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名無しとカレンな転生デスペラードを  作者: 芝森 蛍
紅玉のティアラは誰が為に
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第一章

「もう大丈夫か……?」

「ここまで来て何も無いなら心配は要らないと思います」


 声に、大きく息を吐き出して脱力する。

 一瞬背骨が溶けた錯覚を起こし、次いで緊張感の解放からようやく末端にまで血が通った気がした。


「…………こんな筈じゃなかったのになぁ……」


 呟きは、曇天の空に吸い込まれる。微かな吐息が白く消えて、未だ視界は白銀の綿を大地に降り注がせていた。




 セレスタイン帝国の帝都バリテにて。いきなり身柄を拘束されたかと思えば、和解の後に一国の主が姿を消した。

 今一度考えてみても中々に壮絶な出来事に空虚な溜め息ばかりが溢れ出す。

 二年前にこの身が召喚された西の大国。相容れず飛び出して、自由を手に戻っては来たが、結局また逃げるように駆け出す事になってしまったその国から。

 それもこれも全部、勝手な理由で粘着してくるかの組織の所為だと理由を丸投げする。

 《甦君門(グニレース)》。魔物蔓延(はび)るコーズミマの世界で、その首魁たる《波旬皇(マクスウェル)》が封印されてからしばらく。その頭目を復活させようと目論む、《共魔(ラプラス)》が各国の内側に入り込み工作を行うその最中に、何の因果か放り込まれ巻き込まれた、ただの名無し。

 ミノ・リレッドノーと言う、由来もふざけた偽名を振り翳すならず者。これまた勝手に押し付けられた《不名(ナラズ)》と言う二つ名は、契約し振るう魔剣、《珂恋(カレン)》のカレン、《絶佳(ゼッカ)》のチカ、《宣草(センソウ)》のシビュラと共に、《渡聖者(セージ)》の肩書きを得て自由と不自由の間で揺蕩(たゆた)う。

 舗装もあまりされていない道の、揺れる馬車の上より。己の過去の大部分を占めるショウ・ノースと、彼と契約を交わした聖人、《謀眦(ボウサイ)》の誡銘(かいめい)を与えられた魔瞳を宿す少女、ユウ。

 そしてバリテを飛び出した際に成り行きから行動を共にする事になったもう一人の《渡聖者》。俺からすれば肩書きの先輩に当たる《裂必(レッピツ)》の誡名(かいめい)を我が物として振るう女性。不思議な縁で《叛紲(ハンセツ)》の()を与えられた魔剣、ヴェリエと戦場を駆ける戦士、メローラ・クウォル。

 敵の正体も未だ曖昧なままの、何かを求めての旅路は、いつの間にか結構な大所帯になって騒がしく景色を彩っていた。


「御者代わるか?」

「頼む」


 幌の中から頭を突き出しての提案に素直に頷いて手綱を渡す。ショウと入れ替わりに荷台に転がり込めば、先ほどまで隣に座っていたユウが珍しく疲れた顔で腰を下ろした。


「…………そろそろお昼の準備しないとですね。何が食べたいですか?」

「何でもいい……」

「そういうの一番困るんです」


 声に覇気は無い。とりあえず腹に詰め込めれば何でもいい。

 生理的な欲求に正直な気持ちを零せば、食料を纏めている一角から固い黒パンを持ってチカが隣に座った。


「……食べる?」

「あぁ」


 黒パンはその原材料にライ麦を使っているものだ。その中でも皮などの不純物が混じったりして仕上がりが黒っぽくなる物をそう呼ぶ。もちろん黒と言っても炭のようなそれではない。コーズミマのそれは四角い形も相俟って、少し焦げたカステラのような見た目だ。

 また、黒パンは固い。元となる粉の精製度が低いこと、小麦や燕麦を殆ど混ぜていないことから、そのままではパンとは名ばかりの乾燥固形物。加えて甘くないどころか酸味が目立ち、よくこれでパンの冠を被れるものだとクレームを入れたくなるほどだ。

 基本はスープに浸したり、粥にして食べるのが一般的。歯応えが欲しければ薄切りにして何か具材をのせればいい。その場合味のついたラスクになるだけだ。

 しかし悪いことばかりでは無いのが、こうして食料として普及している理由。一番は日持ちすることだ。

 元の酸味は、防腐剤代わりになる。柔らかくする為に調理すれば、水を吸って嵩が増える。その為、限りある荷物で旅をする場合、場所をそれほど占有せずしかし腹は膨れそれなりにアレンジの利く黒パンは、味は別として必需品なのだ。

 一応金銭面には余裕があるため贅沢は出来ないことは無いが、そういう物は基本日持ちしない。長ければ一週間以上馬車に揺られる旅で、食事と言う娯楽が最初の数日だけと言うのは後に響くのだ。

 何より俺達のシェフ兼財布の紐を握るユウは、宗教に属する教徒らしく節制の使徒。彼女が身を捧げるユヴェーレン教では、その教義の一つに無益な飽食を戒める教えがあるらしい。

 無神論者で、この世界で二年過ごしても朱には染まりきらなかった俺は、《渡聖者》の肩書きを得るときもユヴェーレン教には入信していない。その為ユウのそれに付き合う道理も無いのだが……森の中で細々と暮らしていた経験がどこかにあるのか、特別なことがない限り贅沢をしようとは思わないのだ。

 お陰で旅の食事は主に黒パンとスープ、そして魚の塩漬けや干し肉などの保存食。時に狩りで得た生肉をありがたく頂戴するという、細々とした物になっている。

 とは言えそればかりでは飽きてしまうので、時折麦で飯盒炊爨(はんごうすいさん)をしたりしている。……今日の夜くらいは少し豪勢にしてもいいだろうか。

 そんな事を考えながら瓶からジェンティと呼ばれる固形の食用油を掬って塗り、黒パンに齧りつく。ジェンティとは、動物の脂や皮を細かく刻み、煮込んで溶かし固めた物だ。バターよりもラードに近い、けれども香辛料の少し利いたパンのお供。ユウはよく野草や山菜を炒める時、少し加えてアクセントに使っているらしい。


