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【コミカライズ1巻 3月27日発売】【Web版】奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた  作者: tani
第四章 シャルルフォーグ学院・新任教師編

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次の目的地

 カリーナさんたちとの模擬戦を終えた私たちは一度村へ戻り、村の中で一番大きな木造の建物へ行きました。


 ここが一応私の家みたいです。なんでも私のために用意してくれたとか。

 でも、村から町へ変わり、いずれは国になるかもしれないと考えるとこの建物はお城に変わるのでしょうか。バエルに聞いたら「是非そうしましょう!!」とか言いそうですね。


 基本的に私は今後も外での生活が多いのでお城を建てても滞在している時間がなさそう。それなら別の場所に資材を使ってもらった方がいいですよね。もしお城の建設の話が出てきたら言っておきましょうか。


 もうすぐおやつの時間だったので、休憩も兼ねて私たちは食堂へ向かいます。フォルネがスイーツを要求していますし丁度いいです。

 食堂を訪れると既に何人かいました。というか私の従魔が全員集合です。


 タルトとフォルネは今日のおやつを楽しみにしているのかそわそわしています。私がこの時間帯に『聖魔女の楽園』を訪れると毎回こんな感じです。


 デオンザールは何をしていたのかというと、自分の寝床を作っていたようです。

 デオンザールの巨体だと建物も大きくしないといけません。流石にそれだと建てるのが大変だろうとデオンザールは村から少し離れた森を拠点にするみたいです。


 気にしなくてもいいのにと思いながらも建てるのは私ではないので無責任なことは言えません。

 ただ、その森は私と再会する前と似たような環境だったらしく落ち着ける場所みたいです。デオンザールが良いのであれば何も問題はないでしょう。


 ああ、あと二日ほど前にデオンザールが私の所に来て──


『あの森には昔からのダチがいるんだが、俺がいなくなると知ってついて来ようとしているんだ。あいつらは襲われていたところを俺が保護したが、お世辞にも強いとは言えない。俺がいなくなってまた同じようなことが起こるかもしれないと考えると心配だし、リリィ嬢がいいならこっちに引っ越しさせてもいいか?』


 と聞いてきました。

 その友人というのは普通の動物や魔物などで数は30体程度です。

 デオンザールも心配していると言っていますし、友人たちもデオンザールがいなくなって寂しい想いをするでしょう。


 というわけで、デオンザールの拠点に彼の友人たちも住むことを許可しました。まあ『聖魔女の楽園』は広いので数が増えたところで全然大丈夫です。

 もちろんその子たちの名前も考えましたよ。彼らだけ名前なしの仲間外れにするわけにはいきませんからね。


 次にグラとサフィーです。

 サフィーはまだ私の従魔ではないですが、グラと修行した帰りに一緒に寄ったのでしょう。彼女もお行儀よくおやつが出るのを待っています。


 最近サフィーはグラから戦い方を学んでいます。

 タルトやバエルのように私の役に立てるぐらい強くなりたいというサフィーの強い意向です。決して私が強くなれと命令したわけではありません。


 ただ正直なところ、最初はグラに指導を任せるのは気が進まなかったと言いますか……。あの一件で魔物の軍勢と戦った時の豹変ぶりを見ると、ね。

 でも、そこは問題なくグラは普段通りの感じでサフィーに教えています。あの状態は自分の敵にだけなるみたいです。


 サフィーはグラのことを「ししょー」と呼び、戦い方も大剣をメインとした豪快な戦い方です。多分ですが私の従魔を除いて一番実力があるのはサフィーだと思いますね。

 サフィー以外のバーン、ドーラ、ノワールにボロスたちも元気にしていますよ。村発展の貢献をしてくれたり、それ以外にも色々やってくれています。


 あとは最後にウォルフさん。

 ウォルフさんは『聖魔女の楽園』を見てみたいと言っていたので今日の分の仕事を前日に終わらせてこちらに来ています。

 興味津々で村の中を見て回っていましたね。今も満足そうな顔をしているので楽しんで貰えたのなら何よりです。


 さて、こうしている間にも色々と事は進んでいます。

 事前に給仕係の女性悪魔たち──自分で言っても不思議な言葉だと思います──に私が買ってきたスイーツやカリーナさんたちが差し入れと称して持ってきてくれたおやつなどを渡しています。


 彼女たちがスイーツや紅茶が入ったポットをカートに乗せ、それを押しながら食堂へやってきます。

 いつ見ても悪魔たちの依り代は精巧な造りですね。何も知らない人が見れば人間だと思いますよ。それらを一人で造ったバエルも凄いです。


 感心している中でも彼女たちは手早く準備を進めて気付いたときには全て終わっていました。

 この手際の良さ……。おそらくバエルが仕込んだのでしょう。

 カップに注がれる紅茶からはいい香りがします。

 紅茶はまだ飲めないサフィーや紅茶以外のものを所望するフォルネには別で果汁たっぷりのジュースが用意されました。


 いったいそんなものが何処で手に入れたのか。


 ジュースの材料となる果物は市販のものではなく『聖魔女の楽園』で収穫したものを使っています。

 流石にあの数ですから必ず食料問題が出てきます。私一人で全員を養うことは不可能に近い。


 それを最初から考えていたバエルは『聖魔女の楽園』の中に農業区画というものを作っていたそうです。これで自給自足の生活を送ることが出来ますので全員を養う必要はなくなりました。


