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名無しとカレンな転生デスペラードを  作者: 芝森 蛍
公国の無窮書架にて
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第四章

 冷たい水に浮かび続けていては体温を無駄に奪われるだけ。そう考えて周りを見渡し、見つけた陸へ向けて泳ぎ、重くなった衣服を引きずるようにして体を持ち上げる。

 途端、排水でもするように水が溢れて足元を濡らした。これは早急に暖を取らねば風邪を引いてしまう。


「うぅ……寒い…………」


 隣で陸に上がれた事に安堵しながら身を抱くユウが零す。

 さて、色々な事が起こり過ぎてどれから対処したものか……。そんな風に考えていると背後に気配。振り向けば、先ほどの光景が見間違いではないと告げるように水面に直立する少女の姿を視界に収める。

 感情の感じさせない硝子玉のような黄色い瞳。長く白い髪は闇夜の中で発光でもしているかのようにはっきりとした線を浮かび上がらせる。と、遅れて少女が人魂のような炎を傍に従えている事に気がついた。

 何よりも生存本能が働いて辺りを見渡す。すると近くに角材が落ちているのが見えた。何かの建材の端のような形。一体どこから来たというのか。

 持ち上げて軽く叩く。音は軽い。乾いている。

 直ぐに後ろ腰に手を伸ばして、そこにあるはずの物がない事に気がついた。麻袋がない。さっき上から降ってきた衝撃で水底にでも落としたか。あれには火石が入っていたから、それで暖を取ろうと思ったのに……。

 けれど、やりようは他にもあると。魔術で剣を作って火打石代わりにしようと魔力を練る。が、その発露を制するようにこちらを無言で見つめる少女が掲げた手のひら。次いで胸の内の魔力が霧散して消える。


「……攻撃しようってんじゃねぇよ。火を(おこ)させてくれ。凍えて死ぬ」


 ついさっきもそうだったが、どうやら目の前の彼女は魔術の出を潰す事が出来るらしい。今されても何も嬉しくない。

 声に苛立ちを混ぜて告げれば、着火材になりそうなものを探す。最悪この木を削っておがくずでも……。

 そう考えた直後、少女が人差し指を立てて振る。すると彼女の傍で燃えていた炎が宙を飛んで、俺の握る角材の先端に火を灯した。


「…………これで、いい?」

「……あぁ…………」


 言葉は理解出来るらしい。対話が出来ると言う事は、少なくとも生きているということだ。人形のような少女だが、彼女は一体……。


「っ……からだが、重い……」


 声は陸の縁から。見れば上から一緒に落ちてきたファルシアが縁に捕まって必死に水から這い上がろうとしていた。

 彼の服は教皇としてそれなりに豪奢(ごうしゃ)なもの。旅人として軽装である俺やユウとは違い、沢山の布に多量の水を吸って動けないのだ。

 魔篇(まへん)。不意に先ほど彼が言っていた言葉が脳裏を過ぎって手を伸ばす。彼はどうやら、そこの少女について何か知っているらしい。


「ほら、捕まれ」

「あ、手伝います……!」

「っ、ありがとうございます」


 火を見てようやくいつも通りの思考が戻ってきたのか、ユウと一緒にファルシアを引き上げる。漁で網を引き上げると言うのはこういう感覚なのだろうかと、益体もなく考えながら救出。寒さに凍えながら項垂れるファルシアをユウに任せ、辺りを軽く散策し薪を集める。

 意外とそこら中に転がっていた木材を掻き集め、組んで焚き火を作る。途端、手元で頼りなかった炎が一気に勢いを増し、辺りを照らした。

 言葉などなく、全員で炎を囲んで温まる。とりあえず凍死はこれで避けられそうだ。濡れたローブを脱いで火に当て乾かし始める。ユウは流石に恥ずかしかったか脱ぐのを渋っていたが、仕方ないと悟ったのかしばらくして上着を脱いだ。


「み、見ないでくださいよ……」

「こんな状況下でそんな元気ないっての」


 長めの棒を組み合わせて簡易的な物干しを制作。脱いだ分だけ寒く感じる外気をカバーするように、更に燃料を加える。

 そんな様子を一つ離れたところから見ていた白髪の少女。まるで興味深い何かを観察するような眼差しを向けていた彼女は、やがて手のひらを突き出す。と、次いで彼女の目の前の空間が歪んで、そこに躊躇無く細い腕を突っ込んだ。引き抜いた次の瞬間、彼女の手の中には幾つかの服が握られていた。男物も、女物もある。どうしてそんなものを……いや、それより一体どこから…………?

 魔術だろうかと考えていると布の束を持った少女は、そのまま焚き火の前まで歩き、その上で両手を────


「ちょっ、待てって!」


 咄嗟に腕を伸ばして、燃え盛る炎に向けてはらりと宙を舞う衣服を火が点く寸前で掻っ攫う。


「あっ、ぶねぇ…………燃やしたら意味ないだろうがっ!」

「…………? 火がいる。違うの?」

「服はそのまま着ればいいんだよ!」

「フク……?」


 まるで初めて聞いた言葉だとでも言うようにこてりと首を傾げる少女。

 一体何を勘違いしたのかと。小さく息を吐きながら、手にしたそれに着替える。

 濡れていない服の保温性に一気に体の緊張が解けていく。同時、思考までもがようやくまともに回り始める。ユウとファルシア、そして白髪の少女を加えて火を囲み、大きく息を吐いて告げる。


「……とりあえず、状況整理だ」


 何事も、理解から。順を追って思い出す。


「魔篇の無事を確かめに来て、敵に()められた。恐らくあいつらは、あの罠の事を知ってた。事前に調べてたか、もしくは偶然見つけて利用したか。……はたまた本当に偶然が起きたか。何にせよ、俺達は想定外に巻き込まれた」

「……ここ、無窮書架(むきゅうしょか)の下って事でいいんですよね?」

「はい。ここは魔篇や、そのほかの魔具を管理安置する為の場所。先ほどのは不正利用させない為の罠です」

「それにこうして落とされたと。確認するが、一緒に落ちたのは俺とユウ、そして教皇だけだな?」

「はい、そうですね。先ほど魔瞳(まどう)で辺りを見ましましたが、カレンさんたちは確認出来ませんでした」


 ユウの魔瞳は魔力を視認する。その世界は、暗闇でも関係なく魔力を浮かび上がらせる事を知っている。彼女が言うのだから間違いはない。


「ってことは逆に考えて、上にはカレン、チカ、ショウ、メドラウドが残ってるって事だな」

「見事に分断されましたね」


 俺はカレンとチカと。ユウはショウと契約をしている。が、その力は基本的に直ぐ傍にいないと使えない。契言(けいげんは可能だが、魔剣である彼女達を呼び寄せたりするには距離が離れすぎている。

 契約の力は強力だが、こうなってしまえば意味がない。


「……すみません。わたくしがもう少し早く罠に気付ければ」

「いや、そもそも敵が待ち伏せしてる可能性を考慮してなかった俺達の責任だ。護衛ってのはそこまで考えて対策するものだろうからな」 


 経験がないから失念していた。何をか守ると言うのは、それだけ気を張って準備をしなくてはならないということなのだ。それが出来なかった以上、やはり失態は俺達の側にある。


