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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第四章 シャルルフォーグ学院・新任教師編

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シャルルフォーグ学院

 いつも通りタルトの背中に乗って目的地へと向かいます。


 移動手段は色々ありますが、やはりこれが一番早いですし、道中で魔物などに襲われる心配もありません。まあ空にも魔物はいますが、タルトの存在を恐れて近付いては来ないでしょう。


 空の旅も慣れてきたのでもう少しスピードを上げてもらいますかね。

 そう思い、タルトに頼もうとしたら地上の方で何か問題が起きているみたいです。ちょっと止まって見てみましょう。


 あそこにいるのは子供……というよりは青年って感じです。その人たちが6人で全員同じ服を着ています。

 あと大人も1人いますね。結構若い女性です。20歳前半といったところでしょうか。


 全部で7人居て、彼らは魔物に襲われていました。

 といっても、近くの森から出てきたであろうゴブリンが4体だけ。見たところその7人も一般人というわけではなさそうなので襲われても返り討ちに出来るかと。


 一応戦闘が始まって怪我をしないか上空で見ます。

 ゴブリンたちは一斉に彼らに襲い掛かりますが、それに反応した彼らは魔術で応戦します。どうやら全員魔術を使えるようですね。


 若い女性はおどおどしながらも後ろにいるだけ。心配しながら彼らの様子を見ています。

 そして、そう時間もかからずにゴブリンたちの討伐に成功しました。


 私の予想になりますけど、彼らはシャルルフォーグ学院の生徒ではないでしょうか。同じ服は間違いなく学院の制服でしょう。

 となると若い女性は彼らの教師なのかな? でもあの感じから察するにまだなったばかりって感じですかね。


 まあ、怪我無く無事に終わったみたいで良かったです。

 進んでいる方向から考えると外で授業してその帰り道といったところでしょう。私もシャルルフォーグ学院へ向かっているので近いうちに彼らと会うかもしれませんね。


 この辺には彼らが太刀打ちできないほどの強い魔物が出現することもなさそうですし、まだ授業中であれば邪魔するわけにもいきません。

 挨拶するのはまた今度ということでシャルルフォーグ学院へ向かおうとした時、更に問題が……。

 

 私は空中にいるのでわかりませんが、おそらく地上の方で強い揺れが起きているみたいです。

 そして、地中から突如姿を現したのは巨大なミミズのような魔物。確かタイラントワームという魔物です。


 虫は苦手なので特に被害が起きそうでないのなら早急に立ち去りたいところ。しかし、そういうわけにはいきません。


 タイラントワームは岩のような外殻で身を守っていて簡単にダメージが入らないと思います。先程の彼らの戦いを見る限りでは倒すのは無理に等しい。

 このままではタイラントワームにやられてしまうので助太刀しましょう。

 

「タルト、あの虫を倒しますよ!!」


 上空からタイラントワームへ接近。そのままタルトが強烈なパンチをタイラントワームに食らわせます。

 流石のパワー……。岩のような外殻も今の一撃で粉砕です。私の出番なんてありませんでしたね。


 さて、タイラントワームですがこの後の処理はどうしましょう。

 このまま放置というわけにはいきませんよね。かといって素材になりそうな部分は外殻しかなさそうですし……。


 命を無駄にしないようにと考えてもタイラントワームって食べれるのかわかりません。私自身、虫を食べるのには抵抗があります。でもこういうのが意外に美味しいなんてこともありますよね。


 どうするか考えていると、ゆっくりタイラントワームが動き始めました。

 タルトはとどめまでは刺さずに懲らしめる程度に力を抑えていたようです。殺す必要はないと考えたのでしょう。


 しかし、そうなると余計どうするか悩みます。

 よし、ここは他の人から意見を求めましょう。


 ということで私はバエルを念話にて『聖魔女の楽園』から呼び出します。

 困ったらバエル、これが一番です。

 呼び出したバエルに一通り事情を話すとすぐに解決策を出してくれました。


「では『聖魔女の楽園』へ送りましょう。出来る仕事が無ければ始末するべきですが、運よくこのミミズにも出来る仕事はありますので、食と住む場所を提供する代わりにしっかり働いてもらいます」

