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結界のキセキ  作者: かぼちゃ
第一章.旅立ち、そして新天地
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第八話.時計塔

結局、ランスとヘレナは喧嘩をしたままで次の朝を迎えてしまった。

今夜、ランスはシャルルの部屋で寝かせてもらった。ランスは起きたはいいが、なぜか素振りをする気分にもなれなかった。

心がチクチクと痛んでいた。

気を紛らすため、ランスはまだ寝ているシャルルを放っておいて乗らない気分だが、素振りを始めた。剣の速度が明らかに遅くなっていた。


「はぁ、なんだか妙にやる気がでないな。なんでだろ?」


ランスがぶつぶつと言っていると、眠そうに目を擦りながら、シャルルが下りてきた。


「成果がでないようだね?」


「うん。全くね」


ランスが肩を落としながら言うと、シャルルは優しく微笑みながらこう言った。


「あなたの剣が鈍ってるのは、ズバリヘレナちゃんと喧嘩したから。違う?」


ランスが薄々気づいていたことだった。そして、ランスは後悔した。昨日のうちにヘレナと仲直りしていればよかったと。また、自分の子供っぽいところが悪く働いたな。そう思った。


「やっぱりね。じゃあさっさと謝ってきなよ。あの子泣いて悲しんでいたから本気で謝ればきっと仲直りできるよ。」


「ありがとう。シャルル!」


ランスは階段を急いで上った。ヘレナと早く仲直りしたかった。


「ヘレナ!昨日は本当にごめんね。僕が言い過ぎたよ。あれ?ヘレナ?」


ランスがヘレナの部屋のドアを開けたとき、ヘレナは部屋にいなかった。残っているのは置き手紙と思われる小さな紙切れだけだった。

そこにはヘレナの丸っこくて小さな文字でこう書いてあった。


ーーランス、そしてシャルルへ

私は、昨日ランスと喧嘩しました。そのときに、私がいけないのにランスに怒ってしまいました。

私は、ランスやシャルルと違い、落ちこぼれです。結界(フォース)もろくに組めないダメ魔法使いです。

そこで私は考えました。もしかしたら私がいない方がランスにとってはいいのではないかと。

だから、私は家出します。捜さないでください。

優しくしてくれてありがとうございました。

ヘレナよりーー


「ヘレナ………。僕のせいだ!僕が言い過ぎたがばかりに!シャルル!大変だ!今すぐ町に出よう!」


ランスはその手紙を片手に階段をかけ下りた。案の定、一階で料理していたシャルルが呼び止める。


「また買い物?そんなの平気だけど?まさか、なにかなくしたの?」


「ある意味そうかも。落ち着いて聞いて。へ、ヘレナが!家出したよ!あのヘレナがだよ!どうせ町の中で道に迷ってあちこちさ迷ったあげく面倒ごとに巻き込まれるんだ!早く!」