「と言うか罠を全部把握してるわけじゃないのか?」

「……こうなっては隠す必要もございませんね。実はここは、魔術によって作られた空間なのです」

「ぜ、全部ですかっ?」

「はい。数多もの魔術に秀でた者が知恵を重ねて作った魔術の檻。そう簡単に攻略できないように、日が経つと罠の位置や種類が変わるように設計されているのです」

「自動生成ダンジョンみないなものってことか」

「ですので、わたくしも全てを理解しているとは、正直……。もちろん覚えられるものは覚えておりますが、何分わたくしも人ですから……」


 それこそ、案内図でもないと覚えられないような広さや罠の数なのだろう。逆に、だからこそ進入を簡単には許さない迷路として意味を成しているのだろうが。


「けどそれなら少し気は楽になるな。教皇のあんたが理解出来てないって事は全て丸分かりな解剖書みたいなのは残してないんだろう?」

「はい」

「なら罠で足止めを食らうのは平等だ。あいつらだってそう簡単に目的のものには辿り着けないだろ」

「……あ、そうか。だからなんですね」

「どうした、ユウ?」

「実はずっと不思議だったんです。入った時から魔力の密度が高いなって。けど魔物はいなくて……上に置いてあった魔具からあふれ出した魔力が溜まっているのかなって思ってたんですが、ここが既に魔術の中だというなら納得です」

「そういう事に気付いてたなら先に言えよ。何か対策できたかもしれないだろ?」

「すみません……わたしも魔術の中にいるというのは初めてだったので」


 終わった事を一々掘り返しても仕方ない、か。諦めて話題を移す。


「ま、いいか。カレンたちとは後で連絡を取ればいいしな。……それよりも、だ」


 気持ちを切り替えて、視線を向ける。その先には、木の棒の先に火を灯して興味深そうにじっと見つめる少女の姿。彼女は────


「なぁ、教皇陛下。魔篇ってのは、本なんだよな?」

「…………はい、本の形をした魔具、と言うのが正しい答えですが……いえ、ごまかしはもう利きませんね。ご想像の通り、彼女が魔篇です」

「人型の魔具、ですか……」


 人型の魔剣、と言うのは存在する。カレンやチカがそれに当たる存在で、高位の魔物が《天魔(レグナ)》として封じられると意思疎通以上に人に似せた姿をとれる。

 が、魔剣と魔具は違う。一応割り切ればどちらも道具だが、魔剣は魔力の供給さえすればほぼ永久的に仕える代物。対して魔具は、使い捨て。道具感は魔具の方が強いし、道具だからこそ意志が宿る事は無い。

 そもそも魔具は魔物ではなく魔術が封じられた物のことだ。魔力に意思はなく、生物でもない。空気と同じ、概念存在だ。だから当然魔力が意思を持つ事もなければ、それを寄り合わせて命令に沿って昇華しただけの魔術に意識が介在する余地は無い。

 けれど魔篇は……今こうして目の前で指揮棒のように火の点いた棒を(もてあそ)んでいる。その姿は、まるで人間だ。


「魔篇……いえ、彼女は特別なのです。さて、どこから話をしましょうか」

「服を乾かして体を温める必要があるからな。少しくらい冗長になっても別に気にしないぞ」

「流石に、気にならないと言う嘘はもう吐けませんからね」

「では、少しお時間を頂きましょうか。とは言え、魔篇に関してはわたくしも先代から語って聞かされた程度の知識しかございませんので、そこはご了承願います」


 そう断って、改めて腰を据えたファルシアが口を開く。


「魔具の名の通り、魔篇は本が元になっております。より正確には日記、と言う話ですが」

「日記?」

「《魔祓軍(サクラメント)》はご存知ですか?」

「《波旬皇(マクスウェル)》に対抗して作られた人間の軍の名前だろ? 最終的に《波旬皇》を封印するに至ったって言う」

「はい。今現在、《魔祓軍》は存在しておりません。理由は大きく分けて二つ。一つは敵とする首魁(しゅかい)を封じて、存在意義がなくなったため。そしてもう一つは、かつて《魔祓軍》の中核を担っていた人物が姿を消したからでございます」

「そういえばそんな話を前に聞いたな」

「はい。旅の途中で。……あれって本当なんですか?」

「不思議な話ですので、信じられないかもしれません。……《波旬皇》の封印後、彼らは忽然(こつぜん)と姿を消しました。彼らが最終決戦に(おもむ)いたのを見た者はおりますが、帰ってきたところを誰も目撃はしていないのです。当然、世界を救った英雄としてそれぞれの国が彼らの足取りを探しました。ですが、捜索の甲斐なく、誰一人として見つからなかったのです。ですので大衆的な結果として、彼らは命を賭して《波旬皇》の封印を行ったと、そう世界に告げられました」


 ユウが話をしていた、俺がこの世界に来る前の歴史。

 魔物と人間の戦いに打たれた一つの終止符。これは、そこから繋がる話らしい。


「そんな《魔祓軍》の中核を担っていた人物の一人が日記をつけていたらしく、それを《波旬皇》封印の場にも持って行ったそうなのです。余程大切だったのでしょうね」

「戦場に日記なんて随分な余裕だな。そもそも《波旬皇》の封印ってそんなに簡単だったのか?」

「いいえ。本来ならば他の魔物と同じく討滅するのがよかったのでしょうが、当時の我々の側にはそれを為すだけの力がありませんでした。ですので次善策として封印を行った……。このような話で、大体ご理解いただけますでしょうか?」

「次善策っつうか、停滞策だな」

「お陰で今それなりに平穏な世界がありますけれどね」


 その平穏さえ、俺にとっては十分な脅威の箱庭だが。まぁ、それは今いいとしようか。


「で、その日記が魔具になったのが魔篇って事でいいのか?」

「そうですね。簡単に言えば。実際は、その日記……魔篇が発見されたのは、《波旬皇》を封印したその場だったのです。魔具は魔力溜まりに長時間放置される事で魔力を蓄え、変化する。それが《波旬皇》と言う、封印をしても尚魔力が漏れ出すほどの災厄の傍で育ったのです。規格外になるのも致し方のない事でしょう」

「魔力が漏れてるってのは?」

「言葉の通りです。かの存在は《魔祓軍》の総力をあげても討滅し切れなかった。それほどに強大な力を秘めています。ですから封印をしても、その全てを留めてはおけないのです。今でも封印されている地域一体は濃い魔力に満たされていて、この世界に蔓延る魔物の約四割がその地から出現しています。現在はそれぞれの国から派遣した兵力で、極力世界に零さないように随時処理をしています」

「因みに分布で言うと残り六割のうち二割がルチル山脈から。四割は四つの国それぞれが抱える魔力溜まりからと言われてます」


 ユウの補足。各国一割ずつ。世界を分断するあの魔窟が二割。コーズミマの端から端までを横切るその面積で言えば、二割といっても高が知れている。問題は、その倍の魔物が一箇所からほぼ無尽蔵に沸いてくるという危険度だろう。

