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前編

 

  『俺は立派な軍人になる!!』


 兄のその言葉によって、俺の人生は大きく変わってしまった―――


 ****


 俺はゼオニス王国の某伯爵家の三男として、ジェラルドと言う名前で生まれた。上には2人の兄が、下には3人の妹がおり、別に跡継ぎでもないうえ、一番上の兄に何かあってももう一人の兄がいるため、厳しく育てられなく、身分も中の上なのでストレスを感じることなく、平凡主義の俺は18までのびのびと育った。そう、18まで…


「どういう事ですか兄上?」


 そう冷静に言ったのは、我が家の二男、テレンス兄上。テレンス兄上は、栗色の髪に緑眼で見た目こそ優しそうだが、実際はかなりの怪力の持ち主で、俺はテレンス兄上の方が軍人に似合っていると思うぐらいだ。


「そのままの意味だよ。俺は、今日から軍人になる。だから、じゃあね☆」


 そして、先ほどから、太陽よりも眩しい笑顔で可笑しな発言をしてるのは長男、アーネスト兄上。アーネスト兄上は、金髪碧眼の美男なため、結婚の申し込みがいろんな家から絶えず来るが、それを全て蹴散らしている。理由は、末の妹が大好きで察してくれ。まあ、普段から可笑しかったけど、ここまで重症だったとは…


「ちょっと、待ってください!!じゃあねって、今から行くんですか!?」


「そうですよ。俺の準備が終わるまで待ってくださいよ」


「「え!?」」


「だから、俺も軍人になりたいので付いていくから、準備終わるまで待ってください」


「了解☆」


 ウソだろ!?これじゃあ、俺が自動的に跡継ぎになるじゃないか!!てか、二人とも順応性が高すぎる。って、そうこうしているうちに、テレンス兄上が本当に準備を始めに部屋を出て行ったじゃないか!!二人とも、俺の気持ちを考えてくれ!!


「アーネスト兄上、俺は後を継ぎたくはないんですが…」


「ゴメン、☆M☆U☆R☆I☆」


「いやいや、そんな☆マークなんか付けて誤魔化さないでください!!そもそも、何で急に軍人になりたいなんか言い始めたんですか?」


「勿論、可愛いフランソワーズを様々な野獣達から守るため!!」


 はあ~何言ってるんだろう、この馬鹿兄は…

 フランソワーズとは、末の妹の名前である。確かに、アーネスト兄上が溺愛するのも納得できる美少女だが、兄上と同じ金髪碧眼だけではなく顔つきも似ているので、俺の中でナルシスト疑惑が浮上している。軍人になる理由が妹を守るためって…残念すぎる。黙ってれば、カッコいいのに…


「兄上、フランソワーズはそこら辺の男より強いじゃないですか!あのじゃじゃ馬なら、野獣どころか龍も倒せます」


「チッ、チッ、チッ、ジェラルドは分かってないな~」


「何がですか?」


「フランソワーズは力こそ強いが、身分が関連すればそんなの意味がない。だから、兄である俺が、身分を笠に言い寄ってくる男たちを、誰にも築かれずに暗殺を…」


 うわ…これは、いつも軽く引いてる俺でも、地球5周分引く。

 結婚はそもそも、貴族としての義務だ。確かに、フランソワーズがすごく嫌がってるため、婚約こそはまだしてないが、候補はいる。

 それなのに、まだこの兄は駄々をこねているようだ。


「アーネスト兄上、フランソワーズもいずれは結婚します。だから、軍人は諦め…」


「絶対にヤダ!!俺は、軍人になってフランソワーズを守るんだ!!」


 数分説得している内に、テレンス兄上の準備が終わってしまったようで、部屋に来てしまった。


「兄上、準備が出来ました!!」


「ということだから、バイバイ☆」


「達者でな」


 ・・・しまった!!

 二人が部屋を出て行ったのを、止めるのも諦めた俺はこれからどうしようと考えてると、ふと、あることに気づいた。

 テレンス兄上の方が説得がし易かった!

 そう、アーネスト兄上は頑固だが、テレンス兄上は頑固ではない。てか、俺が必死で頼めば諦めてくれる。クソ、最初からテレンス兄上を説得すれば良かった!!


