第94話 私が貴方を許しましょう 1
例え全ての人が貴方を許さなくても
例え神様が貴方を許さなくても
例え世界が貴方を許さなくても
例え貴方自身が貴方を許さなくても
私が貴方を許しましょう
【私が貴方を許しましょう】
<SIDE ヒロ>
感じるのは身の内から溢れだしてくる熱く重いドロドロとしたものが、血管を血に交って通る気持ち悪い感覚。
何度か経験したはずだが、きっと私は一生この感覚を好きにはなれないと思う。
「ヒロッ!覚悟!!!」
「イッケェ!」
だが、その感覚が嫌だとここで躊躇してしまっては、今現在、私を剣やら魔術で襲おうとしている連中にコテンパにやられてしまう訳で・・・だから、私は我慢するんだ。
体をめぐる血管から体中の毛穴の穴を通して、熱く重いそれが押し出され体中に痛みを覚えたとしても、それでもそれを耐えるのだ。
そして、痛みに見て見ないふりをして黒の剣に、体から放出したそれを移すように集中する。
私の意思に呼応するように、つい最近までだったら黒に侵食されるはずの剣に、ほの暗い灰色のぼんやりとした光が宿る。
次いでそれを確認すると私は剣を両手で握りしめて、襲いくる色とりどりの魔力が灰色の染め上げられるようなイメージを頭の中で巡らせる。
瞬間に体中からそれ・・・いや、それなんて曖昧な言い方をして逃げるのは良くないな、そう『それ』こと灰色の魔力が膨張し体が軋む音がして、剣だけではなく私の体を覆った灰色の魔力が襲い来た全ての攻撃を受け止め、色とりどりの魔力は灰色に一瞬にして吸収された。
―――これは最近、発見した灰色の魔力の特性
「やっぱり、灰色の魔力には他の魔力を同化させる能力があるらしいね。」
嬉しそうに様々な攻撃を食らったはずなのに傷一つない私によってくるのは、似合わない白衣を纏ったアオイ。
「ちぇえ、つまんねーの!」
そして、そんな私を見ていささか不満げなのはケルヴェロッカを始めとした神の子たち。(相変わらず可愛くないガキである)
アオイに協力することを約束してから数週間が経ち、神の子を相手に灰色の魔力を試す実験を私は繰り返していた。
とはいえ最初は灰色の魔力を自分の自由に出すことから始めたのだが、数週間という時をもってして案外簡単にできている自分がいる。
ただ、今こうして体の外に出している魔力など、自分の身の中に感じている巨大な魔力の切れ端にすぎず、その大本の部分は出したら最後、暴走を始める予感がして出せていない。(何しろ罪人の巡礼地での前科があるしな)
だが、少量の魔力であればあの時のように自分を見失うこともなく、しかして、黒の剣とは違う感覚で確かに自分の中から私は魔力を作り出すことができているのだ。
アオイの話を聞いた以上、その事には未だに違和感を感じえない。
―――だって、それは私が人間じゃない、私の中に悪魔がいるという証明に他ならないのだから
故に力を使うたびに私は自分が自分でなくなるような錯覚に陥って、すごい力だとはやされる度にこれは自分の力ではないと叫びだしたくなった。(そんなことは一度もしてないが)
まあ、私のくだらない話はこれくらいにして話を実験の途中に戻そう。
「それで灰色の魔力に吸収された魔力はヒロの中に戻ってくる感覚はやっぱりないの?」
さて、灰色の魔力について実験と研究を進めているアオイと、それに協力しているのは私だが、私が灰色の魔力の扱いに慣れてくるのとは別にその進み具合はさほど芳しいと言える状況ではなかった。
「ああ、ないなぁ。魔力が私の中から出ていく感覚はあるが、魔力が返ってくる感覚はしない。」
「ふーん。灰色の魔力は他の色の魔力を確かに吸収しているのに・・・それはヒロのもとに戻らず何処に行ったんだろう?」
「それを調べるのが、お前の役目だろう?」
「うーん、そうなんだけど、本当にほかの魔力とは何もかもが違うし、何の手がかりもないからなぁ。」
そうなのだ。こんな感じであれこれと議論をし、様々な実験と研究を繰り返しているのにも関わらず、正直言って私は何一つ灰色の魔力について理解できているという実感がない。
ただ、灰色の魔力がどういう原理で働いているかも分からないままに、その扱いだけ上手くなっていくことが何となく怖くて、最近は焦りも感じていた。
どうやら、アオイの方もそうらしくて最近では
「ねえ?この際、ヒロの体を掻っ捌いてみるのがいちばん―――」
「絶対にお断りだ。」
私の体の中を除きたいと言い出す始末。
―――まったく!誰がこんなちゃらんぽらんな男に好き好んで体を掻っ捌かせるかっつーの!
