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舞い落ちる天使-6

 おさわりNGを出されながらも落ち込む事なく平静でいれる強メンタルを持つリリスは、改めて冬香に向かい本日何度目かの自己紹介をする。



「わたしリリス!天使だよ!」



 安っぽい昔の音声人形みたいな挨拶に冬香の毒気はすっかり抜かれてしまっていた。



「えっ?あっ?はい。私は中谷冬香です。人間です」



 どうやら、冬香のパニックはまだ収まっていないようだ。



 そんな冬香に冬矢が助け船を出す。



「わりぃな、ウチの妹がテンパっていて。おれも自己紹介がまだだったな。中谷冬矢だ。そこの才木良太とは中学からの腐れ縁。当然、冬香もだが」



 冬矢は警戒心がほぼ無くなったのか?とても普通に自己紹介をする。



 となると、この中で自己紹介をしていないのは良太だけだった。それに気付いた良太は慌てて自己紹介を始める。



「お、俺、才木良太 二十歳 彼女無し 宜しく」



「ダメ男の合コン開始の挨拶みたいだね」



「誰がダメ男だ!?」



 無言でリリスは良太を指差す。



 そんなやり取りを見ていた冬香が横やりを入れた。



「えっ?えっ?天使?」



「今頃!?」



 これには逆にリリスの方が驚いていた。自己紹介が終わり、この話は一段落したと思い込んでいたからだ。



「冬香ちゃんて……ポンコツ美少女?」



「おう、気付いたか。中々の眼力だな」



「ポ、ポンコツ!?」



「それに関しては俺から何も言える事は無いが……お前らも大概だがな」



 兄からの無情なフォローが入る。



「まて!確かにポンコツ美少女とビッチだが……」



「ちょっ!まだビッチ引きずるの!?」



「じゃあ、俺は何なんだ?美男子か?」



「お前はただのポンコツだ」



 そう言い切った冬矢の目は真冬のブリザードを彷彿させるぐらい冷たかった。



 そんな視線に動きがフリーズする良太だったが、冬香の方も負けず劣らずフリーズしている。



 空想上の存在と認識している天使の存在に動揺しているのだろうか?そもそも、この中二病のような会話に動揺しているのか?



