第四話.風の剣
「ふわぁ!おはよう!ヘレナ!」
ランスは、久々に朝早く起きる。カーテン越しに照りつける太陽が心地よい。隣のベッドで寝ているヘレナの横顔を覗く。
「!? 大丈夫?顔が真っ赤だけど。」
ヘレナの顔は真っ赤で、苦しそうだった。風邪をこじらしてしまったようだ。額から大粒の汗を垂らしている。
「熱い…………。シャルルを呼んでこよう!」
ヘレナの額に手を当てると、予想通りかなり熱かった。ランスは、シャルルに助けを求めるべく、シャルルを捜す。
シャルルの部屋のドアを勢いよく開ける。
「シャルル!大変だ!」
「ん?って!何見てんのよ!こっちは着替え中よ!しかも、ドアを開けるまえにノックでしょ!どーでもいいから出てって!」
なんと、ランスが入ったとき、シャルルは着替えの真っ最中だった。真っ白の肌に輝く金色の髪は映える。
「そんな変な目で見ないで!この変態!」
シャルルは、顔を赤く染めながら結界を組む。ランスの目が気に入らなかったらしい。
「『セイント』!」
シャルルの指先から、光の球が放たれる。それはランスにもろ当り、ランスの体を後ろの壁に吹き飛ばした。
ドアが閉まる。どうやら、少し待っていろということらしい。ランスは素直に従い、シャルルを待つ。
「お待たせ。ランス、まさかあたしの着替えを見てニヤニヤするためにあたしの部屋に入ってきた訳じゃないでしょ?もしそうなら、もう一発『セイント』をお見舞いしなきゃならないけど?」
「すみません。次からは気をつけます。それで、用っていうのは、ヘレナがどうも熱を出してしまったみたいでね。どんな薬を使えばいいかわからないし、シャルルに相談しようと思って。」
「え?昨日からでしょ?それが悪化したんでしょ?だったら簡単。町に出て薬を買えばいいだけ。」
「わかったよ。僕が行ってくるよ。」
ランスが一人で出掛けようとすると、シャルルは、ランスを呼び止める。
「待って。あなた一人じゃどうせ迷子になって帰ってこれなくなるだろうから、あたしがついていってあげる。それに、あなたの剣を買いに行くって約束したしね。」
「そうか。それもそうだったね。じゃあ行こうか。」
ランスとシャルルは、玄関の扉を開けて外に出る。
シャルルの話によると、少し進んでメインストリートに出た後、右に曲がってすぐのところにおすすめの薬屋があるらしい。ランスは特にこの町のことを知らないので、おとなしくシャルルについていく。
「着いた!」
しばらくして、少しカビが生えた、石造りが定番になった今では珍しい木造建築があった。ここが薬屋らしい。こんなところで大丈夫なのだろうかというランスの心配をよそにシャルルは建物のなかに入っていく。
「いらっしゃい。シャルロットさん。」
店主と思われるいかにも怪しげな老婆が口を開く。その声はひどくしわがれていた。
「今日は、風邪薬をお願い。熱に効くようなやつ。」
「あいよ。ちょっと待つのじゃ。」
若々しいハキハキとした声のシャルルと、しわがれ声の老婆が言葉を交わす。ランスにはそれが不自然だと思えた。
ランスが考え事をしているときに、老婆は薬を作り始める。複数の薬草らしきものと、苦いことで有名な果物を乾燥させたものをすりつぶしていく。そして、その粉をお湯で煮出す。そうすると、いかにも苦そうな緑色の薬が完成した。老婆は薬を瓶に詰めてシャルルに渡す。
「ありがとう。お代は100クルでいいでしょ?」
「そうじゃな。ご贔屓に。」
シャルルはお代を払うと、薬屋を後にした。ランスもシャルルについていく。
今度はメインストリートを進んでいった。しかし、シャルルおすすめの店はメインストリートにはないらしく、また細い路地に入り込み、迷路のような道を進む。
「着いた。ランス、500クルあげるから、自分で買ってきて。あたしはここで待ってるから。」
