第三話.職業免許をとるために
ルドワーズは大都会だ。あらゆる道という道をたくさんの人々が行き交う。
「大都市だね。さすが王国都。シャルル、どこでとるの?職業免許。」
「あなたたちの実力じゃ多分無理ね。だから、あたしの家に居ていいよ。その間うかれるように特訓してあげるから。」
シャルルは、にこりと微笑む。ランスとしてもありがたい提案だ。
「あ、シャルロット・ヴィナス様。あのときはありがとうございました。」
「別にいいのよ。困ってる人を助けるのは当然よ。」
シャルルは、どうやら前にもいろんな人を助けているらしい。とても人気者だ。道行く人々が挨拶している。
「ねえ、ヘレナ。顔色悪いよ?」
ランスには隣のヘレナの顔色が悪く見えた。風邪でも引いたのかなと、思っていると、
「か、顔色なんて、悪くないよ?本当だよ?」
ヘレナは慌てて否定する。こういうときのヘレナは大抵嘘をついている。長い付き合いのランスにはわかる。
「ヘレナ。別に体調が悪いなら今日は早めに切り上げるけど?」
「いいよ。ぜ、全然平気だし。町の探索を続けた方がいいわ。」
少し不安が残るがそこまで言うなら仕方ない。シャルルについていく。
しばらく歩いているとシャルルの家と思われるところについた。この段階で来るということは恐らくシャルルもヘレナの不調には気づいていたかもしれない。
「ここがあたしの家。一応部屋がひとつ余ってるから自由に使っていいよ。あたしは少し買い物にいってくるから。お留守番お願いね。」
シャルルはそう言うと、町へ出掛けていった。恐らくヘレナとランスの二人きりにするためだ。不調の度合いを見てほしいのだと思う。
「ねえ、ヘレナ。本当に大丈夫なの?」
「いや、へ、平気よ?」
ランスはとりあえず熱を測ってみる。ヘレナの額に手を当てる。
「熱い…………。熱があるよ。早くやすんだ方がいいよ。」
「熱なんてない!無いったら無い!」
ヘレナはあくまでも休まないつもりだ。ランスは最後の手段に出ることにした。
「うわぁ!ら、ランスどういうつもり?」
ランスはヘレナの小さな体を抱き抱え、ベッドに寝かす。
「僕としては君は早く寝て、早く風邪を治すべきだ。」
「嫌ったら嫌!」
ヘレナはベッドの上でじたばたと暴れる。
「その熱でよくそんなに暴れられるね。普通もっとぐったりしてるものだけど。」
ランスがヘレナを寝かしつけるのに苦戦していると、玄関のドアが開く。
「ただいま。さくっと夜ご飯作ってあげるから待っててね。」
ランスはシャルルに頼むのもありかもしれないと思い、台所に駆け込む。
「シャルル。お願いがあるんだけど…………。」
「お手伝いね。それなら、そこの人参を切っておいて。でも料理できるの?不器用そうだけど。」
「し、失礼な!僕は器用だよ。」
ランスが、しまった。と思ったときにはもうすでに遅し。シャルルはいつものにこにこ顔で、
「ありがとう。手伝ってくれるなら、人参以外の野菜も切っておいて。」
「わかったよ。切るよ。」
こうして、ランスは本来の目的を果たせずにシャルルのお手伝いをすることになった。幸運なことにヘレナは出てこない。もしかしたら休んでくれてるのかもしれない。
「でーきた。ランス、ヘレナちゃんを呼んできて。ご飯だよーって。」
「わかった。呼んでくる。」
ランスが部屋に入ると、ぶつぶつと何やら呟く声がする。
「うーん。『炎、それは燃やすもの。』『炎、それは産み出すもの。』『出でよ炎。闇を照らせ!テラフレイム!』」
なんと、ヘレナは結界を組み何やら魔法の練習をしていたようだ。無論、ランスの希望通りに休んではいなかった。
「ヘレナ。休んでろって言ったのに、魔法の練習とは。ところでなんの魔法を練習してたの?」
「それはだな、ランス君。」
「やけに偉そうだね…………。」
そして、ヘレナは胸を張り言った。
「究極火炎魔法『テラフレイム』!これさえあればその辺の雑魚はイチコロ!」
「そんなの使ったらそれどころかこの家も一撃で炭になるよ。いや、今はその話じゃなくて、シャルルが夜ご飯を作り終えたからヘレナを呼んでくるんだった。」
「え?ご飯?やったー!」
はしゃぐヘレナだが、無理をしているのは明らかだ。恐らくあんな短時間で熱は下がらないだろう。
「嬉しいのはわかるけど、夜ご飯食べたら休むんだよ。」
「はぁーい。」
「やけに素直になったね……………。まあいいことだけど。」
こうして、ランスたちは食事を摂り、休むことにした。
「やだやだやだやだ!まだ寝ないもん!もっと話すもん!」
「早く寝ないと、風邪がひどくなるよ。早く寝なよ。」
