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東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第四部 罪深きは愛深き絶望
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第98話 私が貴方を許しましょう 5

 ケルヴェロッカの提案に難色を示していた私であるが、何だかんだと気がつけば月見の塔ミュージ・アシェタの近くにある女神の十字軍イヴィスタン・ディードの宿舎の中にいた。

 宿舎というのだから、無論たくさんの神の子マイマールが暮らしている部屋があるのだが、それとは別に一つ大きなホールのようなものがある。

 いつもは食堂以外には特に用をなさないその場所に今日は人が溢れ、その中心にいた人物がホールの入口で突っ立っていた私たちに声をかけた。

「あっ!シラユリとヒロも来てくれたの?!」

 今回のパーティーの主役・神の子マイマールの娘スノウ、その人である。

 ケルヴェロッカの姉的存在で、私の実験(?)にも何度か立ちあってくれている彼女には私も何度か会ったことがある。

「今日が誕生日とは知らなかった。何もプレゼントは持っていないんだが、おめでとうとだけ言わせてくれ。」

「そんなっ全然気にしないで!その言葉だけで十分嬉しいわ。」

 誕生会に手ぶらで来るような失礼千万の私に対しても嫌な顔一つせず、笑って礼を言うような素直で愛らしい彼女は神の子マイマールの中でもアイドル的存在だと認識している。

 だからこそ、誕生会一つにこれほどの人数が集まっているわけで、いつもならそんな彼女に癒されている私なのだが、

「おめでとう!スノウ!!」

「ふふっ。シラユリもありがとう。」

 先の嘆きの間パシシオンの様子とは打って変わったシラユリの態度に戸惑いを隠しきれない私。

「シラユリ、元気になってよかったな。」

 そう私の横でぼそりと呟くケルヴェロッカのように前向きに解釈できればいいのかも知れない。

 しかし、やはり気になるのだ。

 子供を疑うようなことはしたくないが、私の本能が何かを感じ取っていた。

 だが、この場でそれを問いただす術ももたず、いや、おそらくこの場でなくともこんな曖昧な感情のままではシラユリに私の気持ちなど話せるはずもなく、私は腹にもやもやしたものを抱えつつも、現状においては場違いなほどに明るい場に居合わせることとなった。

 そもそも現在、銀月の都ウィンザード・シエラは天使たちから逃亡中だし、罪人の巡礼地アークヴェルでの戦いから数週間経つが、天使たちからの接触もこちらからの接触も持ってはいない。

 しかして、エンシッダがこれから私たちを何処にいざなうのかも知らされておらず、私たちは隠れるように逃げるように不浄の大地ディス・エンガッドをさまよっているのだ。

 それはまるで天使たちとかかわる前の私と同じようで、だが、確実に何かか迫っているようなそんな不安感と緊張だけは半端ない。

 自分たちがこれからどうなるのか、どこへ向かっていくのか、それを不安に思っているのは、恐らく私だけではない。

 エンシッダを神のように慕っている神の子マイマールたちとてそれは同じはずだ。

 だが、こうしてそんな緊張感の中でも祝い事をもよおしてしまう辺りは、やはり私と彼らの間にエンシッダに対する信頼の厚さの違いなのかもしれない。(だからといって、スノウを祝わない気持ちがないわけではないが)


「あっ!キシン!!」

 そうして、ささやかながらも温かなスノウの誕生会に新たなる招待客が現れて、スノウは私たちからその招待客へ視線を移した。

 ティアとイフリータと、スノウがうれしそうに名を呼んで駆け寄った人物キシンである。

「へへっ、スノウ、嬉しそうだろ?キシンが好きなんだって。」

 言われてみれば、私に向けられた誰もがほっとするような笑みとは違い、でかいキシンを見上げる視界の端に映るスノウはほんのり頬を赤らめ年頃の恋する乙女といった風情だ。

「へえ、そうなのか。」

「何だよ?張り合いね―返事だな。」


―――どっかの噂好きのおばさんじゃあるまいし、他に何をいえというんだ


 そんなことを思ったが、いちいち癇に障るケルヴェロッカの言い様に思わず言わなくてもいい言葉がついて出た。

「まあ、美女と野獣って感じでお似合いなんじゃないか?」

 うん。我ながら的確な言い回しだと思ったのだが、しかして、私の言葉を聞いて一瞬だけ目を丸くした後、ケルヴェロッカは堪えきれないように笑い出したのだ。

「??」

 何か私は変な事を言っただろうかと、笑いの止まらないケルヴェロッカに焦りすら覚えたのだが、そんな私に彼は初めていつもの子供のくせに何処か斜に構えた様な笑みではなく、子供っぽい何の憂いもない笑顔を向けた。