ランスは渋るシャルルの腕を強引に引っ張り、町へと駆け出していった。


◆◆◆


「はぁはぁ、ここまで来れば平気かな?」


ヘレナは今町の中心辺りにある大きな時計塔に忍び込み、てっぺんまで上って一休みしていた。

そう、彼女は手紙を残して家出したのだ。もしも、ランスが真に受けて探しに来なかったときのことを考えると、涙が出そうになる。


「そういえば、まだなにも食べてないよ………。」


ヘレナ以外に誰もいないと思われる静かな時計塔にぐぅ~という間の抜けた音が響いた。


「お腹すいたぁ………。なにか落ちてないかな?」


ヘレナはあちこち歩き回ったあげく、おかしな鍵穴を見つけた。


「こ、ここはきっと倉庫!だったら、食べ物があるはずぅ!」


ヘレナはやや長めの時間で結界を組むと、本に載っていた魔法を試す。


「『閉ざされた道を、割れに切り開け』『鍵に隠された真実を』、魔法『オープン』!」


がちゃりという音がする。どうやら今時珍しい『オープン』対策無しの鍵だった。ヘレナは上機嫌でドアを開けた。

しかし、そこには人相の悪そうな人が集まっていた。彼らは一斉にヘレナの方へ視線を向ける。


「なんだ?お嬢ちゃん?迷子かい?迷子でも入っちゃいけないところがあるんだよ?」


一人が言った。ヘレナは後ずさりする。しかし、後ろにはもう一人が待ち構えていた。

腕を掴まれる。かなりの握力だ。


「お嬢ちゃん。俺たちが『ルール』ってもんを教えてやるよ。」


「離してぇ!こうなったら!」


ヘレナは結界を組みはじめる。しかし、遅すぎた。シャルルの言う通りあり得ないくらいに。


「遅いよ?魔法『サイレント』」


腕をつかんでいる男が魔法をかけた。ヘレナは魔法を使えなくなってしまった。呪文(スペル)が全くわからない。


「うっ、魔法が!使えない!?」


「その通り。ちなみにここに来たからにはただじゃ帰さないぞ。おい、このお嬢ちゃんを縛り上げてやんな」


「やめて!誰か助けて!」


ヘレナが足と腕をバタバタさせながら泣き叫ぶ。しかし、どんどんと縛られていくだけだ。


「はっはっは!こんなところに助けに来るやつがいるとでも?おい、うっとうしいから口を塞いどけ」


ヘレナの口に手下と思われる男が布を無理矢理押し込み、口を塞がれる。これでなにも喋れない。魔法も使えない。しかも、ヘレナは元から運動神経が鈍い。つまり、脱出は不可能だ。

そう考えているうちに完全に縛られて体の自由さえ奪われた。


「そこの部屋に閉じ込めておけ。その部屋の鍵なら『オープン』対策してあるからな。万が一誰か来やがっても安心だ」


ヘレナはその部屋に一人閉じ込められた。なにもできず、時間の流れがとても遅く感じられる。


ーーランス、お願い、助けて………ーー


ヘレナは恐怖に押し潰されそうになりつつも願う。ただ、ランスが見つけてくれることだけを信じて。


◆◆◆


ランスは三時間捜してもヘレナを見つけられないでいた。朝食も食べずに捜しているので、足がふらつく。それはシャルルも同じらしい。


「ランスぅ、なんか食べようよ。お腹が空きすぎて死にそう。」


「たしかにお腹はすいたけどさ、ヘレナを見つけるのが先決だよ。いっそのこと僕一人で捜してこようかな?シャルルはもう無理そうだし」


「いや、あたしが昨日のうちに二人を仲直りさせられなかったのが悪いの。だから、少しぐらい我慢………」


そのとき、ぐぅ~というなんとも間の抜けた音がランスとシャルルの腹から聞こえる。無理もない。二人は今日、なにも食べていないのだから。


「わかった。パンでも買って食べながら捜そうか?僕だって腹ペコだ」


「だったら世界一か二番目に美味しいパン屋さん知ってるの。ついてきて」


シャルルはとても嬉しそうな顔をして言った。ランスはそんなシャルルの背中を追いかけた。


そして、その『世界一か二番目に美味しいパン屋さん』についた。なんと町の中央の時計塔の真下だ。二人は細長い食べながらでも歩けるようなパンを買った。

モグモグと二人並んでパンを頬張りながら歩いていると、あることに気づいた。

ヘレナが愛用している白に花のような刺繍のあしらわれた可愛らしいハンカチが落ちていたのだ。


「これ、ヘレナのハンカチだ!全く、落とすなんてドジだなぁ。ん?まてよ!ということは、まさか!」


「ランス?なに一人でぶつぶつと?」


ランスは確信した。ヘレナがなぜかその時計塔を上ってしまったことを。もしも立ち入り禁止だとしてもヘレナなら気づかずに上っていくだろう。


「シャルル、時計塔に上るよ。ヘレナはそこにいるはずだ」


「ちょっと待って!時計塔は関係者以外立ち入り禁止………」


「僕たちは関係者だ。この塔を上っていったヘレナを連れ戻す、だから関係者さ」


もちろんこの理論がむちゃくちゃなのはわかっている。しかし、シャルルを乗り気にするにはこれくらいしかなかった。


「わかった。でも、結構長いからね」


「わかってる」


ランスとシャルルは、時計塔の裏のボロそうな扉が開いているのを発見した。そこから二人は時計塔へ入り込んだ。

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