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東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第五部 最先にて最果てなる世界
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第135話 悪魔の封印 2-4

  昔々、どれくらい昔のことかも分からなくなるほど遠い昔、恐ろしい魔物が支配する地獄のような世界に二人の神が降り立った。

 二人の神の名前は生命を司る白き神イヌア・ニルヴァーナと、死を司る黒き神ウ・ダイ。

 二神はこの地獄のような場所を自分たちの世界にすることを決めると、黒き神はその死の力を使って全ての魔物たちを死の世界へと追いやり、白き神は魔物たちの代わりに神様を13人と3種の種族を誕生させ、広大なる世界の大地を東西南北の4つに分けてそれぞれの種族を住まわせた。


 それがこの世界創造の物語。

 世界を創ったのは二人の最高神である白と黒の神。

 だが、ラーオディルの言葉を察するにそれは違うということなのか?

 謎は深まるばかりだが、悪魔の記憶を見ているにすぎない私は質問すら許されない。

 しかし、悪魔が私に代わってという訳ではないが、すぐに同じ問いをラーオディルにしてくれた。

「どういう意味だ?」

「そうやって僕の言葉の意味を分かっているのに、聞き返すのはヴォルのダメなところだよ?分かっているでしょ?嘘ばかりの神たちがついた、一番の嘘。まあ、神の中でもこれをしっているのはイヌアとウ・ダイの二人だけだけれど。この世界は神が創ったものなんかじゃないんだよ。」

 大きくなってゆく話についてゆくのがやっとだった。

 天使に神…いつの間にかお伽噺のなかだけの登場人物たちが、私の中で当たり前のように存在していたが、更に世界創造という大きな話題までが登場するとは、何だか聞く前から頭が痛くなった気がした。

「世界を創造したのは異能者と呼ばれる、人間の皮を被った化物。前文明の生き残りだよ。」

 ラーオディルは悪魔から背を向けた。

「前文明…昔、この4つの大地ができるまえには別の文明、いや、全く別の世界が存在していたんだ。世界の胎内ヴァラウィーダはその名残。だから、ここだけ全くの異次元でしょ?」

「異次元?その別の世界ってのは、こんな生き物の体内みたいに気味の悪い世界だったのか?」

 ぶっ飛んだラーオディルの話についていけてないのは私だけではないらしく、いらいらとしたように悪魔は言葉を吐き捨てた。

「その通り。前の世界は生きていた。世界という名前の生物だった。世界は主であるその生物に支配され、その中で囲われるように生きていた人間たちは、その支配から逃れるために世界という名前の生物を殺しちゃったんだ。それが自分たちの生きることができる世界の終わりだとも知らないで。だから、決して前文明が世界の胎内ヴァラウィーダの様であったという訳じゃなくて、壊れた後の世界の姿ってことだよ。」

 生物が世界で、世界が生物?

 想像がつかない、実感がわかない。

 言葉の意味は理解できても、それが真実だとはどうしても思えなかった。

 だが、世界の胎内ヴァラウィーダは真実ここに存在している。

 それは何らかの生物の体内であることを、私自身が推測した。

「だけど、人間の皮を被った化け物の異能者たちはその死んだ世界の中でも生きることができた。全ての人間が死んだ後、彼らは自分たちだけの世界を作り出すことにしたんだ。それがこの大地。」

「世界の中に世界がある?それは一体?」

 私たちは未だに壊れた生物の中にいるということなのか?

 では、この世界は幻?まやかし?

「世界の中に世界…か、それは少し違うかな?確かに世界の胎内ヴァラウィーダは前文明の一部だけれど、4つの大地は別次元にあるんだ。異能者たちは世界を創ったというよりは、別の世界への扉を開けたって感じかな?だけれど、異能者たちは前文明の存在だから、この場所から動くことはできない。世界の胎内ヴァラウィーダは前文明とこの世界を繋ぐたった一つの場所なのさ。」

