第一章 1 「サラダの伝説」
「__次は、嬉しいニュースです」
アナウンサーの無機質な声と共に、ゴミ拾いをする外国人の映像が流れ出した。
先日日本列島を襲った台風18号の被害を受けた地域を、観光客がボランティアとして掃除してくれているらしい。
少女は画面から目を離し、第二の画面に目を向けた。そして、渋い顔をする。
「あー、ミスったー……」
その少女__佐渡美花は、自宅のソファーに一人沈みこんで、今巷で噂の大人気ゲーム「サラダの伝説」をプレイしていた。
主人公の長見涼が、好き嫌いの多い子供に捨てられる運命の野菜を救うべく奮闘する物語。
最初は美花もくだらないと思っていたのだが、やってみると案外難しい。シューティングゲームに近いので、ある程度集中する必要がある。
救えなかった野菜が一定量を超えると、絶望した農家のおじさんの顔が浮かび上がってゲームオーバー。この面は、きっと小さな子供にトラウマを植え付けるだろう。よそ見をしていたから今まさに美花はその状態にいる。妹には見せられないな、と一人苦笑していた。
美花の妹、叶花は今現在母親とランドセルを買いに少し遠くのデパートに行っている。親が留守の間にゲームをしておこうという企てだ。宿題の心配は全くしていない。前向き思考の美花は、最終的に終わっていればいいのだと考える。
今を楽しみながら足を組み替えて、美花はリトライのボタンを押した。
「__次は、悲しいニュースです」
テレビは消してもいいのだが、聞こえるのが能天気なゲームの機械音だけだというのは寂しい。他の音が聞こえるだけでなにかと安心できるものだ。
「昨夜午後五時ごろ、西原町二丁目にて佐々木唯さん(12)が死亡する事故がありました。」
聞く気のなかった情報が、滑り込むように耳に入ってきた。
「建設中のマンションの鉄骨が落下し、頭部に衝突してしまったことによる失血死だそうです。」
美花は、即座にゲーム機をソファーの上へ投げ出して、テレビの間近へ駆け寄った。
画面には、見るからに怪しい風貌の青年の写真が写っている。知らない人が見ればただの不審者のようだ。
その青年……年齢的には少女とも言えよう、彼女は、
____美花の友人なのであった。
「警察によると、工事をしていた職員は『少し目を離していたら既に落下してしまっていた』と供述しているということです。」
「何それっ……」
怒りに震えて考えたことが口から滑り出る。
同姓同名の人違い、でもない。間違いない。
唯の家は西原町二丁目だ。もう、確実だ。
写真を見ても、何を見ても、間違いない。
____自分の友人が、死んだのだ。
けれども、彼女は嘆き悲しむようなことはしなかった。
怒りを鎮めるようにテレビの画面をじっと見据えて大きく息を吸い、その倍大きなため息を吐く。
(また、か)
アナウンサーが正面に礼をし、画面はのんきな芸能人を写し出した。ゲラゲラと笑う下品な中年男に呆れてリモコンをひったくり電源をぶち切る。
静まり返った家の中、美花の耳に聞こえるのは自身の鼓動だけだった。