プロローグ.運命の診断
少年ランス・パルサーは、今日成人式を迎える。今日はランスの15才の誕生日なのだ。
ランスはこの日を楽しみにしていた。なぜなら、『剣士』の血を引くものは成人するときに剣を授かることができるからだ。
「ランス、何をしている?今日はお前の成人式なのだぞ?主役が遅刻してどうする。」
ランスの父親ハンク・パルサーは、優しく微笑みながら言う。普段は厳しい父も今日ばかりは嬉しそうだ。
ランスは、寝巻きから着替えて外に飛び出していった。
村では、すでに準備が整っていた。あちらこちらからごちそうのいい臭いがする。こんがりと焼けた七面鳥や、色とりどりの果物、いつもは緑と茶色で形成されるような村は今日は色鮮やかだった。
「あら、ランス!今日は寝坊してハンクさんの大目玉をくらわないですんだのね。」
幼馴染みのヘレナ・コメトが、口元に笑みを浮かべつつこちらに手を振り、走ってくる。
「きゃあ!」
ヘレナは道端の小石に足をとられ、顔から地面に激突する。痛そうだ。
「いたたたた。もう!何でこんなところに石が!って、あ!ランス!今笑ったでしょ?そんなに私がずっこけるところを見て嬉しい?」
ヘレナは、その光景を見て微笑むランスを睨み付けながら言う。ランスは別に嬉しくて笑ったわけではない。
「君がこけたって僕は嬉しくないよ。でも、ヘレナも僕より1ヶ月早く成人式を迎えているというのに、注意散漫なところは治っていないみたいだね。」
「ランスだって、いつも無駄に落ち着いていて成人式だというのに全然はしゃいでいない。相変わらず意味もなく大人びているのね。」
「剣士たるもの常に冷静であれ。父さんがそういつも言っていたからね。それに、もう子供じゃないんだから大人びていないと駄目だよ。」
ランスとヘレナが談笑(ほとんど口喧嘩みたいなものだが)していると、村長がランスを呼ぶ。
「ランス!ランスや!そろそろ始めるぞ。こちらに来なさい。」
ランスは導かれるがままに、村の中心部にある神殿へ向かう。
神殿は、村の儀式のすべてを行う場所だ。そして、村長は集まった人々にこう告げた。
「皆のもの。今日はめでたい日じゃ。剣士の血族の少年ランス・パルサーが、15才になり成人じゃ。この事を祝い、ランスにこの剣を授ける。」
ランスは、村長が傍らに置いていた剣を掴むと同時に祭壇へ上がる。
「ランス。無事成人した祝品じゃ。受けとるがよい。」
「ありがとうございます。これからは、剣士の血族の名に恥じぬよう精進して参ります。」
ランスは、その剣を眺める。太陽の光を反射して輝く。
その後は、しばらく宴会となり、皆楽しそうに話したり、食べたりした。
そして、成人式のメインイベント『運命の診断』だ。村の占い師が、水晶玉を覗きこむ。
「なんだ?もしかしたらお前は世界を変えるかもしれない。世界が破滅に向かうとき、七つの結界が、一つになりお前を包み巨大な闇を打ち消すだろう。つまり、英雄になるかもしれないということだ。」
「英雄だなんて、僕には荷が重すぎますよ。さすがに、そんなわけないです。」
「私の占いは、かなり当たる。その可能性は十分にあるということだ。もちろん、お前がその運命を拒むならその運命は偽りとなるかもしれない。」
ランスは、いまだに結果をのみ込めない。自分が英雄だとは思えない。なんの取り柄のない無味無臭な男が英雄になるわけがない。
成人式はお開きとなり、ランスは家へと帰った。家では、父ハンクが深刻そうな面持ちで待っていた。
「ランス。お前が成人したら言おうと思っていたことがある。今、それを話そう。」
「父上――お前から見たら祖父に当たるな。彼は、病死ではなかった。」
「病死じゃなかった?どういうこと?」
ランスは今まで祖父は病気で死んだと思っていた。しかし、それは違っていたらしい。
「実は、彼は大魔王に挑み、敗れ命を落としたのだ。」
「大魔王だって?そんなのが本当にいたんだ。でも、何で誰も気付いていないんだろう。」
「完全に復活する前に、彼は戦ったからだ。その後、大魔王もその影響で今は眠っている。だが、そのうち目覚めてしまうだろう。だから、なんとしてでも封印しなくてはならない。」
ランスは、今は亡き祖父の姿を思い浮かべる。優しかった祖父の姿を。
ランスは、大魔王を許すわけにはいかない。なんとしてでも、祖父の敵を討ちたい。本気でそう思った。
「父さん。どうやって大魔王を封印できるの?僕は、大魔王を封印する。たとえどんなに厳しくても。おじいちゃんの敵をとりたいんだ。僕の手で。」
「お前の決意、しっかりと聞いたぞ。封印するためには、『七人の賢者』の力が必要らしい。だが、無理はするな。お前の家はここにある。旅立つのなら止めはせん。思う存分やってこい。」
「ありがとう、父さん。明日には出掛けるよ。どれだけの時が必要かわからないけど、絶対に封印して見せる。」
ランスは、強く決心した。どんな困難があろうとも、きっと大魔王を完全に封印して見せると。