アクトチューン
「…………ふぅ……」
彼の姿が消え、途端に温度が失われた気がした。
そんなに人に飢えていたかと自嘲して、何もないその場に腰を下ろした。
「そっちはどうだった、《波旬皇》」
虚空に向けて言葉を投げかける。
すると背後に気配が生まれた。振り返ってそこにいたのは、わたしと同じ顔をした別人だった。
「あれだけでは何も分からぬ。しかし彼女は次を断言した。一人でないならばと確信した。であれば、全てはその時だ」
「……結構楽しそうだね」
「生憎と負の感情の塊なのでな。それは理解しかねる」
そう言い聞かせているだけではなかろうか。
中々不憫な本能に同情をしつつ寝転がって目を閉じる。
「大丈夫だよ。彼女はきっと君を満たしてくれる。わたしができなかったことをやり遂げてくれる」
信じたいだけかもしれないが。それでも────
「だから、《波旬皇》。もう一度、わたしと勝負だ。人が願いを貫くか。それとも自らの側面に押し潰されるか。共にその瞬間を見届けよう」
「…………それが、友人というものか?」
そんな疑問を抱くとは思わなかった。
けれども、嬉しくなって笑顔で答える。
「まさかっ。わたしと君は永遠のライバルだ。……だが、もしそれが終わったなら────」
脳裏に彼の記憶が蘇る。
別にそれは彼が経験した過去ではない。何かで目にした、青春の一コマだ。
相反する二人が全力でぶつかり合って、ボロボロになった末に互いを認め合う。
泥臭く、ご都合的な、綺麗事。
だからこそ、そんな『ありえない』を夢見てしまう。
「……いいや。…………さぁ、始めようか」
声には、肯定も否定もなく。目を開けたそこに、わたしの姿はなかった。
感覚が、君と重なる────