 《波旬皇》が封印されていると言う地がどんな場所なのかは詳しくは知らないが、局所的に魔物が沸く地域だと言うのはなんとなく想像がつく。


「そんな風に、普通では考えられない魔力濃度の中で変化した魔具。それが魔篇です。魔具はどれだけ長くの間魔力溜まりに放置されていたか、基本的にはその時間で魔具としての価値が変わります」

「加えて通常の四倍ですからね。質もそこらの魔具とは比べ物になりませんよ」

「…………常識外れだってのはよく分かった。だから魔剣と同じく人型を取れるくらいに強力な魔具だと……話はそういうことか?」

「えぇ。人型を取れる魔具など、わたくしは魔篇以外に存じ上げません。……いえ、魔瞳も似たようなものですかね」

「わたしのは、人の体に一部混じってるだけですから」


 話を聞く限り魔瞳レベルで稀少な存在だと言う事なのは間違い無い。そして、それだけ強力な魔具ならば…………。


「魔篇は恐らく、魔剣に引けを取らない存在です。しかもその力は、多岐に及びます」

「多岐……ってことは色々な能力があるって事か?」

「正しくは数多もの魔術をその身に宿した、歩く魔術図書館。一つに限定されない、様々な魔術を扱える魔具だということです」

「恐らくですが、使える魔術の数で言えばチカさん以上だと思います。質は……チカさんの方が上な気がしますけれど」


 万能の魔術書。(ことわり)の書。神の手記。ユウが語っていた言葉が脳裏に蘇る。

 数多の魔術を記した世界最高の魔術書。死した人さえ蘇らせる秘術が眠っているとさえ言われる存在。


「こいつが、その魔篇か…………」


 視線を向けて零す。少し目を離している間に少女が持つそれが木の棒から両刃の剣に変わっていた。彼女はそれを……無表情に刃の方を両手で挟んで柄の方を揺らめく炎に潜らせている。

 何かを試している……ようには見えない。…………もしかして剣の持ち方、使い方を知らずただ目の前の炎で炙っているだけか? と言うかその剣一体どこから持ってきた。


「…………そういえばさっき何もないところから服を取り出してたな」

「魔篇が持つ魔術の一つです。どこかしらの空間に物を納めておいて、必要になれば好きな時に取り出すと言う物です」

「ゲームのストレージみたいなものか」

「先ほどの服や今持っている剣。これらは恐らく、何かを目的にここに入り込んでそのまま命絶えた者の遺品でしょう。魔篇は、外にこそ出ませんがこの檻の中を歩き回っていますから。目に付いたものを種類大きさ構わずしまいこんでしまうのです。わたくしも随分前に落とした指輪を彼女に持っていかれて以来、返ってきていません」


 火の玉を浮かべたり水の上に立っていたりしたのも、そんな数多ある魔術の一つと言う事か。


「彼女とは言うが、意思疎通は出来るのか? 言葉は話せるみたいだが」

「滅多に口を開きません。言葉にしても、一言二言の単語のみ、と言うのがこれまでで分かっている事です。少なくとも、感情のような物はこれまで一度も見た事がありませんね」


 今現在も無表情のまま。加えてこれまでの言動を見るに、服を燃やしたり剣を変な持ち方をしたりと常識とは随分と乖離(かいり)した感覚を持ち合わせているようだ。

 魔具だというなら納得できない話では無い。


「そもそも彼女は魔剣のように魔物が封印されている存在ではありませんから。意識と言うものがあるのかどうか」

「え…………?」


 疑問の音はユウの口から。


「どうした?」

「いえ、その…………彼女の中にはしっかりと魔物がいますよ?」

「それは……本当ですか?」

「はい。ただ、少し特殊ですけど……」

「どういうことだ?」


 魔を見透かすユウの魔瞳。彼女の瞳は常人や魔術では理解できない部分にまで干渉できる。その彼女が、断言する。

 魔篇は、魔力ではなく魔物を封じた存在だと。


「まず前提になりますけど、魔剣は剣に魔物を一体封印した形ですよね。その封印された魔物の位によって意識が顕在化したり人型を取れたりするわけですが。それと比べると彼女は特殊と言わざるを得ません。だって彼女の中には、複数の魔物が封じられていますから」

「複数、って……元となった日記にか?」

「そうですね。ページ(ごと)に別の魔物が封印されている、と言えば分かり易いでしょうか?」


 闇夜で光を放つ黄色い瞳で魔篇を見つめて告げる。魔篇は、魔具ではあるが魔剣に近しい存在だそうだ。


「ミノさんには人工魔剣の方が伝わりますかね。あれと似ているんです」

「人工魔剣……?」


 どうやらまだユークレースにその話は入って来ていないらしい。……いや、魔剣の騒動自体は知っているかもしれないが、人工魔剣と言うワードに関しては初耳か。


「トリフェインって言う温泉街で起きた騒動の事は?」

「それは聞いております。何でも、魔剣と契約した者が暴れたとか」

「その契約した魔剣ってのが人工魔剣っていわれる代物でな。名前の通り、人為的に作り出された魔剣で、本来の魔剣とは製造方法が違うらしい」

「それは、どういう……?」

「普通の魔剣が剣一本に対し魔物を一体封じるのに対し、人工魔剣は低位の魔物を継ぎ接ぎして人工的に強力な力を持った魔剣を作り出しているんです。作っているのは、《甦君門(グニレース)》です」

「なるほど…………」


 流石に《甦君門》の名前は知っていたか。ユークレースにとっては恐らく真っ向から対立する組織だろうからな。


「ですが少し無理やりな構造の所為で契約者を蝕んだり、強力な力も一度きりの使い捨てと言う不完全なものです」

「それがトリフェインの町で騒動を起こしたと言うことですか」

「で、その継ぎ接ぎの人工魔剣と、そこの魔篇が似てるって話らしい」


 話を戻せば、ユウが頷いて続ける。


「人工魔剣は無理やり一本の剣に収めて形を成していますが、わたしがこの目で見る限り、魔篇の中の魔物はそれぞれ別個体として体の……元となった本の中に封じられているみたいなんです」

「……つまり、本に例えるならページ一つ一つが質の低い魔剣と同じって事か?」

「そうですね。その認識が一番近いかと思います」


 ページ毎に魔剣を秘めた魔術書。確かにそれは規格外だ。


「沢山の魔術を使えるのもそれが理由だと思います。魔剣の能力は元となった魔物の力が大きく影響しますから。大抵は何か一つに特化しますけれどね」

「カレンの剣を作る魔術とかか。チカのそれは……」

「チカさんの能力は魔術を作る魔術。魔術に干渉する魔術、と言う解釈でいいかと。……あれを紐解くとややこしいので」

「ん、悪い」


 ユウのそれも、幻惑を見せる能力と言えばすっきりする。こうして考えると魔剣には基本能力は一つと言う事だ。


「いえ、大丈夫です。……本来一つに特化した魔剣。それを数多封印した存在が魔篇だと言えば、彼女の特別性が分かっていただけますか?」

「だからああして種類の異なる沢山の魔術を苦もなく使えるってことか」


 視線を向けた先では、またぞろどこからか取り出した槍に直ぐ近くから水を引っ張ってきて覆わせ、それと炎を纏わせた剣を空中でぶつけている魔篇がいる。

 武器を保管し、取り出す魔術に始まり。物質浮遊。属性エンチャントと、分かるだけでも三つの魔術を並列行使している。

 チカが魔術を使った時は一度に一つ。別の能力を使う時は書き換えたり、一から作り直したりしていた。

 火石が火しか熾せないように。普通魔術は一度に一つしか使えない。例外は、魔具を同時使用したり、複数の魔剣と契約しそれを同時に扱うくらいのものだろう。それでも魔術の行使は個別であって、一つで並列処理をしているではない。

