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東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第三部 異端という名の灰色
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第69話 神と天使、そして悪魔 1

 悪魔とは誰だ?


 神は言った

 それは、私に従わぬ者だ


 それは、私ではない


 天使は言った

 それは、天使の翼を切り落とせし者だ


 それは、私ではない


 君は言った

 それは、愛する人を殺した者だ


 ああ、それは私だ

 悪魔は私、私は悪魔だ



【神と天使、そして悪魔】



 そこは、静かな場所だった。

 物音一つしない、まるで時を止めたような冷たい場所。


 ユイアに腕を引かれた私はたった一人、天使に囲まれていたはずの場所から違う場所に移動していた。

 だが、周りは相変わらず灰色で支配されていたし草木の壁に囲まれているその場所は、一見すれば灰色の花園から出た様子はない。同じ灰色の花園の中で移動しただけだろうと思う。

 ただ、空気は違うと感じた。

 入口に近い場所だったからだろうか空間は違ったものの、先ほどまでいた場所では炎に燃える罪人の巡礼地アークヴェルの気配を感じることはできていた。

 しかし、ここではそれを微塵みじんも感じるとこはできないし、その代りに長い間閉ざされいた空間特有の冷たさと匂いを感じることができた。


「ここは・・・、ユイア?」

 ユイアは茫然としている私から、すぐに身を離す。

 そして、そのままスタスタと迷いなく歩いていく。その先にあるのは、うやうやしく台座に鎮座された・・・石の箱。


 ―――それに、私は見覚えがあった。


 豪華で荘厳なデザインで装飾された、人一人くらいが入れる大きさの重厚じゅうこうな石の箱。

 そう、まるで死体を入れる柩と見紛みまごうようなその箱を、私は贖罪しょくざいの街で同じものを見た。

 だが、贖罪しょくざいの街で見たあれからただよっていた血の匂いは全くしていない。

 でも、目の前の箱は間違いなくあの時に見たものと同じだと私の本能が呟いていた。

 あれは、あれは・・・


聖櫃せいひつだ。」


 私の心の中の声を、先んじて誰かが代弁だいべんする。

 その言葉の示す意味より、ユイアにばかり意識を集中させていた私は、その声の主の存在に驚き辺りを見回した。

 しかし、驚き急いで声の主を探さずとも、それはこつこつと足を鳴らしながら現れてくれた。

 そのまま声の主は聖櫃せいひつに近づき、既に私から離れ聖櫃せいひつのそばにいたユイアの肩に触れた。


 ・・・その瞬間、ユイアがまるでかすみのように私の眼の前から消えた。


「ユイアっ!」

 その事実に気が動転し、私は殺気さえ含んで彼女の名を呼んだ。

 だが、それに対してユイアを消した声の主は、馬鹿にするような表情で私を見た。

「おいおい。まさか、今のユイアが本物だと思ってたんじゃないだろうな?」

「・・・っ!」

 図星だった。

 いや、本物でないと心の中では分かっていた。でも、それは受け入れがたかったのだ。幻でもそれにすがりたかった。

 だが、そんな弱い私をあざわらうかのように、声の主は私に追い打ちをかけてくる。

「気持ちは分かるが、死んだ人間は二度とは戻ってこないもんだ。なあ、ヒロ?」

 分かるといいながらも、その声はこちらを完全に見下している。私はぎりりと歯ぎしりした。

「貴様は誰だ?どうして、私とユイアのことを知っている?」

「何だ?俺が誰だか分かってないのか?」

「知らないから聞いている。」


 声の主は中年も間近に見える、長いぼさぼさの髪に不精ぶしょうひげを生やし、見るからに不潔ふけつそうな男。(まあ不潔ふけつな人間など不浄の大地ディス・エンガッドには五万といるし、私も似たり寄ったりなので大きなことは言えないが)

 顔は長い前髪に隠れて全貌は見えないが、口元だけがにやにやと笑っている。不潔は気にならなくとも、口元に浮かぶその笑みだけは私は好きになれないと感じた。


 ・・・私がこの男を知っている?


 顔もよく見えないのに、そんなもん分かるもんか。

 私はにやにやと笑う男にそんな当然の理由で憤慨ふんがいしたが、それは意外な形で破られることとなる。

「まあ、実際に会ったことはねぇからな。でもよ。このには聞き覚えがあるだろ?」


 それは、考えもしない問いだった。

 だが、そう言われて私の中が揺れた。


「何だよ?二度も助けてやったこの俺様の声を忘れたのかぁ??」


 そう言われて、私の中で揺れたものと男の声が繋がった。

 ああ、そうだ。

 この人の悪そうな物言い、気の抜けるやる気のない声。これには、確かに聞き覚えがある。


「あの・・・・灰色の空間の?」


 繋がった記憶は先ほど回想したばかりのユイアを失った時、私をユイアの元へ導いてくれた声。

 そうだ、確かにあの声と目の前の男の声は同じ。

 でも、二回とはどういうことだ?

