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舞い落ちる天使-9

 本格的に役に立たなそうなリリスを前に良太は呆れ顔を隠さない……どころか、露骨に顔に出す。



「あんっ、ゾクゾクしちゃう」



「よし!変態天使確定!」



 さらに役に立たなくなった。



 そんな役立たず二人を前に現実的な冬香が至極真っ当な質問を繰り出す。



「リリスちゃんは、良ちゃんの恋が成就しなければ帰れないのよね?じゃあ、その間はどうするの?」



 この「どうするの?」は衣食住についてだった。



 仮にも天使だ。封印されていても何らかの不思議な力があるに違いない……などと良太は気楽に考えていた……のを呪いたくなった。



「………………」



 リリスの無言が長い。



 そして、おもむろに良太の前で土下座をした。



「末永く宜しくお願いいたします」



「ノープランかよ!?」



 丁寧に三つ指を立てながらの土下座であったが、別に嫁に行くわけでは無い。



「てめぇ、居候するつもりかよ!?」



「だって、だって公園で寝るのは嫌よーっ」



「公園じゃなくてもホテルとかでいいだろ!天使なら従業員を魅了して入りこむぐらい簡単じゃねえか!?」



「無理!無理!そんな力があったらその辺のおばさんで良太に魅了させるわ!」



「怖ぇ!じゃあ、金ぐらいどうにかなるだろ!そこらの枯れ葉でもお札に変えて!」



「出来るかー!何?その犯罪者思考!犯罪者思考でロリ鬼畜って存在意義無くないかな?ね?」



 そう言われ自分の言動を振り替える。



「鬼畜だな俺……」



 リリスに気付かされてしまった。



 そんな鬼畜っぷりなどとうに知っていると言わんばかりに、冬矢は他人事のように口を挟む。



「まあ、良太んちなら一人住人が増えても問題無いんじゃないか?こいつの家、一人暮らしのくせにえらく広いから」



「問題ありまくりだよ冬矢!」



 否定する冬香などお構い無しに、拒絶する良太もお構い無しに冬矢は話を進める。



「親の別宅?同じ街に親は居るのだが、街の反対側に家を建てて空いたマンションの一室を良太が使っているんだ。一家で住んでいたマンションだから部屋数もあるし」



「細かい説明をありがとう腐れ縁よ!問題はそこじゃない!」



「じゃあ問題は何だよ?」



 本当に分からないといった表情だ。



「この得体のしれないリリスと住むのが問題なんだよ!」



「得体のしれないって酷い!」



 それも真っ当なな答えであった。



 彼女居ない歴=年齢かつ童貞な良太が全てをスキップして同棲など人生をかけたイベントである。おいそれと「OK」とは言えない。



「じゃあ、どうするんだよ?このまま放置か?お前の放置プレイに付き合ってられんのだが!」



「まずプレイじゃねえ!そりゃリリスも困っているのは俺だって気にはなるし……だけどな……」



 その時リリスは捨てられたチワワの目だ。あざとい目付きは逆にイラっとさせられる。



「いや、やっぱ無理だろ!お前の家ならどうだ?なあ冬香!」



 冬矢ではらちが明かないと思った良太は冬香に助けを求める。



「えっ?あっ?…………冬矢…………」



 しかし、冬香が助けを求めたのは兄である冬矢であり、その兄からダメ出しされてる以上、冬香に決定権はなかった。



 非情なのかもしれない。だが、現実的に得体のしれないついさっき出会ったばかりの人物を家に居れるのはやはり拒絶反応がある。



 それは仕方ない事だろう。だからこそ、拒絶を示す冬矢に対しリリスは不快に思う事もなかった。



 ここまでハッキリとした拒絶を示す冬矢だが、別に冷たい訳ではないし、本気でリリスに野宿させるつもりもなかった。



 冬矢には勝算があったのである。



「で、お前は得体のしれないのと一緒に住むのが嫌だと?」



「そ、それは……言葉のあやだが……」



 実際、天使と認めつつも得体のしれないリリスだが、本人を目の前にして言いきるには気が引けていた。



「なら、それは問題無いな。部屋的にも問題は無い。一体、何が問題なんだ?」



「問題だらけだろ!百歩譲って天使と同棲?漫画?ラノベ?薄い本?ネタじゃねえか!」



 メタ発言であるが冬矢は華麗にスルーだ。



「なにより、こいつは見た目だけなら女体だ!ナイスバディな女体なんだぞ!」



「良ちゃん……どうしてそう如何わしい言い方するのかな?」



 そんなのを気にする余裕など良太には無い。



「何かあったらどうするんだよ!俺の童貞が玄人でも素人でも無く天使に奪われたら!」



「ははっ!動物よりはいいじゃねえか」



「良くない!」



 ちょっと恐ろしい想像をしてしまった。



「まあ、そんな冗談はさておきリリスちゃんの顔を見たらその可能性は皆無だな」



 当の本人であるリリスは、この世のものとは見えぬ不快な表情だ。天使の欠片も見当たらない。



「くそっ!表情で全否定かよ!」



「じゃねえだろ。良太が気にしてるのは。お前が襲わないかが心配なんだろ?」



「…………」



「そ、そんな事はしないよ良ちゃんは!ねえ!」



「…………」



「何か言ってよー」



「無言の肯定か……」



 良太にとってそれは仕方ない事であろう。中身は別にして、リリスの容姿はおっぱいモンスターである良太のストライクなのだ。大きすぎず小さすぎすの推定D。なにより少し露出高めの衣装。一緒に住んだら手を出さない方が失礼では?と身勝手な事まで考えてしまう。



 結局は良太だけの問題であった。



 膠着するこの問題にリリスが譲歩案をだす。



「それなら家賃として……いいわよ……揉んでも……」



「マジか!?」



「ええ……一日一回、寝る前にね……」



 ゴクッっと生唾を飲む音が冬矢と冬香にまで聞こえるぐらいだった。



「これは押しきれるか?」


「良ちゃん不潔だわ……」



「で?どうする良太?わたしは公園で野宿でも仕方ないけど……代わる代わる色んな男にもてあそばれ汚されて天使じゃいられなくなるような辱しめを受けても仕方ないけど……」



 切な気な声色で身を守るように両腕で自らを抱き締めるリリス。



 良太も色々と想像していた。完全にR-18案件だ。それに対し、興奮を覚えるより前に胸糞悪さが先立っていた。



 確かに得体のしれない……だが、知りあってしまったからには他人とは言い切れない。そんな見た目は女性なリリスが汚されるのを無視出来る程、鬼畜ではいられなかった。



「ぬぁぁぁぁっ!わかったわかったよ!勝手にしやがれ!」



 良太は自らの妄想に負けたのであった。



 こうしてリリスは野宿を回避した。



「やっと諦めたか良太」



「諦めたって何だよ?」



「お前がほっとける訳ねえからな」



 信用?信頼?されていた事に恥ずかしさを感じる良太であった。



「……で、本当なんだろうな。一日一回って」



「ええ、揉んでもいいわよ。脚を」



「ただのマッサージじゃねえか!純情を返せ!」



「それは純情じゃないよね良ちゃん……欲情だよ……」



 とても冷たい冬香の目であった。




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