第六十二話 白と黒、混じり合いしは異端の色 其の三
「君が好きだ。私と一緒に生きてほしい。」
それは恥ずかしながらも、精一杯背伸びをした幼かった私の愛の告白。
第六十二話 白と黒、混じり合いしは異端の色 其の三
『ヒロ・コッチヨ』
ユイアが私に微笑んでくれている。
私の記憶の中のユイアと寸分変わらぬ姿に、フラフラと吸い寄せられる様に私は歩んでいく。
「バッカ!何やってるんだよ!!」
「ヒロ?!」
静止の声は聞こえたが、全てが麻痺した状態だった私には無いも同じだった。
ユイアにずっと会いたいと思ってきた、でも会いたくないとも思ってきた。
会いたいと願ったのは、私はユイアを愛しているから。
そして、会いたくないと願ったのは、私がユイアを殺した男だから。
そのどんなに違うと首を振っても変わらない事実が、ユイアを愛していたその分だけ私を罪の意識で苛む。
そして、私もまたそれでいいと思って生きてきた。
だから、再びユイアを目の前にして、喜びというよりもどうしていいか分からない思いの方が強い。
「ヒロ?」
そして、美しい天使も私が無防備に近づいてくる様に、あからさまではないにしろ訝しげな表情を浮かべている。
しかし、万象の天使に近づく私に天使たちは武器を鼻先に突き付けてくる。私はそれを手で自分の目の前からどける。そして、
「どけ。」
驚くべきことに私の声に反応するように黒の剣から魔力が溢れだし、万象の天使以外の天使たちを吹っ飛ばしたのだ。
言霊も剣を振るモーションもなしに黒の剣の力が発動していることも、魔力が黒ではなく灰色であることも、今までにないことだと私は気づいていた。
でも、私はそれらを全て無視した。今の私には何も考えられないのだ。
「・・・。」
そして、私の力に唯一吹っ飛ばされなかった万象の天使。
しかし、私を前に何故だか茫然としている。その理由は私の知ったことではないし、これ幸いと私は彼の横を何事もなく通り過ぎる。
そうして、私はやっとユイアのすぐ傍まで来ることができた。
「ユイア。」
眼の前のユイアがついに頭のおかしくなった私の妄想の産物か、それとも本当に本物の彼女なのか定かではない。
どうして、いきなりこんな場所で彼女が現れたのかも分からない。
しかし、こうして手の届く所まで来ても消えないユイアと対面して、そんな訳のわからない状況や罪の意識が全てが消えてなくなる。
そして、私の心に残ったのはユイアを愛していたというその事実だけだった。
「会いたかった。」
私の言葉にザワリと、灰色の花園がざわめいた気がしたが、今の私には全てがどうでもいいことだった。
私とユイアの話を語るには、現在から5年前に立ち戻る必要がある。
その当時、放浪の途中に病魔に倒れた父親を亡くした私は、それでも流離人として一人旅を続けていた。
流離うことは別に私が始めたものではない。しかし、流離うことを終わりにしようなどという頭は私にはなかった。
何故なら流離うこと自体が私たち、流離人の存在意味である以上、流離うことをやめた時点で私は私でなくなるからだ。
だから、私は寂しくとも、悲しくとも、最後の流離人になったとしても流離うことをやめるわけにはいかないのだ。
しかし、恥ずかしながら父親を亡くしたことで悲しみを抱えていた私は、それを少しでも紛らわせるために学者まがいのことをしていた父親の研究を引き継ぐことを考えた。
父親が何を調べていたか、いまいち頭の悪い私にはよく分からない部分もあったのだが、どうやら終焉の宣告が下る前、人間たちの文明が栄えていた頃を調べていたようだ。
それは、一緒にいて何となくわかっていた。だが、死ぬまで父親は何を調べているかを教えてはくれはしなかった。
私に残された手がかりは、父親が残したたった一切れのメモ。
それには『異端の一族』、『最果ての渓谷の戦い』、『罪人の処刑台』、『翼』と、たった4つの言葉が並べられていた。
この4つの言葉には共通点もなければ、私の思い当たらない言葉もある。正直、このメモが何を指すのかは私には皆目見当もつかなかった。
ただ、『翼』の所に何度も丸で囲まれていることから、父親はこの『翼』について何かを調べていたのではなかろうかという推測を私はたてた。
『翼』・・・・古い言葉では翼とも読む。
それから、私は父親に聞いたことのある1つの話を思い出すことができた。
確か神に愛された天使から悪魔が魔力の宿った翼を奪い取り、不浄の大地に封印してしまったという話。
しかし、所詮は御伽噺か伝説でしかないその話の何を調べていたのか?