「い~や~だ~。」
ランスはため息をつく。しかし、もう少しの辛抱だ。シャルルが来れば恐らく素直に寝てくれるはずだ。そんな期待がランスの中にはあった。
「ランス、ヘレナちゃん。今日はもう寝るの?」
いいタイミングだ。シャルルはランスの予想通りヘレナを無理にでも寝かしてくれる。と思ったが、
「やだやだやだやだ!いろいろ話すもん!」
「はいはい。わかりました。で、何を話すの?」
ランスは、落胆を隠すことができない。まさかシャルルがこんなにあっさりヘレナの要求を飲むとは思ってもみなかった。
「うーん。例えば、職業免許をとるためには何をすればいいの?」
「ヘレナちゃんは魔法使い(ウィザード)になるんでしょ?」
「うん。」
完全に寝る気がなく、夜更かしをする気だ。ランスにはわかる。しかし、シャルルの話には興味があるので最後まで聞くことにする。
「その結果に合わせた魔法を最低でも三つ身に付けないと無理ね。ちなみに剣士は、審査員と実際に剣を交えることになるけど?」
「審査員?それってどれくらい強いの?」
シャルルがせっかく話題をふってくれたので聞く。一応村では三番目の強さだったが通じるかどうかはわからない。
「うーん。今のあなたじゃ無理かな。ランス。」
「そそそ、そんなのやってみなくちゃわかんないよ?」
「なら、審査員の代わりに一回やってみる?」
「う、受けてたつ!」
よく考えるとこれは自爆以外の何ものでもない。どう考えても免許持ちのシャルルに、『無職』のランスが勝てるとは思えない。
「仕方ないわ。試しに広い下の階を使ってやろうか。ヘレナちゃんは待っててね。ランスの乱暴な剣が当たると危ないから。」
「えー。見たいよー。ランスがボコボコにされるところ。」
「ぼ、僕は負けないよ?」
下の階でランスは腰に下げていた鞘から剣を引き抜く。シャルルも壁に立て掛けてあった剣を手に取る。
「どこからでも来て。全部受け止められるから。」
「言っておくけど、手加減しないからね。」
「こっちは手加減しちゃうけどね。」
ランスは、跳びながら剣を降り下ろす。
「どうだ!」
しかし、しっかりと剣のあるところを見て言葉を失う。なんと、シャルルの剣によって受け止められていたのだ。
「うーん。ランス、剣は振り回すだけじゃダメなのよ。もう少し相手を見て。それに隙だらけ。そんなんじゃ低級魔物にも勝てないよ?甘すぎる。」
そうランスの心を乱すには十分なことを言うと、見事な金色の髪をさらりとかきあげる。
今思えば、村三番目の剣士に甘んじていたのかもしれない。いつもいつも勝っても勝っても、父には甘いといい続けられていた気がする。それを無視した結果がこれだ。
「えいっ!剣技『クイックスラッシュ』!」
ランスは、自分の必殺技を使う。これは一瞬の間加速してスピードを利用して相手を凪ぎ払う技だ。これを受け止めたのは父以外にはいない。
「すごい。動きが隙だらけだけど風魔法の応用の仕方がうまいよ。もしかしたら普通に風魔法使いになった方がいいかも。しかも、小さいとはいえ一瞬で結果組めるし。」
シャルルは驚いたような表情だが、しっかりと受け止めている。残念ながらこれが今のランスの限界なのだが。
「シャルル。僕の敗けだ。残念だけど今のが一番強い技なんだ。はっきり言って君は強すぎる。それでいて弱気なんて……………。」
「えー。あたし強い方だけど、ランスが弱いんだよ。」
ランスは、剣士になるためだけに生きてきたようなものだ。その剣をこうも否定されると心が折れそうになる。
「だいたい、剣があなたに合ってない。もう少し長いものを使った方が絶対にいい。明日剣選びにも協力してあげる。」
「うーん。世界は広いんだな……………。僕だって村では三番目の強さだったのに…………。でも、この剣は大切なものなんだ。成人式のときにもらった大切なもの。だから手放す気はないよ。」
ランスが負けを認めて、この剣の大切さを訴えると、シャルルは驚いたような表情になる。
「誰も、剣を捨てろなんて言ってないわ。そもそもあたしとしては二刀流にしようかなーって思ってたし。ちょうどいいや。」
「に、二刀流?」
二刀流。それはランスが、剣の邪道と思ってきたもの。これを素直に受け入れるかは考えなくてはならない。
ランスは、ベッドを占領されてるので、床で寝転んでいた。シャルルは、別にすぐに決める必要はないと言っていた。
「二刀流……………か。」
正直興味はある。しかし、今までの信念を覆すか、それは悩みごとだった。そんな中、ランスは眠りへと落ちていった。