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壺の魔人

作者: 前田剛力

身体がグラリと揺れたのでわしは目を覚ました。

あまりに長く待ちわびて、寝入ってしまっていたようだ。

やれやれ、これで助かったと思った瞬間、ゴロゴロっと転がり始め、すぐにザブンと水に落ちたようなショックを感じた。どうやらまだ、拾い上げられたわけではないようだ。

それにしても、やっと地表に顔を出すことができた。あれから何百年経ったかな。

前回は「壷」から抜け出せた喜びで「ことを急ぎ過ぎた」ようだった。助けてくれた漁師を食ってやると脅したら、逆に騙されて、またこの壷に閉じ込められてしまったのだ。

それから呪いによって壷ごと宙にはじき飛ばされ、どこか分からぬ国のどこか分からぬ山奥の地中深く埋められてしまったのだ。それが長い年月と風雨の作用で洗われて地表に現れたのだ。

静かに上下しているところをみると川を下っているのだろう。このまま流れに身を任せていれば、いずれはどこか人間の住むところにつくはず。

今度こそヘマはできないぞ。

まずは、いかにして壷を拾ってくれた人間を驚かさずに蓋を開けさせるかだ。「壷の魔人」の悪い噂が広まっていることは覚悟しないといけないからな。それにもし、壷から出ることができても、わしの本当の姿を見て腰を抜かされては何にもならぬ。

だからわしは、相手に怖がられないよう、まず変身した。そして、壷もそれと分からぬ形に変えたのだ。この外見なら見つけた人間は必ず拾って、開けようとするはずだ。

そのあと、三つの願いを相手に言わせ、それを叶えてやれば呪文は解けてわしは自由だ。

また何でも悪いことが出来る。今度は神に捕まるようなへまはしないぞ。壷を開いた人間に何とか早く三つの願いを出させ、それを叶えてやるのだ。今回は、そこまではきちんと約束を守るつもりだった。


突然、壷が拾い上げられた。どこかに移動している。わしは壷を軽くして、持ち運びやすいようにしてやった。

それからどこかに置かれ、蓋がこじ開けられた。

外の人間にはこの壷がうまそうな食べ物に見えたはずだ。そしてわしは可愛い可愛い赤ん坊に見えるはずだ。これならだれもわしを怖がりはせぬ。


「ばあさんや、ビックリした。桃を割ったら赤ん坊が現れたぞ」

 おじいさんは腰を抜かさんばかりに驚いた。

「本当に、可愛い赤ん坊だこと。子供のないわたしたちの子供になってちょうだい」

「うむ、早く大きくなって、年取ったわしらを助けて欲しいものじゃ」

よし、願いを二つとも叶えるぞ。あと一つ。

「大きくなったら、強くて正しい心の少年になり、村人を苦しめる鬼を退治しておくれ」

 まさか! 心正しい者になれだと……まさか。

こうして、壷の魔人は桃太郎になったのである。



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