 ****


「ほう、二人とも軍人になると出て行ったのか」


「まあ、そうです」


 夕食の時間になり、父上も帰って来たので二人の事を話した。父は、厳格で頑固なので反対してくれることを期待している。


「そうか…ジェラルド、明日から跡継ぎとしての教育を始める」


「はい!?」


 父上は俺の期待とは裏腹に、やる気のない奴は後を継ぐ必要がないと考えたようだ。

 すると、母上が食べる手を止め、俺に質問した。


「ねえ、ジェラルド。二人は、フランソワーズを守るために軍人になるのよねえ?」


「大まかに言えばそうです」


 少しぶっきらぼうにそう言うが、母上は、まあ素敵と小さく手をたたきうっとりしている。それもしょうがない。この人もフランソワーズの(とりこ)なのだから。

 すると、元凶と言っても過言ではないフランソワーズが、俺にキラキラとした目で質問してきた。


「じゃあ、しばらくアーネストお兄様はこの屋敷にかえってこないのよね?」


「そうだよ。それがどうしたんだ、フランソワーズ?」


「いや、これで一人で寝れるのかと思って、念のためによ」


 とても、嬉しそうに言うが、俺としては驚きで開いた口が塞がらない。そうか、あのシスコン兄はこんなことまでしてたのか… 


「それ、はっきり言ったらどうなの?」


 そう言ったのは、長女のルミアだ。俺と同じ亜麻色髪の碧眼だが俺の平凡顔とは違い、ちゃんとすればフランソワーズには劣るかも知れないが、美人である。だが、普段は謎の研究に没頭し、部屋に籠りきりのため、ちゃんと手入れをする必要があるが。

 ちなみに、あと一人の妹は、花嫁修業とか言って王宮で女官をしている。勿論、こちらもテレンス兄上似の美少女だ。こう家族が美形だと、俺は家族で一番平凡な顔に生まれたことに感謝しなければと思う。


「勿論、はっきり言ってるわ。でも、強制的に追い出そうとすると、『俺は、今からここから落ちて死ぬ!!』とか言って煩いの……可笑しいわよね、窓から飛び降りたくらいで死ぬ訳ないのに」


「「はあ?」」


 しまった。つい口が悪くなった。ルミアが口悪いのはいつもだが。

 一応言い訳を言うと、フランソワーズの部屋は3階だ。普通は運が良くても骨折だ。と言うことは、この娘は余裕に3階から飛び降りれるらしい。恐ろしすぎる…


「フフッ、本当に兄妹仲が良いわね。…そう言えば、ジェラルドが跡継ぎになるということは、来週の例のパーティはジェラルドが出席することになるのね。しばらく忙しくなるわね」


「え…」


 例のパーティとは、今度、隣の国からやって来るお姫様の花婿探しのためのパーティである。このパーティは跡継ぎと未婚の令嬢しか出席できない。何故かと言うと、そのお姫様が一人娘のうえ先代の跡継ぎ争いで親類がいないので、実質、お姫様の花婿こそがその国の時期王となる。つまり、花婿に政治が分ってないとその国は乱れてしまう可能性があるので、土地を治めるためにある程度勉強している跡継ぎだけになったらしい。不思議なのは、自国ではなく隣の国でするのかだ。それは、誰も知らないらしい。

 はあー今日は疲れたし早く寝よう…


 ****


 あれから、1週間経った。あれからすぐに、俺の跡継ぎ教育が始まった。勿論、マナーとか国の状況とかは貴族の義務なので勉強済みだ。なので、俺は経営学を叩き込まれた。


「立派になったわね~」


「そうですか?母上、この衣装に負けてるような気がするんですが…」


「そんなこと無いわ。まあ、令嬢たちがアーネストではないことを残念に思うかも知れないわね」


 母上、正直すぎますよ。もう慣れた俺の心には刺さらないけど。

 すると、バーンとドアが開いた。誰が来たのかと思えば、フランソワーズだった。額には、薄ら汗を浮かべていた。


「お母様、私もジェラルドお兄様に付いて行くなんて初耳ですわよ!!」


「あら、そうなの?でも、貴女をエスコートさせた方が見栄えがいいわ。それに、王宮は行き慣れてるから大丈夫でしょ?それにしても、今日の貴女は一段と綺麗ね。そう思わない?ジェラルド」


 一応、説明しよう。フランソワーズはその美貌と言うより、ハチャメチャな性格が、同類の王太子妃殿下と馬が合うため、王宮に友達の家感覚で頻繁に行っている。そのため、流行の最先端のドレスを知っているので、今着ているドレスも、たぶんそうだろう。俺には、まったくいつもとの違いが分からんが。


