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東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第四部 罪深きは愛深き絶望
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第104話 堕神 3

 あのひとを見つけたのはほんの偶然で、決してストーカー紛いなことをしている訳じゃないことを俺は初めに言っておきたい。(見つけた後、彼女の様子が気になって後を追ったことに関しては、多少ストーカーチックかもしれないが)

 でも、気になる女が深夜に一人涙で目をはらした状態でフラフラしてたら普通は気になるもんだろう?



<SIDE アラシ>



 と、まあ誰に言うまでもねえ言い訳を心の中でしつつも、俺はまるで夢遊病のように深夜の銀月の都ウィンザード・シエラの地下層を歩く細い女の後を追っていた。

 地下層のほとんどはアオイの研究施設かもしくは倉庫の類なので、深夜ともなれば人気もなく、どこからか聞こえてくる機械音だけが響いている。

 そんな中を彼女に気付かれないよう距離をおいて追いかけている俺。

 女の尻の後を追いかけるなんざ情けないことこの上ないが、俺はどうにもあの女のことがハクアリティス様のことが気になっちまうんだ。仕方ねえ。

「ねえねえ、いっちゃうよ?」

 しかして、自分の思考と目の前のハクアリティス様に意識が集中していた俺は、突如として下から聞こえてきた舌っ足らずな声にとび跳ねた。

 そこにいたのは贖罪の街から共に逃げ出してきた子供たち3人の丸っこい顔顔顔。

「なっ!?」

 驚いて思わず大声を出してしまったが、そろりと横目で見やる彼女の背中には変化はなく、追っていることを気付かれずには済んだらしい。

 俺は小さく息を吐くと、でかい体を子供たちと合わせるべく屈んだ。(まあ、屈んだところで100cmにも満たない子供たちより大きいのだが)

「どうして、ここにいるっ!?」

 小声で叫ぶように慌てて言えば、本当なら涙をためて怯えるような表情をしてほしいところだが、何が楽しいのかキャラキャラと笑うクソガキども。

「面白い顔〜!」

「へん〜!」

「クマクマァ!」

 黒の雷オルヴァラじゃ強面のリーダーとして名をはせている俺が、がっくりと肩を落とす。

 ガキ相手に何処まで今の俺の状況がどう理解されているか不明だが、人に見られなたくない場面を見られて俺としても何となく微妙な後ろめたさがある訳で・・・

「はいはい。俺は面白くて、変で、クマな顔ですよ。その辺はよおっく分かったから!それより、こんな夜遅くにどうしてお前らここにいるわけ?親はどうした?」

 こうなったら、さっさとガキどもには家にかえってもらおうとするのだが、ガキたちは俺の優しい提案に揃って首を横に振った。

「ヤダ!!お父さんたち、ここにいるんだもんっ!」

 そして、そんな3人のうち、将来が楽しみな愛らしい顔をした少女が叫んだことで俺は気がつく。

 限られた人間しか入ることを許されていないアオイの研究所が広がる地下層、こんな夜遅くにガキどもがこの場所に忍び込んだ訳は、決して俺の後をつけてきたんじゃなく、彼らの親に会うため。

 そして、その親がこの地下層にいるという意味は、

神の子マイマール・・・か?」

 それしか考えられなかったが、その言葉を発した途端、子供たちの表情がたちまち明るくなる。

「うん!お父さんやお母さんたちは天使をやっつけるために、つよーくなったんだっ!」

「魔法が使えるんだよぉ!!」

「今はその準備しているの!!」

 わいわいと楽しそうな子供たち、きっと両親たちの変化を誇らしく思っているのが分かった。

 同時にアオイから贖罪の街の住人たちでも希望があれば神の子マイマール化を進める旨を聞いていたことと、黒の雷オルヴァラの中でもその多くがそれに志願していたいことも思い出す。そして、今はそれの調整中であることも・・・。

 ちなみに俺はそれに志願はしなかった。

 力が欲しいとは思ったが、先日のアオイとヒロとの会話を思うと何となく踏ん切りがつかなかったし、少なくともガキどもがわいわいと嬉しそうに話すように神の子マイマールのことを単純に考えられなかった。(まあ、知っている情報に差があるし、それを知ったところでガキどもが理解できるとも思えんが)

「・・・」

 思わず何と言っていいか分からなくなって、黙り込んでしまった俺に嬉しそうにはしゃいでいた子供が気がついたように声を発した。

「ねえ、本当に行っちゃうよ?」

 それにつられて確認すれば、ハクアリティス様の後姿が先ほどよりかなり小さくなり、長いまっすぐの廊下かを右に曲がろうとしているではないか。

 俺は咄嗟に子供たちに背を向けてその後を追うべく足音を消して走り出したのだが、パタパタパタと気配を消そうともしない三つの小さな気配たちも追ってくることによって、俺の気遣いは全くの無駄となる。

「オイ、ついてくるなよ。」

 低い声で言ったつもりだが、しかして、子供たちはにっこりと笑って俺の言葉など無視した。




 それから、どれくらい迷路のような地下層でハクアリティス様を追ったことだろう。

「あ〜っ!あそこお父さんたちがいるところだよねぇ!」

 ふらふらと彼女が不意に入った一室に気づいたガキが大きな声を上げる。(どうやらガキどものここが初めてという訳ではないらしい)

 俺もそれは了解していた。


―――あそこは神の子マイマールの調整室


 ハクアリティス様があの場所に入っているところなど見たこともないし、ましてやこんな深夜に用があるとも思えない。

 そもそも、あそこは神の子マイマールの生命線である重要な場所で、アオイに許しを得たものしか入れないはずであり、ハクアリティス様にはあの扉を開ける鍵をもっていないはずなのに、どうしてあんなにあっさりと扉が開いた?(ちなみに俺は一応鍵を貰っている)

