表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第四部 罪深きは愛深き絶望
91/174

第84話 後ろの正面だあれ? 2

「おー、なんかボロボロだな。」


 体中に残った傷跡を見下ろされながら妙に明るく能天気に言われれば、どうにも最近怪我をすることが多かったなあと、上半身の衣服をがされ実験台のようなものの上で他人事のように考えた。

 思い返してみると黒の影・ヒノウ、万象の天使に三大天使、おまけに黒き神までとここ最近普通に考えればありえない人物たちと戦ってきたのだ。


―――いや、戦ってきたというよりは何とか生き残ったって感じか


 何一つ得ることもなく、ただ失い消耗し続け、そして自分だけが取り残されたように感じる最近の一連の出来事を思い出し、私は疲れた笑みを浮かべる。

 それを見て私をボロボロだと評した人物が不思議そうな顔をした。

「思い出し笑いかい?いやらしいなぁ。」

 私を覗き込む白衣を着たその人物は透けるような青い髪に、空を閉じ込めた様な瞳をもち、見るからに可憐で愛らしい・・・男。

 あの後、色々な事を考えすぎるあまりに何も話さなくなった私を置いて、指示を仰ぎに行くといったアラシは帰ってくると、エンシッダの命令だと私を牢屋からそのまま何処かに連れ出した。(体が辛くて一人歩くことも出ず、恥ずかしながらおぶってもらった)

 てっきりエンシッダのもとかと思いきや(そこで色々聞きたいこともあったのに)、銀月の都ウィンザード・シエラの中心にそびえる月見の塔ミュージ・アシェダまでは想像した通りだったが、私の思惑に反しアラシが私を連れていったのはその地下に広がる実験施設のような場所。(見た瞬間に白き神の御許イア・ルマンヌの生態兵器研究所を思い出して胸糞悪くなった)

 そして、その場所で私を迎えたのがこの一見美少女然としたこの男。

 もし、私をおぶったままにアラシが

「あれでもれっきとした男だ。女と間違えるとめっちゃ怒るから気をつけろよ?」

 とぼそりと言ってくれなかったら、間違いなく女性と思い込んでいた。(アラシはどうも間違えて怒られたらしい)

 しかして、その白衣を纏った女性のような男・アオイはアラシに命じて私を冷たく硬い実験台の上に乗せると、様々な機械のようなものを取り付けて、私を見下ろしながら先ほどの会話に至る。


「うるさい。・・・ところで、私の何を調べているんだ?」

 いつもの私ならこんな風に無断で自分のことを調べられるなど許さずこの場を振り切るだろうが、歩くこともままない今の状態ではアラシが監視するように横にいることもあり不可能だろうことは明らか。

 ならば、せめて自分の何を調べているかくらいは知りたいというのが普通だろう・・・まあ、現状で何を調べたいかなど想像するに難しくないのだが。

「もちろん灰色の魔力のことさ。」

 あっけらかんと想像通りの言葉を告げるアオイにアラシがぎょっとしたような顔になる。

「おいっ!」

「いいじゃないか、言ったところで歩くこともできない彼には何一つできないだろ。それに自分が何をされているか分からないと彼も不安だろう。」

「だが、エンシッダ様には極秘に調べろと・・・」

 おいおい、だからて調べる本人にも秘密にするのかよと思ったが、エンシッダの何を考えているか分からない顔を思い出して、あいつならそうするだろうと考え直す。

 だが、アオイはそんなエンシッダの思惑もアラシの困惑も可憐に無視する。

「責任は俺がとるよ。俺はこれからの研究のためにもヒロには俺を信用してほしいんだ。」

「研究?」

 いぶかしむ私にアオイは女性のような顔をさらに柔らかく微笑ませた。

「ああっ!俺は長いこと魔力の研究をしてね。色々な研究をしてきたが、君の持つ灰色の魔力にこそ俺の研究の答えがあるような気がしているんだ。だから、君にはこれから俺に協力してもらうよ。」

 誰がと瞬間に思って言い返そうとしたが、こんな状態では言ったところで笑われて終わりなだけだ。

 私は言葉を飲み込むように押し黙る。

 だが、そんなことをしてもアオイには私の思っていることなどお見通しらしい。

「誰だって自分のことを研究されるなんて嬉しくないだろうけど、でも、君だって見知らぬ力が自分の中にあるのは嫌だろう?」

 そう問われて思うのは灰色の花園で感じた自分が自分でなくなるあの感覚。そして、つい先ほどまで記憶すらないという私の暴走。

 黒の剣ローラレライにも感じていたことだが、自分で制御できない力など自分の力ではない。

 暴走するだけの力など自分の身を滅ぼすだけであると、私は知っている。

「俺が研究を進めれば、きっと灰色の魔力を制御する方法だって見つかるさ。そうすれば君だってこんな体を動かせなくこともなくなるぞ?」

「やはり、この体の痛みは暴走のせいなのか?」

 私はアオイへの返事を先延ばしにするために問いに問いを重ねた。

 アオイの言うことはもっともであり理解できるが、こんな状況では如何いかんせんそう簡単に決断などできない。(まあ、私の意思などほとんど無視されているようではあるが)