 しかし魔篇は、それを一人で行っている。例えるならば、そう…………。


「……魔篇には封印されている魔物の数だけ同時に魔術を扱う脳があるって事か?」

「…………なるほど、そうも考えられますね」


 通常の魔具や魔剣がシングルコア。対して魔篇はマルチコアと言うことだ。

 恐らく封じられている魔物毎に魔術を管理しているのだろう。


「とは言え中に封じられているのは人工魔剣と同じ質の低い魔物ばかりです。強力な魔術は使えないかと」

「質のチカ、量の魔篇って事か」


 同じ魔術関連でもこうも違う。その筋の者に言わせれば奥が深い、と言う事になるのだろうが……生憎と魔術にそこまで造詣が深くない身からすれば余り興味は湧かない。そう考えると、ただ感情のままに斬るだけで唯一無比なカレンの方が扱い易いだろうか。そんな彼女も、今傍には居ないのだが……。

 思い至って、契言を飛ばしてみる。


『カレン、チカ、無事か?』

『どぅわっ!? え、何? 何っ!?』

『頭の中でも煩いな、お前は。俺だ。無事かって訊いてるんだ』

『うん。大丈夫。ミノこそ平気?』


 恐らく契言の事など綺麗さっぱり忘れていたカレン。姿が見えないのにわたわたとしている様子が目に浮かぶ。

 続いたチカの声は冷静で、心なしか安堵の色が聞いて取れた気がした。


『あぁ。ユウと、それからファルシアもな。そっちはどうだ?』

『あ、うん。大丈夫だよ。敵もようやく退けて、これからメドラウドさんと動くところ』

『どうするつもりだ?』

『え? 魔篇を探すんじゃないの?』

『魔篇なら今俺の目の前にいる』

『えぇぇえええっ!?』


 だから一々煩いって……。


『落ちた先に偶然いたんだよ』

『……いた、ってどういうこと? あった、じゃないの?』


 言葉の違和感にチカが尋ねる。そこで自分が魔篇をどう見ているのかを再認識しながら答えた。


『……魔具なんだがな、二人と同じで人型を取ってる。白い髪の、無表情な少女だ』

『……………………あっそ』

『何だ? 疑ってるのか?』

『違うよばーかっ』

『じゃあなんだよ』

『何でもいいでしょっ』


 何勝手に怒ってるんだよ。チカも黙り込むし。一体何なんだ……?


『……とりあえず、魔篇は無事だ。俺達もそろそろ動くが、どこで落ち合う?』

『…………メドラウドさんが教皇陛下にお任せします、だって』

『ちょっと待ってろ』


 何故か不機嫌なカレンの声に一度契言を区切って意識を目の前に。


「今向こうと連絡が取れた。敵は倒して全員無事らしい。もう動けるそうだが、どうする?」

「そうですね…………。この穴がどこに通じているのかはわたくしにも分かりません。こういう経験も皆無ですから……。個人的には無闇に動くのは得策ではないように思うのですが……」

「一応なんとなくの居場所は契約で分かりますので、近付けば解決策も見つかりますけど」

「だが動いて余計迷うのも問題だろ。いつ出られるかもわからない。食事も出来ない以上無駄な体力を使うのは…………」


 そう呟いた直後。いつからかじっとこちらを見つめていた魔篇がすっと立ち上がる。思わず口を閉じて視線を奪われれば、彼女はそのまま感情の宿らない瞳で口を開いた。


「道案内」

「……は?」

「出口」

「……出口を知ってるのか?」


 問いに、こくりと頷いた魔篇。少なくとも敵意はなさそうだが……。


「ここは人が来ちゃいけないところだから」

「……出て行けってか。ま、そっちにとっては部外者だしな」

「いいんですか?」

「手掛かりなのは確かだ。それに、俺達を騙そうとしてるんだったらそれを逆手に取ればいいだろ?」

「…………分かりました。陛下も、それでよろしいですか?」

「えぇ、構いませんよ。それに彼女は常日頃ここで過ごしているのです。道に関してはここにいる誰よりも詳しいでしょう」

「よし、なら準備だ。服もそろそろ乾く頃だろうしな」


 実は服を干しているそれにも想定外のことが起きていて、先ほどから無いはずの風で衣服がひらひらと揺れているのだ。恐らくこれも魔篇の魔術で、急速乾燥を手伝ってくれているのだろう。

 本当に規格外に過ぎる存在だ。そんな事を思いつつ準備を整えて、再び繋いだ契言で向こう側に方針を伝える。


『どうにか合流出来るように道を探してみる。そっちからも探索してくれ。チカ、魔術でできるか?』

『……時間は掛かると思うけど、頑張る』

『よし、頼んだ』


 探し物に関しては彼女に実績がある。これで少しは合流できる蓋然性(がいぜんせい)も高まるだろう。

 これまで後ろ向きに考えてきたが、だからこそ、この底にいる間くらいは上を向いてもいいかも知れないと自分を奮い立たせて息を吐く。


「よし、じゃあ行くか」

「こっち」


 淡々と告げる魔篇。改めて見ても十歳前後の少女にしか見えない彼女の後ろを、ゆっくりと歩き始めた。




              *   *   *




「ってことだから私達も動かないとねっ。チカ、お願いっ」

「ん、直ぐに準備する」


 ミノとの契言を終えて振り返る。直ぐにチカがミノ達を探す魔術を組み上げ始める。その傍らで、壁に背を預けて座り込むメドラウドに声をかける。


「大丈夫? もしかしてどこか怪我とか……」

「いえ、問題ありませんよ」


 返った笑顔。次いで違和感が脳裏を掠めれば、その正体に気付いて暇潰しに尋ねる。


「私達の事はいいの?」

「……と申しますと?」

「えっと、ほら。ミノにはなんか随分尖った口調だったのに、私達には最初に会った時みたいな丁寧な言葉だから」

「あぁ、なるほど…………。別に大した事ではありません。ただ、お二人は魔剣ですから」

「……? どゆこと?」


 自慢ではないがそこまで賢いとは自分でも思わない。理由の分からない話の裏を考えたりするのは苦手だ。もっと感情的に……分かり易い理由なら私もすぐに気付けるのだけれども。


「ユークレースは魔剣の管理をしている、と言う話は既にご存知ですよね。僕達聖職者は魔に纏わる存在をある種神聖視しているのです。もちろん神様と同列、と言う訳ではありませんが……そうですね…………。少しばかり説教臭い話にはなりますが……よろしいですか?」

「……うん」


 正直難しい話は遠慮したいけど。それでも自分の胸に湧いた疑問くらいは解消しておきたかった。


「では失礼をして。まずは、そうですね…………《天魔》と言う名前、これは天から下った魔物と言う考えから出来た言葉なんです」

「あ、うん。それは聞いたよ。確かテンシ、だっけ……。それに似てるって言う」

「はい。天使は天の御使い……神様が遣わした使者だと言われております。人ならざる上位の存在。その昔、まだユークレースがユークレースになる前の頃、《波旬皇》の尖兵だった魔物の一部が、共生の考えと共に人と手を取った事がありました」

