表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭間の使者 _The Gap's World Emissary_  作者: 桂木サワラコ
第一章 間界
2/8

第一章 2 「感傷」


 美花は三年前に、大親友だった進藤日菜(しんどうひな)を亡くしている。


 正確には、生きている。いわゆる植物状態というやつだ。

 今でも定期的に病院にお見舞いに行っているが、決して目覚めることはない。

 もう日菜が動かないと知ったとき、当時まだ幼かった美花は、泣きわめいて悲しみにうちひしがれて、ろくに睡眠もとらずに風邪引いて……カウンセラーさんにもお世話になった記憶がある。


 だから、悲しみにはもう慣れた。


 どんなときにも持ち前の明るさで突破しよう。前向きに生きよう。ポジティブにそう心に決めていた。

 そして、今に至る。

 唯がいなくなっても一人になるわけじゃないし、死んだ2人の分まで三倍楽しんで生きなきゃならないから、もっと頑張らないと。

 そう頭の中で自分を制すが、雷に打たれたようなショックはそう簡単に抑えきれない。

 もちろんゲームをする気にもなれないので、美花はとっくに本日二回目のゲームオーバーを迎えた「サラダの伝説」をぶち切った。

 秒針の悲しげな音がよりいっそう静寂を際立たせる中、美花は立ち上がり、廊下をゆっくり歩いて、固定電話の受話器を取り、母親のスマートフォンに電話をかけた。

 少しでも、この複雑な感情を誰かに訴えたいと思った。


「もしもし、どうしたん?」

 母親の間の抜けた声と、電話の相手を知りたがる妹のうざったい声と、デパートの喧騒が入り交じって美花の閑散とした脳内を満たしていく。

「……あのね」

 軽く息を吸って、言った。

「唯が死んだって。」


「え、そんなに仲良かったっけ?」


「……え?」

 顔が歪む。酷い。そんな言葉は欲しくない。そう言われても仕方ないのは仕方ないかもしれないのだが……

 __仕方ない、か。


 実際、美花と唯は共に登下校をするだけだった。

 近くに住んでいるため、同じ駅から電車に乗って、同じ道を歩いて学校に行って……最初は別々だったが、美花が声をかけたのが始まりで仲良くなったのだ。

 だが、学校では一言も会話をしなかった。

 唯は常に膨大な陰キャ臭を放出していて近寄りがたかった。それよりも、目つきが怖い。

 美花もそうだが、大抵の人はその視線に跳ね返されて逃げるようにその場を去る。

 班を作るにもクラスで行われる強制参加のレクリエーションに出るも、いじり集団が押しかけてきても、唯は一言もしゃべらなかった。

 他に友達が多い美花は、登下校の短い時間など母との会話の間で話題にしない。

 通学路が一緒、とは言ったはずだが、それだけの仲と思われたのだろう。確かに美花の中でも友達以上親友未満という認識ではあるが、寂しい……のは寂しい。もちろん、悲しいし、他人事ではない。

 それなのに、この母の応答のせいで、美花の心の感傷に不快感がプラスされてしまった。

「もう切っていい?叶花がちょっとうるさいんよ」

「あたしあんたより可愛いの買ってもらうんでー?」

 叩きつけるように、受話器を振り下ろした。

 鼓動が早まっていく。

(こんなに冷たい親だったっけ?)

そして、追い討ちをかけるように妹のムカつく一言が刺さる。

 自慢話なんて要らない。勝手に裏切られた気分になっていた。

 美花は深呼吸して、それから手を離す。やるせなく無気力に床へ倒れこんだ。

 ひんやりした感触が、彼女の心に染み渡っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