花咲くひな祭り!
一応、桃の節句にあわせてかくつもり。
やっとこの日が近づいて参りました。
皆さま、春でございますよ!
皆さま、なんて言っちゃいましたがほんとに春が来ましたのは私かもしれません。
そうなんです、私、気になる殿方が出来ましたの!
あらら、失礼、申し遅れました。
実は私、桃の節句で毎年あなたとお会いしてますのよ?
そう、雛人形の三人官女のむかって左側のものでございます。
え?覚えていらっしゃらない?
……まぁ、仕方ありませんわね。
だって、桃の節句の雛人形のめいんはお姫様とお殿様ですもの。
それに、三人官女の左側だなんて、何をしているかもご存知でなくて当然ですわね。
少しばかり私の仕事についてお話しさせて頂きますと、私が持っているものは提子とかいてひさげと読みます、お酒が入った容器でございます。
お祝いのお酒を継ぎ足すための物でして、ここから右側のお方が長柄銚子でお酒をくんで、真ん中の方がお持ちになっている盃にいれるというしすてむになっております。
普段は姫様のお手伝いや、お世話をさせて頂いているのですが、この日は特別!なんといっても姫様のおめでたい日なのですから!
……とは言いつつも、実は私、不満がありまして……。
こんなこと、まわりの方には絶対に言えないので、秘密にしてくださいね?
わたくしも、彼氏がほしい!!のでございますわ!!!
だって、聞いてくださいな!どうして毎年毎年、お姫様とお殿様のお祝いをしていますの!?もう何年目になるか、数えるのも飽きましたわ!何年たってもずぅーっと結婚式!どーしてなのかしら!と、思っていましたら、これも何年前のことかわかりませんけれど、あのお方達、桃の節句の皆さまの前にお出になっていないとき、11ヶ月近くもの間、ずぅーっとらぶらぶされてましたの!それも何年も!桃の節句以外は私達は押し入れの暗い中ですから、あまり遠くまでは見えませんし、聞こえませんけど、それでもお二人の声は少しは聞こえてますのよ!愛がどうだの、好きがどうだのって、もう聞きすぎて飽きに飽きましたわ!確かに私達は私達を持っていらっしゃる方の健康や幸せを願うための人形ですけれど、それでも、やっぱり自分の幸せだって欲しくなってしまいますわよ! お隣の方はすでに結婚なさってますし、右側のお方は毎年より美しい長柄銚子になるようずーと磨き続けることに命をかけていらっしゃるような方で恋愛なんてこれっぽっちも興味がございませんの。五人囃子の方々は正直たいぷじゃありません!
あーあ、私もお殿様みたいないけめんと付き合いたいわ!!
……こんなこと、言っちゃいけないって、わかってるんですの。
すみません、本当に。もう何十年も私達を大切にしてくださってるご家族の方々にも、お姫様にも、お殿様にも、こんなの迷惑だとわかってるんですの。
今まで、姫様の色んなお世話をさせて頂くために、お父様やお母様も厳しく教育してくださって、女性としてできる限り恥のないようここまで過ごして参りました。
いわゆるえりーとと言われてきましたわ。
でもでも、ほんとは違いますの!私、そんなにきちんとした女性ではございませんの。言われたことをただこなし、仕事はみすが少ないよう心がけてきただけで、本当は何度か叱られるようなこともあって……。そのくせいじっぱりで、負けず嫌いで、頑固で、ほんとの女性らしさは多分あまり持ち合わせておりませんの。
こんな私ですから、自分の願望が出てきてしまうとなかなかそれがひっこんではくれなくて……。
……とっても前置きが長くなってしまいましたわ。
私、こんなことでくよくよしてはいられないのです!
そう、私にも気になる殿方が出来ましたの!!
なんて素晴らしいことでしょう!
え?私の近くに殿方をあまり見たことがないですって?
ええ、そうでございましょう。
私もつい3年前の桃の節句の時、私達を飾りつける準備のために、私達を持ってくださっている奧さまが押し入れを開けなさったときに初めて気がついたのですから!
そう、普段は暗い押し入れでございますが、ご家族の方が押し入れの物を取り出すときにだけ光が入ってくるのです。それはけっして長い時間ではないのですが、そのときに私は見てしまったのです!
あの方のお姿を!
そう、その方こそ端午の節句の時にいつも出ていかれる、鎧姿のあの方です!
……実は、ここまで引っ張っておいて、名前は存じておりませんの。
しかも、本当はお顔も拝見したことはございません……。
それでも、あの方のがっしりとした鎧姿と、しっかりとかぶられた兜からは風格といいますか、貫禄といいますか、ただ圧倒されるような男らしさを感じますの!
私達雛人形と比べると、かなり大きなお身体だとは思うのですが、そこもまた男らしくて素敵でございましょう?
あぁ、今年こそは、今年こそはあのお方のお顔をお目にかけたいものでございます。
去年は、そのお方が同じ押し入れに入れられる所しかお目にかかれなかったので……。
どんなにいけめんなのでございましょうか……。
ああ、こんなに桃の節句が楽しみなことは今までありませんでした!
奥さま、はやくここの扉を開けてくださいな!
きっと、次にご家族がそろって天気の良い日にここをお開けになるはずです。
そのときがとても待ちどおしくて仕方がありません!
長々と、すみません。
こんな私の浮かれ話を聞いて頂いて……。
でも、もしよろしければ次も私のお話を聞いてはくださりませんか?
次にお会いするときの話は、きっとあの方のお姿を確認した後でもっと浮かれているかも知れませんが。
ほほ、そのときはまたよろしくお願い申しあげますね。
ふふっ、ではまた、お元気でっ。
あと、2話くらい続きかくかもしれないです。