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東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第四部 罪深きは愛深き絶望
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第107話 堕神 6

「この状況の説明をしてもらおうか?」

 先ほどからの急な展開の繰り返しに混乱し、溢れだそうとする灰色の魔力に苦しみつつも、もう私はジタバタするのも面倒になって開き直った。

 だから、相手は先に自分を襲おうとしていたオウェルだろうが、どう見たって獣だろうが、私はぞんざいに言い放つ。(まあ、先ほどとは様子が違うなと思う部分もあったからなのだが)

『すまない。』

 くぐもったオウェルの声は獣のになっても、私に対して申し訳なさげだ。それが余計にカチンとくる。

「謝罪を求めているんじゃない。私は状況の説明を頼んでいるんだ。」

 謝ってもらっても何も解決しない。そんなもの何の役にもたたない。

 いつもの気弱な私では出てこないような強い言葉がついて出る。

 それはオウェルが妙に私に対して下手であるということもあるが、それ以上に私はただもう嫌なんだ。自分が何一つ知らないままに振り回されるのが、知らないことで何かを失うかも知れないのが。


―――だから、私は事実が現実が知りたい


『・・・そうだな。お前には知る権利がある。世界の楔となったお前には。』

 それは私に言われた言葉というよりは、どことなく独り言に近い雰囲気を保っていた。

 いつもの私なら、それはどういう意味かと問いただすところだが、自分でも変な合の手を入れては、自分でも気づかぬうちに本題から話を逸らしている自覚があったので、ここはでてきそうな言葉をグッと飲み込んだ。

『どうせエンシッダは何も話していないんだろうから、始めから話すぞ?ああ、その前にこの状況の説明から始めればいいか?すまん、千年以上の長い話になる。俺も話をまとめられていない。』

 獣の姿のまま、大きな体に隠れるようにある輝く瞳がきょろきょろと動く。

 その瞳の色だけが、全てが変化したオウェルのたった一つの名残のように見えた。

『ここは封印された異端エルヴァナンド。全ての灰色の魔力の大元で、世界に散らばる灰色の魔力に繋がる場所。俺はお前と二人で話したかったから、俺とお前、二つの魔力のぶつかり合いによって異端の扉を開いてお前を誘い出した。エンシッダも灰色の魔力を持っているが、アイツは侵食度が低いからな。多分、ここまでは入ってこれない。』

 封印された異端エルヴァナンドには5年前罪人の処刑台ディッチ・ア・ヴァリスから引きずまれた覚えがった。(黒き神も同じような事を言っていた)

 確かにそう言われれば、一面に広がる灰色はあの時の場所と同じである。

 あの時は気がつかなかったが、この灰色は魔力の色なのだろう。

『後、お前が突っ込んでくれないから言わせてもらうが、実はこっちの方が俺のというか神々の、本来の姿だ。魔力の暴走のせいで人型に保つこともできなくなったんだ。』

 その告白にはてっきり、灰色の魔力によって姿が変化したと思っていた私も思わず目を見張った。

 そんな私に対して表情の分かりにく獣のままで、器用にオウェルは笑ったように見えた。

『神々は皆、人ならざる姿が真の姿なんだ。ただ、人型の方が何かと便利だから人型を保っているにすぎない。』

「どうして急に灰色の魔力が暴走した?」

 黙っていよう黙っていようと思ったが、ついには声を出していた。(これでも我慢はしたのだ。色々と聞きたかったが、質問は一つに留めただろ?)

『恥ずかしい話だが元々俺はお前のように灰色の魔力を発しながら自分を保っていられない。』

「私が?そうだろうか?」

 これは正直な感想だった。

 灰色の魔力の暴走が怖くて本気でその力の解放ができず、いつも自分という力弱き蓋を破らんとする魔力に脅えている私が灰色の魔力を発しながら自分を保っているなんて、どんなに自分を過剰評価していても断言できない。

 だが、オウェルは首を横に振る。

『お前ほど灰色の魔力に魂を侵食・・・いや、もはや灰色の魔力こそがその魂だと言っていいくらいのお前が自分を保っていられること自体が異常なんだ。俺はお前と比べれば100分の1くらいしか侵食度は小さいからな。』

「そうなのか?」

『ああ、俺も堕ちたとはいえ一端の神だ。人間の魂の色の見分けくらい朝飯前さ。』

 魂の色など見えない私にはピンとこない話だが、オウェルの言葉には確信に満ちた色があった。

『まあ、その辺りはまた後にして、俺はさっきも言ったように灰色の魔力に関しては制御をあまり出来てはいない。お前も見ただろう?狂気に支配されかけていた俺を。あれこそが灰色の魔力に侵された魂の症状だ。理性をかなぐり捨て狂気に身も心も浪費され続ける。最悪なことに俺は不老の神だからな苦しみは、それこそ消滅するまで永遠に続く。』

