第108話 裏切り者の懺悔 1
君は信じてはくれないだろう、裏切り者の僕の言葉なんて
君は許してはくれないだろう、君を裏切った僕のことなんて
だって、僕は君を裏切った
僕を信じ、僕を守り、僕を助けてくれた君を、許されないと知っていて、それでもなお裏切ったんだから
【裏切り者の懺悔】
『全ての中心は神に忌み嫌われた子供だと、俺はさっき言ったな。』
嘆きの間での話の続きらしい。
「そういえば悪魔の唯一の家族で灰色の魔力の根源だと言っていたな。」
その途中でオウェルはディルアナを助けるために暴走し、話は頓挫したままだった。
―――神に忌み嫌われた子供
その名前を聞いただけで湧き上がってくる、名もつけれらない感情に気分が悪くなる。
それが自分のあずかり知らぬ悪魔の感情に対する嫌悪感なのか、それともそれ自体が悪魔の感情なのかは分からない。
ただ、その名前が私にとって不吉な何かであるのは間違いないような気がした。
『そう。彼はヴォルツィッタのたった一人の家族。ヴォルツィッタを愛し、敬い、慕い続け、そして、恐らく今もそれは継続中だろう。故にその魂を受け継ぐお前だけは灰色の魔力に侵されても、その真の禁忌に晒されることはないのかもしれない。』
「真の禁忌?」
問い返す私に表情の分かりにくい獣の姿のオウェルが歪む。
『・・・それは後にまわそう。順を追って話すなら、まずは俺がラーオディルと初めて会ったときだな。』
そして、そのままの表情のままに堕ちた神は語り出した。
―――千年前の彼の真実、彼の過去、そして、彼の懺悔を・・・
<SIDE オウェル>
「さあ、挨拶をしろ。神に忌み嫌われた子供」
そう言って千年前、汚らしい黒き神に前に押しやられたのはその名前とは裏腹に世界の幸を全て集めた如き光り輝く子供だった。
はりのある白い肌、奇麗に整えられた白銀に輝く髪、どこまでも深い黒の瞳は秘めたる輝きを放ち様々な色に煌めき、その表情さえ氷のように冷たくさえなければ、きっと子供を見るだけで全ての者が幸せになれるだろうと、そんなことさえ俺は思った。
だが、その子供に似合わない全ての感情を殺したようなその表情が、彼の美しさを引き立ててぞっとするような感覚を与えていた。
「始めまして。」
子供の声だが感情のこもらない声が、当時の世界の中心であった白き神の城である白き聖城の謁見の間に響き、高い天井に消えてゆく。
縦に長い謁見の間の両端に神々がずらりと並んで子供を不躾なまでに見つめているというのに、子供はまるで神々などないように美しい人形のように眉一つ動かさない。
だけれど、本来なら神以外が口を開くことさえ不敬とされるこの場で不埒ともいえるこの態度が、彼には許されていた。何故なら・・・
「貴方が私から生まれなかった神。」
謁見の間の一番奥に白いヴェールに覆われて存在する全ての母・白き神イヌア・ニルヴァーナの言葉がその理由を口にする。
そう、黒き神から報告を受けたこの子供の存在は世界の理に反していた。
その理とは白き神の対存在である黒き神を除いた、全ての神は魔力の根源は生命を司りし白き神から生まれるというもの。
だが、この子供は白き神から生まれてはいないし、だが、同じ空間にいるだけでわかるその大きく強い魔力は並みの神のそれ以上だ。
―――彼が神以外の種族であるとは、到底思えなかった
そう感じているのはこの場にいる全ての神も同じようで、一様に動揺と混乱が見て取れた。
しかして、この子供の存在が知られることとなったのは西方の魔境に起こった西を治める獣族たちによる覇権争いであった。
その戦いの結果、数か月前に西を収める獣族の王が変わった。
新たなる獣王の名はグレイン・アッダ。
それまで武力をもってして獣族の中でもいくつかある種族の全てを総ていた前王の圧政を打ち破り、新たなる西方の魔境を造りだそうとする彼の横には何故だか人間がいた。
本来、東西南北それぞれの大地を治めている始まりの4種族ではなく、魔力ももたぬ人間は差別されるのが慣例であったため、それだけでも周囲は驚いたものだ。
そして、それ以上に神々の興味までさらったのが、その人間たちに神すらも知らぬ魔力が秘められているという事実。