「ははっ、ヒロって天然なんだなって思って。」

「私が?」

 悪いが生まれてこのかた誰にもそんなことは言われたこともない。

 心外だと言外に含ませた顔で彼を見下ろしてみるものの、笑い続ける彼には私の睨みなど全く気にならないと云った風だ。

 こうなってしまっては何を言っても無駄だろうなと、笑われていることには釈然としないものがあるままだがケルヴェロッカが気が済むまで笑わせてやることにした。

 そして、ケルヴェロッカの笑いが治まるまでだと思い、何となしにスノウの誕生会を改めて眺めてみると、私やティアたちもいるのだが、そのほとんどを神の子マイマールが占めていることに気がつく。(そもそもここは女神の十字軍イヴィスタン・ディードの宿舎だから当たり前と言ったら当たり前なのだが)

 罪人の巡礼地アークヴェルでの戦闘や、私の実験に付き合ってもらい神の子マイマールたちの人間離れした力と魔力を目の当たりにして、また、先日のアオイの話もあり、彼らはやはり人間ではないのだと表には出さないが思っていた。(まあ、私が言うのも何かもしれないが)

 だが、こうしてケルヴェロッカの子供らしい笑顔を見て、スノウの恋する乙女の表情を見て、スノウのために集まった様々な表情を浮かべる神の子マイマールを見て、やはり、彼らも私と違いないのだなと改めて感じる。

 自由を求め、そのために人間を捨てて神の子マイマールという、新たなる人種になった彼ら。

 彼らはそれに対してある種、プライドみたいなものを持っていると私は感じていた。そして、それが私やここにいる他の人間たちとの壁になっていることも・・・。

 だが、その壁がスノウの誕生会というきっかけで今少しだけ低くなったとき、彼らは私が想像しているより人間で、いや、人間でしかなくて・・・何となく今人間なのか悪魔なのか半端なままの自分と彼らに親近感を覚える。

 しかし、一方でこの先が見えない現状で、エンシッダに誘われるままの私や、エンシッダによって生み出された神の子マイマールたちが、どうなっていくのか全く見当もつかなくて不安も覚える。

 でも、だからこそ今は、せめて誰かのために祝う気持ちが持てる余裕がある時くらいは、こんな穏やかな日常が続けばいいと、何もかも少しだけ忘れて思いたい。

 ケルヴェロッカはまだ先ほどの笑いを引きづっているようだったが、私はそうして気持ちを切り替えると全ての憂いを僅かの間忘れるためにたくさんの神の子マイマールたちの中に紛れていったのである。

エヴァ:ていうかさぁ。ヒロちゃんの自己紹介なんて今更な気がしない?

ヒロ:まあ、確かになぁ

エヴァ:大体、ヒロちゃんなんて主人公の割には影薄いっていうか、内容がないし

ヒロ:内容がないって・・・

エヴァ:さしたる特徴って言えば、天然記念物並に気が弱くて、不幸体質なところ?

ヒロ:お前は本当に言いたい放題だな

エヴァ:だって本当のことでしょ?まあいっか、さっさと所定の質問に答えちゃってよ。これが作者からの質問事項だよ(といって紙をヒロに渡す)

ヒロ:えーと、年齢に身長体重と・・・って、これはどっかの履歴書かよ

エヴァ:つべこべ言わずに、さっさと答えてよ!後がつかえてんだからねっ

ヒロ:わかったよ(やっぱり押しに弱い)。年齢は23、身長は169cmで体重は65kgだよ。

エヴァ:うわっ!貧弱っ!!よくそれで今まで生き残れたよねぇ

ヒロ:うっさい(怒)不浄の大地の環境じゃ、これが普通だっ!(実は気にしてます)


しかして、二人の会話は白熱しつつ次回に続きます

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