「ははは、やっぱり?」
「当たり前だろ―――て、うわっ!」
そうして、アオイに更に詰め寄ろうとした所に何かが私の腰のあたりに体当たりしてきた。
見下ろしてみればフワフワとした柔らかそうなツインテールの小さな頭が見える。
「シラユリ?抱きつく相手が違うだろ?」
「えぇ〜!?あってるよぉ、ヒロに抱きついたんだもん!」
そして、屈託ない満面の笑みが私を見上げてくる。
子供特有の高い体温に、輝かんばかりの瞳、シラユリは本当に美しい少女だった。
「何で父親のアオイじゃないくて、私に飛びつくんだ?」
そう、しかして、何となく見覚えのある顔だと思えば、それは目の前で女のように愛らしい顔で笑っているアオイその人。
女性と見紛うほどに美しいアオイの娘が、このシラユリなのだ。
初めてシラユリを紹介された時は、アオイの子供の時を見ているようで、変な冗談かと思ったくらい二人は本当によく似た親子である。
「だって、ヒロの方が遊んでくれるんだもんっ!」
「いやいや、遊んでくれる相手に誰彼と懐いてちゃいかんだろ?最近は変な奴も増えてるんだぞ?」
しかして、私が他人の子供相手にそんな余計な世話を焼いているというのに、
「あはは、ヒロなら大丈夫だよ。」
と、実の父親の方がこんな無責任な言葉を発する。(それでいいのか?)
お気楽というか、よく似た親子を前に思わず頭痛がするような気がして、私は額を押さえた。
「ねえねえ、今日は何して遊んでくれるの?」
いつも実験の後は、データの解析などが始まり、正直それは私の範疇ではないのでアオイに研究室から追い出される。
そして、何故だかシラユリ・ケルヴェロッカを始めとしたガキどもの世話を押し付けられる。
言っておくが、断じて好き好んで遊んでやっているわけではなく、どうも気がつくと子供たちにいいように玩具にされているというか・・・、更に最近じゃ銀月の都の大人たちが子供を私に預けに来るという、どうみても保父さんみないな状態になっている私である。
まあ、今日はシラユリとケルヴェロッカの二人だけのようだからいいが、これが十人近くになるともう私一人では手に負えない。(好き好んでやっていないという割に、頼まれると真面目に子供の面倒を見ている自分が悲しいが)
「別に何でもいいぞ。言っとくが危ないのは駄目だからな。」
そして、今日も気がつくとアオイよりもはるかに父親らしいことを言って、シラユリの手を引いてやっている私がいる。
「おっさん、頼むからロリコンの道には走るなよぉ。」
それを見て、いちいちチャチを入れるケルヴェロッカ。
こいつは私に遊んでもらおうなどと、そんな事をいう年齢でもなければ性格でもないはずなのに、こうして保父と化している私をからかうためにやってくるのだ。それも結構な頻度で。
「・・・誰がロリコンに走るか。それより、お前こそ仕事はどうした?仕事は?」
「今日は非番で―す!だから、俺もシラユリと一緒にヒロに遊んでもらおうと思って!遊んでぇ!」
「わぁい!!ケルヴェロッカも一緒だぁ!」
「・・・」
―――私って一体、何だろうなぁ?
子供二人にいいようにされているような気がして、私は背中を丸めて大きなため息を一つついた。
最近、バタバタしてまして更新が止まっていましたが、何とかヒロ視点に戻ってきた第94話をお送りします。さて、銀月の都の保父と化した(?)ヒロの物語はどうなっていくのかお楽しみに(笑)