 ですが『聖魔女の楽園』が出来たのはつい最近。こんなに早く収穫できるのか疑問に思います。

 しかし、そこも考慮していたようで早く育つように魔術などを用いて工夫しているようです。


 本当にもう何度思ったか数えきれませんけどバエルは何でも出来ますね。逆に何が出来ないのか知りたいぐらいです。

 改めてバエルの優秀さを実感しながら冷めないうちに紅茶を一口飲みます。


「うわっ、美味しいです!!」

「ああ。これほどまでに美味しい紅茶は初めてだ」

「私の屋敷にいる給仕たちでもこの味は出せないだろうね」


 どうやらカリーナさんたちには絶賛のようです。給仕係の悪魔たちも心なしか嬉しそうにしています。

 でも、個人的にはバエルの淹れてくれた紅茶の方が美味しいかなと。


 彼女たちの淹れた紅茶ももちろん美味しいですよ。だけどバエルの方が数段上な気がします。

 一生懸命美味しいものを出そうと努力していたと思いますし、正直に味の感想を言うか迷いますね。


 言った方が彼女たちのためになるでしょうが、言ってしまうと彼女たちが傷付くのではないかと思ってしまうんですよね。

 どうするか悩んでいるとバエルから念話が来ました。


『リリィ様、どうかなさいましたか?』

『いえ、彼女たちが淹れてくれた紅茶は美味しいのですが、前に出してくれたバエルの紅茶と比べてしまうとどうしても……』

『なるほど、そういうことでしたか。では後ほどより美味な紅茶をお出しできるように私が教育しておきます』

『不味いというわけではないので程々にしてくださいね。カリーナさんたちも絶賛しているので美味しい紅茶であることには間違いないですから』

『かしこまりました』


 バエルが教えるのであれば次は更に美味しくなっていることでしょう。その日を楽しみにしておきます。

 そこからはスイーツを食べたり、雑談をしたりと時間があっという間に過ぎていきます。

 そんな中、一つの話題があがりました。最初にその話題を切り出したのはウォルフさんです。


「そういえば、これからリリィさんはどうするんだい? そろそろテルフレアを出発すると聞いていたが、次の目的地は決まっているのかい?」

「次の目的地ですか……」


 テルフレアを訪れたのもデオンザールと再会するためでした。

 無事にデオンザールと再会できたので次の従魔に会うためにテルフレアを出発しなければいけません。

 しかし、どうやら残りの従魔はこの大陸には居らず、別の大陸に移動しなければ駄目みたいなんですよね。


 ただその前に一つやっておきたいことがあるんです。でもこれは私の個人的にやりたいことなのでタルトたちを付き合わせていいものかと悩んでいたのです。

 私は考えながらもタルトたちを見ました。すると──


「従魔を集結させるのも大事ですが、それだけの旅というのも味気ないでしょう」

「そうそう。それにリリィ嬢の人生なんだし、自分のやりたいことをやっていいんだぜ。俺たちはリリィ嬢について行くだけだからな!」

「キュイキュイ!!」

「そういうことなら……」


 私は自分でも叶わないなと思いつつも自分のやってみたいことを皆さんの前で言います。


「実はその……学生生活というものを一度経験してみたくて」

「学生生活、かい? これはまた予想外な答えが出てきたね」


 ウォルフさんだけでなくカリーナさんたちも驚いていましたが、いきなり学生生活を経験してみたいと言えばこれは当然の反応でしょう。


 どうして学生生活を経験してみたいのかと言うと、きっかけはカリーナさんが私に学生時代の話をしてくれたことです。

 ドリュゼラさんとの出会いだったり、同年代の人たちと切磋琢磨して強くなったり、学生生活でしか味わえない楽しさがあるなど色々話してくれました。


 私はすぐに冒険者になったので学校というのに行ったことがありません。一般常識は両親や村で一番賢い方が先生となってくれて教わりました。


 だからカリーナさんの話を聞いて同年代の人たちと一緒に学生生活を送るというのに興味を持ったのです。いえ、厳密に言えば一度でいいからそんな生活をしてみたいという憧れを抱いたというのが近いですね。