「ということなんですが、どうですか?」


 タイラントワームは私の言葉に頷きます。言葉は理解出来るみたい。

 まあこのままでは殺される可能性もありますし、生き延びることが出来るなら『聖魔女の楽園』にいた方がいいと考えたのかもしれませんね。


 後のことはバエルに任せましょう。タイラントワームはバエルと共に『聖魔女の楽園』へ向かいました。


 とりあえずこれで解決です。

 最近急激に魔物が増えていますが、気にすることでもないでしょう。住民が増えることはいい事ですし、住民になるのであれば虫であろうと可愛く見えるかもしれません。


 実際私の言葉に頷いた姿が可愛いなとちょっとだけ思いました。これを機に虫嫌いも克服できるように頑張りましょう。


 さて、タイラントワームの件は解決しましたが、まだ解決していない問題があります。

 後ろを振り向くと呆気に取られていた青年たちと若い女性がいました。


 いきなりタイラントワームが現れて、もう駄目かと思ったところに上空からドラゴンが接近し、一撃でタイラントワームが行動不能になった。そして見知らぬ男性が突然現れたと思いきやタイラントワームを連れて消えてしまった。


 こんなの呆気に取られない方が無理な話です。私だって同じ現場に居合わせたら彼らみたいな反応になりますよ。


「えっと……お騒がせしてすみません。襲われていたので助太刀しようと思ってきたのですが……」

「「「………………」」」

「と、とりあえず怪我もなく無事で何よりです。では私はこれで失礼します。この先もタイラントワームのような魔物が出るかもしれないのでお気をつけて」


 そう言い残して彼らのもとから去ろうとしたのですが──


「ま、待ってください! この度は助けていただき本当にありがとうございました。ほら、あなたたちも」

「「「あ、ありがとうございました」」」

「助けていただいたお礼を何かしないと……」

「いえ、当然のことをしたまでなので気にしないでください」

 

 別に見返りが欲しくて助けたわけではありません。あのままだと死人が出ると思ったから私が動いただけ。厳密に言えば私が倒したのではなくタルトが倒したんですが。

 

「……カッコイイ……」

「……うん。同じ女性として憧れる……」

「……顔も凄く可愛いよな……」

「……連れている従魔も凄く強かった……」

「……しかもさっきの男の人もイケメンじゃなかった?」

「…………」


 ひそひそと青年たちが話しているのが聞こえます。

 ちょっとどころか物凄く恥ずかしいので話題を変えましょう。


「ところで、皆さんは何故このような場所に?」

「実は私たちはこの先にあるシャルルフォーグ学院というところの生徒と教師なのですが、今日は課外授業ということで外での実践訓練をしていました。今はその帰りで……」

「なるほど。そこでゴブリンに襲われて討伐したところタイラントワームが現れたということですね」

「見ていたんですか!?」

「はい。学生さんか何かかと思ってこれも授業の一つかなと。ただ、ゴブリンの時は勝てると判断したため見ていましたが、タイラントワームが相手だと失礼ながら全滅する可能性が高いと思ったので助太刀しました」 