「それにしてもいきなりでしたね……」

「いつだって最初はそんなもんだろ。向こうからすればこっちが悪人なんだから」


 論じた所で終わりなど無い。あるのは結果だけ。

 そう自分の中に咀嚼と共に落とし込む。


「それで。次はどこに行くの?」

「…………まずはユークレースだな。一度ゆっくり考えたい」


 カレンの声に答えて狭い荷台にどうにか寝転がる。殆ど未舗装の道を行く所為でがたがたと馬車は揺れ、満足に眠る事はできなかった。




 ユークレースからセレスタインに来る際にも寄った村や町で休息しつつ、雪道に逆らってどうにか司教国の中心地にやってくる。

 前より一層白く分厚い化粧を施した町中を進んで、ここの象徴であるユスティリア大聖堂へと辿り着いた。

 立ち寄った町で連絡をしていた所為か、万全の出迎え態勢で《渡聖者》二人を要する一団が応接室に通される。しばらくすると、当分見る予定のなかった顔と再会を果たした。


「悪いな。こんなに早くに押しかけて」

「いえ。話は聞いておりますので。どうぞお寛ぎください」


 凛とした態度に慈悲と思慮の心を併せ持つ男性。ここ、ユークレース司教国のトップ、教皇の座でユヴェーレン教の司教も勤めるファルシアだ。

 彼とは一月ほど前に別れたばかりだと言うのに……こんな近々の未来、想像してもいなかった。


「それで、具体的なお話を聞かせていただけますか?」

「……とりあえずゆっくりしたい。色々ありすぎて疲れてるんだ。細かい説明はショウに任せる」

「って訳だから、とりあえずミノ達だけでもベッドに放り投げてやってくれないか?」

「わかりました」


 ファルシアとしては一刻も早く詳細な所を聞きたいのだろうが、生憎と軟禁されてから今日まで肉体的にも精神的にも限界が近かったのだ。今は心の底から安全な場所で溶けるように眠りたい。

 そんな要望は意外と素直に通って、恐らくこの国で最高級なのだろう立派な宿泊施設で睡眠を貪ることが出来た。その間にショウが話をしてくれたお陰で、翌日にはようやくまともに腰を落ち着けて話をすることが出来た。




「昨夜はご休息できましたか?」

「……あぁ。気が立ってたみたいでな。気分悪くするようなこと言ってたら悪い」

「ショウ様からお話は伺いました。疲弊してしまうのも無理からぬことでしょう」


 ファルシアが心優しい信徒でよかったと。改めて感謝をしつつ、昨日と同じ部屋で改めて話に腰を入れる。


「……セレスタインには俺が知ってるだけで二人の《共魔》が入り込んでた。そいつらと衝突して、皇帝であるゼノをあいつらに渡す破目になった」

「けど話した通りあいつらに皇帝やオレ達を害する気は無かった。皇帝も、生きてないと人質としての意味がない。だからきっと《甦君門》で不自由な思いはしてるはずだ」

「そうですか……」


 何かが違えばファルシアがそうなっていたかもしれない。それを想像したのか、組んだ掌に微かに力が篭ったのが見えた。


「結局あいつらの目的もはっきりとはしなかった。けど一つ分かったのは、もうあまり時間がないって事だ」


 冷静になった思考で色々考えた。その末の結論。


「ユークレースにセレスタイン。二国に《共魔》が入り込んでたんだ。残りのもう二国にも何かしらの干渉はあって(しか)るべきだろ。その上で、向こうだって馬鹿じゃない。メドラウド、カイウス、ラグネルが捕捉されたと分かれば、悠長に面倒な手段ばかり取り続けるとは思わない」

「アルマンディン王国にベリル連邦。残りの二国にも近日中に何か異変が起きるとお考えなのですね?」

「世界を半分手に入れてどこまでできるかってのも分からないけどな。少なくとも穏便にとはいかないだろうな」

「それにセレスタインは皇帝不在だ。そこに付け込まれるリスクも考えれば…………」

「そちらに関しては既に対策を打たれたようですよ」


 もしかすると既に最終防衛ライン……ユークレースだけが世界の拠り所。そんな考えは、しかしファルシアの言葉に遮られる。


「セレスタイン帝国は先日、新しい皇帝を……対外的には皇帝代理を称しているようですが、当面の象徴としての人物を選出したと聞き及んでおります」

「…………それが《共魔》の可能性は?」

「皆無と断言してもよろしいでしょう」

「貴方がそこまで言うなんて随分と信頼の置ける人物のようね。誰なの?」


 結構な大所帯の所為か、来客用のソファーは既に埋まっている。そのため仕方なく壁に(もた)れて話を聞いていたメローラが興味深そうに尋ねた。

 ファルシアが答える。そしてその響きに、思わず息を呑まざるを得なかった。


「《魔祓軍(サクラメント)》の唯一の生き残り。ベディヴィア・セミス様です」

「っ……!」

「へぇ。それはまた」


 ベディヴィア・セミス。その響きに、記憶の蓋が音を立てて開く。

 メローラが感心したように納得の音を漏らした。次いでカレンが契約を介してかこちらに気付き、瞳に疑問符を浮かべる。


「ミノ? どうかしたの?」

「あの爺さん……いや、それよりも。《魔祓軍》の生き残りってどういうことだ? そいつらは全員《波旬皇》の封印後行方知れずじゃなかったのか?」


 降って湧いた疑問に順番をつけて、最も気になる疑問から片付けに掛かる。悪いがカレンの問いは後回しだ。


「確かに前にお話した時はそう口にしました。ですが間違いを言葉にした覚えはわたくしにもありません」

「屁理屈はいい」

「あの時わたくしは、彼らが最終決戦に赴いたのを見た者はおりますが、帰ってきたところを誰も目撃はしていないと、そう申し上げた記憶がございます。ベディヴィア様は、《魔祓軍》に属してはおりましたが、《波旬皇》の封印の為の行軍には、参加されていないのです」

「…………それは……」

「あの折、ベディヴィア様は一つ前の戦いで負傷をしており、戦うことが難しいと判断され、一人残られたのです」


 確かにそれならばファルシアの言葉に偽りは無い。が、だったらどうしてその例外をその時口にはしなかったのか。そう考えが至るのと同時、彼が言葉を続ける。


「ベディヴィア様はその後、自責と失意に苛まれて姿を消されました。余程の事態に陥らない限り、外との干渉は一切行わないという約束まで交わされて。噂ではセレスタイン帝国のどこかで隠遁生活をなされていると伺っておりましたが……この度ゼノ皇帝陛下の失踪と言う緊急事態にベディヴィア様の協力を仰いだと、恐らくはそういった事情でしょう」


 そんな重要な事をどうして黙っていたのか。胸の内に湧きあがる感情に、それからカレンの視線に気付いて小さく息を吐き出す。


「……俺は、セレスタインに召喚されて、逃げ出した。その時に森の中で爺さんに拾われた。それから二年をそいつの所で過ごした。炊事、洗濯、薪割り、食料調達。そんな雑務と、後は半ば無理やり叩き込まれた中途半端な剣術。結局自分の自由に憧れてまたそこを飛び出したけどな。……その爺さんの名前が、ベディヴィアだ」

「えっ!? ……じゃあミノが私に会う前まで…………」

「あぁ。あの爺さんに世話になってた。その時は《魔祓軍》だとか当然知らなかったけどな。酷い巡り合わせもあったもんだな」


 いきなりのことでまだ半分ほど飲み込めていないが、どうやらあの人物が過去の英雄の一人だったらしい。……にしては随分自然と仲良くしていた気もするが。


「けど、それならまぁ一応は安心も出来るか。……疑えばきりは無いが、誰かが(かた)ってる可能性は?」

「わたくしが得た情報に寄れば、ゼノ皇帝陛下が残された一筆によって後任の座に就いたとか。そこに正当性を証明するやり取りがあったと聞いておりますよ」


 ファルシアの言葉には何らかの裏打ちがある様子。国の存亡に何らかの対処がなされているというのであればそれに越したことは無い。きっとユークレースにもいざという時の用意があるからこその言葉に滲む信憑性だろう。


