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東方の天使 西方の旅人  作者: あしなが犬
第四部 罪深きは愛深き絶望
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第95話 私が貴方を許しましょう 2

「じゃあ、今日は銀月の都ウィンザード・シエラを探検しよう!隊長は私!二人は隊員だからね!」

 反対されることなど微塵も感じていないシラユリの楽しげな声に、もうどうにでもしてくれとばかりに私は天井を仰ぎ、ケルヴェロッカは耐えきれないように吹き出した。

 それにしても銀月の都(ウィンザード・シエラにそう短くない期間いるというのに、今更何処を探検するのかと思ったりするのだが、シラユリはそうは思わないらしい。


『ヒロちゃん、探検しようよ!』


 そういえばエヴァも新しく訪れた街ごとに、シラユリと同じようなことを言って私を困らせた。

 シラユリほどに幼くなかったはずのエヴァだが、それだけあれの心が純粋だったということか、はたまた姿は少年から青年の域に達しようとしていた彼であるが、魔力の化身といっても過言ではない以上、彼が人間と同じ感覚ではなかっただけなのかは、エヴァがいなくなった今では確かめようがない。

 ともかく、幼く無垢なるシラユリの言動は時々エヴァと酷くダブって、それは私をシラユリに対して弱くさせた。

 それが下らぬ感傷だと切り捨てなければいけない感情だと分かっていても、私はエヴァのこともユイアのことも、きっと一生こうして彼らの残像を追いかける如く捨てることなどできないのだと思う。


「でもよぉ、シラユリ。探検つっても何処に行こうっていうんだ?」

「えっと、それはねぇ・・・あっ!」

 しかして、私が感傷に浸っている間にも話は進んでいたようだったが、突如としてシラユリが前方に見慣れた人影を見つけた途端に一目散にかけていき、小さな弾丸は先に私に激突したのと同じように目的の人物にぶつかっていった。

「しばらく、任務だって聞いてたけど帰ってきたんだな。」

 ケルヴェロッカもその人物を認めて、心なしか嬉しそうに顔を綻ばせる。

 しかして、子供二人をそれほどに喜ばせる人物とは聖櫃せいひつのあった部屋以来、見かけなかった彼女。(神と人間を繋いでいたあの異常な装置そのものが、ここでは聖櫃せいひつと呼ばれている)


「ティア、おかえりなさい!!」


 エンシッダの片腕的女性と言っていいティアが、任務の内容は定かではないがここ何日か数人の仲間を連れて不在だった事は話には聞いていた。

「ただいま、シラユリ。元気にしていた?」

 父親のアオイに対しては何か含むところがありそうなティアであったが、娘のシラユリに対してはまるで母親のように彼女と視線を合わせてやり優しげな表情で微笑んでいる。

「うん!」

 シラユリもティアになついているのか屈託なく笑っている。

 そして、そんなシラユリにティアの周りにいた彼女の仲間らしき二人の男が笑いを浮かべた。

「シラユリちゃん、最近また可愛くなったんじゃねえ?」

 そう言って若い男のはずだが、妙に笑顔と発言がオヤジ臭いのはティアの仲間のイフリータで、

「それはロリコン発言だな、イフリータ。」

 そして、それをいつも冷静に突っ込むのは、どうにも年齢不詳な同じくティアの仲間らしいキシン。

「ちっちっち?キシン、それは違うな。可愛い女の子って言うのには年齢は関係ないんだよ。なぁ?」

「なあ!」

 しかして、キシンの静止を振り切って危ない発言を繰り返すイフリータに、おそらくその言葉の意味など分かっていないシラユリは笑顔で相槌あいづちをうつ。

 本当ならば私がシラユリを男から引き離すべきなのだろうが、今回はそれはしない。

「子供相手に変なことを言わないで!この変質者!!」

 何故ならそんな強気な言葉と共にティアがイフリータのボディに重々しい肘鉄を入れてやってくれたから。(イフリータは言葉ないままに、その場に崩れ落ちた)

