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アクトチューン

「ふーんふーんふふーんふーんふふふふふふふーん♪」

「ご機嫌だな、《絶佳(ゼッカ)》殿」

「だぁーって探し物がようやく見つかったみたいだしー。ずっとやってる計画も何か進展があったんでしょ?」


 にししと笑えば股の間から男がこちらを見上げる。咄嗟の事にそのまま後ろに倒れそうになって慌てて彼の角を思い切り掴んだ。


「っとぁ」

「掴むな、折れる」

「だったらちゃんと前を向いて、よっ」

「蹴るな、痛い」


 喋る玩具にお灸をと踵で鳩尾(みぞおち)の辺りを叩けば、不満が返った。

 少し前かがみになって小さく息を吐いた尻の下の男に横暴が齎す満足感を胸に抱いて、目の前に迫った吊るされた灯りを手で退かした。


「頼むから設備は壊さないでくれよ? 代わりに私なら幾らでも殴っていいから」

「じゃあ角は?」

「それも控えてもらえるとありがたい」

「名前彫ろっかっ」


 反論に疲れたのか声を返してくれなくなった歩く椅子に唇を尖らせて、暇潰しに踵で胸の辺りをリズミカルに叩く。

 彼女がいなくなって少し退屈になった。彼女と一緒にいる時は嘘でも楽しかったのに。やっぱり変化が欲しくて彼女を逃がしたのは間違いだっただろうか。

 ……いや、見方を変えればその追いかけっこも遊びの一つ。だからあたしは今こんなに胸を躍らせているのだろう。まぁ彼女が戻ってくれば今までのような関係を続けることも出来なくなるが、そんな繋がりはまやかしだ。

 ────悪魔が約束を守るなんてそんな馬鹿な事はありえない。


「……しかしいいのか? 彼女裏切って。あっちは君の事を友達だと思ってたのではないのか?」

「友達? なにそれっ。あの子はあたしの所有物。ただの道具。箒と友達になるのは魔女だけだよっ。それに一度逃げた後で捕まったら、もう逃げようなんて思わないでしょ?」

「悪魔だな」

「魔王様とお呼びっ!」


 叫んで思い切り角を叩けば、右のそれがばきりと音を立てて壊れた。床に音を打って転がった角の破片を歩みの止まった視界から見下ろして呟く。


「あ、ごめん。壊しちゃった」

「……いいですよ」

「てかなんでそんなのつけてるの?」

「その方が魔物っぽいかなと。角があると威厳があるだろ?」

「それ人間の考え方? まるで子供だね」


 低俗な考えを嘲笑って、彼の頭から欠けた角のカチューシャを取り上げ後ろに放り投げる。と、何かとぶつかって薄い物が割れるような音が響いた。

 思わず振り返れば床に散乱したガラスの破片と、その中心で光を放つ鉱石。


「……魔王様、御戯れも程ほどに」

「はーい」


 どうせあの石もう直ぐで魔力が尽きて光なんて出さなくなるのに。……そうそう、いい交換の機会を作ったんだよ。さすがあたし。

 溜め息を吐く男の肩の上から噛み殺した笑みを転がして、ぎりぎり触れられる天井に指を伸ばす。もうちょっと背が伸びないかなぁ。


「あの角、お気に入りだったんですがね」

「角より牙の方が格好よくない?」

「そうお望みだったらそうしてもいいけど」

「あたし耳好きなんだぁー。カステラの」

「耳でなくていいなら用意できるぞ」

「んじゃ一緒に食べよっかっ」

「お茶も用意しないとな」

「わっふーい!」


 喜び一杯体で示して体重に任せて後ろへ仰け反り、そのままくるりと一回転して肩車から床に降り立つ。ぺたりと響いた足音と共にひんやりと足の裏を冷やせば、そのまま新雪に足跡を付けるように廊下を走る。その度に冷たい感触が広がって興奮の熱を少しだけ冷ましてくれた。

 そうして落ち着いた頭で爪先立ちで半回転。男に向き直って笑みを浮かべる。


「あの子、帰ってきたらどんな顔するかな?」

「きっと()くまで笑えますよ」

「だから大魔王様だってばっ!」


 物覚えの悪い部下だなぁ。殺しちゃうぞっ?

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