「わたくし達はこれから……いえ、既に始まっていますがセレスタイン帝国の援助を行う事になります。恐らくは無いでしょうが、他国がこの気に乗じてという可能性も考えられない訳ではないので。今ある世界の均衡を維持するためにも……表面化して来ている《甦君門》に対抗するためにも、世界の柱の一つが失われることは避けなければなりません」


 ユークレースとしては必要な行動だ。しかしその声に彼自身の物は含まれていない。そう気付くのと同時、ファルシアが俺とメローラに視線を向けて告げる。


「その為、顕在化している問題にも(かかわ)らず《甦君門》の動向に割けられる対処が限られます。そこで《渡聖者》であるお二方に、正式にお願いをしたいのです」

「……《渡聖者》として、世界の均衡を守って欲しい、か」

「具体的にはどうすればいいの?」

「ここも、そしてセレスタイン帝国も《共魔》の存在により問題が起きました。だからこそ彼らは短期間に同じ場所へ手を伸ばすとは考え辛いのです。警戒もしていますからね。ですのでお二方達にはベリル連邦、もしくはアルマンディン王国に向かって《甦君門》の(くわだ)てを阻止してきて欲しいのです」


 これは《渡聖者》への正式な依頼。彼の言う通り、世界の尖兵としてこれ以上の被害を出さないように動いて欲しいと言う切なる願いだ。きっと他の三国も考えている事は同じだろう。

 実際に行動するのは俺たち。その方針を固める為にメローラに尋ねる。


「手分けした方がいいか?」

「相手の数が分からない以上それはどうかしらね。セレスタインの時みたいに一箇所に複数の《共魔》が居た場合、手数が足りなくなる恐れもある」

「けど一方に固まって動けばもう一方の対処が遅れるだろ?」

「もちろん分かってるわ。だから今別のいい方法が無いか考えてるのだけど……」


 言って口を閉ざす彼女。脳筋ではあるが、だからこそ世界を大きな戦場と見て色々考えているのだろう。会話が物騒に聞こえるのはその所為だ。

 しかしメローラが言うのもまた事実。何かいい案は無いかと、ファルシアも一緒になって考える。すると口を開いたのはショウだった。


「……一応オレはベリルに籍があるからな。それを使えば警告くらいなら聞き入れてもらえる筈だ。言い方は悪いがそれで先送りには出来ないか?」

「どこまで効力見込めるんだ?」

「少なくとも無視はされない筈だ。曲がりなりにもベリルの転生者だからな」

「わたしが足枷になったりしませんか?」


 口を挟んだのはユウ。彼女は恐る恐ると言った様子で続ける。


「今はユークレースに認めてもらって立場も保障されていますが、元々わたしはセレスタインの人間です。そんなわたしがベリルの転生者であるショウさんと契約を交わしていると言うのは、問題にはなりませんか?」


 まぁ過去を引っ張り出してきて国同士でいちゃもんを付け合う材料にはなるかもしれない。もしそうなればショウの進言にも信憑性はなくなってしまう。ユウはそれを危惧しているのだ。が、それはネガティブに考えた場合の話。


「それこそ間にユークレース挟めばいいだろ。それにだ、見方を変えれば二つの国を結ぶ存在にもなれるはずだ。ゼノが居なくなってベディヴィアが代理になった今なら、関係改善に打って出るいい機会じゃないのか? 《甦君門》って言う敵に対抗するためにもな」

「…………いつも最悪ばっかり考えてるミノがそんなこと言うとは思わなかった」

「うるせぇ。可能性の話をしただけだ」


 カレンに指摘されて吐き捨てる。個人的には国同士のいざこざなんて二の次で。ユウにはこの面子の常識人枠として出来る限り前向きでいて欲しいのだ。そうでないと俺がその役目をする破目になるからな。そんなの似合わないだろ。


「……そう、ですね。すみません。邪魔をするような事を言って」

「謝る事でもないけどな」


 ユウは俺とよく似ているから。だからこそ俺とは真逆のところにいて欲しい。……なんて、どこまでも身勝手な理由だけれども。


「ならベリルに関してはその方法でいくとして。そうなるとあたし達はアルマンディンに行けばいいの?」

「そうなるな。どっちにしろルチル山脈越えないとだから面倒ではあるんだが……」


 未来の愚痴を零しつつ方針を固める。

 アルマンディン王国。このコーズミマに来て、未だ足を踏み入れたことのない土地。最後の異国は、一体どんな文化を築いているのか。そこに関しては素直に興味を湧かせつつファルシアに確認する。


「ってことで行き先は決まったが、これでいいか?」

「元々皆様の自由を縛るお願いではありませんので、決断にわたくしが是非を唱える意義はありません。非力な身でそのお力に頼らざるを得ない事をお許しください」

「……宗教の美徳は俺にはよく分からないんだが、これまでのことは感謝はしてるんだ。だから俺たちは俺たちに出来ることを。あんたはあんたに出来る事をする。それだけだろ?」

「慈悲深き心とお言葉に感謝を致します」


 宗教が絡むと相容れない部分はあるけれども。胸の内にある感情はきっと同じだと思いながら手を差し出す。

 一瞬呆けたファルシアだったが、その意味に気付いて笑みを浮かべると力強く握り返してくれた。


「皆様の行く末に神様のご加護があらん事を」


 有り触れた文言と共に。神聖なる祈りが期待となって、世界に刻む新たなる一歩へと変わる。




 それから二日でアルマンディンへ向けての準備を終えて。ショウがベリル連邦宛に書簡を(したた)めた後、世話になったユークレースを出発した。

 セレスタインを出発してから殆ど休息無く歩き詰めだった二頭の馬とは一旦お別れ。新しい子達に幌馬車を牽いて貰ってコーズミマの大地を南東へ向けて進み始める。

 冬も最盛期と言う時期の移動と言う事もあって、時折降雪に埋もれた道を魔術で掘り返しながら道行きを急ぐ。事はともすれば一刻を争う事態。無駄な寄り道はせず、最低限の補給でアルマンディン王国の王都、ガルネットへと向かう。

 ……とは言っても幾ら急いだ所で移動時間が急激に短縮されるわけでもなく。魔術で長距離ワープが出来ればいいのにと無理難題を零したら、チカとシビュラに無言で見つめられた。あっちの世界でだってそんな技術まだ到達し得ない未来。冗談を本気にしないでくれ。

 急いでも埋まりはしない現実的な時間。失っては元も子もない馬と言う足に無理だけはさせないようにしつつ、気持ちばかりが逸りながら暇を潰す。

 そんな道中。ようやくルチル山脈を越えてアルマンディン王国領に入ると、セレスタインとそんなに代わらない風景を眺めながら手綱を握る。すると幌の中で夕食の準備を手伝っていたカレンがいつものように飽きて話題を提供してくれた。


