表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第四部 罪深きは愛深き絶望
92/174

第85話 後ろの正面だあれ? 3

 勢いで言い切った私に沈黙するアラシ、そして規則正しく続く何かの機械音だけが味気のない部屋にいる。

 そのことに妙な居心地を悪さを感じた私はアラシに別の話をふった。

「そういえば天使の領域フィリアラディアスを出てからは、ほとんど顔を合わすこともなかったな。黒の雷オルヴァラの皆は元気か?」

「あ・ああ、まあ罪人の巡礼地アークヴェルの戦いに駆り出されて怪我したやつも少なくないが、おおむねは皆元気にしてる。そういえばヒロ、お前ハクアリティス様にはお会いしているか?」

「ハクアリティス?」

 しかして、突如として思いもよらない人物の名前が出たことに、私は首だけ動かして思わずアラシの顔を凝視した。

 すると焦ったようにアラシが言葉を続け

「いやっ、俺もこっちに来てから会ってないし元気かなぁ?と思ってよぉ。へ、変な意味で言っているんじゃないぞ?!誤解すんなよ!!」

 と、こっちが何も言ってないのに勝手にぺらぺらと墓穴を掘り、熊のような顔に朱をさして照れたような表情をする。


―――おっさんの照れた表情っつーのは、結構きついな


 瞬間に感じたのはそんな直観的な思いだったが、その表情からアラシが並々ならぬ関心をハクアリティスに抱いていることが分かった。だが・・・

「言っとくけど、ハクアリティスは人妻だぞ。」

 誰が誰を好きになろうが、嫌いになろうが人の迷惑にならないなら、それは人の自由だ。

 しかし、ここまでの私と彼女の色々な出来事と、確かに彼女は美しいが物言いや考え方は好きになれないと常々思っていたので、アラシには言外にハクアリティスを好きになるんてどうかしているんじゃないか?という表情も彼女が人妻であるという正論に付け足す。

「ご・かい―――」

「そんだけ顔に出しといて誤解もくそもないだろ。」

「〜っ!・・・まあ、うん。あれだ。」

 それでも違うと言うアラシにはっきり言ってやると、もごもごと言葉を発する。(だから、おっさんがそんな恋する乙女みたいなことするなっつーの)

「なんて言うか、彼女とどうこうなりたい・・・とかはねえよ。彼女には笑っていて欲しいな・・と思ってるだけなんだ俺は。」

 しかして、返ってきたのは想像していたのとは違う言葉だった。(てっきりあの容姿に騙されて、のぼせているだけなのかと思っていた)

「敵同士になってもハクアリティス様が万象の天使を好きなことは知っているし、それを邪魔したいとは思ってないんだけどさ・・・、黒の雷オルヴァラにいたときとか一人ですごい不安そうな表情とか、それを隠すためにすげー意地を張ったりとかそういうの見てたから。でも、こっちにきて全然顔も見れなくて、天使とは本格的に戦いになったし大丈夫か?ってよ。」

 そういうのを普通は惚れているっていうんだよ。とは口には出さないし(多分、アラシも言って欲しくないだろう)、何かあまりの真摯な告白に(聞いているこっちが恥ずかしい)これ以上の詮索は無粋だなと私は思った。

「そうか。でも、残念だが私もこっちに来てからはハクアリティスには会ってない・な――」

 しかし、そう告げながら不意にあれ?そうだったけと思いなおし、次の瞬間に灰色の花園で見たハクアリティスと瓜二つの天使の姿が頭の中でよみがえる。


―――そういえば、あれは何だったんだ?


 棺のようなもにに納められた死体か人形かもわからないただ怖いくらいの美しさが、記憶をなくす直前に一目見ただけなのに目に焼き付いている。

 エンディミアン・灰色の花園にいた天使・そして5年前に見た天使、これらのハクアリティスの姿をした存在たちは関わり合いがあるのか?

