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教員の遺書を読んで、僕はなんとも言えない気分になった。
ミュゲが殺されていなければ、カロリーヌが犯人だという噂も広がらず、彼女の学園卒業後すぐに僕達は結婚していただろう。
まだ若く感情的だったカロリーヌなら、焦らせば簡単に僕に縋りついてきたはずだ。彼女は僕を慕っていた。こまめに会っていたとはいえ、二年の空白期間のせいで彼女の僕への気持ちが妙な方向へねじ曲がってしまったんだ。
カロリーヌに会いたい!
なぜか急にそんな気持ちが沸き上がって来た。
どうして今、カロリーヌは僕の隣にいないんだ。婚約者だったじゃないか。結婚して僕の妃になったんじゃないか。
カロリーヌは僕を慕っていたし、愛していたし、大好きだっただろう?
会うたびに好きだと、愛していると、お慕いしていますと言ってきた。
僕もだよ、と答えると最初のうちは喜んでいたけど、やがて絶対に自分では『愛』を口にしない僕に不安になっていったじゃないか。
僕を愛しているからだよね?
「……王太子殿下?」
なんだか息が苦しくなって、小刻みに震え出した僕を公爵が不審そうに見る。
「公爵。どうして今ごろこんな遺書を? 最近のものじゃないよね?」
遺書の最後に記された日時は僕が学園を卒業した直後のものだった。
公爵は悲し気に視線を落とす。
「カロリーヌが、子爵令嬢を愛していた王太子殿下には酷な話だから、と」
「そ、そうか。カロリーヌは、本当に僕を慕ってくれていたんだね」
「しかし娘は死にました」
きゅっ、と心臓が締め付けられるような気持ちになった。
「もう一年になります。喪も明けました。殿下には未来の国王として、跡継ぎを作っていただかなくてはなりません。あの子爵令嬢への想いはこれで断ち切れたのではないですか?」
子爵令嬢への想い? そんなものないよ。面白がっていただけだ。
僕を見るカロリーヌの視線を真似てミュゲを見つめたら、カロリーヌが誤解しただけだ。
だけどどんなに不安にさせても、カロリーヌは自分から婚約を解消したいだなんて言わなかった。僕のことを好きだったからだ。
「遊び相手の令嬢達のだれかで構いません。身分が足りなければ我が家の養女にします」
「父上は? 父上に僕の兄弟を作ってもらえばいいじゃないか」
「陛下はかなり前から酒毒が回って、子作りがお出来になる体ではありません」
そういえば、いつからか父上は酒浸りだった。
摘まみ食いしていた令嬢達が身籠ったという話も聞いていない。
てっきり子どもが出来た娘は公爵家が始末しているんだと思っていた。
「わかった。考えておくよ」
僕は公爵と別れ、王宮の宝物庫へ向かった。
そこには願いを叶えてくれる妖精を封じた壺がある。
伝説だと思われているが確かにある。僕がミュゲを選ぶのではないかと不安になったカロリーヌが欲しがったとき、あるのを確認したんだ。きっと僕の心が欲しいと願うつもりだったんだろう。カロリーヌは僕を大好きだったから。