「ねぇミノー」

「どうした?」

「今更な事訊いてもいい?」


 また不穏な話題の切り出し方しやがって。その流れで俺に得があった事がこれまで無かった気がするんだが……。


「……なんだ?」

「《甦君門》とは徹底抗戦って事でいいんだよね?」

「………………」


 それはきっと彼女の中でずっと燻っていた疑問。疑問の種が蒔かれたのは、恐らくショウの一件のときだろうか。

 彼女は正義感の塊だ。だからこそ思いの刃は純粋が故に鋭くもなり、鈍くもなる。

 これは返答如何によってはカレンの今後を左右しかねない疑問。それを飾る事無くいつも通りのまま口に出来ると言うのは最早尊敬さえ出来る強心臓だ。……魔剣に心臓があるのかは知らないが。

 しかも当人がそれに余り気付いてない様子なのが一番の問題だ。もう少し慎重になったらどうなのか。

 大きな溜息を一つ。それから彼女を隣に呼ぶ。何故か嬉しそうに腰を下ろしたカレンに、まずは確認から。


「……その質問はどういう意図あってのものだ?」

「どうって……ミノがこれからどうするのか知りたいから。ほら、ミノの剣になるって言ったでしょ?」


 契約者である俺に意味を求めるのは魔剣としての本能なのだろうか。責任転嫁をされているようで余りいい気はしないのだが……。

 とは言え無視し続けるわけにもいかないかと。しっかりと考えた上で言葉にする。


「………………俺はそもそも、自由があればそれでいいんだよ。自分で選んで、生きる。前の俺が出来なかった事を、この世界でしたい。それは二年前からずっと変わってない」

「うん」

「もちろん一人で生きていくなんて無理ってのは百も承知だ。だから必要最低限以外、自分の価値と未来だけは自分で決める。そう考えてこれまでやってきた」


 《渡聖者》になる時にカレンにも指摘された。俺は俺の為に言い訳ばかりを探してきた。免罪符と建前を鎧のように着飾って、それは仕方のない事だと諦めのように姑息な事ばかりをしてきた。


「けどその自由が、いつの間にか色んな物に雁字搦めになって俺の手を離れかけてる。だから手に入れかけたそれを今度こそ俺の物にする為に、目の前の面倒を斬り捨てる。そう決めただけだ」

「それが《甦君門》?」

「今のところ一番の候補だな」

「じゃあ《波旬皇》の復活とか《共魔》の国の乗っ取りとかはどうでもいいの?」


 段々と熱を帯び始めるカレンの声。幌の中の意識もこちらに傾いている事に気がつけば、逃げ道が潰されている事に気がついた。


「……無視は出来ないだろ。《渡聖者》の肩書きはコーズミマが機能してないと効力を持たないからな。それにどうにかして恩を売れれば今後の自由も保障される。敵に回すよりはよっぽど楽な生き方だ。……その為に国救えってのは難題に聞こえるけどな」

「じゃあさ、《甦君門》はどうなの? あの人達の目的って私達なんだよね? でも向こうは無駄な戦いしたくなかったみたいだし、話し合いで解決出来るならそれが一番じゃないの?」

「そこに自由があるならな」


 セレスタインで俺が事を構えた一番の理由。カイウスと話をして感じた一つの答え。


「お前は《甦君門》にいたことがあるからその内情を知ってるのかも知れないがな、少なくとも俺にとっては手の内の分からない奇妙な集団だ。理由を話せば一考の余地があるって言ってんのに、それを明かさずに手を貸してくれなんて、そんな馬鹿な話に頷けるか? 同じ裏切りの可能性があるなら、傭兵への依頼の方がまた詳細な説明があって安心出来るだろ」

「それはそうだけど……」

「それともカレンはあいつらの言い分に全面的に賛成なのか? 近付いて良心に訴えて、果てには質問に答えず逃げたラグネルを理由も無く信用できるのか?」

「それは…………!」


 この際だからはっきりさせておこうと。あれからずっと避けてきた話題を持ち出して突きつける。彼女には酷な話かもしれないが、これは彼女は向き合わなければならない問題だ。


「分かってると思うが、あいつらは《共魔》だ。お前やチカを利用して《波旬皇》の復活を(たくら)んでた奴らだ。擁護するって言うならその思想を肯定するって事になるんだが……どうなんだ?」

「私、は…………」


 言葉に詰まるカレンを見て少し冷静になる。

 答えを急ぎすぎたか。俺はただ、カレンにこそ気持ちの整理をつけて欲しいのだ。


「後な、忘れてるようだから言っておくが、俺はお前に雇われてるんだからな? もちろん今更お前に責任丸投げするつもりもないが……自分の意思くらい一つに絞っておけ。じゃないといざという時に足を掬われるぞ」

「分かってるよ…………」


 これを丸投げと言うならそうなのかもしれないが。しかし彼女自身が答えを出すべきなのも事実。

 幾ら契約者だからってその考えや決断までをも俺が決めていい理由にはならない。

 カレンは……チカだって、そしてシビュラも。誰だって、道具などでは無いのだから。




 王都に近付くにつれて少しだけ文化圏の色が変わる。

 冬真っ只中のお陰か景色は白色に染まりがちだが、建築様式や生活に滲む価値観のようなものがこれまでの三国とも違う。

 その変化に、ようやくアルマンディンに来たのだと実感が湧いてきたころ、物資運送の為に雪掻きを施された街道をガルネットに向けて進む。早ければ今日の夕方には到着出来るだろうと言う見込み。やるべき事は山積みだが、まずは宿屋を探して休憩をしようかと。

 アルマンディンの食事にも期待を見出しつつ段々と警戒の度合いを高めていく。

 ファルシアと協議した結果、アルマンディンにも《共魔》が入り込んでいる可能性は高いと考えた。セレスタインとユークレースの事もきっと知っているだろうから、ガルネットに入る前に向こうから仕掛けてくることも懸念して気を張っておく。

 具体的にはチカの大規模な魔に関する索敵と、カレンの剣に対する知覚。そしてシビュラとの契約で得た俺の第六感のようなものの訓練として、集中して辺りに気を配っている。

 これまでも経験したが、感知の網を掻い潜っての急襲と言う物は存在する。たった一手で全てが覆される可能性は大いに存在する。そんな最悪を想定しながらの道中は気疲れも半端ない。

 流石にそろそろ一回休憩だろうかと。手綱を握るショウに声を掛けようとした。

 その刹那、荷台の後部に腰掛けていたカレンが脈絡無く俺の名前を呼んだ。


「ミノっ」

「後ろか?」

「ううん、この先っ。少し離れてる別の道。けど戦いが起きてる」

「チカ、魔術は?」

「……まだ範囲外」


 索敵範囲はカレンが一番広い。次いでチカ、俺だ。


「方角は?」

「あっち。この先の道を左に逸れたところ」

「見つけた。魔術の反応は無いよ」

「ってことは野党か」


 旅をしていれば魔物の他に人と言う脅威も存在する。

 四つの大国が領土を主張するコーズミマの世界には沢山の街や村があるが、それに属さず自由を信条に行きずりを襲うその日暮らしな者達がいるのだ。

 そう言った無法者達から身を守る為に、町から町への道中傭兵を雇ったりする。

 しかし街道沿いのような往来のそれなりに多いところではその襲来も殆ど見ない。と言うのも、治安維持の為に警邏している騎士などがいるからだ。だからこうした道は比較的安全に行き来が出来るのだが……冬と言う時期も相俟って野党たちも生きる為にリスクを犯して姿を現したと言う感じだろうか。