 嘆きの間パシシオンで私に繰りかえ許しを乞うていた彼の姿がリプレイされた。

『だが、まさか獣の姿になったり、ましてや嘆きの間パシシオンを抜け出すほどの暴走は起こしたことなんか一度もなかったんだ。何とかそこまでの暴走は抑えられていたしな。でも、あの瞬間、俺は自分からその箍を外したんだ。』

「その言い方、まるで自分で暴走を引き起こしたみたいな言い方だな。あの時、何があった?私は何も気がつかなかったが?」

 いくら思い出してみても嘆きの間パシシオンで特別気になることなどなかったはずだ。

 もしかして、この状況を作り出すためかとも思ったが、だったらわざわざ聖櫃の部屋までいく理由もないはずで、嘆きの間パシシオンで灰色の魔力を発すればいいだけの話だ。

嘆きの間パシシオンで何かあった訳じゃないさ。俺にその決断をさせたのは彼女の危機。ディルアナ。黄色の神であり、俺の最愛の存在であり、そして、俺の罪の証。彼女がいたから俺は死んだ方がましだと思える孤独の中でも生きていられたし、彼女を守りたいという思いがあるから自分を保っていられた。でも、彼女がいなければ、きっと、お前を裏切ることも、灰色の魔力に侵され神として堕ちることもなかった。』

 何やら意味深な言葉の真実は見えてこないが、私は強くここで一つ訂正する。

「私じゃない。悪魔ヴォルツィッタだろ?」

『ふ、そうだな。』

 意固地になっている自覚はあるが、悪魔と自分の間で揺れている私にとってそれは譲れないことだった。

 それを見透かしたようにオウェルの声には苦笑が滲んだ。

『ともかく俺はディルアナの危機を察してある意味、自発的に灰色の魔力を暴走させたんだ。俺にかけられた呪いは世界の理によって成り立つものだからな、世界の理に沿わない異端である灰色の魔力をもってすれば、嘆きの間パシシオンの外でも姿は見えずとも実体を保てるこつができ、彼女を害から守れると思ったからだ。』

 害というのは、恐らくハクアリティスがディルアナを聖櫃の外に出そうとしていたことなんだろう。(エンシッダの説明によれば聖櫃から出た瞬間、神も神の子マイマールも死ぬということだったし)

 恐らくディルアナを愛しているオウェルにとって、それはどうしても耐えがたいことだったのだろう。例えそれを引き換えに自身を失うほどの狂気に落とすこととなっても。

 私にだってその気持は分からないでもない。でも、

「お前は彼女のために悪魔を裏切り堕ちた神となったと言った。それはどういう意味だ?それにディルアナはどうして聖櫃に入ることとなったんだ?」

 起こってしまったことを振り返ってみても、何一つ変わらないことは分かっているが、聞かずにはいられなかった。

 それはオウェルだけの話にとどまらない。

 そもそも私の知っていた千年前の話は全てが嘘が重なった虚実だった。

 真実だと聞かされたことが後に嘘だとされ、正直、何が正しいかも分からなくなりつつある。

 その中でも一番納得がいっていない部分が、神が死に等しき聖櫃へ入ることになった理由だ。

 恐らく神というくらいだ、黒き神と戦ってみても、彼らの魔力は神というに相応しい凄まじきものを感じた。

 その彼らがどうして自分の所有物である天使によって聖櫃に押し込められることとなったのか?

 千年前に本当は何があった?

 虚実ではなく真実が、ぼんやりとした言葉ではな確かな説明が私は欲しかった。

 でも、こうして詰め寄ったところで、オウェルが私にそれを与えてくるなんて分からない。

 サンタマリアやエンシッダのように上手く嘘をつかれ、真実は隠されごまかされてしまうかもしれない。

 だけど、私じゃない、私の中の悪魔の存在がオウェルは本当のことを告げると教えてくれていた。

 彼は信用できると、かつて彼に裏切られたはずの悪魔がそう告げいたのだ。

 私はそんな皮肉に心の中で苦笑した。

 神のくせに妙に気弱なオウェルにそれを告げたら、彼がどんな顔をするだろうとそんな意地の悪いことを考えながら。

エヴァ:・・・というわけで、ハクアリティスでぇす(超やりなげ)

ハクアリティス:ちょっと、何でそんなにやる気ないわけ?もっとしっかり私のことを紹介してちょうだい!

エヴァ:もう、そんなに自己アピールしたいなら自分で勝手にやってよ

ハクアリティス:それじゃあ、私が単なる目立ちたがり屋みたいじゃない!

エヴァ:実際そうだろ?

ハクアリティス:それじゃあ、素敵じゃないのよ!

エヴァ:(もう嫌だ。このワガママ女め)分かった分かった。とりあえず、皆に答えてもらっている項目を先に答えて言ってよ。身長・体重・年齢ね

ハクアリティス:そんなプライベートはノーコメント!

エヴァ:・・・はあ

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