「そういうことだったんですね。本当にありがとうございました」


 再度彼らからお礼の言葉を受け取りました。

 そこからは私も事情を話して一緒にシャルルフォーグ学院へ行くことに。こうして彼らの前に出た以上、わざわざ別れていく必要もありませんし。


 私がいるせいで弱い魔物は近付いてきません。力の差がありすぎて敵わないと思っているからでしょう。

 そして、魔物と遭遇することなく無事にシャルルフォーグ学院がある【シャルルフォーグ】に到着しました


 新たな街に来たということで毎度おなじみの観光をしたいところですが、その前にやることがあるので先にそちらの用事を済ませます。


 シャルルフォーグ学院への道案内も彼らにして貰い、迷うことなく校門前に到着。そこにいる警備員さんにテルフレアでウォルフさんから貰った手紙を渡します。

 確認のため少しだけ待たされましたが思いの外すぐに帰ってきて──


「たった今学院長に確認して参りました。リリィ・オーランド様、ようこそシャルルフォーグ学院へ。学院長がお待ちしていますのでご案内いたします」

「ここまで道案内ありがとうございました。多分近いうちにまた会えると思うのでその時はよろしくお願いしますね」


 そして私は警備員さんに案内されながら学院長さんがいる場所へと向かいます。


「何者なんだろうな、あの人……」

「さあ。でも学院長と会うんだから凄い人なんじゃない?」

「もしかして編入生とか?」

「あり得るかも。でもリリィさんって私たちより年上だと思うし、それに……」

「俺たちみたいな()()()のクラスに来るわけないよな……」

「…………」

「そんなことないわ。あなたたちだって頑張ってる! 劣等生なんかじゃない。私も一緒に頑張るから──」

「先生は学院に来たばかりで他のクラスをあまり見てないからそんなことが言えるんだよ……。あいつらと比べたら俺たちなんて……」


 耳が良いのも困りますね。彼らにそんな事情があったとは。

 私はこれから教師になります。教師になるということは何処かのクラスを担当することになるのでしょう。

 希望が通るのであれば、私が担当するクラスは決まっているも同然です。そのことも踏まえて学院長さんとはお話をしましょうか。





 

 学院長室に案内され、大きな扉が開かれると部屋の奥にある椅子に座っている人物がいました。


「ようこそ。私は"メルファスト・シャルティアーナ"。見ての通りこの学院の学院長をしている。ウォルフからは「リリィさんは規格外の魔道士」だと話は聞いているよ。魔術学科の教員が不足している中、私の我が儘で君のような人が来てくれて本当にうれしく思う。ありがとう」


 頭を下げるメルファストさん。

 メルファストさんは金色の長髪に碧眼に整った顔立ち。最初は女性のようにも見えましたが声質から判断するに男性です。

 それ以外に容姿で気になることと言えば──


「おや、エルフを見るのは初めてかい?」

「いえ、前にエルフの方と一緒にダンジョン攻略に行ったことがありますので初めてではないです」

 

 エルトリアさんとは以前別れる前に渡された通信用の魔道具で定期的に連絡を取り合っていますが、ロザリーさんは未だに意識が戻らないそうで。エルトリアさんも頑張っているみたいです。しかし一向に目覚める気配はなく……。


 ここに来る途中で警備員さんから学院内にある施設の話を聞いて図書館があると知りました。もしかするとそこに何か手掛かりになるものがあるかもしれませんので今度行ってみましょう。


「視線が耳の方に行っていた気がしたから初めてなのかなと思ってね」

「不快にさせてしまったのなら申し訳ないです」

「いやいや。気にしなくていいよ。通っている生徒の大半が人間の学院でその学院長が私のようなエルフだ。初めて訪れる者は私のことを珍しいと思いよく観察してくる。だからこういうのには慣れているわけさ」

「そうでしたか」

「うん。だから本当に気にしなくていい。それで、リリィさんのことは色々と聞きたいところだけど、まずは教師の件を片付けてしまおうか」


 それから30分程メルファストさんと相談して大体の話は纏まりました。

 今回私が教師役を引き受けたのは新しい教師を見つけるまで。それまでの繋ぎ役ということですので、私が教師としてこの学院に居られる期間は、長くても1年だけです。


 私にもやらなければいけないことがありますし、流石に1年もあれば代わりの教師は見つかるでしょう。


 そして、教師として働くのでお給料が出ます。

 毎月金貨4枚です。通常は3枚みたいですが、私は特別に上乗せされています。


 個人的には結構な額だと思います。やはり冒険者のような収入が安定しない仕事より、安定したお給料を貰える仕事の方が生活に困らなくて済みそうですね。

 学院には教師が利用できる寮もあるみたいなので、手続きさえすれば街の宿を利用しなくてもいいみたいです。


 寮を利用するにはお金を払わないといけませんが、街の宿を利用し続けるよりも遥かに安く済みます。家庭を持っていない教師は節約のためにも寮を利用している人が多いみたいですよ。