「それが魔剣になって、考え方を引き継いでユークレースが出来たんだよね?」

「はい。その、《波旬皇》から離反した魔物達。かの者達は、けれども存在としてはやはり魔物ですから、人とは違う存在だったのです。人には扱えない魔術を操る、確かな意思を持った存在。かの者達が現れた事で、混沌としていた世界に新たな希望が溢れたのです」


 そこから争いがややこしくなっていった。その話はもう随分前……チカと再会してベリルへと向けてルチル山脈を目指していた時に聞いた。半分ほど忘れていたが、メドラウドの話で何となく思い出す。


「それを当時の人たちは神様からの慈悲……世界を混沌から救う為の御使いだと考えたそうです。神様に対する信仰心はその頃からございましたので。戦いの中でも誓いを立てる魂の拠り所として、神様は迷える者の事をいつも見ていらっしゃいますからね」


 シンブツシュウゴウ、と言う話をミノに聞いた時に似たような事も話していた。確か……ヤオヨロズとか言う、すべてのものに神様が宿るという、ミノが前にいた世界の考え方だったように思う。隣にいるって言うのはそういうことだろうか……?


「そこから共生思想を持った魔物の事を《天魔》と呼ぶようになり、今では魔剣として人の世の平穏を守る御使いの名前に用いられているのです。ですのでカレンさんのような魔剣……《天魔》は、神の御使いである天使と同等の扱いを受け、敬われるべき存在と言う事でございますね」

「……うぅん。難しい事はよく分かんないけど…………私偉いって事?」

「そうですね」


 ユウさんがいればもっと詳しく分かり易く教えてくれたのかもしれないが、彼女はここには居ない。合流したら後で訊いてみようかな……。


「でもミノはどうして? なんでミノにはあんなに怒ってたの?」

「……神に仕える身として正直に告白しますが……僕はまだ少し、彼の事を疑っているのです。彼が全ての犯人で、教皇陛下が行方不明になったのも、彼の所為では無いか、と…………」

「そんなっ……ミノは違うよっ! ちょっと偶然があったかもしれないけど……でもミノはそんなことしてない!」

「彼が直接手を下さない方法、と言うのもございます。…………ですがカレンさんの仰る事ですから、それを信じる事に致しましょう」


 そこでふと浮かんだ疑問が音になる。


「……じゃあもし私が共犯者だったら? ミノに協力して教皇を(さら)ってたらどうするの?」

「魔物を人が裁く事は出来ません。それに、信仰とは信じる心から生まれるものです。……そう言う意味では、彼を疑っている僕は聖職者として失格かもしれませんがね」


 困ったように笑うメドラウド。望んだ答えではなかったが、そもそもの質問が彼を困らせたのだと気付けば思いつきをそのまま口にした自分が嫌になった。

 と、そんな胸の内を見透かしたようにメドラウドが告げる。


「それに魔物は嘘を吐きません。その点で言えば悪魔とも似ているかもしれませんが、より正確に言えば感情に嘘が吐けない、と言うべきでしょうか」

「……感情に嘘が吐けない?」

「人は理性と衝動の生き物です。その間で(せめ)ぎ合い、時に間違え、時に答えを見つける。そう言う、ややこしい生き物です。ですが魔物や魔剣達は、人より感情的で……感じた事をそのまま言葉にする傾向が強いのです。ですので隠し事が苦手であったり、逆に感情によって大きな力を振るう事もできるのです」


 感情。その言葉が胸の奥にすとんと落ちる。

 私の《珂恋(カレン)》としての力は想いの刃。感情を(たか)ぶらせ、信じる事でその結果を手繰り寄せる。感情が力になるというのは、まさにその通りだ。

 だからこそ、気付く。


「…………魔物でも、信仰ってするのかな……?」

「えぇ。ともすれば、人のそれよりもより高尚な信仰心かもしれませんね」


 信じる事から始まるのが信仰ならば。信じて想いを形にする私の力は、信仰そのものだ。だからこそ昔の人は神の奇跡と、そう呼んだのかもしれない。


「あたしは、生きてる」


 声は直ぐ後ろから。少し驚いて振り返れば、そこにはこちらを見つめるチカが立っていた。どうやら魔術を作りながら話を聞いていたらしい。


「あたしは、神様でも天使でもない。チカだから」

「…………そうですね。失礼致しました」

「あたしがチカでいられるのは、ミノのところだけ。だから、ミノを探す」

「……うん、そうだね」


 見れば、彼女の後ろには地面に大きく描かれた魔法陣があった。大きすぎて、壁にまで及ぶほどだ。どうやら完成したらしい。

 チカがこちらに視線を向ける。


「……手を貸して、カレン。あなたがいないと、見つけられない」

「……ふふっ、やっとだね」

「……?」

「やっぱりチカにさん付けは似合わないよっ」


 魔剣となって記憶を失ったチカは、それ以降私の事を『カレンさん』と呼んでいた。性格も正反対に変わっていたしその所為だろう。

 けれどもやはり、チカは呼び捨ての方がよく似合っている。……だから少し、特別扱いで一人呼び捨てのミノには小さな嫉妬もしてたんだけど…………これでそれもなしだっ。


「さ、やろうっ」

「……うん」


 手を取れば、チカは恥ずかしそうに頬を染めて視線を逸らす。昔のチカでは考えられなかった仕草だ。こう言うと怒られるかもだけど、こんなチカを見られるのは少し嬉しい。

 私の知るチカは、張り詰めていたから。笑顔も綺麗に整いすぎていたから。だからこういうチカは新鮮だ。比べるわけでは無いけれども、このチカはいいと思う!


「座って」


 手を引かれ魔法陣の中心へ。そのまま膝を折って座り込めば、今度はチカから握られたもう片方の手のひら。私より少し暖かい彼女の手の感覚に、先ほど言っていた言葉が重なる。


 ────あたしは、生きてる


 もし…………もしチカが記憶を失わずに無事に魔剣になっていたら、同じ事を言っただろうか? ……うん、何だかんだ、似たような事を言った気がする。

 それが嬉しくて、目の前のチカがチカなのだと再認識する。


「……? どうしたの?」

「ううん。なんでもないっ」


 思わず零れた笑みに彼女の疑問。けれども言葉にするのは私が恥ずかしくて逃げるように誤魔化す。代わりに彼女の額に自分のそれをくっつけた。


「見つけよう、ミノのこと」

「うん────いくよ」


 大丈夫。私とチカの、二人なら……!

