舞い落ちる天使-4
翼をまとったリリスはマジ天使。しかし、口を開けばポンコツっぷりを遺憾なく発揮している。
それでもポンコツ加減より見た目のインパクトの方が二人には強かった。
「天使って存在するんだな……」
「良太、お前はもう信じているんだな……単純なヤツと言いたいところだが、こんな姿を見てしまえば」
「ふぅ、やっと信じてくれましたか。何度、自己紹介をした事やら。疑い深いんだから」
自分を認めてもらい安心したのか?キリッとした表情は成りを潜め、少し幼さの残ったような笑顔になる。
その表情に良太は顔を赤らめた。
「おい、余計な事は考えるなよ」
と冬矢は良太に釘を指す。
「……余計な事って何だよ」
「お前、今日告白した咲ちゃんだって一目惚れだろ?ほとんど話した事もないのにいきなり告白とか、勢いまかせ過ぎなんだよ。この娘も見た目ならお前の好みじゃねえか?」
確かに良太の好みのタイプではあった。その辺を見切っている冬矢はさすが腐れ縁と言えるだろう。
「まさか、見た目だけで天使に告白なんてしねぇよな?」
「ははっ、んな訳ねえよ……(多分)」
か細く自信無さげに(多分)を付け足していた。
「ちなみに天使を孕ませたら、永遠に天界で奴隷になる規約があるからねー」
「告白どころか、その先を行きやがった!そして、何その現代社会にそぐわぬ恐ろしい規約は?」
落書き(仮)
「無い!無い!無い!無い!どんなに俺が節操なかろうとコイツだけは無い!」
「節操ない自覚はあったんだな」
良太は半ば自虐のように否定していた。そんなセリフをリリスは軽々とスルーしている。
「わたしに惚れたら怪我するぜ」
「怪我どころか奴隷にされるだろ!」
「いや、まあそうなんだけど、それじゃあわたしが困るというか、実際に孕まされたら困るけど」
「しねぇよ!」
「最初に言ったよね!わたしはあなたの恋を成就させないといけないんだよ」
確かにそう言っていたなと数十分前の言葉を思い出す。しかし、良太の中で再び疑問を覚えてしまう。
仮にだ、その言葉が真実であったとしよう。では、何の為に?何の目的で?どうしても答えは出てこない。ただの天使の気まぐれ?とも考えれるが、それなら最初に拒絶した時点で別の人を探せばいいのでは?
色々と考える中、一つの答えが導きだされた。
「同情はよしてくれ……」
「別に同情はしていないけど」
「なら、新手のキャッチサービスか?」
「どうしてこうも思考がぶっ飛ぶのかな?」
リリスは呆れながら冬矢の方を見て助けを目で訴えていた。
「こういうヤツなんだよ。諦めてくれ」
冬矢にも見捨てられた良太は再び答えの出ない問いを思考しだす。
それに耐えれなくなったのはリリスであった。
「はふぅ……こうまで全てを信じてもらえないと人間不信になりそうだわ。よく聞きなさい!あなたは選ばれたのです!天使に選ばれた民なのです!」
「選ばれた……だと?」
「そう!選ばれた民、それがあなた才木良太 二十歳なのです!」
良太はここまでリリスに対し名乗ってはいなかった。冬矢が良太の名前を連呼していたから、名前ぐらい知れていても不思議では無いが、フルネームを知っているのは不可思議な事。なのに良太はそれに気付けない。
それだけ「選ばれた」という言葉に浮かれていたのだった。
「そうか……俺は選ばれた……」
「そうなのです!あなたは選ばれた!数多の人類の中で選ばれた特別な民!」
「特別!」
もう良太の中にリリスを疑う気持ちは消え失せていた。
「特別なあなたに、天使が恋の成就をお手伝いするのです!これでもう童貞卒業おめでとーだね!」
「卒業!」
「大人の階段を昇るのです!才木良太よ!」
「て、天使様ー!」
リリスを見る良太の目は、怪しげな宗教に盲信している信者の目だった。
こんな茶番劇を見せられた冬矢は良太を無視しリリスの側に寄り耳打ちする。
「で、完全に良太を落としたわけだが……本当のところは?」
「半分は本当だよ。恋の成就が本当で選ばれたのは嘘……とも言えないかな?偶然見かけて偶然わたしが選んだんだから。そういう意味では選ばれた民だね。わたしに」
「あー確かに選ばれたなヤツは。それで目的は?天使と言うからには人の為にと言われればそれまでだが、恋の成就なんて慈善事業でもなければ関わりたくない案件では?」
「なかなか鋭いですなー。確かに面倒事だよね。普通は直接関与する事は無いんだけど、今回は特別と言うか……」
ここまで話してリリスが言い淀む。
そして、意を決したように言葉を紡いだ。
「実は……天界でやらかして地上に落とされちゃって、天界に戻る条件が人間の恋を成就させる事なんだよね」
「つまり、良太を利用すると」
「大正解ー!」
「ふざけんなーーーっ!お前を信じた俺の純情を返せ!」
いつの間にか大きくなった声は良太にも聞こえていた。
「純情?純潔の間違いじゃないの?童貞ゆえに」
「それもそうだな……ってバカにしてるだろ!」
「いやいや、二十歳まで純潔を守り通したその生きざまは素晴らしいよ。誘惑に惑わされず一途な行動は尊敬に価します!」
なぜか敬礼をするリリス。
「そ、そうか?」
なぜか言いくるめられる良太。
「お前ら相性良いな」