更に西においてその異常性から異端の一族と呼ばれている人間たちの魔力の根源が、神ではないたった一人の子供だというのだ。
黒き神からのそんな報告を受け、正直、俺を始めとしてほとんどの神は何も信じてはいなかった。
「まさか本当にこれほどの魔力を持つ人間がいようとは」
「だが、魔力を有しているからと言って本当に彼は我らの同胞と言えるのか?」
しかして、実際に子供を目の当たりにしてその認識は一転する。
「皆、落ち着きなさい。神ともあろうものが、子供一人にみっともないことです。」
動揺する俺たちを静かな声で一喝する白き神。
それはまさに鶴の一声で開いた口は閉ざされ、動揺も混乱もきれいに静まった。
俺たちの母にして、唯一無二の支配者である彼女は俺たちにはかつて絶対であった。
「ラーオディルとやら、貴方は自身が神だと思っているのですか?」
これだけの魔力だ。
神でなければ何だというのだろうと俺などは思ったのだが、返ってきたは思いもよらぬ言葉だった。
「僕は人間だ。」
「貴様っ!ニルヴァーナ様に対して何と言う口のきき方を!!」
そして、そんな意外だが不敬な言葉に食ってかかったのは、当時、白き神の傍付であった人間エンシッダ。
そういえば白き神もまた差別される人間を憐れみ優遇していた。
「およしなさい、エンシッダ。それよりラーオディル、貴方は自分が人間だと?それほどの魔力を持ちながら。」
ヴェールの向こうにいる白き神の表情は全く分からないが、その声に凛とした響きがありながら怪訝そうな匂いが漂っていた。
本来なら同じ神といえど白き神と対等に話をできるのは汚らしいながらも対存在である黒き神、ただ一人であり、誰とも知らぬ子供に白き神が話し掛けるだけでももったいないことなのだ。
なのに、子供はさも迷惑そうに吐き捨てる。
「魔力なんて関係ない。僕が僕を人間と決めたんだから、それでいいでしょ?それが貴方達に何の迷惑をかけるというの?さっさと僕を元の場所にかえして。」
どれほど大きな力をもてど、子供は子供である。
全くこちらの論理が通じない、彼は自分の論理でものを話す。
「黙れ。お前はこれから俺たちの役にたってもらうんだからなぁ。大人しくしているんだ。」
だが、その言葉をそれまで沈黙していた黒き神が、相変わらずの汚らしい言葉遣いで黙らせた。
子供がきれいな顔に鋭い光を湛えて睨みつける。
「言ったはずだろぉ?あいつを助けるためにお前は俺に忠誠を誓ったはずだぁ。」
両者の間には何やら取り決めごとがあるようで、子供はどうやら進んでこの場に自ら来たというわけではないらしい。
「ウ・ダイ、今の言葉はどういう意味です?」
白き神もそれを見逃すはずもない。
「俺はこの子供の力を、こいつが異端の一族に魔力を与えた原理を解明できんものかと思っているんだぁ。」
にやりと無精ひげと長い前髪で覆われた顔を歪めた黒き神は、神ではなく、さながら魔王のようだった。
―――それが後の『天使』へと続く研究となり、そして、灰色の魔力の拡大に広がっていく
「そうすりゃ俺たちは新たなる力を手に入れることができる。なあ、わくわくしねえか、ニルヴァーナァ?」
あの時、黒き神はそれを全て知っていたのだろうか?
そして、その横で黒き神を仇でも見るような憎しみのこもった瞳で見ていた神に忌み嫌われた子供は知っていたのだろうか?
それは今でも分からないままだ。
でも、これが俺とラーオディル・オヴァラ、彼との初めての出会い。
この時はこの子供が俺の運命を、世界の運命を大きく動かすものだなんて思いもしなかった。
ハクアリティス:ちょっと、どれだけ私を待たせれば気が済むのよ?!
エヴァ:そんなの作者に言ってよ。僕が話進めてるわけじゃないんだから・・・でも、今回はちょっと連載を止めすぎだよね?
(作者:・・・すいません、色々ありまして)
エヴァ・ハクアリティス:言い訳無用!!しっかりしてよね!!
(作者:はい!!次はなるべくはやくさせて頂きますのでっ)
ハクアリティス:じゃあ、次回は私を活躍させてよね
エヴァ:そりゃ無理でしょ。だって、千年前の回想だし、馬鹿だなぁ
ハクアリティス:(ムカ)死んじゃったエヴァよりは可能性あるでしょ?!
エヴァ:死んだ言うな!
―――かくして二人のケンカはエンドレス・・・インタビューは更に次回に続く