 自分が《珂恋》であると胸のうちを膨らませ、想像を現実にしようと信じる。

 刹那に、光り輝いた魔法陣。魔力の供給を受けて放つ光が、薄暗い通路を眩く染める。次いで契言に似た感覚が舌の上の契約痕から疼く。それで気付く。これはどうやら、契約を介してミノを見つける術式らしい。舌が少し熱くなるのがその証拠で、少しむずむずする…………。だからどうして舌に刻まれたかなぁ……。

 そんな事を考えながら胸の奥でミノの事を考えれば、満ちた魔力が魔術を起動して体を何かに引っ張られる感覚がした。

 思わず目を開けば、チカと繋いだ手から紅と琥珀の線が互いに交じり合いようにして暗闇の先に続いていた。


「ん」

「成功だね! あっちに……ぁっ、え…………?」


 道が分かれば後は道標を追い駆けるだけ。そう思って足を出した刹那、それまで見えていた魔力の線がふっと消えた。


「あれ、なんで……」

「カレン」


 声にチカを見れば、彼女はこちらに向けて手のひらを差し出していた。離していたそれを再び握れば、消えた魔力の線が再び中空に浮かび上がる。


「これ、手を繋いでないといけないんだね」

「二人の魔力で動いてるから」

「ず、ずっとはちょっと恥ずかしいなぁ…………」


 それに魔術が発動し続けている所為か、契約痕の刻まれた舌がずっと疼いていて変な感じだ。試しに口の中でもごもごとしてみるが、違和感は消えてくれない。うぅ…………だからなんで舌だったの? 誰か教えてよ……折角チカと手を繋いでるのに。

 …………あぁ、でも。チカと手を繋ぐのなんて、一体いつ以来だろうか。そんな事を考えた直後、チカの方から強く手を握られた。


「いこ、カレン」

「…………うんっ!」


 ……うん。こういうのも、悪くない。そう思えば、繋いだ手のひらは温かく、出した足がとても軽く感じたのだった。




              *   *   *




 歩き出してしばらくしたところで胸のうちから魔力が引っ張られるような感覚があった。恐らくカレンたちも探し始めたのだろう。契約痕も熱を持っているから、その内合流できるはずだ。

 そんな事を考えながら暗い道を歩いていると、不意に前を歩く魔篇が足を止める。次いでユウが腰から魔具を引き抜いて構えた。


「敵か?」

「はい、ですが相手は……」

「魔物」


 ユウの言葉の先を継ぐように魔篇が零す。言葉と同時に、指先に灯した魔力の弾を通路の先に飛ばすと、光に照らされたそこに数匹の魔物の姿を視認出来た。と、次いでその魔力の球が爆発し、魔物を吹き飛ばす。

 衝撃に微かに揺れた空気。咄嗟に剣を作って構えれば、煙の中から一匹の魔物が飛び出して奇声を上げながらこちらに突っ込んできた。

 向かった先は魔篇。だが彼女は腕を振って魔術を行使。襲い掛かろうとしていたその魔物を魔術の鎖で縛り上げ直ぐ傍に転がす。一瞥した彼女は、再び止めていた足を出した。


「魔術が次から次へ、だな」

「まだまだこんなものではありませんよ。軽く見ただけですが、100では下らない数の魔術が彼女の中には記憶されてます」

「まさに魔術書って事か」


 魔術のレパートリーに沢山の数があるとは考えもしなかった。これまで使えていたのが剣を作る事だけだった弊害か。

 と、そこでふと気になってユウに尋ねる。


「……そう言えばチカとの契約で俺が得たものってなんだろうな?」

「と言いますと?」

「カレンとの契約は剣の生成って言う魔術だろ? ユウもその目の力をショウと共有出来るんだよな」

「はい。契約で繋がった二人は似たような力が使えますね」

「なら魔術を編纂できるチカの力だと、俺に何が使えるようになるのかと思ってな」

「そのままならやはり魔術を作り出したりする力でしょうが…………。ミノさん、魔力を知覚出来ますか?」

「……何となく。時々肌を撫でたりする感覚はあるな」

「わたしたちの感覚でいうと、魔剣や魔物の言う魔力と言うのは人の呼吸と同じなんです。無意識に意識する偏在。なければならない存在。それを意図的に操って形を成すのが魔術なんです」


 ちょっとした魔術の講義。だが、どうにも実感は湧かない。


「基本的に人は魔術を使えない。魔力は持っていても、それを魔術に昇華出来ない。これは単純に魔力を扱えていないからなんです」

「だが契約すると使えるようになるだろ」

「実際には人が魔術を使っているのではなく、契約相手の知識や魔術を間借りして、そこに魔力を流し込んで起動させているだけなんです。起動のための魔力がその人の意識して行使したものだから、魔力の持ち主の意思を反映して魔術が発動する。分かり易く言うと、他人から借りた武器で戦っているだけなんです。借り物ですから、本来の力には満たないですし、自分の身にはならない。契約を介した魔術と言うのはそういう物なんです」


 人に魔術は使えない。単純に言えばそういうことなのだろう。だから魔具で生活を便利にしているし、魔剣との契約だって一握り。魔力こそ誰でも持っているが、魔術の価値と言うのは思った以上に高いようだ。


「つまり本来の形で魔術を使ってはいないってことか」

「はい。そもそも魔術は想像を過程を経て魔力と言う力で代替し、結実させる能力です。その仕組みには、確かな理論があります。前に記憶喪失の時にお話しましたよね。形にならないものは魔術で再現できないと。逆に言えば、仕組みさえ知っていれば魔術で再現も出来るんです」

「……なるほど。そのプロセスを知らないから、人は魔術を使えないと」

「そうですね。チカさんの力は魔術の編纂…………つまり魔術に対する知識がないと使えない力なんです。ですので今のミノさんにはチカさんの力を使うことは出来ないかと…………」


 そもそも俺は異世界人。魔力の感覚すらまだ曖昧な、魔の素人だ。ルールも知らないのに正しいスポーツは出来ないと、そういうことだ。


「今は、って事は将来的に可能性はあるって事か?」

「先ほどもお話しましたが、魔術には仕組みがあります。それを理解すれば、簡単な魔術程度でしたら人の身でも自力で使えると思いますよ」

「ふむ…………。いや、と言うかユウがその最たる例だな」

「わたしのもサリエルの借り物です。……けど、そうですね。少なくとも人の身で魔術が使えるのは確かです。後は、えっと……………………こんなのとか」


 言って、ユウが立てた人差し指の先に、少し間を空けてマッチのような小さな炎が灯る。


「わたしの自力ではこの程度が精一杯なので、そもそも素養がないんでしょうけれども。ようは想像と理解です。今のだと火熾しですね」

「時間が掛かりそうだな…………」


 とは言えロジックは分かった。分かったからこそ、何となくどうにかなりそうな事もあるのでは、と希望も軽くだが描いている。複雑な事は別として、何か簡単な技術くらいは魔術で代替してみたい所だ。

 そんな事を考えながら道を行く。微かな明かりを頼りにする道中にもそれなりに慣れてきて、本能的な恐怖も殆ど無い。

 となると今度は退屈と言う問題が湧き上がって来て思考を塗り替えていく。どうにも俺は暇と言う物に耐性がないらしい。


「使うか?」


 ユウと話をしている間にも到来し続け、もう何度目かも数えなくなった魔物の襲撃。相も変わらず魔篇がワンマンアーミーで処理していく様も既に見飽きた。やってくる敵も低位ばかりで歯応えがない。前に出る意味も感じない。

 暇潰しに魔術で剣を作って魔篇に差し出してみる。


「持ってる」


 取り出したるはオーソドックスな両刃剣。それもまたここに入り込んで息絶えた誰かの遺品なのだろうと思いつつ、いらないならばと引き下がる。結構いい出来だったんだがな、この剣。……いや、そうか。魔術の編纂がチカの能力なら、この剣を作る魔術もその対象。練習台としては丁度いいのかもしれない。

 とは言え剣の改良なんて一体何が正しいのかと無い知識に悩み始める。……とりあえず何か能力でも付加させてみるか?

