第二話.新天地
ランスは、自分達の危機を救ってくれた救世主に声をかける。
「ありがとうございました。ところで、何でこんなところに?」
「それは、こっちの質問よ。この山を一般人が登るなら護衛を雇うのが普通よ。なかなかここの魔物は強いから。あなたたちみたいに何も知らないで登ってきてる人を助けに行くのがあたしの趣味なの。そういえば、あなたたちの名前は?」
「僕はランス・パルサーです。でそこで……………、また寝てる………。木にもたれて寝てるのはヘレナ・コメトです。」
ランスは、自分とヘレナのことを話した。そう、ランスの敵討ちのことも、『七人の賢者』のことも。
「なるほどね。あたしは、シャルロット・ヴィナス。シャルルって呼んでくれればいいわ。それと、あなたはラッキーね。あたしも七人の賢者の一人モーリタスの子孫なの。」
「そうなんですか?それなら、僕たちに協力していただけませんか?」
「いいわよ。敬語なんて。成人したての君たちと二歳しか変わらないし。」
シャルルは、にこやかに言う。二歳差ということは、17才ということだ。だが、ランスはそれ以前になぜ自分達の年がわかったのか不思議でならなかった。
「簡単なことよ。だって見たらわかるもの。」
「それで、協力してくれるの?シャルル?」
「ええ、もちろん。と言いたいところだけど、あなたたちの実力じゃこの先はやっていけないわよ。」
「つまり?どうすれば?」
「簡単なことよ。とりあえず、職業免許を取った方がいいわ。」
「じょぶ・らいせんす?」
「そう。簡単に言えばそれさえとれば、本格的に活動できるの。例えば、『魔法使い』とか、『剣士』とかね。ちなみに、これがないと討伐依頼が受けられないの。あなたたちは、無職だから、討伐依頼は受けられないの。」
つまり、免許があれば便利ということだ。是非とりたいところだ。
「だから、免許をとったら協力してあげる。それまでは衣食住は保証してあげるから。」
「ありがとう、シャルル。僕は、血族である剣士の免許をとるよ。」
ランスは、力強く言う。しかし、シャルルはにこりと笑って、他の選択肢も提示する。
「別に血族何て関係ないよ。だから、別に魔法使いのをとってもいいのよ?もちろん結界が組めなきゃ無理だけど。」
「いや、剣士のをとるよ。それが僕には一番向いてるよ。多分。そういえば、シャルルはなんの免許を持ってるの?」
「あたしは、『魔法剣士』の職業免許を持ってるけど?」
「ああ、魔法剣士ね。なるほど。って!それっておかしくない?」
「え?どこが?」
シャルルは、不審そうな顔をするランスの碧色の瞳を見つめながら、不思議そうに首を傾げながら言う。
「剣士なのに結界が組めるというところ。」
「ぜーんぜんおかしくないよ?だって、才能の優劣はあっても、努力すれば誰でも組めるし。あとは、魔法を使うための呪文さえ覚えるか作るかすればいいし。」
「つまり、僕も頑張れば魔法が使えると?」
「もちろん!じゃあ、魔法剣士を目指すの?」
「いや、とりあえず剣士を目指すよ。」
そうこうしてると、木にもたれていたヘレナがぶつぶつと寝言を言っていた。
「むにゃむにゃ、らんすぅ、むにゅぅ。」
「ふふふっ。かわいい彼女ね?」
シャルルは、にこにこと笑いながら言う。ランスにはどこか誤解が生じてる気がしてならない。
「か!彼女だなんて!そんなわけないよ!ただの幼馴染み!」
ランスが顔を真っ赤にして言い返すと、ますますシャルルは楽しそうに、
「照れちゃって!もう!」
シャルルはそう言いながらランスの背中を何度も叩く。しかも、結構強い力で。
「痛い!やめてくれよ!って、シャルル?」
シャルルは、こちらを向くと真剣な顔だが口元が少しにやけた顔で、口元に人差し指を当ててこう言った。
「しーっ。少し、突っついてみてもいいよね?」
「シャルル。残念ながらあまりおすすめできないけど。もし起きたらヘレナきっと怒るよ?」