 しかし、アオイはそんな私の思惑など分かっているのか、一瞬だけ苦笑したがすぐに私の問いに答えてくれた。

「まあ暴走のおかげで俺は君には指一本触れてない状況だったからね。確かなことは言えないけど、君の今の状態は魔力の大きさに体が耐えられなかった時の天使や神の子(マイマールとよく似ている。可能性としては暴走した魔力に君の体が耐えられなかったというのが高いと思うよ。特に初めて魔力を使った訳だからね、君の体はまだ魔力には慣れていないだろうし。」

黒の剣ローラレライの力を使ったときは、こんなことにはならなかったが?」

 あれだって魔力の行使に他ならない。

 だが、こんな体を全く動かせないような状況は今まで一度だって経験したことはなかった。

「あれは君の魔力ではなく、剣に宿っている黒き神の力を使っているにすぎない。それに対して灰色の魔力は君自体から発せられている魔力だ。根本的に両者は別物だと考えた方がいい。」

 なるほど魔力を研究しているというのは本当らしい。

 問いに対して淀みなくスラスラと答えてくれるアオイに私は関心しながら、さて、この男に自分を託していいものか思案した。

 恐らく自分一人であの魔力を制御するなどは無理な話だろうと思う。(何しろ魔力を出したら私という存在自体が消えてしまうのだ。そんな状態で制御しろというのが無理な話だ)

 ならば魔力の制御云々うんぬん言うよりは、それ自体を始めから使わなければいい話ではないかと、そちらの方がよほど現実的な話ではないかという考えが一瞬頭をよぎる。


―――その灰色の魔力こそが俺を解放させ鍵だぁ


 だが、同時に思い出すだけで吐き気がするような黒き神の姿を思い浮かべて、その考えに頭を横に振る。

 これは勘だが、あの醜悪なる神がこのまま私の力を諦めるなど思えなかったし、自分の記憶が切れてからのことは依然として何一つ分からないままだが、あの神がまだ自分を狙っている予感がするのだ。


―――そうまるで見えない背後から、いつも見られているような落ち着かない感覚が、目覚めた今でも私の中に確かにある


 そして、いざ再び黒き神とまみえたとき、私は果たして黒き神に切りかからない自信があるだろうか?

 そう考えてすぐさまにそれを否定する。

 だって、この世の中の誰を許せても私はあいつだけは決して許せないだろうという確信があった。

 そして、そう考えたとき、果たして私は黒き神に勝てるのだろうかという問いが頭を過る。

 だが、それもまたすぐに自分の中で否定的な答えが浮かぶ。

 灰色の花園で戦ってみて私と黒き神との実力には埋めきれない差があったのは疑いようがない。

 所詮は神と人間なのだ。

 戦う前から勝負は決まっているようなものなのかもしれない。


―――それでも、私はユイアのため・・・いや、私は私のためにあの黒き神に戦いを挑まないとならない


 誰に強要されたわけでもないが、その思いだけは揺らぎようがなかった。

 黒き神を倒したところでユイアが返ってくるわけでもなく、その後に何も残らないことも、全てを忘れて黒き神から逃げ続けることだってできることだって知っている。

 これが復讐という名のつくものなのかもわからないが、ただその結果が誰一人幸せになるものでないことは知っている。

 それでも何度思いなおしてみても、私は黒き神を許せないのだ。

 そして、あの神と対等に戦うためにはあの神の力を宿した黒き剣ローラレライで鼻から勝負は決まっている。

 新たなる力がきっと必要になる。

 そして、私の心はきまった。


「いいだろう。アオイ、あんたに協力しよう。」


―――この時の私は自分の中に眠る灰色の魔力のことを何一つ分かっていなかった


「そうこなくっちゃ。じゃあ、俺はちょっと色々用意してくる。ヒロとアラシはここで待っててくれ。」


―――この魔力の真実も、どうして自分の身にこの力が宿っているのかも


「いいのか?」

 だから、アラシが気遣わしげに私を見下ろしているのにも安易に答えられた。

「ああ、今の私には力が必要だからな。」

「力・・・」

「言っとくが別に私はだた力が欲しいわけじゃないし、アラシみたいに人間を守りたいから力が欲しいって言ってるんじゃないからな。」

 妙に深刻そうな顔になったアラシに言ってやる。

 力を求めた故にそれをあてにされても困るし、図体はでかいくせに妙に気をまわしすぎの感がある彼が黒の武器カシュケルノの力を求めないことに罪悪感を感じてほしくなかったというのもある。

 だから、それとこれは別問題だとはっきり言ってやりたかった。


「私はどうしてもぶん殴ってやりたい奴がいるんだ。そのためには今よりも強い力がいる。ただそれだけの話だ。今のところそれ以外に求める力を使うつもりはない。」


―――しかして、その力を使った先に見る恐ろしくも悲しい世界の罪を私は知らなかったのだ

美少女のような青年アオイ登場です。

本人はその事を非常に気にしているらしく、他人に言われると烈火の如く怒り出します(笑)今回はそのエピソードをアラシの一言に集約してしまいましたが、いつかちゃんと書けたら面白いだろうなとは思います。(今回はアオイを怒らせたところでヒロがこんな状態ではリアクションも取れないしなぁと思いやめました)

ちなみにアオイは登場自体は初めてですが、名前だけはすでに登場済みです。(こういうの多いですね)この後の展開でそれがどこか分かると思いますが、もしお暇でしたらどこで出てきたか探してみてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