プロローグ
「皇帝陛下っ!!」
「代理だ」
窓から外を眺めていると、扉を蹴破らんばかりの勢いで断りもなく使用人が転がり込んで来た。
彼は、失踪したセレスタイン帝国皇帝、ゼノ・セレスタインに代わりわたしが皇帝代理の座に就いてから補佐をしてくれている有能な人物。最悪彼に任せておけば国の体裁は保ってくれるだろうと安心して任せられる逸材だ。
少々神経質で面倒臭さはあるが、右腕としては申し分ないだろう。
そんな、いつもは沈着冷静に胃の痛い事を遠慮なく言ってくれる腹心が血相を変え、息を乱して声を上げる。
「さ、先程の揺れは一体……!?」
「……………………」
「陛下…………?」
答えない事に訝しんで、ようやく少しだけ冷静さを取り戻してくれた彼に短く告げる。
「至急各国と連絡を取ってくれ。ベディヴィア・セミスの名前で説明は事足りる」
「……用向きは、どうなされますか?」
「《波旬皇》」
「ぇ…………?」
一瞬何を言われているのか分からないと言う風に惚けた声を出した背後の彼。
そんな彼を叱咤するように言葉を重ねた。
「かの災厄の封印が解けた。セレスタイン帝国は全土と全勢力を以ってこれの対処に当たる」
「……………………っ!! わ、分かりましたっ!!」
ここへきた時とは真逆の雰囲気を纏って彼が部屋を飛び出していく。
気配と足音が遠ざかっても尚、窓の外へ向けた視線を外す事はできなかった。
「今度こそ」
その呟きが、希望を夢見ての事なのか。それとも絶望を想像しての事なのか。
自分でも分からないままに、拳を握る。
そこにいない、誰かの温もりを探すように。
過去を、慈しむように。