 そこに偶然通り掛かった者達が襲われていると……話はそんなところに違いない。

 実際ユークレースを出発してからも二度同じ事があった。一回は直接狙われて、当然のように返り討ちにしてやった。


「…………で?」

「もちろん助けるよ! 罪のない人が襲われてるんだから! それが《渡聖者》の役目でしょ?」

「助けて、食料分け与えて、護衛して。まさに正義感の塊だな」


 最早何を言った所でカレンのそれは揺るぎようが無いと諦めて。しかし今回は少しだけ利もあるかと考える。

 今のところ網には引っかかっていないが、《共魔》の目があるかもしれない。もし見られているのならば、《渡聖者》二人の存在を宣伝する事で圧力になるだろう。二国の乗っ取りが失敗している現状、残り二つを手に入れても仕方がないと判断されれば、大きな諍いなく手を引かせることだって出来るかもしれない。

 存在の誇示なんて本来性には合わないのだが……これまでにないアプローチとしてはいいかもしれない。もし効果的なら《渡聖者》の肩書きも少しは役立つかもしれないしな。


「誰が行くよ」

「気晴らしだ。俺が行く」

「それじゃああたしは静観してようかしら」


 ショウの声に答えれば、直ぐ隣を馬に乗って進むメローラが楽しそうに零す。

 ここまでの道中でも彼女には小手先の技術を学んだ。野党相手に魔剣の力を使う必要も感じない。得た物を活用して、自力で結果を手に入れてみるとしよう。


「最初は俺一人でいく。数は?」

「…………三人だと思う。でも、これ……」

「どうした?」

「……うん。ショウさん、急いで! あんまり時間ないかも」

「んなこと言われてもな……二頭牽きで急げってのは随分な要求だぞ?」


 確かに。荷台に荷物まで載せているのだ。その重さで出せる速度には限りがある。無茶をさせれば馬が怪我をするかもしれない。足がなくなるのだけは避けないければ。

 強化の魔術で自分で走った方が少しは速いか……?


「ならこの子使う?」


 考えていると提案したのはメローラ。彼女は馬車の隣に並んで告げる。


「この子結構走れるわよ」

「貸してくれ」

「乗れる?」

「大丈夫だ」


 乗馬はユウに教えてもらっている。とは言え本格的に走らせるのは初めてだが……。あぁ、そうだ。普通に乗るより早い走り方があるんだったか。たしか…………。

 メローラから手綱を預かり乗馬……をする前に鐙のベルトの長さを短く調節。次いで跨り、足をかけ、鞍から腰を浮かせ前傾。膝で体を支えるようにしながら短く手綱を握る。


「見た事無い乗り方ね。異世界の乗馬?」

「モンキー乗りって言ってな。競馬の騎手が使う姿勢だ……!」


 言うが早いか、メローラの愛馬を借りて街道を疾駆する。

 体重を鞍から馬に預ける天神乗りと違い、馬に対する負担が軽くなる。結果、普通に腰を落ち着けて乗るより早く走れるのだ。

 が、見様見真似ながら自分でやってみて分かった。前傾姿勢で腰が浮いて膝でバランスをとる分、体勢が崩れ易い。これで1000メートル以上走ったりするジョッキーの体幹を尊敬する。

 けれども四の五の言っていられない。自分で切った啖呵だと。頬を冷たい風が撫でるのを必死に我慢しながらどうにか分かれ道を左へ。するとしばらくして横転した馬車と人影が幾つか見えた。

 それとほぼ同時、敵に応戦していたらしい男性が背中からショートソードで串刺しにされたのが見えた。引き抜く刃に鮮血が纏わりつき、体を離れるのと同時に男が地面に倒れる。溢れる命が服を染め、大地に染み込んで行くのを目の当たりにして奥歯を噛み締める。

 間に合わなかったか……。

 そう悔いた直後、横転した馬車の客車らしき箱の背面が開き、中から少女が這い出してきたのが見えた。

 年の頃は俺と同じくらいの、桜色のロングヘアの少女。分厚いコートに身を包みながらもどこか気品を感じさせる装いと共に、こちらを見つめるシルバーの双眸と視線が交わった。

 途端、絶望でも覗き込んだように足を止めた少女がそのまま大地に膝を折る。

 次いでその背に向けて剣を振り被った男の姿。流石にそれは見過ごせないと駆け寄り、振り下ろされた刃を作り出した剣でぎりぎり弾いた。

 響いた金属音にか、頭を抱えて蹲った少女。そんな彼女を庇うように馬から降り、構え直す。


「無事か? 怪我は」

「…………へ……?」


 一拍の間の後に返った気の抜けるような声。思わず振り返って確認する。


「……命の危機なんだろ?」

「え……あ、はいっ! 助けてください!」


 これで勘違いだったらどうしようかと思ったが、恥を掻かずに済んでよかった。

 改めて前を向き、じりじりと距離を詰めてくる男達を睨む。

 数は3。手にした得物はどれも量産品のショートソード。第六感を刺すような威圧感はない。ただの剣だろう。やはり野党か。

 しかし一対多は面倒だと。数で押し潰される前に対抗策を行使する。

 作り出した剣の星。一瞬待機させた切っ先の暴力に、男たちが怯む。

 人の身で魔術を使えるのは魔剣持ちだけ。それが世界の常識だ。

 これで退いてくれれば……とも思ったが、判断力の欠如に油を注いでしまったらしい。統率など投げ捨てた己が身を省みない突撃が敢行される。

 退かないのが悪いと責任を押し付けて。左右の二人には短剣の投射で足や腕を狙い無力化。目の前の男の一撃を受け止め、手首を捻って跳ね上げるとがら空きになった胴へ蹴りを放つ。

 冷静さを欠いていたお陰か、こんな小手先の技術で状況の打開が出来てしまった。本来ならばもう少し苦戦したはずなんだがな。烏合の衆ってのはかわいそうにさえ思えてくる。

 仰向けに倒れた男の手首を踏んで、首の直ぐ横に剣を突き立てる。


「ひっ!?」

「運が悪かったな。これに懲りたらもう少し全うな生き方を選ぶ事だ」

「わ、分かった……! だから見逃してくれ! 死にたくないっ!」


 大の大人が脂汗を掻いて必死の命乞い。ここまで鬼気迫ると一周回って尊敬する。

 が、慈善事業で人助けを行ったわけではないと事実を突きつける。

 左手の親指と人差し指を立てて銃の形を作り、指先に留めた魔力を一条の光として撃ち放つ。吸い込まれるように額を貫いた一撃は、昏倒付与の魔力レーザー。一瞬びくりと震えた体が、次いで脱力し意識を失った。