 何がいいだろうか。まずは想像から。考えつつ、それから頭の片隅で目の前の沈黙を解消する方法も思案する。流石に会話もなく歩くだけと言うのはつまらない。

 何か……何か…………。


「そういえば、ですけど」

「どうした?」

「いえ、魔篇について考えてて。ここは人が来ちゃいけないところ、って言ってたのを思い出しまして」

「あー、そう言えばそんなこと言ってたな」


 彼女が発した言葉の中で、唯一と言っていいほど意思の感じられたもの。感情などなさそうな彼女が、どうしてそんな事を言ったのか気になりはする。気になれば、その疑問を解消したくなるのは最早性だ。


「なぁ、あれどういう意味なんだ?」

「…………?」

「どうして人が来ちゃいけないなんて言ったんだ?」


 歩きながら器用にこちらへ顔を向ける魔篇。その黄色い瞳に感情の色は無い。


「来ちゃ行けないから」

「……どうしてそう思ったんだ?」

「思ってない」

「どういうことですか?」


 会話が成り立っているのか怪しいやり取り。この様子だと望む答えは得られそうに無い。が、自分が提起した疑問だからか、ユウが食い下がる。すると魔篇が足を止めて振り向いた。


「……どういうことってどういうこと?」

「えっ…………と……」

「ユウ、無理はするな。お前までおかしくなると誰を信じていいのか分からなくなる」

「……ありがとうございます。……えっと…………んと…………思ってない、って事は、あなたが考えた言葉ではないって事ですか?」

「うん」


 こくりと頷く魔篇。魔篇が考えた言葉ではないそれが、魔篇の口から飛び出す。……禅問答のような難解さに、半分ほどついていくのを諦める。


「じゃあ誰の言葉だって言うんだよ」

「…………誰?」

「それをわたし達に訊かれても……」


 流石のユウもこれ以上はお手上げか。幾ら魔瞳でも感情や思考までをも読み取れるわけではない。そもそも魔篇に思考能力があるのかどうかすらも怪しい……。

 そんな事を考える横からファルシアが呟く。


「恐らくですが、前の……魔篇になる前の持ち主の言葉では無いでしょうか?」

「前、って言うと《魔祓軍》の一人だったか」

「……もしくは魔篇になる前の日記に綴られた言葉かもしれませんね」

「どういうことですか?」


 ユウの問いに、それからファルシアは話を整理するような間を空けて紡ぎ始める。


「……これは確証がある話では無いのですが、ある一説によると魔剣に表面化する意識は《天魔》のそれと宿る武器の元の持ち主の思念が混ざると言われています」

「拠り代となる剣のか?」

「はい。魔剣の成り立ちはご存知だとは思いますが、《天魔》が剣に宿る事で特別な力を持った存在になります。その際に、宿る《天魔》の意識と、剣に蓄積された記憶が混ざることがあるのです」

「道具に記憶とはこれまた随分な話だな……」

「明確にそうであるという証拠はございません。ですが魔剣と化した《天魔》が、《天魔》自身も知らない記憶を持ち合わせている事が稀にあるそうです。そしてそれは、拠り代となった剣が、剣として振るわれてきた歴史に酷似している事があるそうなのです」


 誇大妄想の如きぶっ飛んだ話だ。が、退屈せずには済みそうだと身を入れる。


「具体的には?」

「例えば、ある人物が剣を片手に旅をしたとしましょう。その行く末に縁が結ばれとある魔物をその剣の中に封じ、魔剣化したとします。するとその魔物……《天魔》が、経験した事の無い旅の記憶を自分のことのように認識してしまうと言うことです」

「剣に宿る記憶ねぇ……」


 付喪神(つくもがみ)のように道具に意思が宿る言う話は枚挙に暇がない。が、それはファンタジーの要素で……と考えた所でコーズミマも大概常識外れかと納得する。


「物に宿る記録と言うのは確かに存在しますよ。教皇陛下を探した時がいい例です」

「……そう言えば馬車の装飾の切れ端を辿って探したんだったな」

「物には魔力が宿る。だからこそ様々な物が長い間魔力溜まりに放置される事で魔具として変質するんです。例えばそうして溜め込む魔力に関連付けて記録が刻み込まれれば(えにし)にもなりますし、魔剣として《天魔》が入り込んだ時にそれらが意識と混ざり合うというのは十分に考えられる可能性です」

「……じゃあ魔篇の言うそれも元となった日記に封じられていた記録って事か?」

「日記はそもそも記録をする書物ですからね。何より文字として直接刻まれていれば風化もし難いですから。それが記憶として混ざり、定着するのおかしくは無いと思います」

「つまり、ここに来てはいけない、って言うのは日記に記された一節だと?」

「もしそうであれば、『ここ』と言うのがわたし達が今いる場所と言う可能性は低くなりますね。魔力と共に綴られた文字だから魔篇の意識として吸収された。……そう考えると、魔力の溢れた場所で書かれた文章の一片か、もしくは筆に魔力を込めた一筆……後世に伝える為の書き残しと言う事もあり得ますね」

今際(いまわ)(きわ)のメッセージってことか。ってことは(さなが)ら魔篇はメッセンジャーって事だな」

「魔篇の言葉がそう言う意味を持っていれば、の話ですけれどね。単純に日記の他愛ない部分の引用かもしれませんが」

「それにしちゃあ随分な内容だけどな」


 一体どれだけの感情を込めてそれを記したのか。想像だけでは語れない。


「それに不思議でもあるんです」

「何がだ?」

「魔篇として魔物や魔力を溜め込んで日記が変質する。そうすると普通記録や記憶は千々(ちぢ)に埋もれてしまうんです。《天魔》がその一部を自分の記憶として認識するというのは、殆ど消えて……それでも消えなかったものが《天魔》の意識と混ざるからなんです。特に魔篇に関しては、複数の魔物を封じています。先ほど言った通り、中に封じられているのは恐らく低位の魔物ではありますが、それでもその数が異常です」

「……例えば低位に意識があったとして、それだけ沢山の意識が混ざり合えば物に宿っていた記憶は表に出辛くなる、ってことか?」

「はい。仮に一部が記憶として混ざったとしても、数多の魔物に細分化されすぎて、表に出るほどに形は留めていない筈なんです」


 日記の一説を、百以上の魔物で分割する。そうなれば、一つの魔物の意識が記憶しておけるのは数文字が限界。幾ら同じ本の中に封じられていても、それぞれ別の意識で管理していれば、再びそれが統合して表に出てくる事は無い。ユウはそう言いたいのだろう。