 子供たちに対して母性というものが強いらしいティアがいてくれるのだ、わざわざ私が出しゃばる必要はないというわけだ。

「ははっ!ティアは相変わらずだなぁ。」

「ケルヴェロッカ!もう、体はいいの?」

 しかして、そんな様子を見て笑い声をあげたケルヴェロッカにようやく気がついたのかティアがこちらに歩み寄ってきた。

「うん!ティアにも心配掛けて、ごめん。」

 私相手にはどうしても可愛げのないガキでしかないケルヴェロッカであるが、何やらティアには幼い子供のように甘えを見せる。

 恐らくティアの母性にひかれているせいであろうが、こんな所を見るとこいつもまだまだ子供だなと思う。それにしても、

「ケルヴェロッカ、体調なんか悪かったのか?」

 なんて言った私は本当に大バカ者だ。

 ティアが目を吊り上げ、ケルヴェロッカが子供には不似合いな苦笑を浮かべたことで、やっと自分の失言に気がついたくらい私は何も考えていたなかったのだ。

「何、言ってるんだよ?ヒロも見たんだろ、俺が聖櫃の中にいたの。あれの中で俺が神の血ニス・ドゥアを貰っていたのを・・・、普段はその必要もないんだけど血の力を使ったら調整が必要になったんだ。」

 確かにそんな話をアオイに聞いた覚えはあった。

 罪人の巡礼地アークヴェルで血の力を使ったらしいケルヴェロッカは、その代償としてしばらくあの聖櫃せいひつの中で休息が必要だったと。


―――ミンナ・ミンナ・ヒトツ・ニ・ナロウ


 だが、その瞬間に思い出したのはアオイの言葉ではなく、黄色の光に包まれた異様な光景、そして、私が異常までに拒否感を抱いた景色。

「その・・・」

 同時にこんな子供に、まるで彼が普通の人間でないことを態々告白させるようなことをした自分が情けなかった。

「謝ったりしたら、ゆるさねーからなっ!」

 だから、瞬間的に出てきたのは謝罪の言葉だったが、その先を取ってケルヴェロッカが声を張り上げて、それを遮った。

 その表情は少し怒ったような顔をした後に、ニッと歯をむき出しにした笑顔に変わる。

「俺は俺でいること、神の子マイマールでいることに何一つ後悔はねえんだから、ヒロがそんな顔すんな!大体、俺たちよりもおっさんの方が異常なんだからよっ!」

 確かにそうかもしれない。

 だが、その言葉は明らかに私に気を遣っている・・・いや、ケルヴェロッカの言葉は彼の中で真実だろうが、私には子供の強がりにしか聞こえないような気がして・・・でも、私に笑顔を見せる彼にそんなことを言えるはずもない。

 そして、きっとこんな強がりは本当の強さになる。

 ケルヴェロッカに嫌がられながら彼の頭をなでてやりながら、私はその強さを守ってやりたいなと思った。

 それがとんだエゴであることも、自分の中にある様々な私情が混じり、彼らにとってはとんだお節介であることも分かっているが、それでもふと湧いたそんな感情が私にはとても心地よかった。


「ところでお前たちは雁首揃がんくびそろえて何やってんの?」

「みんなで探検するのっ!」

 いつの間にかティアの鉄槌から復活していたイフリータに、彼とたわむれていたシラユリが元気よく答える。

「探検?」

「うん!だって、まだまだ見たことないところが一杯あるんだもん。」

 確かに結構な期間ここに居はしているが、そう言えば知っている部分、行ったことがある場所というのは限られているような気がする。

「ほう。好奇心が旺盛というのはいいことだ。そういう部分もシラユリは父親であるアオイに似ているのかもしれないな。」

 若い男の割には妙に年老いたしゃべり方をするキシンが感心したようにシラユリにそう告げるが、私はティアがその言葉に顔を歪めるのを見逃さなかった。


―――先日の態度と言い、ティアとアオイの間には何かあるのか?


 ティアが一方的ににアオイに強い感情を抱いているように思えたが、アオイの方も何かティアに対して思うところがあるように思えた。(まあ、私には関係のないことなのかもしれないが、興味引かれるというのが人間の性というものだろう)

「でも、シラユリが行ける場所っつっても限られてるしなぁ。」

 私やケルヴェロッカはそうでもないが、非戦闘員のシラユリには制限されている場所も多い。

 探検と言われても、そう目新しい場所があるだろうか?

 しかして、そんな私とケルヴェロッカの心配を振り払うようにシラユリは告げる。

「大丈夫だよ!だって、もう探検する場所は決めてあるから!!」

 シラユリの笑顔は弾けるばかりでその先には何の陰りすら見えなかったが、その場所に訪れることで発生する事件をこの時はまだ誰も知るはずもなかった。

さて、シラユリが訪れたい場所とは?そして、その場所では何が待っているのか?

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