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東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第四部 罪深きは愛深き絶望
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第97話 私が貴方を許しましょう 4

 まるで何物をも拒絶するような小さな、でも見るからに強固そうな石の壁で作られた正方形の建物。

 そこは銀月の都ウィンザード・シエラの近代的で開放感溢れる街並みの中で一際異彩を放っていた。


「ここが嘆きの間パシシオン・・・だよ。」


 ティアたちと別れた私たちはシラユリが望むままにこの場所におもむいた。

 だからと言ってシラユリの悲しみと動揺の混じった様子が変わるわけでもなく、むしろその様子は段々と酷くなっていさえしたが、シラユリは自分の足で立ち止まることなくここまで、嘆きの間パシシオンまで歩いてきた。

 そして、ここに来るまでの間、私はケルヴェロッカからシラユリの『事件』の概要を聞いた。

 まあ、ケルヴェロッカとて人づてに聞いた話だったので本当に大体の話だったが、当事者であるシラユリが嘆きの間パシシオンにやってくることに異存はなさそうなのだが、かたくなに『事件』については口を閉ざしたままなのだ。

 故に他に『事件』の内容を知るすべは私にはない。

 しかして、ケルヴェロッカから聞いた『事件』、その内容と言えば、始まりは何処にでもあるような子供たちの好奇心。

 現物を見ても分かるように嘆きの間パシシオンは街中でも異彩を放っていて、子供たちの中でも一体何なのだろうと話題になっていたらしい。

 そもそも現在こうして私たちが我が物顔で居座っていても、本来、銀月の都ウィンザード・シエラは千年前の古代都市である亡国の遺産ドルガバ・チェシエの一つなのだ。

 私たちには分からないことが多いのは当たり前といえば当たり前だろう。

 だから、この建物が嘆きの間パシシオンと呼ばれている理由も、この建物の存在理由も誰も知らないという訳だ。

 更に名前だけ聞けば何やら曰くありげらしい・・・とくれば、あっという間に嘆きの間パシシオンはちょっと怖い即席のお化け屋敷と化し、まあ、娯楽の少ないこの町で子供たちにとっては格好の探検する場所になるだろう。

 しかして、シラユリは同じ年頃の神の子マイマールの子供二人とその日、嘆きの間パシシオンを探検しようということになったらしい。




「―――にしても、本当に何もないんだな。」


 ケルヴェロッカの話を思い出しながら、嘆きの間パシシオンにある唯一の扉を開けて部屋に入った私の感想はどうにも間の抜けた感じだが、でも、本当にそうなのだ。

 名前も『事件』のことすらも知らなければ、本当に何の変哲もない倉庫のようなその中は窓一つないので入ってきた扉から刺す光以外は薄暗く埃ぽっく、そして、何だかひんやりとしていて、更に室内には何一つ物が置いていない。

 嘆きの間パシシオンなどという大それた名前が付いているくらいだから、何かしらあるのかと思っていた私は何処となく拍子抜けする。 

 そして、それは『事件』の日にここを訪れた子供たちも同じだったようで、暗く何もない部屋に子供たちは少しの落胆と安堵をもって、大した探検をすることもなくその場を後にしようとしたのだ。

 だが、今の私たちの状況とは違うことが起きた。

「でも、声は・・・聞こえないな。」

 扉の傍で小さな部屋をうかがっている私を(シラユリが私の裾を掴んだまま入口から動こうとしないので私は奥には入れないのだ)通り越し、ケルヴェロッカがきょろきょろと室内の中を見渡す。

