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東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第四部 罪深きは愛深き絶望
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第109話 裏切り者の懺悔 2

 神であることが羨ましいと言われたことがある。

 大きな魔力、尽きることのない命、永遠の若さ・・・確かに客観的に見て神っていう存在は他の種族から見れば羨むに値するものなのかもしれない。

 だけれど、俺はその言葉を素直に受け入れることができなかった。

 そもそも生まれついての神である俺は(ていうか神は皆そうなんだけど)、それが当たり前のことだったし、そうでない自分なんて想像がつかなかったから。

 それに神だからって他の種族が思うほど良いことなんかなくて、神だからと世界の揉め事に対処しなくてはいけなかったし、それを対処したところで神なんだからそれをして当然と思われて感謝の一つもされないのにはうんざりしていた。

 まあ、それでもそれが神なんだと、生まれついての神である俺は思うわけで、要は神とは巨大な力と引き換えにただ世界のためにあらなければならない存在なのだ。

 だが、それを苦に思ってもそれから逃げようとは思ったことはなった。

 だって、何だかんだと言ったって俺は世界が好きだったし、神であることに幸せを感じていたのだから。


―――でも、『世界の理』・・・その存在が俺を神であることに苦しみを与えることとなる


 そもそも『世界の理』というものが何かと問われて、『はい、こういう事です』とは中々うまい説明が見つからない。

 それは俺が生まれついての神であるように、生まれた時から俺たちを支配していることが当たり前で、それがある理由も、意味も何もかも分からないし考えたこともない。

 だけれど、それから逃げようとしても、それは永遠に俺たちの上に存在し続ける。

 まあ、だからといって普通に生きている分には世界の理は誰にも決して破られることなどなく、俺もその縛りに気がつく前までは存在すら忘れているくらいだった。

 でも、世界が混沌に陥る少し前、俺はそれを破るか破らないかの瀬戸際に立たされるまで追い詰められていた。

 そして、それから逃げるために俺は白き神からの命に応じて西方の魔境シェストリアに赴いていた。

 実は神に忌み嫌われた子供ラーオディル・オヴァラを研究するのと同時進行で、その眷属らしき異端の一族とやらを調べることになり、俺はその役割を進んで買って出たのだ。

 それが現実逃避であり、逃げたところで苦しみは何も変わらなかったが、せめて離れていたかった。

 だって、どんなに望んでも希っても世界の理に反する俺の願いは叶わないのだから。

 なのに西方の魔境シェストリアに来てから半年がたったころ、必死でその願いを忘れようとしていた俺を揺さぶる人物がやってきたのだ。


「オーウェールっ!ひっさしぶり!!」


 獣王の城にいるはずのない人物の明るい声に驚き、それは更に背中にのしかかってきた衝撃に倍増された。

 忘れることなどできない、声を聞くだけでそれが誰だと分かるその声に一瞬我を忘れた俺だが、すぐに自分を切り換えて聊か迷惑そうな声を発した。

「重いぞ、ディルアナ」

 驚きだけではない。内心では嬉しさと同時に胸を塞ぐような苦しさを感じているというのに、俺はいつの間に彼女にさえこうして偽りの自分を演じるようになったのだろう?

「え〜っ!?その言い草は酷くない?この可愛い可愛い幼馴染に対してぇ?」

 俺のそんな心など知らない彼女は、明るいショートカットの髪が揺れる褐色の肌にはじける笑顔を浮かべる。

 聖櫃の中ではその面影すらなく沈黙の中で眠りつづけているディルアナだが、本当の彼女は見るもの全てを明るくする神とは思えない誰にでもわけ隔てない人物だった。

 そんなディルアナと俺は白き神から同じ時期に産み落とされ、成人し神として世界の一部になる時までを、共に白の聖城ルイノイエで育っていたため幼馴染のような関係を築き、他の神々よりは近い間柄であった。


―――俺にとってはそれだけじゃなかったけれど


「つうか、何でお前がこんな所にいる?」

 こんな所というのは本来神がいるべき東方の楽園サフィラ・アイリスではなく、ここが西方の魔境シェストリアの獣王の城であるということ。

 俺のように用でもない限りは基本的に神は東を出ることは禁じられている。

 それがあるからこそ、俺を揺さぶるディルアナが易々と追ってこれないと思っていたからこそ、俺は西に行くことを進んで買って出たというのに・・・

「だってぇ、オウェルったら西に行ったきり全然帰ってこなくてつまらないんだもん!だから、母様にお願いして西の様子を見てこさせてっていったの。」

 ちなみにディルアナの言う『母様』というのは白き神のことだ。

 俺たちにとって白き神は母という存在だが、成人してまであの人のことをこう呼ぶのはディルアナくらい。(俺も昔はそう呼んでいたが)

「それ・・は、まあ色々あって。」

 実のところ命令によって西に来てから半年くらいの年月は流れていたし、実際のところ調べてこいと言われたことはあらかた調べつくしていたし、それを報告してからは白き神からいつでも東に帰って来てもいいと言われていたのだ。

 だが、ずるずるとそれを引き延ばしていたのは俺自身。

 それを自覚していたからこそ、ディルアナの子供っぽいが厳しい指摘に言葉が詰まり、罪悪感が湧いてくる。

「色々って何よっ!?私、オウェルがいなくて寂しかったのよ??オウェルは私がいなくても寂しくないの!?」

 そう言って俺の顔を覗き込んでくる、ディルアナの良く変わるくりくりとした瞳に俺が映る。


―――俺の気も知らないで、何でお前はそんなことを俺に言う?


