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東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第四部 罪深きは愛深き絶望
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第101話 私が貴方を許しましょう 8

 白き神たちに気を取られていたとはいえ、こんな簡単に背後を取られたとは不覚であったが、突如現れたヴィ・ヴィスターチャに私はとりあえず驚きを飲み込むことには成功した。

 ただ、どうしてこんなところに?という表情だけは惜しみなく表現したつもりだ。

 されとて我関せずといった風で美しき少女は表情を全く動かさず、だが、自分の意志だけを強く伝えたいと言わんばかりに掴んだ私の手を引っ張ってくる。(最近、どうにもこの手合いの人物ばかりと相対している気がするな)

「?」

 しかし、この少女と会ったのは罪人の巡礼地アークヴェルの戦いの前、エンシッダに初めて出会ったとき一度のみで、それも私とは直接会話はしていない以上、彼女が私に用があるというよりは、誰かが彼女に私を呼んでくるように頼んだと考える方が容易い。

 なれば私に用があるのはこの少女の所有者のような顔をしていたエンシッダ・・・と思い至り、奴に聞きたいことは山とあるが、とりあえず今は面倒だと思った。

 しかし、どうせここでこの少女を振り払ったところで、銀月の都ウィンザード・シエラの中から出られはしないのだし、どこかで私は捕まるに違いない。(しかも、あの陰湿そうな男のことだ、嫌な形で会うに決まっている)

 だったら面倒ことはさっさと済ませておくかと、私はぐいぐいと引っ張る少女に少し踏ん張ったが、すぐに誘う彼女に従うことにする。

 そして、私が彼女に対して逆らう意識を見せないことを感じ取ったのか、ヴィ・ヴィスターチャは引っ張る力を弱めたかと思うと、次の瞬間、私は夜の銀月の都ウィンザード・シエラの街並みとは別の場所に立っていた。

 恐らく移動魔法を使ったのだろうが、突如として目の前に迫った光景は私に大きな衝撃を与え言葉をなくさせた。


―――そこにあるのは赤、赤、赤


 低い天井、窓一つない広々とした圧迫感のある部屋に揺らめく松明が照らし出していたのは、壁・床・天井、全てに隙間なく描かれた壁画。

 その全てが赤い色で描かれ、その全てが生々しい鮮烈な戦いの絵だった。

 所狭しと描かれている人間、天使、それに獣のような姿をした生き物や巨人、彼らは同族や敵も味方もなく、ただただ何かに突き動かされているように戦いではなく、殺戮を繰り返しているような気がした。

 剣に貫かれ目を見開いたまま絶命した人の表情、僅かな息を残しているだろう死ぬ寸前の姿、大勢に集団で袋叩きにされている者、一つ一つを上げればきりがないほどの目をそむけたくなるほどの残虐と非道の数々。そして、それを嬉々として行っている人々の姿。

 狂気に彩られ、その鬼気迫るような絵の迫力と現実味に気分すら悪くなった。

「ここは?」

 かろうじて出た声は酷く乾いて掠れていた。

嘆きの間パシシオン

 だが、返ってきた声は変わらず淡々としていて簡潔で鈴の音のように美しい。

 しかし、その言葉は頭の中ですぐに否定された。

「違う。少なくとも私が知っている嘆きの間パシシオンじゃない。」

 昼間にシラユリに連れられた嘆きの間パシシオンと違うことだけは断言できる。

「ヒロが知っているのは嘆きの間パシシオンじゃない。あれはここを封印するためにある場所。」

「封印?」

 見下ろしたヴィ・ヴィスターチャは私ではなくまっすぐ虚空を見つめたまま、私の腕をつかみ続けている。

「彼と彼女を会わせないための封印。表にでているあの部屋は嘆きの間パシシオンのたった一つの入口を塞ぐためのもの。」

「じゃあ、ここはあの小屋の真下ということか?」

 ふと横に目をやれば天井にのびる一つの階段があったが、あるだろうその先は確かに塞がれていた。(なるほど、だから移動魔法でもないとここに入れないのか)

 それにしても『彼と彼女を会わせないための封印』というのは、どういう意味だ?

 しかし、少女はそれには言及せず、言葉をさらに重ねた。

 初めて彼女と会った時に聴いた歌のせいだろうか?どうも、彼女の話す言葉は感情もなく淡々としているにも関わらず、私には歌を歌っているように聞こえた。

「そう。そして、彼はここに封印されたまま描き続けている。この嘆きの壁画を」


―――嘆きの壁画


「これは何を描いている?」

 ただの殺戮と破壊を描いたものだと言われればそれまでなのだが、この壁画は何故だかそれだけではないような気がした。

「千年戦争。かつて大地を分ける世界の果てレドヴァガンナがなかった頃、様々な種族の全てが戦いの狂気に溺れた姿。」

 伝説に聞いたことはあった。また、サンタマリアからその真実も聞いた。

 だが、千年前という過去の話であることや、それ故に自分が体験したことではない故に、私にとってそれは遠いお伽話のような印象を持っていたし、特に何かを感じることはなかった。

 だが、こうして現実味を持って迫られたとき、私の中で悪魔が騒ぐのを感じる。

 それはきっと、これが千年戦争の真実を描いているからなのだろう。

 だからこそ、その戦いの中にいた私の中の悪魔が私に訴えかけるのだ。

「だけど、この絵は未だ未完成。ううん、永遠に未完成のまま。千年前の罪を償いきるまで彼はここで嘆き、懺悔を続ける。」


―――彼?