 そうなのだ。話によれば子供たちはそこで誰かに呼ばれる声を聞いたという。

「シラユリ、本当に声が聞こえたのか?」

 嘆きの間パシシオンに来てから怯えるように小さくなったシラユリに尋ねる。

 本当ならこんな状態の彼女を追いつめるようなことを言いたくない。

 だが、『事件』の真実を知っているのはシラユリだけであり、そして、ここで何かを確かめたいと思い、ここに自らやってきたのもシラユリなのだ。

 彼女を甘やかすのではなく、背中を押してやるのが大人の役割というものだろう。

 だから、私は私の問いにいつまでたっても答えようとしないシラユリを辛抱強く待った。

 そして、シラユリは小さな声で、でも、確かに彼女自身の声で『事件』のことを話し始めたのだ。

「う・・ん、聞こえたよ?・・・誰かが叫んでる・声。」

「叫び声?今も聞こえているのか?」

 もしかしたら、私やケルヴェロッカには聞こえない声なのかもしれない。そう思ってシラユリに聞いてみるが、彼女は首を小さく横に振る。

「ううん。今日は何も聞こえない。」

「ふーん、じゃあ、その日だけ特別に聞こえた声ってことかぁ。ちなみにどんな声だったんだ?何を叫んでた?」

 確かにシラユリは叫び声といったが、それにしたって色々な種類があるだろう。

 シラユリはそれに一瞬だけ苦しそうに顔を歪め、それでも懸命に言葉を紡ごうとする。

「何をいってたかは・・私、よく覚えてない。」

 彼女もパニックだったのだろう。

 まさか、何もないと思っていた、ただ少しだけ好奇心を満たそうとして訪れた場所で、何も誰もいない場所でいきなり叫び声を聞いたのだ。

 子供でなくても、私だって正直ビビる。

「でも・ね?ほんとに、ほんとにっ聞いたんだよ!下から、下・・からね?聞いているだけで、こわ・・くてっ、だから私っ!!」

 しかして、言っている内にその時の事がフラッシュバックし興奮してきたのだろう。

 段々と涙交じりの声になり支離滅裂しりめつれつなことを言い出すシラユリの肩を、私は宥めるように叩く。


―――まあ、これ以上は今の彼女に聞いても無駄だな


 そんな事を思いながら、私はケルヴェロッカから聞いた話の続きと今のシラユリの言葉を重ね合わせる。

 そう。シラユリが聞いたという下からの恐ろしい叫び声、今の話じゃ人間の声かも定かではないが、それを聞いてシラユリ以外の二人の子供は『壊れた』という。

 ケルヴェロッカが告げた『壊れた』という表現に始めは違和感を覚えたが、その後の説明で納得した。

 神の子(マイマールの子供たちは死んだわけでも、怪我をしたけでもなく、その声を聞いた瞬間に発狂し、自我を崩壊させたの言うのだ。

 それまで至って普通にしていた人間が突如として大声を出し、現在、保護された後も何振り構わず自分を傷つけ、そして、何一つ言葉を解さなくなった。

 それは人間として『壊れた』と表現していい状態ではないだろうか?

 しかして、叫び声を聞いてもただ一人壊れずにいたシラユリは、声の恐ろしさに加味して目の前で起こった異常事態に驚き、嘆きの間パシシオンまで行ったっきり帰ってこない3人を心配して見にきた大人たちに発見されるまで放心状態で涙を流し続けていたらしい。

 そして、その神の子マイマールの壊れた原因はその創造主たるアオイにすら分からず、今もまだ『壊れた』ままに二人は研究室の一室で軟禁状態だということだ。

 身の毛もよだつ恐ろしい正体不明の声、そして、それで友達たちが狂ったように暴れ出した様子を目の前にして、まあ、ここまで話を聞けばシラユリの異常なほどの怯え具合も理解できる。

 むしろ、そんな場所にもう一度訪れた今の状況こそ普通は理解できない。


―――だが、何度も言うがシラユリはそれでも再び嘆きの間パシシオンに自分の足で来た


 それには絶対に何か意味があるはずなのだ。

 大人だろうが、子供だろうが、誰だって行きたくない場所に、意味もなく訪れるわけがない。

 ならばそれは何だ?

 ただ、怯えるように身を縮こませるだけで、それ以上に何一つ行動も言葉を発しようとしないシラユリに私の疑問は高まる。

「まっ!ここには何もないみたいだし、とりあえずは出ようぜ?」

「・・・そうだな。シラユリ、自分で歩けるか?」

 だが、今の状態のシラユリに何を聞いても仕方ないだろう。

 私はケルヴェロッカの声に頷いてシラユリを促す。

 しかして、先ほどティアの言葉を拒否してまでここに来たいといったのだ。

 もしかしたら嫌がるかとも思ったが、シラユリは不思議とすんなりと自分の足で嘆きの間パシシオンから出る。

 その嘆きの間パシシオンを出る足の軽やかさ、次いで不意に耳に届いた安堵するような小さな溜息。

「?」

 それは嘆きの間パシシオンから出れた開放感からの溜息であろうが、それにその時私は何となく違和感を覚えた。

 そして、それについて疑問を発する前に、ギギギと音を立てて閉じゆく扉の奥から私は何かを感じた。

「・・っ」

 しかして、はっとして振り返った閉まっていく嘆きの間パシシオンの室内には誰も、何も存在していない。

 だけれど、私は扉が完全に閉まるまで確かに何かの視線を感じていた。

「なあっ!この後、暇だったら二人とも女神の十字軍イヴィスタン・ディードの宿舎に来いよ!!今日、スノウの誕生会があるんだ。ウマイもんが食えるぞ?辛気臭い顔ばっかしてちゃ、何も始まらないって!!」

 シラユリを元気づけようと笑顔で無理に明るく振る舞うケルヴェロッカ。

「うんっ!」

 嘆きの間パシシオンを出たとたんに何かから解放されたように、いつもの彼女に戻ったシラユリ。


――― 一体、何がどうなっている?


 私は抑えきれない疑問と不安に胸がふさいだ。

エヴァ:パンパカパーン!これから、連載一年アーンド100話目前を記念いたしまして、登場キャラ達の自己紹介イベントを開催したいと思いまーす!プレゼンターはお久しぶり僕、エヴァが務めさせて頂きまっす!

ヒロ:・・・おい

エヴァ:記念とか言いながら、非常にしょぼい企画だけど皆さんお付き合いくださいね!

ヒロ:おい

エヴァ:さて、さてそれでは

ヒロ:おいっ!!

エヴァ:もう、何、ヒロちゃん?僕、登場久々何だからもう少し話させてくれたっていいじゃない

ヒロ:『ちゃん』付けで名前を呼ぶなっ!・・・じゃなくてっ、お前、万象の天使の中に還ったんじゃないなかったのか?

エヴァ:まあまあ、そんなこともあったかもしれないけど、気にしない気にしない

ヒロ:気にしないって言われてもなぁ

エヴァ:それとも何?ヒロちゃんは僕に会いたくなかったの?(目をウルウルさせて上目遣いでヒロを見る)

ヒロ:う・・・いや、別にそう言うわけじゃ。

エヴァ:じゃあ、問題ないよね?では、さっそく自己紹介を始めていこう!(ころりと笑顔に変わる)


かくして、どうも釈然としないまま、でも、結局気の弱いヒロが押し切られる形で自己紹介は・・・次回から始まるのであった。


ヒロ&エヴァ:始まらんのかい!!

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