 ディルアナに悪気がないのは分かっていたが、その言葉に嬉しさと共に悲しいまでに苛つく感情がせり上がる。

 それをグッと爪が掌にくい込むくらい強い力で握りしめてやり過ごす。

「オ・・ウェル?」

 きっと、その感情が顔にも出ていたのだろう。

 戸惑ったように美しいディルアナの顔が揺らぐ。

 いつもの天真爛漫なディルアナではなく、それはひどく女を感じさせるもので、俺の凶悪な心がそれに反応する。

 どんなに逃げたって追ってくる叶わぬ願いに、断ち切ろうとした俺を悪気なく追いつめるディルアナの存在・・・俺はいっそ全てをぶちまけて破滅へと落ちていこうかと考えた。


「オウェル、客人か?」


 だが、ディルアナに対して酷く残虐な気持ちになった俺の思考を中断させたのは、聞き覚えのある男の声だった。

「ヴォル・・ツィッタ」

「?何だよ、そんな驚いた顔をして。ひょっとして邪魔だったか?」

 呆然とする俺に訝しげな表情を浮かべたのは、ヴォルツィッタ、西で出会った異端の一族だ。

 彼はディルアナを見て目を見開き、それからにっこりと笑う。

「これはまた見たこともないような綺麗なご婦人だな。はじめまして、ヴォルツィッタと申します。」

「えっと・・」

 ヴォルツィッタの言葉に戸惑うように視線を彷徨わせるディルアナの表情はほんのりと赤くなる。

 ヒロとヴォルツィッタ、二人は同じ魂を持っているだけあって接した印象は良く似ているが、ヴォルツィッタの方が幾分か軽かったろうと俺は振り返る。(少なくともヒロはこんな歯の浮くような言葉を言うキャラではなさそうだ)

 そもそもヴォルツィッタとは異端の一族を調べるにあたって、彼らの主である獣王グレイン・アッダに初めに紹介された異端の一族であった。

 彼は数十人いる異端の一族の中で群を抜いた強さを誇り、グレインとはただの主従を超えた友情で結ばれていた。

 それに感化されたわけではないが、それから何かにつけて接するようになり、気がつけばグレインも交えて俺達3人は神も人間も関係ない友人なった。(なんて言うか俺が懐柔されたのか?いまやタメ口を叩かれているし)

「私はディルアナよ。」

「ああ、女神様でいらっしゃいましたか。どうりでお美しい。」

 どうやらディルアナが黄色の女神であることを知っているらしい、二コリと笑って手を取る様が妙に優雅で、ディルアナの表情がちょっぴり火照っている様が何となく気に入らない。

「何か用なのか?」

 だから、妙につっけんどんな言い方になったのも仕方ないというもので、それを敏感に感じ取ったのかヴォルツィッタが眉を吊り上げて俺を冷やかす様ににやりと笑う。

「ああ、グレインがお前を呼んでる。この間の前王の残党の話だと思うんだが。」

 元は異端の一族を調べるために西に来た俺だが、気がつけば何やらグレインの手下化している俺は、先日も残党の殲滅を言い渡されたヴォルツィッタの戦闘能力の観察という建前の元、しっかり手伝いまでしてしまっているのだ。

 ヴォルツィッタのディルアナに対する様子は気に入らないが、彼の持ってきたグレインの呼び出しに俺はこれ幸いと食いつく。

 もう、これ以上ディルアナと一緒にいて揺さぶられたくなかった。

「そういうわけだから、俺は行く。俺はこれでも西で忙しくしているんだ。お前も用がないなら、さっさと東方の楽園サフィラ・アイリスに帰れ。」

「あ・・・うん。」

 俺がそう言えば急にしおれた様な表情になって俯くディルアナ。

 そんな彼女に背を向けて歩き出した俺の横にやってきて、ヴォルツィッタが耳元で囁く。

「おい、いいのか?彼女を置いてって。」

「グレインが呼んでるんだろ?」

「そんなの俺が事情を話してやっとくから・・・ていうか、あの女神様、オウェルの恋人だろ?すっげー美人じゃないか。」

 にやにやと笑いながら肘でつついてくるヴォルツィッタには本来何の罪もない。

 不敬などというような関係ではもはやなかったし、俺も彼にそれを許していた。

 でも、ディルアナのことは別だった。

「うるさいっ!お前に関係ないだろ!?」

 想像以上の大きい声、ヴォルツィッタの驚いたような顔に俺も気まずくなるが、それよりも今は何も考えたくなかった。

「オウェル?」

 だから、問いかけるヴォルツィッタの声を無視して俺はさっさと彼を振り切った。



『オウェルの恋人だろ?』


 彼のその言葉に頷くことができたら、どれほど幸せだろう。


『オウェルがいなくて寂しかったの』


 彼女のその言葉に自分もだと答えられて、抱き寄せることができたら、どれほど嬉しいだろう。

 ああ、そうさ。俺は彼女をディルアナを愛している。


―――だけど、それは決して許されないんだ!!


 だって、どれほどにディルアナを愛していても、何よりも彼女を大切に思っていも、俺たちは決して結ばれることはない。

 いや、それどころかそれを口にすることすら許されないんだ。


『神は他種族との混じり合いは認めるも、神同士で愛し合うことは禁ず』


 それは神すらも束縛する世界の理で決められた禁忌。

 理由など知らない。どうしてそう決まっているかも聞いても誰も答えてはくれない。

 ただ、そう決まっている。

 決して破られてはいけない。そして、破ることは叶わない。

 だから、俺はこの感情に蓋をしなくてはいけないんだ。

 例えそれで俺の心が死んでしまったとしても、世界の理に反することは絶対にできないのだから。

エヴァ・ハクアリティス:はぁはぁっ


二人とも激しい言葉の応酬に息切れ中につき、今回のインタビューはお休みです(笑)


ヒロ:ていうか、作者が休みたいだけだろ?

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