旅立ちの方法
3本目です。
読んでやってください。
絶妙な空気が辺りを包む。
焦りを隠しきれていない神に、
至極当然な疑問をぶつける。
「それで神様、俺はこれからどうなるのでしょうか?やっぱり転生とかですか?」
質問を聞いた神は挙動を止め、
普通に話し始める。
「神である私をここまでコケにするとは…
まあ許しましょう、
なんて言ったって神ですからね。
そして先程の質問に答えましょう。
あなたにはこれから、
ある世界を救って欲しいのです」
やはりだ、
どうやらこれから異世界に転生してチートでハーレムな暮らしを送るらしい。
脇役以下からの大出世、
まさに二階級特進ものである。
果たしてどんな世界に転生するのか、
自身に起きた転機に心が躍る。
「そ、そこはどんな世界なんでしょうか!?」
溢れる期待から神に問う。
「あなたのよく知る世界ですよ」
神は含みのある笑みで答える。
…俺のよく知る世界?
っていうことは現実世界?
どういうことだ?
理解の追いつかない俺を尻目に神は話し続ける。
「昔々の、あるところの世界!」
聞き慣れた、いや読み慣れたフレーズ。
「空想にのみ存在すると思われていた世界!!」
神を照らしていたスポットライトのような光が徐々に煌き出す。
「悲しい結末を迎えてしまった世界!!!」
神がそう言い終わるや否や、暗転。
暗闇に、神の声のみが響く。
「あなたには!!!!」
周囲が光に包まれる。
俺が立っていたそこは、大きなホールの中心。
円形のホールを囲うように置かれた本棚は
視認できない程高く、そしてその全てに、隙間無く本が詰め込まれている。
「この世界図書館に存在する全ての世界、つまりは全ての物語を!ハッピーエンドにして欲しいのです!!」
神は高らかに宣言した。
「ハッピーエンドに…?」
神の言葉、
その真意を未だ理解できていない俺は神に聞き直す。
「言葉通りの意味ですよ、青目さん。
この世界図書館にはいくつもの物語が存在しており、
その内容はハッピーエンドは勿論、
ビターエンドやベターエンド、バッドエンドと様々です。
青目さんにはその世界に行き、自らの手でハッピーエンドへと導いて欲しいのです」
神は俺の反応に気分を良くしながら答える。
「な、なるほど。…でも何故俺が?
自分で言うのも何ですが、俺には何の取り柄もないんですよ?」
「……それはですね、あなたが心優し」
「それ絶対今考えてますよね?」
神のあからさまな嘘に思わずツッコミをいれる。
「バレてしまいましたか。
まあ実際のところ、あなたに目をつけたのは偶然でした。
しかし観察していて分かりました、あなたはハッピーエンドを何よりも好み、それ以外のエンドを何よりも嫌っていたのです。
それだけで、あなたが選ばれる理由は充分なのです」
神は真面目な顔で言う。
というか俺観察されてたのかよ…
予想外のことに 驚きはした、しかしそれ以上に脇役以下であった自分が選ばれたこと、そして長年抱いてきたハッピーエンドへの渇望が満たされるかもしれないチャンスに思わず頬が緩む。
「…やって頂けますか?」
俺の表情を確認し、神は問う。
「はい、やらせてください!」
不安が無いわけではないが、どうせ死んでしまったのだ。
ならば、やるしかないだろう。
「素晴らしい!、それでは早速、まずはこちらの世界に!」
神は大いに喜び、1冊の本を取り出す。
「いや、その前に色々と準備とか詳しい説明とかは!?」
急展開に慌てる俺。
「いえいえ、別に準備なんて必要無いですよ。
その身一つで頑張ってください」
神は取り出した本をパラパラとめくる。
「え、特別な道具は!?
それか特別な能力とか!」
慌てる俺。
次第に周囲を光が包む。
「そんな物はありませんよ。
何せこれから行く世界において、
あなたは本来登場しないはずの人物、
脇役以下なのですから。
ご自身の力のみで、
陰ながら頑張ってください」
神は笑みを浮かべて言う。
「ちょっ…!」
突きつけられる現実、
どうやら俺にスポットライトが当たることは無いらしい。
慌てふためく俺を無視、
神は一呼吸をして…
「昔々、あるところに…」
神は言った。
そのお馴染みのフレーズを皮切りに、
周囲の光が強さを増し、視界を奪う。
本当にこの身一つで行くことになるとは…
チートもハーレムも無い
、ただの無理ゲー。
これから待ち受けるであろう困難と苦悩を憂いていると、突然の浮遊感。
周囲を包んでいた光が消え、視界が戻る。
眼下に広がる大海原、
落ちていく俺。
…また俺死ぬの?
やっと旅立ちました。
ここから頑張る。