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東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第三部 異端という名の灰色
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第六十話 白と黒、混じり合いしは異端の色 其の一

「ここが入口です。」


 白き神を背負って罪人の巡礼地アークヴェルを駆け抜けた先に、それはあった。

 しかして、そこにあったのは何の変哲もない建物の壁。

 思わず目をぱちぱちとまばたきさせた私である。

 しかし、いくらまばたきした所で眼の前にあるのは、見たところ何の変哲へんてつもない壁でしかなく、人が入れるような入口は見当たらない。(月見の塔ミュージアシェタのように、叩いたら扉が開くのだろうか?)


「え・・と、この建物の中にあるってことですか?入口はどこですか?」

「いいえ。この壁が入口です。既に封印も解かれているようですから、このまま歩いて行って下さい。」

 封印が解かれているといわれても、何度見ても私にはただの壁にしか見えないし、白き神も何か特別なことをして入口を開けるというようなこともしない。

 なのに、どうしてこのまま歩くことができようかと私は白き神の言葉に戸惑った。(私に見えていない入り口でもあるのか??)


「さあ、早く行きましょうっ!」


 しかし、私の戸惑いなどお構いなしの(空気が読めない)女神は甲高い声とともに私の背中を強い力で押し、それで体勢を崩した私はそのまま壁に突っ込まざるを得なくなる。

「うぅ・・・わぁっ!!」

 思いがけない女神の行動に、情けないかな私は声を出しながら顔面を壁に激突させるに違いないと、眼の前に迫る壁を前にギュッとまぶたを思いっきりつむった。



第六十話 白と黒、混じり合いしは異端の色 其の一



 白き神に背中をど突かれて思いっきり壁に突っ込んだはずの私だったが、何と顔面を壁にぶつけることはなかった。

 何故なら、私の体は驚くことに壁をすり抜けて地面に倒れこんだから。

 壁は幻覚であり、入口はちゃんと存在していた・・・ということだろう。(恐らく、開いている入口は幻覚で隠されていて、白き神にはそれが見えていたのだ。)


 ドベシ


「きゃあっ!」

 しかし、入口が開いていて壁に直撃は避けられても、結局体勢を崩して倒れるしかない私は地面に直撃する羽目になる。(背中にいる白き神は無事だろうに、何で悲鳴を上げるんだ?)

 私を突き飛ばすくらいなら、まずは壁が幻覚であり、入口があるということを話してくれてもいいだろうと、心の中で罰あたりにも白き神に悪態あくたいをついた。

 そして、倒れた私の背中から白き神が降りる気配がして、私はしこたまぶつけた顔を押さえながら起き上がる。

 そして、顔を上げて目に入る視界に、痛みも女神に対する悪態あくたいも忘れ、狐につままれたような心地で茫然とした。

「ここ・・・は?」

 妙に頼りなさげに呟く私に、白き神の嬉しそうな声が被さる。


「ここが『灰色の花園』ですよ。」


 言われてストンとその言葉が頭で理解され、確かにここは『灰色の花園』だ・・・と私はすぐに思う。

 何故だろう?こんな場所には来たこともないはずなのに、私が思ったのはその奇妙な景色への驚きでも、妙に嬉しそうな白き神への嫌悪でもなく、何だか懐かしいような切ない感情。

 だが、それもすぐに霧散むさんした。

 そして、すぐに状況を把握しようとする冷静な思考が回り始める。


 とりあえずは、この奇妙な景色への疑問。

 本来、『灰色の花園』など存在するはずもない景色だ。

 花とは様々な色があるものだし、草木は緑や茶色であろうものだろう?(まあ、不浄の大地ディス・エンガッドでそれらを見ることはまれであるが)


 しかし、確かにここは言葉の通り、灰色だけにいろどられた花園。


 他の色は一切存在しない。

 草木だけではない。恐らく入口から別次元にでも繋がっているのか、建物の中のはずなのに空も大地もあり永遠と終わりが見えない花園が続いているが、その全てが灰色なのだ。(思わず自分も灰色になってしまったのではないかと思ったが、幸いにそれはなかった)

 白と黒、それ以外は何も混ざっていない、曖昧あいまいで混沌としたその色だけの世界は遠近感もなく、まるで平面の絵画の中に吸い込まれたような不思議な感覚を覚えた。

 だが、その色彩以外は至って普通の、いや普通どころか天近き城フェデス・ジグロアで見たような美しく整えられた花園だった。

 もしかしたら、あの壁同様にこの景色も幻覚なのではなかろうか?

 現実味のない景色にそう思って、すぐそばに咲いている花に手を伸ばしてみるが、それは確かに生花の花弁の感触がする。それに花の濃厚な香りもする。

 幻覚にしては、それはあまりにリアルであった。


「なかなかシュールな景色だこと。こんな場所を千年も守り続けるなんて、万象の天使も何を考えているのかしらねぇ?しかも、天使にとっても大切だろう聖櫃せいひつを、こんな人間の手の届く場所に置いたまま。」

 そうして私が灰色の景色に意識を向けていると、いつの間にかティアとケルヴェロッカも魔法の壁をすり抜けてきていた。

「この思い出の場所で眠り続けることが、彼女の願い・・・・・でしたから。」

「なるほど、愛する女の願いを叶えるために・・・ということですか。万象の天使はロマンチストですね。まだその女の人を愛しているのでしょうか?白き神はどうお思いですか?」

 ティアの赤い瞳には、挑発的な色が見えた。

 彼女というのは、ハクアリティスのことだろうか?