結局、私の推測はそこで停滞することとなる。
だから、私はとりあえず他の知っている言葉を調べてみることにしたのだ。
そして、そのために私は一つの街を訪れ、ユイアに出会うこととなる。
街の名前は、ミンナアテナ。
そして、そこから少し歩いた所にもう街だった面影もない亡国の廃墟の一つ・・・といっていいか分からないが、ともかく千年前の人間の街の柱とか壁とかが少しだけ残っているような場所、罪人の処刑台と呼ばれる場所があった。
そこが父親のメモに残された言葉の一つだと考えた私は、その場所を調べることにしたのだ。
野宿しても良かったのだが、折角街が近くにあるのだからと私はその街で宿をとることにした。
そして、その宿屋で働いていたのがユイアだった。
本当に何処にでも転がっていそうな出会いだったと思う。
最初は本当に客と店員。
さしたる接触もなく、私たちはすれ違うだけだった。
しかし、ユイアが罪人の処刑台について昔から語られている伝説を知っているという話を宿主から聞いたことで、私が彼女に声をかけたことが始まりだった。
「罪人の処刑台について話を聞かせてもらえないか?」
罪人の処刑台を調べ出して一週間ほどたっていたが、父親の研究の手がかりになるようなものは何も見つかっておらず、私としてはユイアはの話は藁に縋りつくような心地だった。
「・・・はぁ?」
しかし、思えば唐突でかなり胡散臭い物言いだっただろう。(事実、あとでユイアに話を聞いたところ、心外だが初めはナンパだと思われていたらしい)
それでも私は一応宿屋の客な訳で、ユイアは怪しみながら私の話を聞き、そして、私の言うことを納得してくれたらしく色々話を聞かせてくれることになった。
結果、私が父親から聞いた『翼』の話に興味をもったらしいユイアは、私の調査に協力してくれるようになった。
それから私たちは色々話をするようになる。
罪人の処刑台の話だけじゃない。ミンナアテナを出たことのないというユイアは、不浄の大地を旅し続けてきた私の話を聞きたがった。私もそれに快く話をしてやった。
そうして、罪人の処刑台を調べ、父親が調べていた研究について知っていくうちに、私はユイアを意識しするようになり、男として好きになってした。
最初はユイアといれば、父親も死に一人になって寂しいと感じていた自分を忘れることができる。その程度の認識だった。
しかし、気がつけばそれだけでは片づけられない大切な存在になっていたのだ。
恋とは本当に自分では抑えることも、止めることもできないのだと初めて知った。
だから、もしユイアさえ頷いてくれれば、罪人の処刑台を調べ終わっても一緒にいられたらいいと思った。
ユイアとずっと一緒にいたいと願った。
そして、すべての悲劇が幕を開ける前夜。
何も知るはずのない私は、今まで使ったことのない種類の勇気を出してユイアを宿屋の外へと呼び出した。
「話って何?こんな改まっちゃって。」
ユイアはそう言って笑ったけれど、私は緊張のあまり顔を引きつらせるしかできなかった。(今も昔も、基本的に私は小心者なのだ)
だが、ここで逃げては男が廃る。
私は意を決して、ユイアに向きなおった。
「あのな・・・。」
「なあに?」
しかし、いざユイアを前に告白しようとすると、様々な感情が私の決心を鈍らせる。
無論彼女が私の思いを受け止めてくれれば、何も言うことはない。
だが、もし駄目だったらどうしよう?と臆病な私が問いかけてくるのだ。
そうなれば私が喰らうのダメージは勿論のこと、更に告白したことが原因でユイアと気まずくなってしまったら、それは私にとって思いが通じないことよりもきっとダメージが大きい。
女々しい男と笑ってもらっても構わない。
だが、例えこの告白が上手くいかなくても、私はユイアには笑っていて欲しかった。私に笑いかけてほしかった。
流離うことしかしてこなかった私には、両親以外に取り立てて親しい人間もいない。
だからこそその両親がいなくなった今では、きっとユイアだけが私のことをよく知っている人物なのだ。
その人と恋人・・・になれれば最高だが、せめてそれが叶わないまでも彼女の心の中の片隅に残りたいなどと、本当に自分でも女々しいとしか思えないようなことを考えていたのだ。
だから、こんな土壇場になっても私は迷う。
本当に言っていいのか?
もし、断られたら、彼女の笑顔さえ見れなくなるかもしれないのに。
でも、ここで言わなかったら、二度と告白できないかもしれないんだぞ?
しかして、ものの数秒でかなり悶々と葛藤した私だが、いかんせん若かった私はもう考えることも面倒になって、一晩寝ずに考えたはずの告白の言葉も全部忘れて一気に言い切ったのだ。
「君が好きだ。だから、私と一緒に生きてほしい。」
さんざん、色々な状況を考えて様々なシュミレーションをしたくせに、出てきた言葉は味もそっけもない告白だった。
正直、言ってから失敗したと自分で自分を嘆いたりもした。(ユイアの周りをリサーチした結果、ユイアはロマンチックな演出に憧れているらしいと聞いていたのに)
失敗した・・・と返事も聞いていないのに、私の心はもう振られたも同然だった。
よって、どうやってユイアと気まずくならないようにしようとかと、落胆する気持ちも大きかったが、それでも瞬時に思考を切り替えた私だったが・・・
「うん。」
肯定の返事をして私に微笑む彼女が目の前にいて、頭が真っ白になった。
「へ?」
思わず間抜けな声が出る。
「だから、『うん』って言ったの。私もヒロと一緒に生きたい。ヒロが好きだから。」
照れくさそうに、でも嬉しそうに頬を染める愛らしいユイアは、そう言って私に抱きついてきた。
私も一瞬だけ呆けたけれど、ユイアの言葉の意味を遅くらばせながら理解すると、飛びあがるくらいに嬉しくて彼女を強く抱き返した。
私たちは死の大地と言われる不浄の大地に生まれおち、神に背いた罪人として生き続ける運命下にある。
それを知っていても、あの時だけは自分が世界で一番幸せ者に違いないなどと、頭に花が咲いたような思いすら抱いた。
直後、奈落の底に突き落とされるとも知らずに、私はただただ通じあった思いに喜びだけに支配されていた。
ヒロ過去回想編というわけで、なんとも恥ずかしい文章ですいません。ヒロとユイアの恋愛を過程まで詳しく書けたらいいのかもしれないのですが(実際、細かい設定は一応あります)、あまり本編に関係ない部分ではあるので今回は告白の部分のみで端折らせてもらいました。いつか、番外編とかで書けたら・・・とは思っているんですが。まあ、あまり期待はしないでください(笑)
今まで見えるようで見えてこなかったヒロの過去。どうしてユイアをヒロが殺すことになるのか?それがついに次回明らかになります。