 しかし、問題がいくつかあるんですよ。

 まず年齢。例外もありますが基本的に学校に通えるのは初等部が満12歳、中等部が満15歳、高等部が満18歳までです。ちなみに私はあと3か月ほどで19歳です。


 余談ではありますが、学校に入ると中等部までは通い続けなければいけません。しかし高等部へ進級するかどうかは自分で決めることが出来ます。


 大体のことは中等教育で学べるようなので専門的な知識を得たい人が高等部へ進級するみたいですよ。

 あとは時期。年齢のことは一旦忘れるにしても時期的にもう遅いです。編入という形であればどうにか出来そうな気もしますけど。


 そもそも近くに学生生活を送れるところがあるのかというと──あります。

 ここからだと距離はありますが、カリーナさんが通っていた"シャルルフォーグ学院"という場所が存在します。

 武術や魔術、他にも色々なことを学べる学院だそうです。まあ場所がなければ学生生活を経験してみたいなんて言っていませんよ。


 でも、時期外れにこんなこと言っても無理ですよね。

 わかってましたよ、最初から……。私はただやってみたいことを口にしただけです。このことは忘れて残りの従魔を探すために別大陸に行きましょう。


 しかしながらウォルフさんが私の言葉を聞いて悩んでいる様子を見せていました。そして何かを思い出したのか私の方を見ました。


「ど、どうしたんですか?」

「その話、叶えられるかもしれない」

「えっ?」

「実は少し前にシャルルフォーグ学院の学院長と手紙でやり取りをしていて、そこに「魔術学科の教員が不足しているんだ。とりあえずこちらで見つけるまでの一時的なものでもいいから魔術に長けた知り合いはいないか? 何なら卒業生のカリーナさんでもいいよ」と書いてあった」

「それはつまり……?」

「リリィさんが臨時の教師になってくれたらシャルルフォーグ学院に通える。向こうの頼みを聞くんだから「特別に学生として授業を受けさせるように」と条件を付けても文句は言わないだろう。もちろんこれはリリィさんが決めることだから嫌なら引き受けなくても構わないよ」


 私が教師ですか。考えたこともないですね。

 確かに魔術は得意ですが人に教えられるほどではないと思いますし。けど、もしかすると学生生活を経験できるかもしれない。


 ……よし、決めました! 

 人生は一度きりです。色々な経験をして人は成長していくもの。それに教師を経験できる機会なんて滅多にないです。


「わかりました。教師の件、引き受けましょう」

「本当かい!? なら早速手紙を出しておこう」


 そして三日後。ウォルフさんに一通の手紙が届き、私にその手紙を渡してくれました。これを見せればシャルルフォーグ学院に入れるそうです。失くさないように保管しておきましょう。


 手紙も受け取ったことですし、シャルルフォーグ学院の学院長も待っていると思うので早めに向かわないといけませんね。

 私がテルフレアを出発しようとした時には街の人たちがたくさん駆け付けてくれて盛大な見送りになっていました。

 串焼きのおじさんなんて両手いっぱいに入れ物に詰めた串焼きを持ってきたんですよ。最後の最後までサービス精神が凄い人です。


「リリィさんが行ってしまうのは寂しいが仕方ない。シャルルフォーグ学院の学院長にもよろしく伝えておいてくれ」

「はい。あっ、そうだ」

「ん? 何か忘れ物かい?」

「いえ、()()なんですけど……」


 私は"とあるもの"に指をさします。

 その"とあるもの"というのが動かなくなったアルゴギガースです。


 あれ以来アルゴギガースは一度も動くことなくその場で立っています。動かれたら困るんですけどね。

 それで、そのアルゴギガースなんですけど、どうやらバエルが研究と解析のために欲しいみたいで……。


「よろしければ『聖魔女の楽園』の方へ移送しますけど、どうしますか? もしそのままにしてほしいと仰るならあのまま置いておきますが」

「いや、街の住人たちも急に動き出すかもしれないと怯えながら生活したくないはずだ。リリィさんが良いのなら持って行っても構わないよ」

「ではすぐに『聖魔女の楽園』へ移送しますね」


 そしてアルゴギガースは『聖魔女の楽園』へ送られました。

 全ての機能が停止しているので動かないと思いますが警戒は必要ですよね。


 あとアルゴギガースの中にいたゴーレムたち。これまでに一度もゴーレムらしき魔物は見ていないと報告があがっていたそうですが、突然外に出てきて村を襲撃しに来ないかどうかも警戒しておかないと。


 ひとまずアルゴギガースは『聖魔女の楽園』でもかなり中心から外れたところに置いておきましょう。あとは欲しいと私に相談してきたバエルに任せます。


 これでもう本当にテルフレアでやり残したことはないですね。

 あとはみなさんにお別れを告げるだけです。


「それじゃあ改めまして。皆さん、今日まで大変お世話になりました。ここでの思い出は私の宝物です。風邪とかには気を付けてこれからも頑張ってください」

「リリィさんも気を付けて。テルフレアにはいつでも来ていいからね。みんなテルフレアの英雄を心から歓迎するよ」


 ウォルフさんと握手をし、次にカリーナに手を両手で握られました。


「リリィさんが教師をやるなら近いうちに学院の方へ顔を出しに行きます。その時はまたお話とか勝負とかしてくれますか?」

「はい、こちらからも是非お願いします。あとカリーナさんも残りの最上級精霊と従魔契約を結べるように頑張ってください。私も教師の方を頑張りますから」

「わかりました。次会うまでに必ず!! お互い頑張りましょう」


 こうして私はみなさんに別れを告げてテルフレアを出発しました。

 次に向かうはシャルルフォーグ学院。暫くの間は新しい経験がたくさんできそうで今から非常に楽しみです。

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奈落の底で生活して早三年、当時『白魔道士』だった私は『聖魔女』になっていた4
― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 次からの展開も楽しみでワクワクしてます!
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