 それを見ていたらしい残りの二人が這々(ほうほう)の(てい)で武器を投げ出しながら遅い逃走を試みる。一瞬どうしようかと迷った刹那、胸の内の魔力が微かに引き絞られるのと同時、背後から鎖が空を駆け男共をぐるぐる巻きにして拘束した。

 振り返ってそこにいたのはようやく到着したカレン達。御者台に立つシビュラが両手を掲げてこちらを見据えていた。


「こりゃまた結構な惨状ねぇ」

「もう少し早ければそこのも助けられたんだがな……」


 既に息絶えた男性を一瞥して零す。

 可能ならばその命も救いたかったが、結果は結果。仕方ない。


「んで? 生き残りはそこのお嬢さんだけ?」


 メローラの声にびくりと震えた少女の肩。沢山の視線が突き刺さった事に、逃げ場を探すように辺りを見回す。


「野党と一緒にしてくれるなよ。ただの旅人だ。立てるか?」

「あ、はい…………」


 剣を霧散させ掌を差し出せば、少しだけそれを見つめた彼女が警戒するように取って立ち上がる。


「偶然通り掛かったんだ。あんたしか助けられなくて悪い」

「いえ……ありがとうございます」


 礼儀正しく腰を折る少女。改めて彼女を見る。

 温かそうなコートは、しかしよく見れば土と血で汚れている。が、怪我をしている様子は無い。

 ふと気付いて横転した馬車を見れば、窓硝子に内側から血飛沫が散っていた。恐らく中にいた誰かがやられて……それが一緒にいた彼女にまで及んだのだろう。


「何があったか訊いてもいいか?」

「……いきなりの事でしたので。覚えているのは、いきなり馬車が止まって……そうしたら御者の男が客車に転がり込んできて…………」

「服の血はその時のか?」


 辛い事を思い出させたか、顔を青白くしながらこくりと頷く少女。

 きっと目の前で誰かが刺されるのを目の当たりにしてしまったのだろう。馬車が止まってからと言う事は、その御者込みで計画されていた襲撃か。


「一応訊くが、他に生き残りは?」


 今度は首を横に。助かったのは彼女だけ。幸運なのか、不幸なのか。少女にとっては酷な体験だったに違いない。


「ミノ」

「あぁ。……目的地は?」

「王都、ガルネットです」

「俺達も一緒だ。あんたの馬車はあの通りだしな。一緒に来るか?」

「いいん、ですか……?」

「こうして関わった縁だ。なにより、ここで見捨てたら文句を言う奴が馬鹿みたいにいるからな。礼なら後でいい」

「もー、素直じゃないなぁ」


 言いつつ、カレンが幌の中から持ってきた大きいタオルを少女の肩に掛ける。


「放っておけないよ。ね?」

「ありがとう、ございます……」


 安堵からか、ようやく現実味が増してきたらしい。その反動で、握る拳が小刻みに震えている事に気がついた。


「ユウ、温かい飲み物作れるか?」

「はい」

「こんな所にいても気が滅入るだけだ。とりあえず俺達の馬車に乗って休め」

「はい、ありが────あ」


 再び頭を下げかけた少女。しかし途中で何かに気付いた様子の彼女は、馬車の方へと駆けていく。

 一体何を……そう思いつつ後を追えば、彼女は後部扉の前で立ち尽くしていた。


「どうした……?」

「大切な物が中に……」

「…………後ろ向いてろ」


 流石にトラウマの扉を開ける勇気までは出なかったか。仕方なく彼女の代わりに中を物色する。

 車内には(おびただ)しい血痕。そして首を掻き切られている初老の男性の姿と、歳若い男が一人倒れていた。若い方が御者だった人物か。考えるに、御者が老爺の喉を裂いて、その後背後から刺されたあの男性がこの狭い中で襲って来た御者を切り伏せたのだろう。彼は護衛か何かだったに違いない。

 老爺と少女、どちらが彼の雇い主だったのかは分からないが、彼の奮戦のお陰で一人の命が助かったのだ。その勇姿は、確かに俺の記憶の中に。

 せめてもの手向けに開いたままの目を閉じて手を合わせ、辺りを探す。すると八割方血に塗れた巾着のようなものを見つけて少女に差し出す。


「これか?」

「それです。ありがとうございます」


 一体何が入っているのか……。気にはなったが、無粋な事とは訊かず彼女を馬車へ。カレン達に任せて、メローラには巡回しているだろう騎士を呼びに行ってもらう。その間、ショウと二人で野党たちを近くの木に縛りつけ、軽く掃除をしながら愚痴を零す。


「しっかしなんだってこんな派手な襲撃したんだろうな」

「物取りにしては手口がおかしいしな」


 自分で口にして納得する。野党が食料を得る為に襲ったのだとすれば、女まで殺そうとするのはおかしい。それに御者がグルと言うのも引っかかる点だ。一体何の目的があって…………。


「……ま、考えても俺たちには関係ないことだ。野党だけ引き渡したら直ぐに出発するぞ」

「あいよっ」


 せめてもの供養になればと、老爺と勇敢なる騎士を並べて寝かせ、花の代わりにメローラが隠していた酒瓶を供える。

 まともな弔いをしてやれなくて悪いと思いながら手を合わせて、それから気付いた。幌の中を覗き、ユウを呼ぶ。


「ユウ」

「どうかしましたか?」

「簡易的なのでいい。ユヴェーレン教なりの弔いってできるか?」

「……本当に簡単なものですけど。分かりました」


 死者の尊厳は世界が違っても同じかと、少しだけ安堵しながら。彼女の指示に従って必要な物を集め、形だけでもと弔意を捧げる。


「ありがとな」

「いえ。来世はきっと恵まれるでしょうから」

「そこは輪廻転生なのか」


 死生観や死した後の話は宗教によって異なる。ユウ曰く、善に献身した魂は(いた)む気持ちによって救済され、来世として新たな命を授かるというのがユヴェーレン教の教えらしい。

 相変わらず俺の知る様々な宗教がミックスされている事だと一人ごちながら。やがてやってきた騎士に事の次第を説明し後を任せると、少女の様子を見に行く。

 すると彼女は、毛布に包まりながら両手で湯気の昇るカップを挟んで俯いていた。


「少しは落ち着いたか?」

「……はい。ありがとうございます」


 声にこちらを向いた少女が儚い笑みを浮かべる。どうやら笑顔を作るだけの余裕は取り戻したようだ。一先ず安心か。


「馬車出していい?」

「頼む」


 御者をチカに任せ、ゆっくりと動き出した馬車に揺られる。段々と後方に遠ざかっていく現場を物憂げに見つめていた少女は、やがて木々に隠れて見えなくなると口を開いた。


「生きて、るんですね。わたし……」

「あんな事があったばかりだからな。実感が湧かないのは仕方ないだろ」

「皆さんは……落ち着いてます。こういった経験が?」

「旅をしてると少なからずな」

「旅人、ですか…………」


 まるで手の届かない何かに憧れるように。小さな飴玉を大事に転がすが如く零した少女。次いで彼女の名前もそれから自分も名乗っていなかったと思い出す。


「ミノ・リレッドノーだ。ミノでいい」

「ミノ、さん……。わたしはレ……………………え?」


 安堵したように名を名乗ろうとした少女。しかし人名にしては余りにも不自然な所で途切れた気がする声が、途中で驚きの色と共に疑問に変わる。……まさか異世界であるコーズミマには単音の人名もあるのだろうか?