 だから、この場所はこれほどに異質なのか。

 前文明がどんな世界だったか興味はないが、こんなグロテスクな閉ざされた世界にはいたくないなとは感じた。

「じゃあ、この先にいるのか?その世界を創った異能者とやらが―――まさか、ラオッ!」

 疑問を口にしながら悪魔は気がついたように、子供の名を叫んだ。

 その表情には焦りと絶望が浮かんでいた。

 私もその理由に気がつく。


『灰色の魔力で世界を壊しても、それは完全な破壊じゃない。僕は塵一つもこの世界を残すつもりはないんだから。』


 世界を壊すと子供は先ほど告げた。

 その意味を私も悪魔も履き違えていたのだ。ラーオディルは灰色の魔力ではなく…

「僕は異能者を壊す。異能者は世界を創りだしただけじゃない。今もこの世界を支える柱。それが欠けた時、世界は僕が言ったように塵一つ残さないで消えるんだ。」

 異能者と呼ばれる人種がいかなるものか想像もつかない。

 だが、その存在一つで世界がなくなると子供はきっぱりと告げた。

 その言葉には嘘があるようにも見えず、さりとてすぐには信じられそうもない。

 咄嗟に判断がつかない私に対して、悪魔の方は私にはない判断材料をもっているのか、ラーオディルの言葉をすぐに信じたらしい。

「そんなことを俺がさせると思うのか?」

 低い声、威圧するような空気が悪魔から立ち上る。

 灰色の魔力を纏った黒の剣ローラレライからは、魔力で形作られた女性の影がゆらりと現れた。

 それを見て鈴を鳴らしたようにラーオディルは笑う。

「もちろん、優しいお人よしのヴォルが簡単に世界を壊させてくれるとは思ってないよ。だけど、僕が貴方にあげた灰色の魔力の力で僕を止められるとでも思っているの?」

 確かに非常にごもっともな話である。

 その根源であるラーオディルに灰色の魔力が有効とは考えにくい。

「無理だよ。貴方に僕は殺せない、僕が―――」

「ラーオディル!!」

 子供が言葉を続けようとした所、高い激しい叫びが遮った。

 二人の会話に意識を向けていた私は突如として現れた人物に目を見開いた、そこにいたのは―――

「やあ、イヌア・ニルヴァーナ。ウ・ダイ…それに万象の天使も来てくれたんだね。これで役者は揃ったね。」

 その言葉通りの仰々しいほどの面子に驚く。

 そして、あれほどに醜い石造となり果てた白き神の真実の姿に息をつめた。

 白き神はあの恐ろしいほどの形相とは異なり、透き通るような儚い美しさを持ち、さりとて凛とした強さを秘めた、二つの相反する魅力を兼ね備えたまさに女神さまといった風貌だった。

 しかし、万象の天使に黒き神の方は私が知っているままの姿でそこにいた。

 千年という年月をまるで感じさせない存在に、私は改めて二人が人間という存在を超越しているのだと実感した。

「やっと、私たちはここまで来ることができたのね?」

「ああ、そうだね。」

 呆然として様子でここが何処だか分からない様子の男二人に反して、白き神は嬉しそうに酷く興奮した様子でラーオディルに微笑んだ。

「イヌア!これはどういうことだぁ!?戦いの最中に俺をこんな所に連れてくるとは!!!」

 黒き神の相も変わらぬ粗雑な話し方が大きく場所に反響する。

 そうだ、千年前の今は天使が人間を追い詰めた最果ての渓谷ロシギュナスの戦いの真っ最中のはずだ。

 その大将同士である黒き神と白き神に万象の天使が、こんな風に雁首そろえて何を始めようというのだ?

 だが、やたらと威勢は良いものの彼はどうやら体の自由を奪われているのか、立ってはいたが体を左右に不自由そうに体を左右に揺らす。

 それは万象の天使も同じらしく彼は大きく動こうとはしないが、不自然なほどに直立不動のままだった。

「ああ、ウ・ダイ。もう少しよ、もう少しで私たちの願いが…この先に『世界の理』があるのよ。それがもうすぐ私たちの手に入る。」

 その言葉に黒き神と万象の天使の表情が大きく驚きに変化した。

 『世界の理』といえば、神よりも前にこの世界に存在し世界の全てを定義している存在のはずだ。

 それがこの先にある?

 だが、この先にいるのは世界を創造した異能者であるはずで…、いや、世界を創った異能者と、神すらも支配する『世界の理』、この両者に関係性があるのは大いにありうる話だ。

 混乱する展開に眉を顰めつつ、それよりも意外に感じたのが、白き神が黒き神に見せたその表情。

 直接に二人が対面した様子を見たのは初めてであったが、聞いてきた話から二人は犬猿の仲というか、相容れない存在であるのだと想像していた。

 しかし、白き神はにこりと微笑んで彼を見た。

 その表情に虚ろな様子も何の含むところも感じられない。

 純粋に黒き神に会えた事を喜ぶような、いや、それ以上の気が付いてはいけない何かがその表情には見え隠れしているような気がして、私はぎくりと心を冷やした。

 これから何が起ころうとしている?

 悪魔と心が同調しているように、同じ魂を宿しながら私と悪魔は同じように困惑した表情と、強い不安を抱えていた。

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