 ガキどもは親に会えると純粋に喜んでいるようだが、俺は思いっきり眉をしかめた。

 これまでは彼女の動向が気になって隠れてついてきていたが、これを見逃すことは黒の雷オルヴァラのリーダーとしてできることじゃない。

 俺はこそこそと追うことをやめ、大股で歩くとその扉を躊躇なく開け放った。

「ハクアリティス様っ!」

 そして、呼びたくても呼べなかった名前を叫びながら、俺は部屋に押し入り、こちらに背を向けたままの儚い後姿を確認した。

「あら・・・アラシ?」

 だが、その後ろ姿がヨロリと振り返った彼女の表情を見た瞬間、俺は背筋に何か冷たい物が走るのを感じた。

 俺の名前を呼んだ以上、俺の姿を確認しているはずなのに、重なり合うことのない視線の虚ろな色。振り乱されたような長い亜麻色の髪。しばらく見ない間に色褪せた彼女の美しさはもはややつれへと変化している。

 この銀月の都ウィンザード・シエラに来てからの数か月の間に彼女に何があったというんだ?

 自分の知っている彼女とのあまりの違いに俺はたじろいだが、だからといって彼女を見逃すことなどできはしない。

「こんな所で何をしているんですか?」

 今にも親に向って走り出そうとするガキどもを背中で押しとどめながら、俺は問う。

「見て分からない?彼女とお話しているのよ?」

 それに対して、ハクアリティス様は何を言っているのか分からないというように言葉を返す。

「彼女?」

 少なくとも俺やガキたち以外に、もの言う存在はこの部屋にはいない。

 いるのは聖櫃に納まった神と、その神に繋がれた神の子マイマールたちだけ、彼らは皆眠りにつき、目覚める様子もない。

「もちろん黄色の女神ディルアナに決まっているじゃない。声が聞こえるでしょう?」

 決まっている?

 聖櫃に入った存在は二度と目覚めることもなく、魔力が尽きるまで永遠に搾取され続けるとアオイに聞いた。

 それはまさに生きながらに死んでいるのと同じだと・・・その神がどうしてハクアリティス様に何を語りかけようというのか?

 俺は混乱し、ハクアリティス様の様子と相まって、彼女がどこかおかしくなったのかと思った。

 だが、ハクアリティス様の様子がおかしいというだけで済まない行動を彼女はとった。


「ここから出して欲しいって、ずっとずっと私に言うの。声が聞こえるのよ。ねえ、どうやったら彼女をここから出してあげられるの?」


 そう言ってアオイや神の子マイマール以外は決して触れることの許されない聖櫃へと彼女は細い手を触れさせたのだ。

「やめっ―――」

 聖櫃から神を出したらどうなるかなど俺が知るわけがないし、実際にどうやってそれを行うかも俺は知らない。

 だが、アオイが聖櫃を軸としたこの機械にだけは無暗に触れるなと厳しい表情で言われたことや、ここへの人間たちの出入りの規制具合からハクアリティス様のそんな行動を俺は瞬間的に駄目だと感じた。

 そして、ハクアリティス様に手を伸ばし彼女が聖櫃に触れることを止めようとしたのだが、部屋の中ほどにさしかかったところで、見ない壁のようなものにぶち当たって俺は尻もちをついた。

「あらしぃ!」

「だいじょうーぶ?」

「どーしたの?」

 予想もしてないことに激痛を感じたが、無論その程度で起き上がれないほどやわな体じゃない。

 俺はすぐに体を起こすが、しかして、俺を心配するガキどもに気を使ってやるほどの余裕は消えていた。

「キャァアアアア!!!」

 甲高く響くハクアリティス様の悲鳴。

 怯え、恐怖に歪んだ表情は何もないはずの高い位置の虚空を向いている。

「な・・・なに?」

 その尋常でない様子と、何が何だか分からない状況に子供たちも混乱し始める。

 だが、俺は何となくその気配を感じていた。

 ハクアリティス様と俺たちの間に存在する壁の気配、俺は自分のすぐそばにあるそれにそっと手を触れさせた。

 あるはずのない何かの感触は暖かく、何か生き物であることを俺に伝える。

「見てぇ・・・」

 そして、俺の背中に貼りついた子供が指をさして震えた声を出す。

 それは淡い黄色の魔力の光に満ちた天井の高い部屋に映し出された影、大きさにして10メートル以上はある異形の魔物の影。

 姿なきその影が今にもハクアリティス様に襲いかかろうとしていたのだ。

エヴァ:身長・体重・年齢をどうぞ

エンリッヒ:あらぁ?なんか妙に事務的やありません??

エヴァ:気のせい。気のせい。(面倒なのでさっさと終わらせたい)

エンリッヒ:えっと(相手にリアクションされないと、どうしていいか分からない)

エヴァ:身長・体重・年齢

エンリッヒ:・・・身長は180cm、体重は77kgですわ、年齢・・・は

エヴァ:年齢は?

エンリッヒ:ちょっと待ってくれはります?今、計算しとりますから

エヴァ:(言動より真面目な性格だな、エヴァンシェッドなんて超適当だったのに)

エンリッヒ:うーん・あ・あれ?(指を使って数え出す)


<数分経過>


エヴァ:・・・もういいよ。君がバカなのは良く分かったから

エンリッヒ:ガーンッ!!!!

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