プロローグ
「まさかお前が《共魔》だったとはな」
「陛下に目を掛けていただいたことには感謝をしております」
白々しい物言いに鼻を鳴らしてその後姿を睨む。
群青の短髪の男性。左目に片眼鏡を嵌めた彼、カイウスの事は皇帝として一目を起き、信頼もしていた使用人の一人だった。
謀反を起こす素振りなど無かった。それどころか、セレスタインの為と身を粉にして尽くしてくれていたほどだ。
そんな彼が《共魔》だった。その事実を未だ受け止め切れていない事に納得を探すように尋ねる。
「……雇用する際に身辺も含めて魔術的な調査は一通り行ったはずだが」
「どのようにして掻い潜ったのかについてはお話出来ません。ですが私見として、セレスタインの検査は実勢のある確かなものだとは思います。ぼく達が例外だっただけですので、気を落とされないように」
「抜け穴がある時点でそれが全てだ」
吐き捨てて、背後の少女に視線を向ける。
彼女はラグネルと言う名の使用人だ。セレスタインで雇った年数で言えば、カイウスより彼女の方が長い。
言葉少なく実直に仕事に励む少女だと思っていたのだが……どうやらこの目は随分と衰えてしまったらしい。
結果二人の企てを見過ごし、こうして身柄を拘束されている有様だ。彼に……ミノに忠告されていたというのに、情けない。
彼は無事に帝都を出られただろうか。そんな事を考えながら抵抗を捨てて素直に彼らに従う。
やがて一つの扉の前でカイウスが足を止めた。
「この中に監禁か?」
「いえ。皇帝陛下にそのような無礼を働くつもりはありません。ただ一つ、見てもらいたいものがあるのです」
「なに……?」
「本来は彼に……ミノ・リレッドノーにこそ知ってほしい真実ではあるのですが。陛下にも是非ぼく達の事を知ってもらいたいのです。そうすればきっと、ぼく達の間にある誤解は解け、手を取り合える筈ですから」
「なにを世迷言を…………」
《波旬皇》の復活を目論み、世界に仇為す《甦君門》。その尖兵たる《共魔》の言葉に傾ける言葉など無い。
しかし人質とは言えこうして招かれた身だ。この身の不在が周知されれば、世界は直ぐにでも動き出す。その時に彼らの行いを白日の下に晒し、企てを挫く一助になるのならば、その目的の真意までをこの目に収めるのは有意義なことに違いない。
不自由な身で、いつか来るその時に備え可能な限り出来る事を。
そう自分に言い聞かせ、魔術的な符丁によって開いた部屋の中に入る。
そうしてそこに広がる景色を、目にする────
「…………なん、だと……?」
「ようこそ、《甦君門》へ。過去の最前線へ」
「貴様達は────」
記録と共に、記憶に残る。その忘れ難き顔達を────




