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名無しとカレンな転生デスペラードを  作者: 芝森 蛍
公国の無窮書架にて
36/84

プロローグ

 音のない世界に微かな紙の音が響く。揺らめく炎、遊ぶ影。

 文字と知識の虚の中心で、形の朧気な意識が高い天井を見上げる。

 光の差し込まない高い天井の果てを望むように空気が震える。


「────誰?」


 呟きは、けれども答えを返さず小さく虚空に静かに消えて。それでも尚瞳だけはその奥を見つめて離さない。

 名も知らぬ来訪者。姿見ぬ異邦人。

 空虚で薄弱で曖昧な実感。ただその真実だけが無い鼓動を鳴らす。


「────誰?」


 呟きは、響くだけ。


「────誰?」


 答えを求めて、紡ぐだけ。

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