「大丈夫!へーきへーき!」
シャルルは、ランスの忠告を完全に無視してヘレナの頬を突っつく。
「このぷにぷに感!癖になるわ!」
「そうそう、そのぷにぷに感いいよね。って!僕は変態か!シャルル、突っつきすぎると起きちゃうよ。」
なおもシャルルはヘレナの頬のぷにぷに感を満喫している。そう、ランスも昔突っついてたので知っているが、あの頬は絶妙なぷにぷに感を持っているのである。やり過ぎると起きてめちゃくちゃ怒られるが。
「今日は少し休んで、また明日としよう。あなたたちが寝ててもあたしは起きてるから。明日には山を越えれるよう近道を使うから昼頃には着くかも。」
「ありがとう、シャルル。ところで、ここを越えるとどこに出るんだい?」
「え?それも知らないでこんなヘンテコな山に登ってたの?信じらんない。」
どうやらその言葉は嘘ではないらしく、本当に驚いたような顔をしている。
「まあ、教えてあげるけど。ここを越えれば、エルシャント王国都ルドワーズに出るけど?」
「ルドワーズか…………。どんなところなんだろ。きっと人がいっぱいいて、賑やかなんだろうなぁ。」
「そう。とにかく今日は休んで。明日は一気に行くから。」
「うん、わかった。おやすみ、シャルル。」
「おやすみ。」
そして、ランスは夢の世界へと誘われていった。シャルルがいるという安心感からかぐっすり寝れた。
太陽が登り朝となった。ランスは目を覚ます。
まだヘレナは起きていないようだ。木にもたれてすーすーと小さな寝息をたてて寝ている。
「おはよー、ランス。あなたのかわいい彼女はまだおやすみ中らしいわね?」
「ちょっ!だから彼女じゃないって言ってるじゃないか!しつこいなぁ!」
ランスが顔を真っ赤にしながら怒っていると、ヘレナは目を開いた。まだ眠いのか青っぽい瞳が潤んでいる。
「ふわぁぁぁ。おはよう、ランス、それと………。」
「シャルロットよ。」
そういえば、ヘレナはシャルルと話す前に寝たから自己紹介は受けてない。ここでランスの出番だ。
「ヘレナ、この人がシャルロット・ヴィナス。シャルルと呼んでほしいらしいよ。昨日僕たちを助けてくれた人だよ。」
ヘレナにシャルルのことを軽く説明する。しかし、二人はランスを無視して歩き出していた。
「ちょっと待って!僕をおいてかないで!」
ランスは二人を追いかける。
シャルルの言う近道をたどる。時々険しい道を歩かなくてはならないこと以外は楽だ。
「はぁはぁ。シャルル、あとどのくらい歩けば着くの?もう私は疲れた。」
しばらく歩いたところで、ヘレナが地面に座り込む。そう、彼女には体力がないのだ。ランスはよく知っている。
「あと三時間くらいかな?」
「三時間!?ちょっと休んでからにしない?」
ヘレナの提案で、ランスたちは少し休むことにした。川のきれいな水を眺める。
「づめてっ!」
ランスの顔に冷たい水がかかる。よく見ると、シャルルはにこにこと笑っている。おそらく彼女が犯人だ。
「何すんだよ!シャルル!」
「あははははっ。全く鈍いのねぇ。ランス。これくらいかわさないとぅ。」
シャルルがランスをからかう。ちょっとランスはムッとした。
「このっ!」
「きゃぁ!冷たい!」
ランスがシャルルの顔に水をかけると、二人でかけあいをして盛り上がった。ヘレナは、二人の様子を見て首をかしげるだけだ。
「さてと、そろそろ行きましょうか。」
しばらくしてシャルルが、声をかける。ヘレナは少し見ない間に昼寝を始めてしまっていた。小さなかわいらしい寝息をたてながら。
「うわっ!」
「きゃあ!って、シャルル?何すんの?ビックリするじゃない。」
「もう行くよ。あと三時間歩くの。早く行こ。」
シャルルがおどかすと、ヘレナは驚いたように飛び起きる。
こうして、一行はまた歩きだし、ルドワーズに向かう。
しばらく歩くとようやく山を抜け、町が見える。あれが『新天地』ルドワーズ。そう思うとランスは走り出したくなった。