 いきなり移動させられたことや壁画に圧倒されていた私は、ヴィ・ヴィスターチャがそう言って指さした先に人影があることに初めて気がついた。

 そこには壁画にへばりつくようにして動く、ぼさぼさにのばっしぱなしにされた長い髪の後姿。まるで毛玉の化け物だ。

「オウェル、連れてきた。」

 簡潔なヴィ・ヴィスターチャの声に、一心不乱に壁に向かって絵を描いているらしい異様な風貌のその後ろ姿がぐるりとこちらを振り返る。

 反動で振り回された長い髪から血走った瞳と狂気じみた顔の男が覗いたかと思うと、こちらを睨みつけ、そして、どこからか出したか定かではない声で私たちを歓迎した。

「ヴォオオオッ」

 広げられた両手から血がべっとりとついたナイフが音を立てて落ちる。 

 そして、男の手から滴る赤い血を見た瞬間に気がつく、赤い絵の具か何かで描かれていると思った壁画が実はこの男の血で描かれているということに。

 血でよって描かれる、世にも恐ろしい惨劇・・・背筋が凍るほどぞっとした。それは男がものすごい勢いでこちらに突っ込んでくることで、更に悪化する。

「な―――」

 完全にビビっている私は咄嗟に足を引き、男から逃れようとするが少女の割に力が強いヴィ・ヴィスターチャの手がそんな私を引きとめて離さない。

 そして、男は私の腕を掴んだ。

「いっ・・は、離せ!!」

 赤い血がべっとりと私の洋服につく。

 血など見慣れているはずなのに、それが何故だか怖くて私は男を振り払おうとするが、男の力はあまりに強く、そして気が動転している私の方は力が上手く入らずにそれは叶わない。(男が私を捕まえた途端にヴィ・ヴィスターチャは私から手を離した)


「許してくれっ!!」


 しかして、男から逃れようとする私に対して男が放ったのは理解不能な許しを得るための懇願。

 そして、その言葉にふさわしい行動をとるように男は私の腕を離し、そのまま崩れ落ちるように私の足元に平伏し見上げてくる。

「な・・んだ?」

「頼むっ、許してくれ!許してくれ!許してくれ!」

 混乱する私に男はなおも言い募る。

 狂ったようにただただ私に許しを乞い、床に這いつくばりのたうち回る。

 だから、私はつい言ってしまったのだ。


「―――ゆ、許す・・よ?」


 疑問形になってしまったのは、気の弱い私の悲しいところだが、その言葉は男にとってどうやら効果絶大だったらしい。

 私を見上げていた血走った瞳には正気が戻り、繰り返された許しを乞う言葉はぴたりとやんだ。

 そして、目のあった男の瞳は何とも表現しがたい色をしていた。

 まるで煌めく輝きを凝縮した宝石のようで、揺らめく松明の明かりに様々な色を反射する。

 こんな色の瞳を今まで見たことがなくてそれまでの異様な男の所業も忘れ、私はしばしその瞳に見惚れたのである。

エヴァ:じゃあ、身長・体重・年齢をどうぞ

エヴァンシェッド:身長180cm・体重70kg・年齢・・・

エヴァ:あれ?年齢は言いたくないの?そういうのって女の人だけだと思ってたけど

エヴァンシェッド:いや、別に言いたくないわけじゃないんだが

エヴァ:ないんだが?

エヴァンシェッド:・・・実は正確な年齢を忘れてしまってるんだ

エヴァ:はあ?!

エヴァンシェッド:千年以上生きているのは確かなんだけど、寿命がないせいかどうも年齢を気にする習慣がなくって(笑)

エヴァ:な・・・なるほど

エヴァンシェッド:とりあえず、外見は年齢にして20代後半くらいってことで

エヴァ:天使はみんな、そんな感じなの?

エヴァンシェッド:うーん、それは色々じゃないかな?シェルシドラなんかは自分じゃ覚えてないけど、周りがその辺り逐一覚えているから

エヴァ:へ?何で??

エヴァンシェッド:(嫌な笑みを浮かべて)ふふ、それはシェルシドラの周りの天使たちにインタビューした時にでも聞いてみるといいよ

エヴァ:??(何か嫌な予感が)

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