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魔王さま、賃貸ダンジョンはじめました  作者: 瀬川綱弘
File2-4:城塞ダンジョン籠城編 ――美人の/裸は/超すごい
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第41話:魔王の湯煙攻防戦~男の威厳を守り抜け~(4)

 浴槽に足を突っ込んだ体勢で、倒れているアーリヤ。


 その足には、何故かお湯が固形になって纏わり付いていた。


「は? なにあれ――」


 この目で見ても、なにが起こっているのか判らない。まるで、お湯がスライムのような固形になっている。


 と思ったその時、お湯の塊がぽっこりと膨れあがる。そこには、見慣れた上半身が生えていた。


 お湯が香草か何かで色づいているのか、躯は紅色に色づいているものの、その幼さを残した表情とそれに反比例するダイナマイトボディは見覚えしかない。


 そんなわけで、スライム娘が俺を見つけると笑顔で手を振ってきた。


「あ、ご主人様。やっほー! きちゃった!」

「ライムッ!?」


 何故か、湯船のお湯からライムが現れていたのである。


「えへへ、仲間はずれが寂しいから、ライムも来ちゃった!」

「どうやって――」


 俺は、浴室にお湯を注ぐ水道管を見る。その周りから、ねっとりと粘性のある液体が滴り落ちていた。


 あーっ、下の水道管から上ってきたのか!?


 確かにスライムなら可能、なのだろうか?

 まあ、ある程度は複雑であろう配管を伝ってここにたどり着けたのはスライム娘であるライムならではの手腕だろう。ふふふすごいぞライム。うちのスライム娘は世界で一番強いな!


「お、おのれ魔王……部下を湯船に待機させていたとは、卑怯なっ」


 でもそれは本当に誤解なんですよ。


 ううむ、また言い訳する必要が――


 だが、待てよ。俺は顎に手を当てて考えてみる。

 それはともかくとして、これは女王さまと面と向かって話すチャンスなのではないか?


 しかも、今までと違って、こっちが主導権を握って。


 よし、そうと決まれば話は早い方がいい。


「よしライム、その人を湯船の中に引き摺り込め!」

「おー!」


 お湯からライムの腕が現れてアーリヤの肩を掴むと、そのまま湯船の中に引き摺り込みにかかった。


「ひっ、やめっ!?」


 抵抗しようと床を引っ掻くが、浴場の地面には掴めそうなものなんてないのだ。ズルズルと引き摺られて――あっ、おっぱいが押しつぶされてなんか大変エロいことになってる――お湯の中に躯を呑まれた。


 それでも湯船のふちを掴んで、胸より上はお湯の中にいれるまいと耐えているのは流石さすがといえよう。


 またしても睨まれる。


「そ、そなた! 恥ずかしくないのですか、こんな幼い少女を利用して人を捕まえるなど。まさか、こんな無邪気な子にも鬼畜なことを!? そんな子供の躯で!?」

「してない」


 だからそんな鬼畜ロリコンショタ野郎を見るようなおぞましげな目はやめてください。辛い。


 気まずい空気を払拭するために、俺はすぐさま本題を切り出した。


「ちょうどいい、ここでたっぷり話を聞かせてもらおうか。

 なんだ、地下のモーラットの大量発生は。とんでもないことになってるじゃないか。王国はちゃんとダンジョンを管理してたのか?」

「以前はしていましたわよ。ただ、どこかの誰かが魔王として名乗りをあげるから、そちらに軍備を傾けねばならなかっただけです。そのせいで大量発生したのですから、ええ、魔王たるそなたが尻ぬぐいをするのは当然では?」


 アーリヤが蔑みの笑みを浮かべる。


 その背後からライムがにょっきりと現れた。


「え、お尻拭くの? わかったー!」

「はい? いえ、そういう意味ではなくあひゃんっ」


 ライムの躯(浴槽のお湯すべて)がじゅるじゅると蠕動ぜんどうする。アーリヤが目を見開いてすごい声を出した。


 お、おお……。


 躯が浴槽の中だから、具体的にどうなっているかは見えないが。なんかとんでもない。しかし隣からすごい冷たい目線を感じるので、俺は咳払いして追求を再開した。


「いやいや、確かに俺がフォローするのはやぶさかじゃないけど、あの数を一朝一夕で解決できるわけがないだろ。このままじゃ、アシッドはどうするんだ」

「はっ、白銀城塞と名を冠するグローラの防衛力を侮らないで頂きたいですわね。あんなもの、いずれ撃退してみせます。幸い、兵力ではこちらの方が遥かに上回ります。この意味がおわかりですわよね?」


 もちろん。歴史ゲーをやっていれば判るが、要するに城攻めを成功させるには防衛側を上回る兵力がいるのだ。この城塞都市にどれほどの兵士がいるかは不明だが、この規模である。十数万人は配備されているだろう。


 つまり、これを落とすには三十万だとか五十万だとか、そんなとんでもない数の兵力がいるのである。そして、相手にはその兵力はない。


「あちらはモンスターを使って攻めて来ていますが、なに、その程度たいした問題ではありません。むしろ知能が低い分、やりやすいというものでしたよ。今日も街を揺らすことさえあれど、城壁には傷すらつきませんでしたからね」