 白き神の話を総合すれば、そうだろう。

 しかし、ならば『眠り続ける』とはどういう意味だ?眠り続けるどころか彼女は、今も銀月の都ウィンザード・シエラにいるはずだ。

 それにしても、いきなり何を言い出すんだとティアの発言にいぶかしい気持ちになった私だが、そんな思いは次の白き神の発言により吹っ飛ぶこととなる。


「彼女は過去の人です。今のエヴァンシェッドにはわたくしがいるのですから。」


 その声には、如実に女の色香が香っていた。

 そして、私は自分の中でぼんやりとしていた推測が、急速に確信に変わるのを感じた。


 ああ白き神は、あの美しくて歪んだ天使のことを愛しているのだ。


 美しいが神とは思えない平凡な女は、あの天使に男女の情を寄せている。

 そう考えれば、さっきの甘い吐息や嬉しそうな様子の説明がつく。

 しかし、同時に私の中で疑問符が湧いていくる。


 白き神が万象の天使に男女の情を抱いているというならば、どうして今彼女は天使を裏切るような真似をしている?


 だが、それを確かめる前に、

「おい!人間が入り込んでいるぞ!!!」

 と振り向けば武装した天使が大声を上げていた。

 そして、声に応えて現れた多数の天使たちがあっという間に私たちを取り囲み、何の警告もなく、問答無用で魔法攻撃を四方から放ってきたのだ。

「きゃあっ!!」

 それを避けようとした私だったが、白き神が咄嗟とっさに私の背中を掴み放さずに固まってしまったために私の動作は遅れる。(要は、彼女は私を盾にしようとしたのだ)

 すぐに避けることを諦めて、黒の剣ローラレライで魔法攻撃を相殺しようとしたが、私というか白き神の前に立ちはだかったケルヴェロッカが、魔法壁らしきものを作りだしてくれた。

 次の瞬間に魔法攻撃が着弾する音、同時に煙が辺りを包む。

 視界が全くきかなくなり、私は神経をとがらせて天使たちの様子を伺った。

「どうなった?!」

「今のは命中したのか??」

 動揺する天使たち、向こうも煙でこちらの様子がわからないらしい。

 だが、その動揺する天使たちの近くで、殺気をまき散らす気配が早いスピードで動くのを感じた。

「?」

 何だと思ったが、その気配は私と私の背中にへばり付いている白き神には殺気を向けてこないので、とりあえず様子を見ることとする。

 1・・2、その数は3。

 ケルヴェロッカとティアかと思ったが、それにしては一つ多い。


「ぎゃっ!」

 ガンッ

「うぐぅ・・・。」

 グシャ

「ガウッ、グルルルル・・・。」


 剣戟けんげきの音や悲鳴やうめき、そして何やら動物のうなり声まで聞こえてくる。

 しかし、視界が煙に遮られているため、何がどうなっているかさっぱり分からない。

 とりあえず、いきなりのことにおびえきっているらしい白き神を背中からがさないことには、私もここから動くことはできない。

 私は周りの気配に意識を向けながらも、私は背中の白き神を振り払らって彼女に向かいあった。

「今のは天使?それとも人間??」

 どうやら、突然のことに何者が攻撃してきたかもわからなかったらしい。

「何がって・・・、分からないんですか?」

 しかし、その姿を確認していなくとも状況から察することもできないとは、本当に呑気のんきな女だと思った。もはや、彼女をうやまう気持ちなど皆無だった。

「貴女が会いたがっていた天使様に決まってるじゃないですか。」

 白き神以外には、この灰色の花園の封印を解ける者はごく一部の天使だと言っていたのは彼女自身だ。

 そして、封印は解かれていたではないか。すなわち天使以外に、誰がここにいるというのだろう。(それが白き神の会いたがっていた、万象の天使とは知らないが)

 その意味するところを分かっていないなんて、空気が読めないどころか愚かとしか言いようがない。


「まあっ、エヴァンシェッドがいたの?!」

 かなりイライラした声で白き神が少しでも私の嫌味を感じてくれればいいと思って言った言葉だったが、私の言葉の意味など図り知ることもなく、女神はおびえなど一瞬に忘れて白き神は自分の髪の毛を押さえ、頬を赤く染める。

 そのあまりにずれた言葉と行動に、怒るを通り越してあきれた気持ちになった。(どうして、あの天使に惚れる女どもは、揃いも揃ってバカばっかりなのだ?)

「あのなぁっ!」

 そうして、この愚かなる女神に状況を説明しようと、声を上げようとした私だったが、そうこうしている間に煙が次第に晴れてゆく。

 白き神に一言言ってやりたいところだったが、煙が晴れた以上、襲い来るだろう天使たちに備えて私は黒の剣ローラレライを構えなければならなかった。

 前話でなんとなーく感じていた方もいらっしゃるでしょうが、ニルヴァーナのエヴァンシェッドへの感情が分かった回となりました。しかし、その割に天使の非道が許せないとか、色々言ってましたよね?ヒロ同様、皆さま彼女の矛盾には「?」な部分が多いかと思います。その辺は、しばらくしてたら分かるようにしてありますのでお待ちください。しばらくは、この灰色の花園での話が続きます。

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