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15-16:「思い出は一瞬の風に」  作者: 郡山リオ
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15:「私のとなり」

この作品の読み上げはyoutubeに公開しています。機会がありましたら、ぜひ!

 https://www.youtube.com/watch?v=TFYIGaoT35Q

 これは、恭介と淡雪が別れる、三日前のお話。

 

 ぼんやりとした夕暮れの景色の中、私たちは霞んで行く雲のようにのんびりと歩いていた。暖かい茜色に染まる。空も雲も木々や街やそこに暮らす人々までもが同じような色になる瞬間。

 ここにカメラがあればなぁ、と自転車の空っぽなカゴの中を見て、ため息をついた時、亮一が声をかけてきた。

「疲れたのか?」

 的外れな質問。それでまた、私はため息をついて頷く。

「そう、ちょっと講義で疲れちゃってさ」

 適当な理由。昼間、楽だからという適当な理由で選んだ講義。そこで現れたアマガエルに気分を害された私は、少し不機嫌でもあった。

「提出する課題とか多いもんな」

 そうやって、ぼんやりと歩く彼は的外れな話題を嬉々と話し始める。

 自転車の車輪がカラカラと音を立てている。鳥が飛んだ。子供たちが前から走ってきて、追い越して行った。川の河川敷が見えた。土手の上の細い道は2人並んでは通れなかった。

 

「でさ、俺さ、困っちゃって」

「そうなんだ」

「でさ、でさ……」

 楽しそうだな、と私は彼を見ていて思った。良い人なんだけど、とも。明るく、楽しそう、……だけど、どこか頼りない。少し残念。

 

 私は、ふぅっと嫌な気持ちを飛ばした。空を見上げながら、いつからなんだろうと考えた。

こんな風に素直じゃなくなったのは、いつからなんだろう……。

 

 少なくとも幼い私は、思ったことという言葉は同じだったはずだ。それがいつから、嘘を覚えて、口から出る言葉と頭で考える言葉に違いができるようになった。それが、人を傷つけないためなのか、自分を傷つけないためなのか、わからないけれど、多分傷つきたくなかったんだと思う、自分が。思ったことをずっと言っていれば、周りはいい顔をしなくなるし、邪魔者としても扱われる。私は私の居場所をなくすことになる。自分の居場所をなくさないためにも、目をつむり、耳をふさいで、口を閉じることが必要になってくるのだ。

 

「それでさ、俺、言ってやったんだ」

「なんて?」

「お前の手元に置いてあるだろ、って」

「ふうん」

「そしたらそいつ、慌てちゃってさ……」

 無邪気な笑顔だと思う。裏表ないようにも感じる。茜色に染まった彼はどこかに消えていってしまうような儚ささえ感じられる。周りのことを気にせず生きられたら、こういう風な笑顔になれたのかな? 羨ましいと思う反面、こんな風に頼り甲斐のない人間になるんだったら、っていう矛盾した感情が私の中でぐるぐるする。壊したい、そんな乱暴な気持ちが私の中で芽生える。

 爽やかな風が私の前髪を揺らした。その時、思ったんだ。この人の何かを傷つけたい、っていう、一瞬の思いつき。

 

「あのさ」彼の会話を遮っての言葉。彼がこのあと何を話そうとしていたかなんて、私には関係ない。

「えっ、どうしたの?」急な私の言葉にキョトンとした彼は、私の言葉の続きを待っているようだった。

「家はどこなの?」

「あ、家? えっと……」と、しどろもどろになりながら、さっきの話しから頭を切り替えられていない彼を待っているのがもどかしくなった私は、河川敷から見えたマンションを指差して言った。

「 私のマンション、あそこなんだけど」

「へえ、結構近いんだね」

「よかったら、上がっていかない?」

「まじで、良いの?」

 私は笑顔で頷く。

「うん、ここまで帰り道一緒だしね。飲み物くらい出すよ」

 なんて、何にも知らないような純粋なフリをして。

 私のマンションが近づく。カラカラと音を立て車輪が転がる。彼の足音が少し軽くなったように聞こえる。私は、考える。どうすれば、彼が困るのか。彼が悩んだり、少し苦しむのか。

 重なる足音が車輪の音にかき消される。耳をすませば呼吸の音まで聞こえてきそうだった。

 どうすれば、悩んで、捻くれて……すこしでも、私に近づいてくれるのかな、って私は考えていた。

 

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