 俺たちが地下で感じた揺れは、進軍してきたモンスターたちによるものだったのか。


「そなたたちは無用の心配などせず、地下のモーラットを駆逐することを考えていなさい!」


 そんなの、無理に決まっている。


 簡単な話、それだけの兵士を抱えるほどに巨大な都市、その地下に張り巡らされた下水の害獣駆除を数人でおこなえと言っているのだ。

 どうやっても、倒す速度より生まれてくる速度の方がはやいに決まっている。


 この女王さま、それを理解しているのだ。最初から、俺を信用する気などないのである。


「お断りします。せいぜい、モーラットの駆除に精を出したら良いのです。浴場で精を出す前に!」

「出してない!」


 赤面しながらこんな親父ギャグすれすれのジョークを飛ばしてくる女王陛下、もしかして貴方ムッツリスケベだったりしません?


「くぅ、そんなの無理に決まってるだろ。最初から無理だと思って難題をふっかけて来やがったな!」

「ええ、ええ、そうですとも。ふつうに考えれば無理ですわよ。わたしたちも対処ができないから、地下が野放しになっているのですから。

 しかし、当然ではありませんこと? ふつうでは出来ないことを成し遂げるからこそ人は賞賛されるのですし、それくらい成し遂げられる人間でなくては、受け入れようなどと思わないでしょう」 


 確かに、勇者が魔王を受け入れることこそが既に異例なのである。

 ならば、合格できる前提の試練ではなく、出題者にすら解法が判らぬ難題を出し、それを解き明かせる能力の持ち主でなくては、共闘相手としては不適切だ。


 目が遠くなる。世の中、問題には答えがあると当たり前に思っていた。ああ、学生時代に帰りたい。勉強をして試験を受け、返ってきた答案を見て間違いを正す、これを繰り返して駆け上がっていくだけで評価される教育機関の、なんと判りやすい動線の引き方か。


 なんか前の世界に帰りたくなってきた。

 と、ふぬけ気味になっている俺を叱責する言葉がゼノビアさんから飛んできた。


「魔王さま、そこで相手に呑まれてどうするのですか。服で着飾らねば弁舌すら保てませんか」

「いやふつう全裸で討論は無理だと思う」

「であればこそ、ここで言いくるめられればカリスマ性のひとつも出せますのに……仕方ありません。ライム」


 ゼノビアさんが恐ろしいことを口にした。


「その人の全身をマッサージして差し上げなさい」

「まっさーじ? わかったー!」


 突然、アーリヤの目が驚きで見開かれた。両腕を湯船に突っ込んで身をよじらせる。


「ひゃっ、こらっ、どこを触って……はひっ」

「女王陛下は公務でお疲れのご様子です。ですから、ライム。丹念に、隅という隅まで、揉みほぐしてあげましょう」

「サービスってことだね! わかったー、ライム、女王さまのためにがんばる!」


 湯船から浮かび上がったライムの上半身が敬礼をすると、お湯の表面が波立った。


 巨大な浴槽に溜まったお湯は、いまはそれら総てが意志を持ってアーリヤの全身を包み込んでいるのだ。


「こ、この淫魔っ、子供になんてことをさせるのですか! こ、この……コラ、やめなひゃい!」


 ざぱっ、とお湯を掻き分けて、ピンと伸ばされた足が突き出される。いつもは鎧に隠されている御御足おみあしは、日焼けのない綺麗な肌の色だ。しかし、ふくらはぎから太股にかけての筋肉は、獅子のようにしなやかで美しい。


 病的ともいえる肌の白さと、逞しい肉付きのコントラストに目を奪われた。そこへスライムがぬるりと絡みついていく様は、扇情的としか表現のしようがない。


「うわぁ、女王さまの足ってすっごい硬いね。ライムしってるよ、肩を揉んだりするのって親孝行? って言うんだよね! たぶん! なら足もマッサージしないと!」

「誰の足が硬いとひゃうっ」


 アーリヤの爪先が、ピクピクと震えた。


 うわ、なんだこれ、エロい。

 ただのマッサージなのに途方もなく、エロい。

 高貴なる女王さまの浴場マッサージから目を離せない――!


 突然に目の前が真っ暗になった。


「魔王さまにはまだ早いです」


 ゼノビアさんに目を塞がれたらしい。


「ここまでやっておいて!? お預け!? マジで!?」

「あっひっひっ」


 待って、これで声だけ聞かされるの逆にマズいよ。


「さあ、魔王さま。交渉しましょう。きっと、快く提案を引き受けてくれますよ」

「だ、誰が聞くものですかっ」

「いつまでその気丈な態度が持つか、見物ですね」

「ゼノビアさんそれ完全に悪役の台詞」


 しかも子供は見られない本に出てくるヤツ。


 ライムに絡まれてか、息も絶え絶えなアーリヤの声がする。得心のいったような声音だ。


「ぐっ、そういえば、聞いたことがあります。かつて組織の男をかどわかし、内部崩壊に導いた淫魔がいたと……。まさか、そなたも以前魔王軍にいたという……〈淫蕩侍女いんとうじじょ〉!」