 私も一応手続きをする方向で進めてもらいました。

 私には『聖魔女の楽園』があるので必要ないかもしれませんが、急な連絡がある時に学院に居なかったら私と他の教師たちの両方が困ると思ったからです。


 あとはウォルフさんが言っていた「特別に学生として授業を受けさせてもらえるか」という件。

 そちらは問題ないようで了承してくれました。


 私が担当する授業がない時には好きな授業を受けに行って構わないとのことです。後日他の教師たちに紹介してもらう時にメルファストさんから伝えてくれるそうです。ただ、何も言わずに参加していると驚かれると思うので受ける時は事前に担当の先生に一言言っておきましょう。


 話の内容はこんな感じでした。

 あと残っているのは私が担当するクラスについてですね。


「じゃあ次にリリィさんに任せるクラスだけど……」

「そのことなんですが、こちらで決めることは出来ないでしょうか?」

「出来ないこともないが……何処か希望があるのかい?」

「先程課外授業を行っていたクラスと会って学院まで案内してもらったんですが、そのクラスの担当をしたいと思っていまして」

「確か高等部1学年の"メアリ"先生のところか。そうか……」


 メルファストさんは口に手を当てて何かを考えていました。

 あの時彼らの口から聞いた劣等生という言葉。学院長であるメルファストさんであればその話も耳にしているでしょう。


 ついてこれない生徒は切り捨てる。メルファストさんはそんな考えをしないような方だと思います。こうやって考えているのもどうにかしたいと思っているからだと個人的には思いたいです。

 

「わかった。一応私の独断で決めるわけにはいかないからメアリ先生と話をして決めるが、リリィさんがあのクラスを担当できるように善処しよう」

「はい、お願いします」

「他に何か聞きたいこととかはあるかい?」

「恥ずかしながら私は人にものを教えるほど博識ではなく、私が教えられるのはおそらく実技のみです。メアリ先生とお話しする際はその辺も伝えていただけると助かります」

「なるほど。メアリ先生には通常通り座学を。リリィさんは実技を担当するという形で進めたい、そういうことだね」

「まあそんな感じです」

「わかった。メアリ先生にはそう伝えておこう」


 こうしてメルファストさんとのお話は終わりました。

 この後は教師寮に行って部屋を見たり、ここに来る途中で色々な施設があるのを見たので時間があれば校内を見て回りたいですね。


 これから忙しくなりそうなのでシャルルフォーグの観光はまた今度になりそうですね。

 洋服や特にスイーツ。スイーツはフォルネのためにもチェックしないといけません。まあ私のためでもありますけど。


 そうだ、今度『聖魔女の楽園』でもスイーツが作れないか聞いておきましょう。作れるのであれば買いに行く必要は……いや、ありますね。そこにしかないスイーツが絶対にあるので。


「さて、じゃあ行こうか」


 メルファストさんが立ち上がり私についてくるように言ってきました。


「行くって、何処へ?」

「演習場だよ。ウォルフが規格外と言うのだから疑っているわけではないけど、リリィさんがどれだけの魔道士なのか見ておきたくてね」


 学院長としては新しく来た教師の実力を自分の目で確認しておきたい。そういうことなのでしょう。

 私もこれから生徒に教える立場になるので不甲斐ないところを見せるわけにはいきません。


 結果次第ではこの話もなくなるかもしれませんので、ここはしっかりと真面目に魔術を見せることにしましょう。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
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ステータス上げもせず、ロザリーの回復手段も探さず、のんびり時過ぎじゃね?
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