「はい、そうですね」


「それよりお兄様、早く行くわよ!!」


 ****


「うーん暇だなー」


 見ての通り、俺は暇を持て余している。一緒に来たフランソワーズは勿論、王太子妃殿下のところに行った。パーティが始まるまで、まだ3時間もあるため王宮の庭を散歩しているのだが、俺は花に興味がないため、本当に歩いているだけである。

 そして、人が少ない場所に辿り着いた時である。


「あの、そこの方、助けてくださらない!!」


 どこからか、下街を歩いている場合のみに多発すると思われる、逃げる令嬢が走ってきた。綺麗な白銀の髪を(なび)かせ、綺麗そうな顔を崩さずに走っていることをスゴイと思うが、そんなことより、この王宮は令嬢が逃げることがあるのか!?


「ちょっと、借りますわ!」


「何をですか?…って、ちょ…」


 次の瞬間、令嬢は俺の胸にいた。そして数秒後、令嬢を追ってると思われる数人の男達が通り過ぎた。それよりも、何で俺はこの令嬢の手助けをしているんだ?まったく、その必要はないと言うのに…


「危ない所をありがとうございましたわ。では、またいつか」


「え、あ、ちょっと…」


 令嬢は礼を言うと、すぐに何処かに去ってしまった。それはもう、音ぐらいの速さで。さっきもそれで撒けたんじゃないのか!?この令嬢、色々と規格外な所が、我が家の誰かさんを連想させる。

 俺は、そんなことを考えながら散歩を続行したのだが、また、誰か出てきた。


「ご機嫌いかがかな、ジェラルド☆」


「うわっ、木から人が…って、アーネスト兄上でしたか。どうりで、無駄なキラキラを感じたんですね。お久しぶりです。兄上達が居なくなって、俺は…えっ、アーネスト兄上!?」


「見事なノリツッコミありがとう☆」


 この兄は、相変わらず元気そうだ。こっちは、大変な目に合ったと言うのに…

 とりあえず、目的は聞いておこう。


「いやいや、それよりです。何故、軍人になったはずのアーネスト兄上が、此処にいるんですか!?そういえば、テレンス兄上はどうしたんですか!?」


「それが、テレンスは初陣で…」


 すると突然、太陽よりも眩しい笑顔から一変、闇よりも暗い顔で言った。表情の変化にツッコミたい所だが、それよりも、テレンス兄上が…


「何言ってるんですか!?兄上、勝手に俺を殺さないでください。第一、この国は平和ボケの真っ最中です。兄上が期待するような戦争は、しばらくありません」


 あ、そうでしたか。テレンス兄上、すみません。俺は、アーネスト兄上に騙されて死んだかと思いました。確かに、この国は本当に平和だな。最期の戦争から、ざっと、200年も経っているのか。

 アーネスト兄上は、いつの間にか通常の眩しい笑顔に戻ると言った。


「あ、そうそう。頑張っているジェラルドに、プレゼントをあげよう☆」


「いえ、結構です。なので、ここにいる理由を教えてください」


「え~っ、つれないなあ~まあ、良いよ。でも、プレゼントは受け取ってね☆」


 やっぱりこうなるか。嫌な予感がしたから断ったのに、兄上達、特にアーネスト兄上は何かに巻き込みたいようだ。


「あまり細かくは話せないが、簡単に言うと兄上と俺はある任務の最中だ」


 えっ!?テレンス兄上、教えてくれるのはそれだけですか?あなた方は今から、俺にそれを巻き込んでくるって言うのに教えてくれないんですか??

 アイコンタクトで聞くが、返信は無言の圧力で終了した。

 そして、ついにアーネスト兄上から欲しくないプレゼントを貰うときが来たようだ。


「はい。これは、お兄ちゃんたちのプレゼントだから、()()に無くさないでね☆」


「…はい、分かりました。()()にですね…」


 俺が返事を躊躇(ちゅうちょ)するのもしょうがないはずだ。何故なら、そう言って渡されたのは、一見、普通の革の鞄なのだが、よく見ればかなり良い革だった。

 そして、二人が居なくなったので、周りに人がいないか確認してから中身を見た。

 うん。やはり、俺の予想を裏切ってはくれず、兄上達は巻き込んだようだ。

 何故なら、中身は王冠だったのだから…

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