「ゼノビアさん何やらかしてたの!?」

「失敬な呼び方もあったものですね。私がおこなったのは聖なる行いで、そのような不埒なこと……。男を拐かすなど心外です。ですから魔王さま、安心してください」

「そ、そうなんだ。男を拐かしたりしてないんだ」

「ええ。きちんと女も堕としてましたよ」


 ごめんそこ心配してない。


「淫魔は男女の区別など致しません、これだから人間の理解と倫理は未成熟というのです。もっとも、その偏見もすぐに取り去ってしまえますが……快楽責めで」

「快楽責め!!!」


 快楽責め!!!!!


「でも困りましたね、将来は魔王さまが娶る相手。あまり開発してしまっては教育に悪いでしょうか」

「っていうかゼノビアさんもライムもステイ、ステイ!」


 なんか俺が止めないとこのままとんでもない方向に進んでいきそうです。

 根本的に倫理観が俺たちとは大違いだ。いや、ゼノビアさんの考え方は人によってはノリノリで賛同してしまうかもしれないが。

 いや、俺もどちらかと言うと賛同してしまう方でもあるが、そもそも。


「何故止めるのですか? 魔王さまは、控えめにいっても自制心がある方とは思いませんでしたが……」

「あのね、まわりがノリノリだと逆に我に返るからね」


 スケベだハーレムだと浮かれるには、周囲のツッコミがなければ言えないものである。本当に乗り気になられると女性経験皆無の俺は場の空気に酔って死ぬ。


「それよりも、女王さまのことは離して……あと俺の目隠しも取って。いくらなんでもやり過ぎ」


 ゼノビアさんが、渋々といった気配で手を離す。

 アーリヤが、湯船の縁に手を置いて、ぜえぜえと肩を上下させていた。額には髪の毛が張り付いていて、顔も真っ赤になっていて、これ端から見たら勘違いするしかない見た目である。


 すっ……(桶で自分の股間を隠す)。


「事情はわかった。女王さまの言うとおり、地下大水道のことは俺が解決しなくちゃならない。はやく解決しないと、アシッドも攻めてくるし」


 努めて真面目な顔でいった。うむ、なにも恥ずかしいことなんてない。


「ぜえ、ぜえ……自惚れないでくださいな。あのような吸血鬼、返り討ちにしてくれますわ……」

「返り討ち、というのも大言壮語ですね。人間が束になろうともアシッドに勝てるわけがないでしょう」


 俺はゼノビアさんにジェスチャーで頭を下げてくれるようにお願いする。つとめて相手のおっぱいを見ないようにしながら。

 膝をついたゼノビアさんの耳元にささやく。


「ゼノビアさん、アシッドのレベルっていくつなの?」

「私が知っている当時でも、2000を越えていました」


 に、にせん。


 ゼノビアさんと比較すると小さい数字に思えるが、俺からすると雲の上である。そして、それは女王さまたちといえ変わらないはずだ。


 なにせ、アーリヤたちが俺の城を攻めてきたとき、俺はゼノビアさんに聞かされていた。アーリヤのレベルを、だ。

 そのレベルは、149。配下の平均レベルは30。

 文字通り、桁が違う。


「それでも、この城塞でしたらアシッドを追い返すことはできるでしょう。ですが、絶対に傷をつけることはできません。戦力差は絶望的なのです」


 元・魔王軍幹部。その実力は、現代の勇者でもってしても到底及びもつかない能力をしていた。

 まずい、女王さまは誤解をしている。自分たちで対処できると思っているのだ。

 アシッドを倒すには、ゼノビアさんをぶつけるしかない。でも、それをさせまいとしているのである。


 時間なんて残ってない。なのに、俺がこの国で動くには、多大な時間をかけてモーラットを倒すしかない。

 そしてこの国がなくなれば、アシッドとその配下の軍勢を相手に俺たちだけで戦わなくてはいけないのである。


 勝てない。俺は殺されはしないだろうが、あの女に捕まったらなにをされるかと考えると……寒気がする。


 こうなったら、なにがなんでも王国の戦闘に食い込むしかない。


「頼む、女王さま。なんとか地下のクリスタルに触れる許可を――」


 俺には、モーラットを倒す作戦はそれしか思い付かない。なので、なんとしてでも許可をもらわなくてはにっちもさっちもいかないのだ。


 だから、もうこうして拝み倒すくらいしか。


 ……。


 しかし返事は返ってこなかった。


「……女王さま?」


 あれ、さっきまでの怒りに満ちた声が返ってこない。

 俺が顔をあげると、女王さまが縁に躯を預けて俯せになっていた。


 ライムが首をかしげながら、アーリヤの躯を突いていた。


「ねーねー、ご主人さまー。女王さま、動かなくなっちゃったよ?」


 …………………………。


 アーリヤがピクリとも動いていない。

 俺は愕然と呟いた。


「し、死んでる……」

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