕事を放置するわけにはいかないのでしょう。

 そして別れ際メルファストさんから一つの鍵を受け取ります。


 受け取ったのは教師寮にある私の部屋の鍵です。第二演習場へ向かっている時には既に手続きの方を終わらせてくれたみたいです。


 校内は広いのでまだ足を運んでいないところを探索するのもいいですが、まずは自分の部屋を探さないといけません。見つからなければ夜遅くまで探し続けることになります。まあそんな心配せずとも学院内にいる生徒か教師に聞けばすぐに見つかると思いますけどね。


 とりあえず出発!!


 と思って学院の外に出たわけですが、ご丁寧に教師寮への道のりが看板や掲示板に書いてあり、それに従って歩いたおかげで迷うことなく到着しました。


 さっそく教師寮に入って私の部屋を見てみます。

 扉を開けて中に入ると、ベッドと毛布、あとは机と必要最低限なものしか用意されていませんでした。でもこれだけあれば十分でしょう。必要なものがあれば後で買うか『聖魔女の楽園』に行って作ってもらいましょうか。

 

 教師寮で自分の部屋を見つけた後は自由時間です。

 学院内にある施設や校舎内などを覚えるためにも見て回ります。


 時間的には下校時間なのかちらほらと生徒たちがいますね。

 見知らぬ人物が学院の敷地内を歩いていたと不審者扱いで通報されないか不安ですけど、ここは通報されないことを祈りましょう。


 シャルルフォーグ学院は魔術学科だけではなく他にも色々な学科があるのでその学科専用の施設があったりと一日で全て見て回るのは少し大変です。

 見て回っている途中、第一演習場という場所で音が聞こえたのでちょっとだけ寄ってみました。


 そこには男子生徒と女子生徒が一人ずつ居て模擬戦を行っていました。あと一人、ワーナー先生もいます。ということはあの子たちはワーナー先生の生徒なのでしょう。


 教師の腕は確かと聞いていますが実際どうなのか。


 模擬戦を行っている二人の動きはかなりいい。でもワーナー先生が担当しているのはAクラスなので元々優秀な生徒なのでしょうからワーナー先生の教えで良くなっているのかはわかりませんね。


 まあいいです。これ以上長居して見つかると面倒なことになりそうなので第一演習場を後にします。

 その後は校舎内を見て回り、図書館に寄って少しだけ読書を楽しんだところで閉館時間になったため教師寮に戻ります。


 教師寮にはお風呂もあるみたいなのでそれを利用して体を綺麗にします。当然男女別ですよ。

 そこで他の教師さんとも会ったので挨拶をしておきました。ワーナー先生のような方だったらどうしようかと思いましたが皆さん優しくていい方で良かったです。


 さっぱりした後は自室に戻りゆっくりします。

 私が本格的に授業を教えるのは3日後。それまでは引継ぎやら色々とあるそうで時間がかかるとか。観光や学院内の場所をしっかり覚えるのにはちょうどいい時間です。


 さて、明日も朝早く動こうと思っているので寝たいところですが一人で寝るのは寂しいですね。寂しさを和らげるためにタルトかサフィーでも『聖魔女の楽園』から呼んで一緒に寝ましょう。

 あっ、その前に。

 私は【異次元収納箱(アイテムボックス)】から通信用魔道具を取り出して起動させます。

 

『ん? リリィか、どうかしたのか?』


 お相手はエルトリアさんです。


「エルトリアさんと少しお喋りがしたいなと思って。今時間大丈夫ですか?」

『ああ構わんぞ。妾もちょうど息抜きしようかと思っていたからな。最後に話したのは御主がテルフレアという街を訪れた時じゃったか』

「はい。それでですね、あの後──」


 私はテルフレアで起こったことをエルトリアさんに話しました。

 エルトリアさんも興味津々に聞いてくれますし、何よりエルトリアさんと話すのが楽しくて仕方ありません。


 それと新しく増えた従魔のデオンザールや他の魔物たち。『聖魔女の楽園』のことも話しました。

 ある程度完成したら招待しますと伝えたのですが──


『はぁ……。どうして妾の知り合いは国や街を造ろうとするのかのう……』


 と、呆れられてしまいました。どうやらエルトリアさんの知り合いにも私と同じことをしている方が居るみたいです

『聖魔女の楽園』を造ったのはバエルなんですけどね。でも主人である私が了承したのだから私の責任でもありますか。


『それにしても、巨人に悪魔、その他大勢の魔物を引き連れているとはな。御主はいったい何を目指しておるのじゃ?』

「それは私にもわからず……。でも毎日が楽しいですよ。そうだ、聞いてください。実は私、今度から学院の教師をやるんです」

『教師か。また予想外なことをいきなり始めるな……。御主は本当に何を目指しておるのじゃ? まあでも、人生は一度きりじゃからな。やりたいことをやってそれが楽しいのであれば何よりじゃ』

「はい。それでその学院には図書館があってびっくりするぐらい本があるんですよ。もしかしたらロザリーさんが目を覚ます方法が書いてある本があるかもしれないので探してみますね」

『……そうか。教師に、図書館……か……』

「エルトリアさん?」


 急にエルトリアさんの元気がなくなったような感じがします。

 しかしすぐにいつも通りのエルトリアさんに戻ったようで──


『いや、何でもない。遠い昔のことを思い出しただけじゃ』

「昔のことですか」

『ああ、聞いたところでまったく面白くない話じゃよ。もし聞いても御主はきっと後悔するだけじゃ』


 そういうことなら詳しく聞くのは止めておきます。 

 それからは話題を変えて暫くお喋りをしていましたが、時間もあっという間に過ぎていき気付けば日付が変わる頃に。 


 ちなみに固有魔術のことも聞いてみましたが、なんとエルトリアさんは使えるみたいです。流石の一言ですよ。

 でも、固有魔術を編み出しても使う機会なんて滅多にないそうでここ数百年は使ってないみたいです。エルトリアさんは固有魔術無しでも十分すぎるほど強いですからね。必要ないのも納得できます。


『長く話し過ぎたな。だが楽しかった』

「私もです。また今度連絡してもいいですか?」

『うむ。いつでも構わないぞ。それじゃあ教師頑張るんじゃぞ、妾も応援しておるからな』


 こうしてエルトリアさんとのお喋りは終了しました。

 そして月日は流れ3日後。

 いよいよ私の教師生活が始まるのです。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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