キチガイfamily
書きました
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指に激痛が走る。これで3度目だ。今日はせっかくの日曜日だと言うのに、全くもってついていない。
「次は足にしてみようかぁ。」
にやけながら、そう満足げに父は呟きながら、僕の部屋から出て行った。
指先から溢れ出る鮮血をなんとなくもったいなく感じ、ストローを近づけ口に含んでいく。それはまるで、いちごのように酸っぱくりんごのように甘いジュースのようだった。
今年で36になる斉藤春男は、息子、秋の世話に手を焼いていた。何度注意をしても言うことを聞かない息子についカッとなり息子の指を切ってしまう。それは彼の悩みであり、日課であった。
昨日で失った指は、ついに3本目となった。そろそろ生活に支障が出る頃だと、まるで他人事のように思ってしまうのは、おかしいのだろうか。
そんなことを考えながらテレビを見ていると、左上には8:20と表示されているのに気付き慌てて用意をした。そろそろ学校に登校しないとまた指が1本失ってしまう。
用意をし終えたアキは、逃げるように家から出て行った。
「おはよう!アキ」
そう笑顔で挨拶をしてきた佐藤和夫は、まるで子供のように接してくるからかえって怖い。
僕が無視して歩き始めると、あちらも歩調を合わせて近づいてくる。たまに「今日はいい天気だね!」と子供のように言ってくる。こんな出来事が1カ月欠かさず毎日続いているのだからため息もでない。「今日は45歳のお誕生日なんだ!」と声を弾ませ ながら話してくるストーカーを見ていると実に不思議に思えてくる。もう立派なおじさんだというのに背にはランドセル。手にはリコーダーと安そうなおもちゃの剣を握りしめている。
普通ならこういうひとは変質者として警察に捕まえてもらうのが常識 なのだとは思うが、彼の屈託のない笑顔を見ていると不思議とアキは次第に親しみを覚えいくのだった。
不意にアキは不安を感じた。何かを忘れているような気がする。持ち物は登校する前に確認したから大丈夫なはずだ。宿題もやった。ならー
不安の正体が分からず半ば諦めるように空を見上げた。気持ちいい風が肌に触れて気持ちいい。空には雲ひとつとしてない快晴青く澄み渡っていた。僕が忘れていたのは、遥か昔から存在する、美しき大自然だったのだ!
アキが忘れていたのは大自然などではなかった。8:25分までに着席しないと遅刻になってしまう。
市立南小学校では8:40分に校門をくぐったアキが遅刻した罰を受けていた。
先ほど食らった一発で目の焦点が定まらないアキは廊下にたたづんでいた。すると頭上から
「アキくん、教室に行こうか。立てるかい?」
と、猫なで声が聞こえた。声の主の方に振り向くと、そこにはアキの担任、目頭殺鬼がいた。急に人格が変わるこの教師は自然な笑みでこちらに手を差し出している。
『死ね!クソ教師が!』
そう思うアキだったがここでそれを口にだしてしまえば、命の保証はない。
結局アキは下をうつむいたまま小さな声で
「一人でいけます」
と呟き教室にはいっていった。
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