 どちらかと言えば後者であろう。



 良太や冬矢と違い、冬香はリリスの翼を見ていない。容姿と場所に似合わぬ服装が現実離れした美女という認識しかない。



「おい、冬香のフリーズどうにかしろよ冬矢」



「んな事を言われてもな……」



「どうせ非現実的な事を言われてパニックになってるだけだろ?もう一度リリスが翼を見せてやれば納得するんじゃねえのか?」



「そんな見せ物みたいなものじゃない!神聖な翼なんだから!」



「まあ、神聖なのは何となく理解できるな……そして、冬香が何にフリーズしてるのかも何となく理解は出来るが……」



「理解出来るなら何とかしろよ冬矢」



 フリーズする冬香を前に三人はこそこそと会議中だ。結論が出たわけではないが、冬矢はため息混じりでフリーズを解くために冬香の隣に移動し耳打ちする。



「……あの女は良太と関係無いぞ」



「……!そうなんだ!じゃなくて天使って?」



 冬矢の誰にも聞こえないような小さな声に冬香のフリーズは解けた。その反動のせいか冬香の香に赤みがかかっていた。



「おおう、何に言ったんだ冬矢?」



「いや、別に……」



 呆れたような返事を良太に返す。



 そんな冬矢にリリスが近寄っていった。



「ふーん、そうなんだそうなんだ。こりゃわたしのお仕事も楽かな」



「だといいがな……」



 呆れ顔をかくしもせず、眉間のシワも深い冬矢と正反対にリリスは余裕綽々な表情だ。



 気分が良さげなリリスは軽い足取りで冬香を拉致し、二人から距離を取る。



「ふひひっ、お嬢さん……ズバリ恋をしていますね」



 とても胡散臭いセリフをリリスは吐く。



「はひっ?恋!?」



「あー皆まで言わないでもお姉さんはお見通しですよー。天使の対応として誰とは言いませんが……」



「えうっ……あの……その……」



 羞恥に犯された冬香は顔を真っ赤にしうつ向いていた。



「純情!えっ?あなたが天使様?」



 あまりにウブな冬香にリリスは自分と比べてしまっていたが、それはそれ他人は他人と自分に言い聞かせる。



「……こほん、わたしは本物の天使なの。色々と訳ありで良太の恋を成就させなければいけないんだけど……ぶっちゃけ手を組まない?」



「手を……組む……?」



「そうそう!まあ、後押しぐらいしか出来ないけど……いや、物理的に押すのも出来るちゃあ出来るけど、そこは本人達の気持ちを尊重したいわけだし」



 ちょっと気になる発言もあるが、冬香はチャチャを入れる事なくリリスの誘惑に耳を貸している。



「でどう?悪い話じゃないと思うけど?」



 確かに冬香は良太に対し好意を持っている。それは冬矢も知っている事だ。それに対し何もしてこなかった訳じゃないし、かといって諦めた訳でもこのままでいいとも思っていない。



 長い付き合いの中、積もり積もった想いがあるのも事実だ。



 そんな他人から見れば弱みに近い所を悪魔の囁き……じゃなく、天使に囁かれたら誰でも心は動かされるだろう。



 実際、冬香の心も揺れ動いていた。



 そして、冬香はリリスに対し答えをだす。



「ご遠慮します」と。



 その声は決意に満ちており、強い意思を醸し出していた。



「えっ?こんな美味しい話ないんだよ!天使が協力するなんて特例中の特例よ!明日にはご懐妊報道が出来るぐらいチョロいのよ!」



「ご、ご懐妊!?」



 焦るリリスはとんでもない事を口にし、冬香は律儀にも反応し顔を赤らめる。



「あなたにどのような事情があるのかわかりませんが、これは二人の……いえ、私の問題です。協力してくれるのは正直心揺れますし嬉しいのですが、自分で何とかしなければいけない事ですので」



 ハッキリともの申し丁寧に頭を下げる冬香であった。



「後悔は無いの?」



「後悔もなにも終わるどころか、始まってもいないですよ。結果としてあなたの力に成れれば良いですね」



 と言いながら冬香は優しい笑みでリリスを見ていた。



 そんな決意を持った笑顔にリリスは笑顔で返す。



「わたしは……立場上、良太が誰と恋を成就させても構わないんだけど……出来ればあなたがいいかな?」



「ふふっ、嬉しい言葉ですね」



「もし、違う女と関係が良くなっても心の中ではあなたを応援しながらも良太の意思を尊重しちゃうけど、それでもいいのね?」



「応援してくれるだけでも嬉しいですよ」



 冬香の優しい笑顔は崩れない。それが自信なのか覚悟なのか当の本人にも分からないが、想いの強さだけはリリスにも伝わっていた。



 それに対しリリスは行動を起こす。



 再び背に翼を出した。さっきは神聖な翼と言い、見せるのを拒絶した翼をだ。合わせて右手を差し出す。



「わたしはリリス。本物の天使よ。これから宜しくね冬香」



 差し出された手を恐る恐る、だがしっかりと握り返す冬香。



「ええ、宜しくお願いしますリリスさん」



 二人に友情が芽生えたのを目にした男共は安心したのか?今まで閉ざしていた口を開く。



「良かったというか、交渉成立というか」



「はあ?何の交渉だよ?」



「お前が知る必要は無い!」



「えっ?冷たくないか冬矢!にしても、ついさっきまで拒否ってた翼を出すなんて、どんな話術で落としたんだ?」



「お前はそんな目でしか物事を見れないのかね?小さい男だな」



「小さい言うな!」



 二人の会話は大きく無い。少し離れたリリスと冬香には聞こえるはずのないぐらいの声だったのにリリスが素早く反応する。



「小さい!?何が!?ナニが!?」



「やめろ痴女天使!下を凝視するんじゃのえ!まて冬香も下を見るんじゃねえ!」



 事の真相は不明だが、新な曰くを付けられた良太であった。


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