ランスは、シャルルから500クルもらい、店の中に入った。その店は、先程の薬屋とは比べ物にならないくらい整頓されていた。店主と思われる大男が声をかける。ランスの頭が男の胸の辺りに来るような大男だ。
「いらっしゃい。どんな武器をお求めだい?」
「軽くて使いやすい剣をお願いします。」
ランスは出来るだけビビっているように見せないように気を付けながら言う。店主は、「わかった。少し待っていろ。」と言い、店の奥に入っていく。
ランスは、店主を待つ間、店の手前の方にある武器を見てみる。きれいな装飾が施された槍や、簡素な弓矢など安いものから高級品まで一通り揃っていた。
「あったぞ。一通りあるから好きなものを選ぶといい。」
そう言って店主が持ってきた剣は実に10本ほどだ。その中にはいろんな長さのものがあって、中にはランスの腰までのものまであった。
その中である剣に目を奪われる。その剣の柄には緑色の水晶が嵌め込まれていた。噂に聞く、持つ人のその色の魔法を強化する働きがあるらしい、『魔法石』と言われるものだ。実を言うとランスも実物を見るのははじめてだ。
「ああ、それか。それは『風の魔法石(ウインドストーン)』が嵌め込まれたシロモノだ。それを持っていれば風魔法が強くなる。」
ランスは、説明を聞きながら剣を眺める。見れば見るほど美しく、長さ、重さもぴったりだ。ランスは、迷う暇もなくこれを買うことにした。
「これください!」
「800クルだ。」
ランスは、絶句する。シャルルからもらった予算は500クル。つまり300クル足りない。
「そうか、足りないなら500クルにまけてやる。」
「ありがとうございます!500クルです!」
「まいど。風の剣『フェザー』を大事にしてくれ。」
ランスは、風の剣『フェザー』を受け取り、店から出る。シャルルはあきれた顔をしていた。
「ランス。もっとまけてもらわなきゃ。風魔法の使い手なんて全然いないから需要がなくてももっと安くできたのに。もったいない。」
「それでも、ぴったりだよ。この剣。これこそ僕の求めていた剣だ!」
「たしかに魔法石つきを買う辺りは誉めてもいいかな。」
シャルルは、鼻の頭を掻く。照れているのかもしれない。二人は、買い物を終えてもと来た道を戻っていった。
◆◆◆
チーム『レッドパイル』は、今日も討伐依頼をこなすために奮闘していた。リーダーであるレッド・クロスカーンは仲間達に指示を出す。今戦っているのは、炎鳥『フェニックス』だ。燃え盛る翼は大変対処しずらかった。
「『凍てつく吹雪よ、燃え盛る炎を冷まし、冬を呼べ』!『ブリザード』!」
仲間のブリューク・サウスサイドが、炎の翼目掛けて氷結属性の魔法を放つ。彼女の魔法の冷気は炎鳥の翼を冷やしていき、段々と動きが鈍くなっていく。今がチャンスとばかりに、レッドは斬りかかる。しかし、完全に弱りきったわけではない炎鳥の口から炎が放たれる。
「『ブリザード・強化』!」
ブリュークのブリザードがより強くなり、炎は威力を失う。しかし、完全に止めを指すならば物理系の攻撃で倒さなければいけない。その隙に今度こそレッドの剣が炎鳥の体を切り裂き、炎鳥は消滅した。
◆◆◆
「ランス!その程度じゃまだまだ甘いよ!もっと早く、正確に!」
「はぁはぁ。くぅ。一発も届かないなんて。」
ランスは、もう息切れている。新しい剣を入手したものの、慣れない二刀流のせいで疲れる。その上、むしろ弱くなった気がする。
「慣れてないからこんなもんかしら?今日は終わりにして、また明日ね。もうご飯の支度をするから、少し素振りでもしてて。」
「今日は終わりって言ったのに……………。」
ランスは、ぶつぶつと文句を言いながらも、剣を振るう。その間、台所からは当然いい臭いがするわけだが、それに耐えながら黙々と素振りを続けるのは辛い。しかし、目的のためと自分に言い聞かせて剣を振るい続ける。
ランスが職業免許をとれる日はいつ来るのだろうか?