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舞い落ちる天使-3

 このようなカオスな状況に動揺する良太であったが、それに対し男の顔からは動揺は感じられない。それよりも少し冷めたような表情にも見える。



 切れ長の眼にかかる前髪は顔に少しの影を落とし、無造作ながら清潔感ある短髪。かもしだす雰囲気と相まってイケメンの部類に入るだろう。



 良太と同じぐらいの身長の男は、細身のジーンズに細身のTシャツというラフな姿だが、適度についた筋肉がスマートさを感じさせる。



「で、一応聞いてやるけど……どんな情事だ?」



「昼ドラみたいな事を言わんでくれよ冬矢」



 良太は男を冬矢と馴れ馴れしく呼び、切な気な目で訴える。



「と言ってもな……さすがに中学時代からの腐れ縁とはいえ、色々な意味で見のがす訳にはいかんと言うか見のがすべきというか……」



「色々な意味が気になるが今は後生だから見逃してくれ!」



 冬矢は少し考えた表情をうかべたが、すぐに「やれやれ」と言葉にはしなかったがそんな表情で良太を見た。



「まあ、取り敢えず立てよ」



「見逃してくれるのか?」



「事情聴取次第だな」



「あははっ、それじゃ実刑間違いなしだね」



「てめっ!笑う余裕があるなら脚から離れろ!」



 さっきまでの号泣はなんだったのだろうか?演技だとしたらアカデミー賞並みだが、多分それは違う。良く言えば切り替えが早いだけだろう。



 その切り替えの早さは、既に立ち上がりぐしゃぐしゃだった顔が嘘みたいにキリッとし、イケメン部類に入るであろう冬矢の横で腕を回していた。



「ちっ!ビッチが!」



「天使に向かってビッチとは何よ!そんな事言ったら天罰受けるわよ!」



「へっ!神様じゃあるまいし天罰なんて与えれるのかよ?まあ、お前みたいなポンコツ・ビッチが与えれたとしても大した事なさそうだけどな!」



「一生、不能になる天罰を与えてやる!」



「本当にすみません!」



 そこには綺麗な土下座姿の良太がいた。



 そんなやり取りをする二人を冷めた目で見る冬矢が、ため息混じりで質問を投げ掛けた。



「はぁ……この状況を説明しろよ良太。この娘は誰なんだ?今日、告白して振られた咲ちゃんじゃないし……」



「俺はお前に振られたとは一度も言ってないはずだが?」



「いや、成功するわけないだろ」



「えっ?即答?」



 土下座のまま立ち上がる事すら出来ないショックを良太は受けていた。



「振られた勢いでナンパか?……いや、ナンパなら脚にしがみついていたのは良太になるか」



「なぜそういう発想になる?見たまんまを信じれぬのかね?」



「そりゃまあ、お前とは長い付き合いだからな。そんな事は無いと信じてるさ。お前が女に言い寄られるなんて無いと」



「悲しい信じかただな……」



 もう立つ気力すら失せていた。



 冬矢は土下座しながらゾンビのような良太無理矢理立たせ壁に寄り掛からせ、本題について問いただす。



「マジ、誰なんだよあの娘?」



「えっ?天使」



「……お前には精神科を紹介しなければいけなかったか。心配するな、振られたショックなんて一時的なもんだから数日経てば」



「病人扱いかよ!本人が言ってるんだからしゃあないだろ!」



 確かに本人が言っているのだからしゃあない。がしかし、それを鵜呑みにするのがどうなんだ?という話だ。



「本人に聞いてみろよ!なあ、リリス!お前、天使なんだよな」



「そうだよー」



 返ってきた返事はとても軽く、冬矢は疑いを強めてしまう。そのせいか、眉間のシワは深くなり良太を見る目に殺意がこもっていた。



「マジで、いや俺も全部……というか、半分以上は信じて無いんだが、コイツ空から落ちて来たんだって!この何も無い空からだぞ!」



 冬矢は空を見上げ何も無いのを確認した後、スマホを手にした。



「だから通報は止めろ!そしてリリスも何ニヤニヤ見てるんだよ!」



「いやー仲が良いなーって」



 そんな無邪気な言葉に良太の顔が少し赤くなる。



「腐った空気を感じます!」



「腐っているのはお前の頭だ!」



 その時、冬矢は既に良太から距離を取っていた。



 一向に話が進まない事に少しの苛立ちを感じ始めていた良太は、直接的な言い方でリリスを問いただす。



「そろそろ俺らに分かるように説明してくれないか?」



 リリスは「うーん」と唸りながら真剣な表情で考えだした。



 唸り声だけで特に言葉を発しないリリスは二人から見ても美しく気品があるように見えていた。



 純白の長い髪、均整のとれた身体、かもしだす雰囲気……それは二人が今まで出会った女性から感じる事が無かったものであった。



 それでも素直に「天使」と言われて信じれるほど中二病でもない。



(何者なんだ?このリリスという女は?)



 二人の思考はこの一点に絞られていた。



 そんな事を二人が考えている間もリリスは唸り続けている。



 そしてやっと唸り声が止みリリスは二人を見つめニヤッと笑みを浮かべた。



「じゃあ、良く見てて」



 そう言ったリリスは目を瞑り集中しだす。と同時にリリスの後ろが光に包まれだした。後光のような光はやがて収縮しだし形を成す。



 出来上がった形は……



 純白の翼であった。



 再び二人は目を奪われる。リリス本人に、そして純白の翼に。



 そんな姿を見てやっと二人は信じ始めていた。それでも信じる気持ち半分、信じれない気持ち半分。



 それは仕方の無い事であろう。現実に生きる二人の前に現れた非現実な存在。普通に考えれば信じる事など出来ないはず。



 だが、半分は信じる気持ちが生まれたのは、翼をまとったリリスの姿があまりにも人間離れしていたからだろう。



 決して悪い意味じゃなく、この世の者とは思えぬ神々しさに……美しさに……



 まさに二人は魅了され身動きひとつ出来ずにいた。その存在を確かめ、目に焼き付けるように。



「そんなに見つめられたら……濡れるわ」



「色々と台無しだよ!このポンコツ・ビッチ・サキュバス!」



「この姿見てまでサキュバス言うな!そして、ビッチじゃない!」



それなら、言葉を選べ!と言いたい気持ちを押し殺していた良太であった。



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