「そもそも複数の魔物を封じているのに、人格として表に出ている意識は一つだけですし。その意識も感情の無い人形のようで、カレンさんやチカさんとは大きく異なります」

「言われてみれば確かにそうだな」


 複数の意識が多重人格のように主導権を争った結果出てきたのが目の前の魔篇のそれだと言うならば、他の魔物が内側にいるのはおかしな話だ。それこそ共食い……蟲毒のように洗練されるはずで、共存は難しい。低位の魔物が持つ意識など、殆ど本能に任せた衝動だ。椅子が一つしかない状況、同じ住処で共存などしないだろう。


「もしどれか一つの魔物が意識として表面化する権利を勝ち取ったのだとすれば、それが主人格となって複数の魔術を扱うなんて形にはならないはずなんです」

「一体の魔物が勝ち取ったのであれば、一度細分化した日記に宿っていた記憶や記録が統合されているのもおかしいしな。例え他の魔物から記憶や知識を吸収しても、それで元通りになるとは考え辛いか」


 シュレッダーにかけたパズルのピースを元通りにするなんて器用な真似、低位の魔物の思考ではできるとは思えない。人間だって同じ事をしようものなら気が狂うほどの精神力が必要だろう。


「だからこそ、わたしが考えるのはただ一つ。……今わたし達が目にしている魔篇の意識と言う物は、単一の物ではなく、集合体の共通意識ではないかと」

「……どういうことだ?」

「魔篇の中には封印された魔物はそのまま残ってます。それを維持したまま、対外的に意思疎通を図る人格を新たに作り出して表層化している。それが今わたし達が見ている喋る人型の魔篇、だと言う想像です」

「…………つまりこいつのこれは、コミュニケーションを取る為に作り出したインターフェースって事か?」

「魔物の意識の表面化なら、もっと感情に溢れているはずですから。それがないという事は、感情が宿らない……例えば魔術で作り出された人に似せた人格、と言うことです」


 内側に眠る全ての魔物の総意を告げる仮初の顔。パソコンで言う所の、ディスプレイが今俺達が目にしている部分で。本体であるCPUやHDDに当たる部分に複数の魔物が未だ封じられていると。ユウが考える魔篇とはそういうものらしい。

 随分とややこしい話だが、納得できない話では無い。


「そもそも魔物が人の言葉を喋ったり人型を取ったりするのは、そういう意識があるからです。もちろん全部とは言いませんけれども…………少なくとも魔篇に関してはそうです。特に彼女は、人が想いを綴っていた日記が変質した存在ですから。人に対して意識が向くのはおかしくは無いと思います」

「……じゃあ、なんだ? 魔篇は人に憧れてるとでも言いたいのか? この表に出てる意思疎通の存在もその証だと?」

「それは分かりません。感情が希薄な人格がそういう命令を与えられえているだけかもしれませんから。けれど少なくとも、悪意を持っているようには思えません」


 少し話がずれたが、ユウの言いたい事は分かる。


「……結論は別として、何かしらの目的があって人と意思疎通が出来ると、そう言いたいんだな?」

「わたしはそう考えます。別に、必要ないならそれまでですからね」


 全てに理由がある、と考えるのはこじ付けかもしれない。しかし魔篇と言う特別な存在である彼女が、何かしらの意味を持っているかもしれないというのは……少しばかり賛同したい所だ。

 だって彼女からは、感情とは別の、意思を感じるから。俺が一度捨てた──生きたいと言う原動力を感じるから。

 それが何に端を発しているのかは分からないけれども。何か意味があるのかもしれないとは思う。……あったところで、俺に関係あるとは思わないが…………。


「誰?」


 声は前を歩く魔篇のもの。小さな呟きと共に足を止めた彼女に釣られて歩みを止めれば、じっと通路の先の暗闇を睨む。

 すると足音と共に、見慣れた顔が姿を現した。


「あ、ミノっ。よかった……やっと会えたぁ」


 目に見える安堵。途端、糸が切れたようにその場に座り込んだのは、魔術でこちらを探してくれていたらしいカレンとチカだった。

 頼った事とは言え面倒を掛けたと。思いながら、口は別の事を尋ねる。


「……なんで手なんか握ってんだよ。暗闇が怖かったか?」

「ふぇ……? あっ、違っ! これは、そのっ、そうしないと魔術が発動しなかったから!」

「無事でよかった……」

「勝手にくたばられたら困るからな」

「言ってろ」


 ま、そういうものらしい。何にせよ、互いに顔が見られて一安心だ。ショウの挨拶も相変わらずだ。


「教皇陛下もご無事ですか?」

「えぇ。落ち合えたのは幸いですね。直ぐにここを────」

「っ……!?」

「後ろ」


 再度の分断を警戒しながら一歩。足を出した所で隣にいたユウが慌てたように振り返る。次いでの呟きは、これまた魔篇のもの。導かれるように何事かと後ろを振り向けば、そこには魔物の大群が(ひしめ)いていた。


「倒したんじゃなかったのかよ……」

「新たに出現するくらいにここは魔力に溢れているということかと」

「ったく、しょうがねぇな。まぁ丁度いい憂さ晴らしだ。カレン」


 この距離なら彼女を魔剣として呼べるだろう。そう考えて背中越しに彼女を意識し左手を突き出す。…………が、幾ら待っても契約痕が疼く事も手の中にカレンが現れる事も無い。

 もしかして遠すぎたか……目算はもう5メートルも無かった気がするが。そう考えつつ彼女達の方を向けば、そこには想定外の光景が広がっていた。

 何か、目に見えない球体に閉じ込められているカレンとチカ、そしてショウの姿。声すらも遮断されているのか、何事かを叫んでいる二人の言葉は俺には届かない。咄嗟に契言を……と意識を向けたが、その回路も繋がらない違和感が行き場を見失った衝動のように胸の中に(わだかま)る。

 一体何が…………。

 そう考えた直後、二人の後ろから悠々とした足取りでメドラウドが顔を見せた。


「まったく……これ以上変な抵抗はしないで欲しいですね。道案内だけで十分です」

「…………え、何……」

「ユウ、構えろ」

「え…………?」


 魔術で剣を作って……その切っ先をメドラウドに向ける。すると彼は、飄々(ひょうひょう)とした様子で両手をひらひらと振った。


「おや、どうしましたか? 折角の再会に剣を向けるだなんて」

「…………なるほど、随分目の敵にされてると思ったら、お前が元凶か?」

「元凶って…………まさかっ!?」

「陛下、お助けを! そこの二人がぼくに剣を向けています。さぁ、早く魔篇を連れてこちらへ…………!」

「メドラウド」

「さぁ、へい────」

「どうして初対面の君がこの子を魔篇だと知っているのか、教えてもらってもいいか?」

「────────」


 問い掛けに、彼の目が見開かれファルシアに向けていた腕がだらりと下がる。次いで彼は、楽しそうに顔を覆って笑った。


「……あぁ、全く。少し焦りすぎました。……いけませんね、この性格は。どうにも時折抑えが利かなくなる…………」

「メドラウド、貴方は…………」

「お前は、誰だ……!」


 契約を介しての全てが届かない場所に隔離されたカレンたち。それを背後に伏せた顔を上げた彼が──(わら)う。


「では……改めまして。ぼくは《甦君門》のメドラウド──《ラプラス》です」


 紳士に腰を折る。刹那に、背後の魔物が(せき)を切ったように叫んでこちらへと襲い掛かってきた。

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