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初恋ラフプレー  作者: 華由
第一章 求婚女のあだ名は馬鹿女
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 プロローグ



 世の中にはいろんな人間がいる。

 そんなことは小さい頃から分かっていたことだ。でも目にするまではまったく実感なくて、だから彼女を見て思った。

 ――世の中には俺とはまったく境遇の違うヤツがいる、って。

 でもだから何だって感じで彼女がどうなっても俺には関係ない。

 昔こんな話を聞いた。世界には何十億という人間がいて、そして一分で百何人という人が生まれ、一秒間に二、三人死んでいく。もしその話が正しければ、一分間に百何人が死んでいることになる。つまりたった一分で人の数はプラスマイナスゼロになりかねないということ。まあでも小さい頃に聞いた話だから、それが正しいことかそうでないのかは分からない。また、特に勉強しようとも思わない。

 だってそうだろ。一秒間に数名の人が死んだって、自分に面識のある者の死以外は誰も気にしない。だからこそ、戦争も起こる。無差別殺害も起こる。もし全員がそれを気にしていれば、そんなこと起きはしない。

 結論を言ってしまえば、人は自分に関わりのない者に関して、途轍もなく疎い動物である。イコールして繋げるなら、俺にとって彼女は気にする存在ではないということ。彼女の境遇がどんな内容であろうと俺が関わることも、気にすることもない。

 学者が何を言おうと、俺的理論ではそう決まっている――なんてことを、目の前で繰り広げられているお嬢様とそのメイドのやり取りを見つめながら、俺は考えていた。

 大きな屋敷に大きな部屋。床は大理石で作られていて、どこからどう見ても高級感あふれる内装。そんな豪華な部屋の床には最高級の紅茶とお嬢様の専用ティーカップの破片が無残に広がっている。


「貴方なんてクビよ!」

「ごめんなさい」

「貴方ね、メイドとしての役割を知らないのかしら? この役立たず!」


 隠しきれないという怒りを眉間に深く刻みながらお嬢様はメイドを罵倒する。するとメイドはペコペコと頭を下げた。

 メイドはお嬢様同様に若くて、俺と同じくらいの年齢だというのは訊くまでもない。


「出て行きなさい!」

「ごめんなさい」


 懸命に謝るメイド。でも、すこぶる機嫌の悪いお嬢様は普段以上に怒りに溢れていて、それを許す素振りを見せない。その剣幕にメイドは目に涙をいっぱい浮かべながらお嬢様に謝り続けていた。

 そしてお嬢様は静まることのない怒りをぶつけた後、そのまま部屋を去っていく。その間、メイドはお嬢様の背中が見えなくなるまで頭を下げていた。

 お嬢様の姿が見えなくなると、メイドは粉々になったティーカップの破片を集め始めた。その目からは堪えきれなくなった涙がボロボロと落ちていたが、邸にいる他の使用人たちは彼女を助けようとはしない。むしろ、何も知らないと言わんばかりに、みんな目をそらしていた。

 そんな出来事があった一ヶ月後。

 俺はまたそのお嬢様の家にいた。そしてそこにはまだ彼女もいた。そして何かある度、彼女はお嬢様に必要以上の罵声を浴びせられていた。

 この時、若いのに可哀想だな。とか、不覚にも思った。何の理由があってここまでメイドの仕事を続けるのか。俺には到底理解できなくて、でも彼女にとっては仕方のない定めなのかもしれないと考えをめぐらせれば、なおさら不憫に感じた。

 だからか、声をかけてしまった、「大丈夫?」と。そしたらメイドは「心配してくれるの? ありがとう、嬉しい」と泣き顔のまま目を細くした。

 こんなに懸命な笑顔を作っている人間がどうして報われないのか、どうして幸せになれないのか。無意識に彼女のことを不幸な少女として俺は見るようになった。もしかしたら女の子にしては短すぎる髪の毛がまたその思いを煽ったのかもしれない。

 それからだった。そのメイドを見る度に声をかけるようになったのは。話しかけるとメイドは嬉しそうに笑った。天気の話や世間話、テレビは見てなかったらしくテレビで見たことを話すと喜んでくれた。その顔は作り笑顔とかじゃなくて、一目で俺は好きになった。そして俺はメイドに訊いた。「一緒に暮らす?」――と。

 まだ小学六年生という子供には少し大人びた台詞だとも思ったが、当時はその言い方以外のものは見つけられなかった。

 そしてついに、その数か月後。彼女はメイドとしての役割を剥奪されて、お嬢様の邸からいなくなった。

 最後にした会話の答えも訊けないまま。









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