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名無しとカレンな転生デスペラードを  作者: 芝森 蛍
《天魔》と《魔堕》の境界線
70/84

アクトチューン

「…………ふぅ……」


 彼の姿が消え、途端に温度が失われた気がした。

 そんなに人に飢えていたかと自嘲して、何もないその場に腰を下ろした。


「そっちはどうだった、《波旬皇(マクスウェル)》」


 虚空に向けて言葉を投げかける。

 すると背後に気配が生まれた。振り返ってそこにいたのは、わたしと同じ顔をした別人だった。


「あれだけでは何も分からぬ。しかし彼女は次を断言した。一人でないならばと確信した。であれば、全てはその時だ」

「……結構楽しそうだね」

生憎(あいにく)と負の感情の塊なのでな。それは理解しかねる」


 そう言い聞かせているだけではなかろうか。

 中々不憫な本能に同情をしつつ寝転がって目を閉じる。


「大丈夫だよ。彼女はきっと君を満たしてくれる。わたしができなかったことをやり遂げてくれる」


 信じたいだけかもしれないが。それでも────


「だから、《波旬皇》。もう一度、わたしと勝負だ。人が願いを貫くか。それとも自らの側面に押し潰されるか。共にその瞬間を見届けよう」

「…………それが、友人というものか?」


 そんな疑問を抱くとは思わなかった。

 けれども、嬉しくなって笑顔で答える。


「まさかっ。わたしと君は永遠のライバルだ。……だが、もしそれが終わったなら────」


 脳裏に彼の記憶が蘇る。

 別にそれは彼が経験した過去ではない。何かで目にした、青春の一コマだ。

 相反する二人が全力でぶつかり合って、ボロボロになった末に互いを認め合う。

 泥臭く、ご都合的な、綺麗事。

 だからこそ、そんな『ありえない』を夢見てしまう。


「……いいや。…………さぁ、始めようか」


 声には、肯定も否定もなく。目を開けたそこに、わたしの姿はなかった。

 感覚が、君と重なる────

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