 そんな疑問を新たに増やしていると、改めて俺を見つめた少女が何かを思い出したかのように幌の外へ顔を突き出し、隣を馬の背に乗って一緒に歩くセレスタインからの同行者、メローラを見てこちらへ向き直る。そして────


「ミノ・リレッドノー……って、もしかして。この前新しく《渡聖者》になった……?」

「なんだ。もうアルマンディンにまで広まってんのか」

「そりゃ《渡聖者》だもの。世界の尖兵たるあたし達が各国に周知されるのは当然でしょう? しかも肩書きを得て早々、セレスタインで騒動の中心にいたともなれば注目もされるでしょう、普通」

「うるせぇ、あれは不可抗力だろうがっ」


 メローラの声に一応反論しておく。《甦君門》と事を構えるとある程度方針を固めた今、あれは(しか)るべき結果だったと認めているが、やはり偶然も潜んでいた接触だった。そもそも最初からその気なら《共魔》が複数入り込んでる可能性だって考慮してしかるべきだったんだから……。それをしていなかったという事は、やはりあれは望んだ衝突ではなかったというほか無い。

 ……なんて、色々理由を並べ立ててみたが。それ以上に気になる視線がずっと突き刺さったままな事にようやく向き直る。


「……で? 俺がミノで、《渡聖者》だったら何か問題か?」

「い、え…………。素直に驚いただけです。《裂必》のメローラ様と行動を共にしていると言うのは存じていましたが、まさかこんな所でお会いするとは思っていなかったので…………」


 途端、随分と畏まった言葉遣いに変化した彼女。それが、どこか気品ある雰囲気と相俟って様になるとさえ思いながら、次いで過ぎった可能性に先回りする。


「……もし誤解なら訂正しておくが、今回の事で金品の要求をするつもりは無いからな? これは依頼とは別口の、ただの人助けだ」

『ミノの口から人助けなんて聞く日が来るとは思わなかったよ……』


 うるせぇ。そっちの方が《渡聖者》らしいだろうが。


「あ、いえ。そうではなくて……。ただなんと言うか……一度に色々な事が起き過ぎて混乱していると言いますか……」

「ま、無理も無いか。とりあえず俺達の方から害を加えるつもりはない。しっかり気持ちの整理つけて落ち着いてくれ」

「ありがとうございます。…………あ、遅くなってすみません。わたし、ノーラといいます」

「私はカレンだよっ。そっちで手綱を握ってるのがチカで────」


 会話に入る機会を伺っていたらしいカレンが賑やかに首を突っ込む。とりあえずは彼女に任せておけば、少なくとも先程の悲惨な経験を思い出さなくていいだろうかと思いながら御者をチカと交代する。

 すると隣を進むメローラが距離と詰めて悪戯に囁いてきた。


「可愛い子よね。どうなの……?」

「何の話だ」


 《渡聖者》ってもっと厳格な物かと思ってたんだがな。下世話と言うかなんと言うか……。つーか脳筋の癖にそういう話題には興味あるのな。少し意外だ。


「メローラ、念の為この先の安全確認してきてくれるか?」

「はいはいっと。もう一仕事頑張ってね、メイル」


 気負わないいつも通りで愛馬を駆るメローラ。その後姿を見つめて思う。

 その馬、名前あったのかよ。




 それからガルネットまでの道中。一度低位の魔物数匹と遭遇したが、難なく討滅して。ノーラを助ける為に街道から外れていた道が、再び大きな舗装されたそれへと合流し戻る。

 王都が近くなったお陰か一際賑やかになった道行きをゆったりと進む。と言うのも、荷台でノーラが横になって寝息を立てているのだ。

 恐らくあの現場の緊張が解けて精神的な疲労からくる物。幾ら急いでいると言っても助けた命に無理を強いるわけにもいかない為に、少しだけ速度を落としているのだ。

 それに周りには王都に向かうほかの旅人や商人の姿が結構ある。舗装されている街道とは言え、馬車の大きさでは横に三台が限界の広さ。ほかの馬車や旅人を押し退けて顰蹙(ひんしゅく)を買うというのは、《渡聖者》の面子的にも避けるべき案件だ。

 そもそも他人の迷惑を進んでやりたいとは思わないしな。こういう時の流れに逆らわないモラルは、生まれ育った環境と血故の物だろうか。

 そんな事を考えながら安全に気を配りつつ流れに乗って馬車を進ませていると、賑やかになった辺りの音に目が覚めたらしいノーラが寝惚け眼を擦りながら幌の中から顔を覗かせた。


「……もう着いたんですね」

「少しは楽になったか?」

「はい。こんなに気兼ねなく寝たのはいつ振りかと言うくらいに…………」


 一体どんな生活をしてきたのやら。思ったが、深入りは身を滅ぼすだけだと気付いて知らない振りでスルー。

 すると御者台が気になったのか、まじまじと見つめた彼女がぽつりと零す。


「御者って、難しいですか?」

「やってみるか?」

「いいんですか?」

「ほら」


 瞳には歳相応な好奇心の色。途端頬を色付かせて楽しげに手綱を握った彼女が緊張した面持ちで息を呑む。

 ユウに教授され、チカに教えたそれを説明する。言葉(ごと)に真剣にこくこくと頷くノーラが、やがて一通りの事を教わるとどこか慣れた様子で手綱を捌き始めた。


「……上手だな」

「乗馬は(たしな)んでいるので。少し似ているのでそのお陰でしょうか」


 ただ器用なだけでは無いらしい。

 出会った時にも思ったが、彼女にはどこか気品がある。言動は折り目正しく落ち着いていて、かと思えば芯の強さも窺える。

 汚れた服から簡素なそれに着替えた今の姿もどこか様になっていて、今更ながらにノーラが顔立ちの整った美少女だという事を気付かされた。

 直ぐ傍で見れば、空から降り注ぐ冬の日差しを受けて柔らかく輝く桃色のストレートロング。そんな彼女がこれまでの旅路で少し汚れた御者台に座っているという歪な光景に少しだけ和む。

 だからこそ、一体どうして彼女があの凄惨な現場にいたのか、その嵌りきらない不可思議なピースに疑問ばかりが募る。

 とは言えそんな彼女ともあと少しでお別れかと。間近に迫ったガルネットを囲む壁を見つめて尋ねる。


「それで。どこまで送ればいいんだ?」

「外壁を抜けたらそこで構いません。民間の相乗り馬車が出ているはずなのでそれを使いますから」

「そうか」


 さすがは王都。広い土地を行き来する交通機関も整備させているらしい。

 町中をゆったりと観光するならばそういうのを利用するのもいいかも知れない。が、それ以上にやるべき事を背負っている身だ。アルマンディンで目的を達せば、そのまま殆ど休む暇無くベリルへ直行。楽しく異国の地を巡る時間など無いに違いない。