「おおっ!思い出したか?でも、あの時だけじゃねぇぞ?あと、ついこの間も天近き城フェデス・ジグロアで助けてやったんだぞ!」

 ひたすらに偉そうな物言いで、男は胸を張る。

 それにしても、天近き城フェデス・ジグロア・・・だと?

 そう考えて私の脳裏に浮かんだのは、淡く消えゆくエヴァの姿と私を覆い尽くすほどの白い羽。

 その美しい情景を壊す、粗野で乱暴な男の声。

 

『テメエは、そんなに諦めのいい人間だったかよ?』


 そう、この声だ。

 ヒノウの槍に貫かれ、このまま死んでいくのかと思った私に、発破をかけるような言葉がかけられた。

 あの時、意識は朦朧もうろうとしていたし、エヴァを失ったショックで今まで忘れてしまっていたが、確かに私の頭の中でこの男の声がした。

 でも、どうして?

 どうして、この男の声が私の頭の中に聞こえてくるんだ?


 ―――ドクン


 そう、疑問に思った瞬間に黒の剣ローラレライが息を吹き返すかの如く鼓動を始めた。握る剣の柄が熱を帯びる。

 更に頭痛がして、思わず閉じたまぶた。そして、その裏に映るあの時に見た走馬灯そうまとう


 美しい子供の笑顔

 ヒステリックに叫ぶ女

 剣を突き付けるひげを生やした男

 切り落とされた翼

 白い背中、吹き出る血潮ちしお


 次々に移り変わる映像の最後はあの大きな目玉


 引き込まれ抜け出せなくなるような錯覚さえ覚えて、私は無理やりまぶたをこじ開けて現実に戻ってくる。

 そして、まぶたを開いた先には口元だけ笑う声の主。それを、改めて見つめて私は気がついた。


 ・・・声だけじゃない。私はこの男を知っている。


 あの走馬灯そうまとうで見た剣を突き付けるひげを生やした男こそ、間違いないこの目の前の男と同じなのだ。

 私は嫌な予感がした。


「思いだしたみてぇだなっ!ま、そうでないと助けたかいがねえよなっ。わざわざ、助けたくもないやつを助けて、会いたくもねぇ奴と会うために、あんな死んだ女の幻まで作るなんて面倒くさいことをしたんだ。精々、俺様を崇め奉れ!」

 言っている言葉はめちゃくちゃで、こちらの神経を逆撫でするような物言いだが、私はもう取り乱しはしなかった。

「あんたは・・・誰だ?」

 広がる嫌な予感が、私の心を怖いくらいに冷たくさせていた。

 それが、身体的に影響しているのか黒の剣ローラレライが熱を発しているはずなのに、それを握る掌はかじかむくらいに冷たくなっている。


「昔もお前はそれを聞いたな。あの時は、答えた所でお前が俺のことを理解できなかったろうから、何も言わなかったがもう解禁だ。お前は俺を知っているからな。」


 そう言った瞬間、男が纏う空気がガラリと変わった。

 敵意すら感じるほどに強い力。彼からユイア達に見たような、視覚で認識できるほどの魔力が立ち上り渦巻く。


 その色は・・・黒。


「俺の名前は、ウ・ダイ。」

 それは、白き神にあだなした神殺しの神。封印された黒き神の名。

 新たなる神、黒き神ウ・ダイ登場です。第二十四話でガラの悪い謎の声は実は彼だったのです。果たして彼の目的は・・・それは次回からのお楽しみということで。


 さて、お知らせがあります。実は今話からサブタイトルの話数などが漢数字から普通の数字になっていますが、それは近々大規模な加筆修正を行うことに決定しまして、それを加えた話は目印として話数を、漢数字から数字に変えることにいたしました。ということで、今回からそれに合わせて数字にしたんです。(以降は数字で統一するので)

 急に何を?とお思いかもしれませんが、話が長くなってきて、もっと分かりやすい感じに話をできないだろうか?と模索していたら加筆修正が必要かなと思い至りまして(笑)

 話の大きな流れや登場人物については一切変更はありませんので、今後加筆修正を加えたものを見て頂かなくても支障はないかと思います。しかし、大規模な加筆修正にするつもりなので、興味がある方は是非とも話数が数字になっていたらご一読いただけると嬉しいです。

 最後に、以上のことからしばらく更に更新スピードが遅くなると思います。多分、一週間に一回くらいになるかな?と自分では予想しておりますので、その辺りご勘弁いただける有難い限りです。それでは、長々と後書きにお付き合いただいて、ありがとうございました!

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