 しかし、私がアラシを置いて本格的に思考に浸ろうとした瞬間に、アオイが部屋に戻ってきたためにそれを中断し私はアオイの研究に付き合うことに専念した。




 それからどれくらい時間が経ったのか、実験台の上で寝そべっているだけでよかった私は本当に寝てしまって分からない。

 ただ、再び目を覚ました時、私を取り囲んでいた研究者たち(驚くことに目を覚ましたら白衣を着ている人間が異常に増えていた)の顔が一様に眉間に皺を深くきざんていたことから何かかんばしくないことがあったことだけはすぐに理解した。

 だから、今日の実験は一先ず終わりということで地下の研究施設の一角に一人部屋を与えられた私は案内してくれたアオイに尋ねた。(ちなみに体は幾分か楽になったが、まだ一人では歩けない状態なので部屋まではアラシに連れてきてもらっている)

「何か分かったのか?」

「いいや、さっぱりだ。」

「何だ、調べればわかるんじゃなかったのかよ?」

「そうすぐにわかるもんじゃないんだよ、大体、君自体が異常なんだ。まずはその解明から始めないといけないしね。」

 『異常』と言われて普通喜ぶ者などいない。私は顔をしかめ、それを見てアオイが苦笑して説明を始めた。

「普通、人間は魔力を持たない・・・いや、出せない構造になっている。」

「魔力は神によって許された力だろ?出せないって、神に許されていないってことか?」

 天使を始めとして人間以外の種族が魔力を使えるのは神に愛されているからであり、人間がそれを使えないのは神に許されることのない罪人だからだと幼いころから教えられてきた。


―――だが、灰色の花園で神に許されるところか神に喧嘩を売った私が魔力を出した


 すると、私を始めとした全ての人間の常識は間違っているということなのか?

 そんな私の疑問に答えるようにアオイが言葉を続ける。

「そう、それは決して間違ってない。事実だよ。基本的に魔力は神に許された存在しか使うことはできない。でも、それは神の許しがなくては使うことができないというだけで、そもそも魔力とは誰しもが持っている特別な存在じゃないんだ。」

 言いながら彼は私の目の前に見慣れたものを取り出した。

黒の剣ローラレライ

 私は思わずその名を呟く。

「魔力とはどんな生物でも持つ生命力のようなもので、それは主に血液に集約されている。例えばこの黒の剣ローラレライを始めとした黒の武器カシュケルノの発動が君にはわかりやすいだろう。これらは異端の一族の血液を直接垂らすことで魔力を発動するだろ?あれは血液から君たちの生命力という名の魔力を吸い取るための行為なんだよ。」

 なるほど、血を垂らすことには意味があったのか。

「だけど、血液のままじゃ、何をできるわけでもない。それを黒の魔力に還元するのが黒の武器カシュケルノであり、神に許されるということなんだ。すなわち、血に代表される生命力を魔力に変換できる、それが『神との契約』というわけさ。そして、魔力に様々な色があるのはその許しを得た神に影響を受ける。」

 なるほど、さすが研究者というだけあってその説明は非常にわかりやすいと感じた。

 だが、その説明は私の疑問を半分しか満たさない。

「では、どうして私は黒の剣ローラレライを介さずして魔力を使えた?」

 あの体からほとばしるような感覚は黒の剣ローラレライを使う時とは明らかに違う感覚だった。

 そう、直観だがあれは間違いなく私から発せられた魔力だったし、黒き神もそのような事を言っていた。

「それにティアやケルヴェロッカたちはどうなる?あいつらだって人間だろ?なのにどうして魔力をだせる?白き神に許しを得たというには、彼らの魔力は赤や黄色だった。」

 一応、白き神を味方と仮定すれば、人間たちが神の許しを得て魔力を使うことができると想像することができたが、それはアオイの説明らかすれば白の魔力でなければいけないはずだ。

 私がそう言うとアオイが少し目を見開いて、次には可憐な笑みを顔に浮かべ、

「へえ、ヒロってなにも考えていないアラシみたいな戦士系直情馬鹿かと思ったけど、思慮深いタイプなんだね。」

 と私を小馬鹿にしたように言い放つ。

 体さえ動けばその細っこい体にボディブローの一つでも入れてやりたい所で(いくら女のようでも男は男だ。遠慮は無用しない)、思わず同じく馬鹿にされたアラシにそれを期待して彼を見上げたが、やつはワッハッハそうかもなと言いながら笑っている。(器が大きいのか、本当のバカなのかアラシも謎の多い男である)

「じゃあ、ヒロのことはともかくとして、神の子マイマールについて説明をするには『実物』を見た方が早いからちょっと行こうか?アラシ、悪いけどまたヒロをおぶってあげてよ。」

「おう。」

「ちょ・・ま」

 しかして、体が辛いし、このまま横になっていたいななどと思っていた私を無視して、レッツゴーなどと言いながらアオイは私を再び部屋から連れ出したのである。

これから神の子や魔力の秘密について色々明らかになっていく予定で、少々説明くさい部分が多くなっていくかと思いますが、いくつかの謎が解明されていきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