 特に今回はその安寧の時間に対する失意が強い。というのも……。


「ユウ」

「はい、なんですか?」

「王選がそろそろなんだろ?」

「あ、覚えてたんですね」


 それは旅の道中にユウが言っていた話だ。

 アルマンディン王国は近々国王が退位をするらしい。国の象徴が変わる際には様々な問題が起こる。特に王国と言う……王家と言う血筋が絡めばその面倒さは格段にあがる事だろう。俺も空想の物語での知識でしかないが、継承権争いだとかは枚挙に暇がない話な筈だ。

 その後任が決まれば、新国王即位の記念式典などが開かれ、国中がお祭り騒ぎで盛り上がるはずだ。

 コーズミマの世界に波乱の予兆が燻っているからこそ、そうした羽目の外せる状況で少し気分転換もしたかったのだが……。今回はタイミングが悪かった。

 自由を後回しにして、ユークレースでは無くアルマンディンを目指し先にここを訪れていれば《共魔》に出会うこともなく長い冬をお祭り騒ぎと共に過ごし、春を待って旅を再会できただろうに。あの時生き急いでいた過去の自分にもっと広い視点を持てと告げてやりたいほどだ。


「この人の多さもそれ目当てなんだろ?」

「そうですね。……ですがわたしの見立てでは延期されるのではないかと思いますよ」

「なんでだ?」

「セレスタインの事か?」

「恐らくは」


 ショウの声にユウが答える。それより数瞬早く閃いて口にすれば、魔瞳の少女は眼帯と共に頷いた。

 しばらく前にセレスタイン城で起きた《共魔》が絡んだ一件。あれで皇帝であるゼノが行方不明になり、代理として元《魔祓軍》のベディヴィアがその座に着いた。

 ファルシアの話では彼は信頼出来る人物らしいが、かと言って直ぐに帝都の……帝国領内に広がった問題の沈静化は出来ない。だからファルシアも出来る限りの手助けを行い一日も早い帝国の復活と、ゼノの捜索に協力体制なのだ。

 もしそんな折にコーズミマの反対の端であるアルマンディンで政変が起きれば、コーズミマ全土が混乱に陥るかも知れない。

 何より新国王の誕生を祝う宴など、セレスタインが大変な時に行うというのは問題があるだろう。

 それらを総合して王選の見送りと言うのは十分に考えられる可能性だ。


「……けどそれだと俺たちとしては少し動き辛くもあるけどな」

「ミノさん、それは流石に言い過ぎでは?」

「んー。…………ごめん、どゆこと?」


 話を聞いていたらしいカレンが、しかし理解は別問題として首を突っ込んできた。

 その、知らない事を知らないままにしようとしない姿勢は評価に値するけどな。もう少し話に付いてこれるようになれよ。魔剣だって言う言い訳はそろそろ苦しいぞ?


「政変があってくれた方が相手の動きが見えやすいって事だ。国を乗っ取るなら新国王になる候補を抱き込んで傀儡にする。いかにもありえそうな話だろ?」

「それを阻止する事が目的だから、相手が動いてくれる方がこっちも動き易い」


 鈍らと違い話をしっかりと理解しているチカが補足のように纏める。

 彼女の言う通り、派手な行動を起こしてくれる方が炙り出しが楽なのだ。

 とは言えそれはこちらの理屈。国には国の理由がある。そこまで首を突っ込んで無理を押し通そうとは思わない。


「とは言え《渡聖者》である事を理由にそんな無茶でこっちの理屈を押し付けようとは思わないけどな」

「駄目なら駄目で別の方法って事か。しっかしどうすっかねぇ……」


 ショウの声に、それから幾つか思索を巡らせ始める。とりあえずアルマンディンに接触しなければ何も始まらない。セレスタインの経験から、今回は目の届く範囲に腰を落ち着けて対処を考えた方がいいだろうと考えながら。

 きっと既にその中にいるのだろう《共魔》を想像しつつ、市壁を眺めて順番待ち。それから旅の道中で出た処分品の選定をユウ達に任せる。

 ユークレースから急いでの道程ではあったが、国から国への長距離移動。最後に寄った町も随分遠く、色々捨てたり買い揃えたりもしなければならない。今回はセレスタインのようにいきなり襲われる事も無いだろうし、事前準備はしっかり行えることだろう。

 まぁまずは腹ごしらえが一番かもしれないが。そう考えて隣に座るノーラに尋ねる。


「ノーラ、アルマンディンの郷土料理とか何かオススメがあれば訊きたいんだが」

「……………………」

「おい、ノーラ」

「え……あ、なんですか?」

「どうした。気分でも悪いか?」

「いえ……少し考え事をしてました。ごめんなさい」

「謝る事じゃないけどな。何か気がかりな事でもあるのか?」

「その……夕食は何を食べようかな、と…………」


 浮かべた笑顔。それがどこか飾られたものである事に気付きながら、とりあえずは知らない振りで話題を伸ばそうとした、その刹那────


「貴様、馬車を止めろ」


 近くを巡回していたらしい騎士がいきなり剣を抜き放ち、こちらに切っ先を向けて静止を促す。……いや、促すというよりは命令か。

 ……まさか本当にアルマンディンの壁を越える前に絡まれるとは想像もしなかった。《渡聖者》には自由って物がないのかね?

 ここで面倒事を起こして入国を跳ねられたら本末転倒。そう考えて馬車を止める。のと同時、騎士が問答の暇なくいきなり斬りかかってきた。

 咄嗟に剣を作り出して応戦する。


「っ! ……おいおい、随分なご挨拶だな」

「悪党にはこれがお似合いだ……!」


 一体何の恨みがあって剣を向けられなければならないのか。随分と前のめりな勢いに、さてどうやって《渡聖者》である事を証明しようかと考え始める。

 その瞬間、場を裂くような力ある声が時間ごと全てを止めた。


「やめないさい、無礼者! 彼らはわたしの命を救ってくれた恩人です。今すぐ剣を下げて謝罪しなさいっ!」

「っ!! ……失礼しました、殿下」

「……殿下…………?」


 聞き慣れない言葉に思わず隣を見る。するとそこには申し訳なさそうに顔を伏せるノーラの姿があった。

 彼女はゆっくりと顔を上げ、こちらをみつめると疲れたように笑う。


「ごめんなさい、ミノさん。こんな事に巻き込んでしまって。ですがわたしには貴方のような方のお力が必要だったのです」

「それはいいが……殿下ってのは…………」

「まさか…………!」


 ユウの声に、それからノーラは薄く微笑んで厳かに告げる。


「ようこそアルマンディン王国へ。《渡聖者》である貴方様方を、アルマンディン第二王女レオノーラ・チェズが歓迎いたします」

「第二」

「王女……?」


 全く()って想定外の出来事に理解が追いつかないまま。俺たちはアルマンディン王国に到着する事になったのだった。

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